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   コロナ禍と現代帝国主義の危機

   主導権を握り直す米帝バイデン

               
香川 空


                 


 二月二五日、米軍はシリア東部でイスラム教シーア派勢力の施設に対して空爆を行った。米帝―バイデン新政権は、トランプ政権のイラン核合意離脱を批判し、イランとの協議に参加することを表明していたが、中東に対しては武力をもって帝国主義的利害を貫徹するのだということを如実に示した。バイデンは国内民衆に対しては「結束」を呼びかけるが、その本性は自国の利害のためには破壊でも流血でも手段を選ばぬ帝国主義者なのだ。

 ●第1章 米バイデン政権による「修復」

 ▼1章―1節 トランプの暴走と戒厳態勢下の大統領就任式

 昨年一一月の大統領選を接戦の末に制した民主党ジョー・バイデンが一月二〇日、第四六代米大統領に就任した。直前にトランプが引き起こした議事堂突入騒動ゆえに、就任式会場の連邦議会議事堂の警備に二万五〇〇〇人の州兵が動員された。ワシントンは異例の厳戒態勢となった。
 一月六日、米大統領選の結果を確定させる上下両院の合同会議が行われようとしていた連邦議会議事堂にトランプ支持者が乱入し、四時間にわたって占拠した末、議会警察に鎮圧された。この過程で五人の死者が出た。この日、トランプ自身が「不正選挙だ」と主張して合同会議に合わせて議事堂近くのホワイトハウス前に結集して抗議行動を行うことを呼びかけていた。トランプは当日、集まった支持者に対して議事堂に向かって行進するよう指示した。議事堂に突入した多くは、極右団体プラウドボーイズや陰謀論拡散のQアノン信奉者だった。さらに、現役、退役の軍人も参加していた。
 大統領選の敗北が明確になった状況でトランプが仕掛けた無計画な「クーデター」だった。選挙結果を覆すどころか、その無謀さゆえに議会警察に鎮圧され、失敗した。トランプは国内外から非難を浴びた。非難が高まり自らが訴追されることを恐れたトランプは、「暴力、無法、大混乱に強く憤った」と、まるで他人事のように、乱入した人々をツイッターで非難した。
 米下院は一月一三日、「反乱を煽動した」としてトランプを弾劾訴追した。二月九日から五日間の実質審理が行われ、米上院は二月一三日、トランプの無罪評決を下した。民主・共和同数の米上院(定数一〇〇)で、有罪支持五七、無罪支持四三となった。有罪評決には出席議員の三分の二が必要なため、評決は無罪となったが、それでも七名の共和党議員が有罪を支持する結果となった。
 トランプは四年後の大統領選に再出馬することを企図していると報じられているが、この無謀な「クーデター」の失敗によって、共和党内でのトランプ離反が起こっている。昨年一一月の大統領選の得票数そのものは拮抗しており、米国内の分断・対立が深刻な問題であることを浮き彫りにしたが、大統領選後のトランプの言動によって、トランプ批判は高まり、共和党支持者全体がトランプ支持という状況ではなくなっている。

 ▼1章―2節 分断、対立、差別の「修復」は可能か

 バイデンは就任演説の大部分を、トランプ政権の下で大きく進んだ分断、対立、差別の修復を呼びかけることに割いた。
 バイデンは「私を支持してくれた人たちと同じように、私を支持してくれなかった人たちのためにも一生懸命に闘います」と語った。「Unity(結束)」の語を繰り返した。
 バイデンの大統領就任に対して、帝国主義各国の首脳は祝意を表明した。
 欧州連合(EU)の欧州委員長フォン・デア・ライエンは「長い四年間を経て、ホワイトハウスに友人ができる。待ち望んだ夜明けだ」と語った。
 トランプが脱退を表明していた世界保健機関(WHO)の事務局長テドロスはバイデンの大統領就任を祝し「より健康で、より公平で、より安全で、より持続可能な世界へ」とツイッターで語った。
 フランス大統領マクロンは「パリ協定にお帰りなさい」と語り、米帝が気候変動対策の国際的枠組みに復帰することを期待した。
 就任式終了後、ホワイトハウスに到着したバイデンはその日のうちに一七の大統領令に署名した。WHO脱退手続きの中止、パリ協定への復帰、メキシコとの国境の壁の建設中止、中東アフリカ諸国からの入国禁止の撤廃、「不法移民」の救済制度DACAの継続など、トランプ政権がなした排外主義的な「アメリカ第一主義」の主要な政策からの転換にすぐさま着手した。バイデンは「スピードと緊急性をもって前進していく。この危機と可能性の冬にはやるべきことがたくさんある」と語った。
 トランプ政権が独善的に推し進めた「アメリカ第一主義」の外交政策の修復にも着手したとは言えるだろう。しかし、バイデンの就任演説をしっかり見ておく必要がある。演説の中に、同盟関係や気候変動問題など国際的な課題に対する言及はほんの一言でしかなく、その内容まで語ってはいない。就任演説のほとんどは、国内問題であり、分断と対立をいかに修復するかという問題だけをさまざまな観点から繰り返したものであった。トランプの「クーデター」まがいの行為に批判が高まったとはいえ、それを支持して武装する勢力もおり、米国内の分断、差別、対立が極めて深刻だということの表明でもあるだろう。バイデンが就任早々に着手した外交上の大統領令も、むしろ、国内政策の観点からなされているのだということを見るべきであろう。バイデンは民主党のやり方で米帝国主義の利害を貫くということだ。

 ▼1章―3節 米帝国主義の外交戦略

 トランプの差別排外主義が際立っていただけに、これと争って大統領に就任したバイデンが、排外主義的政治からリベラル政治に転換するという希望的観測はあるが、決してそうではない。トランプの「アメリカ第一主義」に対して、バイデンは世界全体の調和をとって行動する、ということでは決してない。独善的で個人的な判断が優先したような戦略から、帝国主義としての緻密な戦略の再構築への修復というべきだろう。
 米バイデン政権の国防長官オースティンは二月一九日に始まった北大西洋条約機構(NATO)の国防省会議(オンライン)に参加した。オースティンは「欧州の同盟国との関係を再活性化させる」というバイデン大統領のメッセージを伝えた。しかし一方で、トランプ政権が欧州各国に対してなした国防費引き上げ(ODAの2%)要求は維持するとし、議論の中でその重要性を強調した。
 米トランプ政権は日本に対して米軍駐留経費=「思いやり予算」の引き上げを強く求めていたが、日本政府はバイデン政権成立を見て交渉引き延ばしを図り、五年ごとの見直しであるが、四月から一年分だけを現行水準とし、四年分に関しては改めて交渉するとしている。しかし、バイデン政権がトランプ政権と正反対の立場をとった訳ではない。バイデン政権も同盟国の負担増を求めているのだ。米国は、「世界の憲兵」として自らの財力で派兵し駐留し続ける力をすでに喪失しているのだ。
 日米欧の帝国主義を軸とするG7首脳は二月一九日、テレビ電話会議で首脳会合を開催した。二一年の議長国は英国であり、対面しての直接会合は六月に英国コーンワルでの開催が設定されている。コーンワル・サミットには七ヵ国のほかに、オーストラリアとインド、韓国が参加することになっている。二月に行われたこのG7テレビ会議は、コロナ・ワクチンの「公平な国際的分配」と経済復興が主なテーマであった。
 米帝バイデン政権は、トランプ時代を払拭して帝国主義を軸とした国際政治に復帰することを表明した。同じく初参加の日帝―菅は、「新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の結束の証しとして今年の夏に安心安全な形で」と、これまでも繰り返してきた言葉をもって、東京オリンピック開催をアピールした。
 米バイデン政権は同一九日、パリ協定に正式に復帰した。
 米国では、コロナ禍によってすでに、第二次世界大戦での米国人犠牲者(四〇万五三三九人)を超える死者が出ている。コロナ禍によって米国内では一〇〇〇万人近くの雇用が失われている。バイデン政権は一・九兆ドル(約二〇〇兆円)の追加経済対策法案の予算成立を目指すとともに、今後四年間で二兆ドルの予算で「気候変動対策」をとるとしている。バイ・アメリカン政策と並ぶ経済復興対策であり、「気候変動対策」としながら、新産業政策として国際的に優位に立つことを画策しているのだ。
 その企図をもって、バイデン政権は、四月二二日に温室効果ガス主要排出国の首脳会議を開催する方針を打ち出した。本年一一月の第二六回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向けて、温室効果ガス削減目標の引き上げなどを呼びかけるとしているが、バイデンの目的は、再生可能エネルギーや電気自動車、水素、アンモニアなどの新産業において米国資本が主導権を握ることだ。
 菅義偉は、この4・22首脳会議に参加する意向を、二月二二日の衆院予算委員会で表明した。

 ▼1章―4節 対イラン政策に端的なバイデン政権の軍事外交戦略

 イラン政府は二月一五日、米国のイランに対する経済制裁が緩和されない場合、核合意に基づく抜き打ち査察を認めないと国際原子力機関に対して通告した。このイランの通告は、イランと米英独仏中ロの六カ国が二〇一五年に結んだ「イラン核合意」をトランプ政権が一方的に離脱してイランへの制裁再開を強行した結果としての現在の事態について、バイデン新政権の対応を求めるものであった。
 イランは一月、核合意による制限を逸脱して濃縮度20%のウラン製造を開始していた。トランプ政権の制裁再開に対するイランの対抗措置だが、「核合意」の水準に戻すには、米国が先に制裁緩和を行うべきだとイランは主張している。
 これに対し、米国務省は二月一八日、欧州連合(EU)が調整を続けてきたイランとの協議に参加する意向を示した。それとともに米国連代表部は国連安保理の各理事国に対して、トランプ政権時のイラン制裁再開を撤回する書簡を送った。
 イランのザリフ外相は一九日、「トランプが再開したすべての制裁を無条件に解除すれば、われわれは対抗措置を直ちに取り消す」とツイッターに投稿した。
 米帝の「イラン核合意」復帰に向けた外交上の駆け引きが続く中、米軍はバイデンの指示に基づいて二月二五日、シリア東部の親イラン武装組織の施設を空爆した。施設を破壊し、少なくとも二二人が死亡したと報じられている。米国防総省は、この軍事攻撃を、イラク駐留米軍施設へのロケット砲攻撃に対する対抗措置だとし「釣り合いのとれた防御的攻撃」だと主張した。
 バイデンは一方で、トランプが外交上厚遇してきたサウジアラビアに対する外交姿勢を転換した。トランプは、ムハンマド皇太子のカショギ記者殺害(一八年)の疑惑について不問に付し、大量の米国製武器の売却を進めたが、バイデンは二月二五日にサウジ国王サルマンと電話協議を行い、今後も大統領としての交渉相手はサルマンだとした。二六日には、米国家情報長官室が、ムハンマド皇太子が「カショギ氏を拘束または殺害する計画を承認した」とする報告書を公表した。
 トランプが主導してきたイスラエル全面擁護と米国製武器の大量売却という利害のみの中東政策に対して、バイデンは欧州の同盟国との関係を重視しつつ中東植民地支配の復権に向けた外交政策の修復を行っているというべきであろう。そしてバイデンは、この目的のために容赦なく武力攻撃を選択することを明確にした。これはイランに対する直截なメッセージである。同時に、インド太平洋を位置付け直すバイデン政権は、朝鮮民主主義共和国(以下、共和国)、中国に対しても、米帝の意思を示したと言えるだろう。

▼1章―5節 インド太平洋戦略の主導権を握り直す米帝

 米国防長官オースティンは一月二三日、韓国の徐旭(ソウク)国防相と電話会談し、共和国を念頭においた「即応力の維持」の必要性を確認した。この米国防長官の意向に沿う形で、米韓連合軍司令官エイブラスムスは「われわれは韓半島でいますぐにでも闘える態勢、いわゆる『即応性』を維持しなければならない」として、米韓合同軍事演習を実施すべきことを強調した。
 オースティン、エイブラスムスのメッセージは、文在寅(ムンジェイン)大統領が一月一八日の新年記者会見で「南北間では、韓米合同軍事演習について南北軍事共同委員会を通じて議論することで合意している」として、共和国との協議について言及したことに対応して、バイデン政権としての米韓合同軍事演習実施への意思を表明したものであった。
 二月末になって、米韓合同軍事演習は三月八日から九日間の日程でコンピューターシミュレーションによる指揮所演習として実施する方向で最終調整に入った。文在寅政権が軍事演習を縮小しようとしたのに対して、バイデン政権がどんな形態であっても軍事演習の実施にこだわった結果であるだろう。「指揮所演習」とはいっても、その内容は5015作戦として明らかになっているように、共和国に攻め入って体制を転覆することを含んだ軍事演習である。この「指揮所演習」を実施するということ自体が共和国に対する戦争挑発なのだ。
 二月一八日には、インド太平洋の枠組みの日米豪印の「四カ国戦略対話(QUAD)」の外相電話協議が行なわれた。ミャンマーの軍事クーデターに関して民主的体制の回復と、東中国海・南中国海の力関係の中国による現状変更への反対が論議された。四カ国外相はこの協議で、初のQUAD首脳会議開催方針で一致した。
 QUADは第一次安倍政権において、安倍が提唱して二〇〇七年五月に設立された。安倍政権―菅政権は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を外交構想として掲げており、海洋安全保障などの観点からQUADを推進することを外交戦略として位置づけている。しかし現在、米バイデン政権が、このQUADを位置付け直し、その主導権を握り直している。
 バイデンは三月三日、「暫定国家安全保障戦略ガイダンス」と題した文書をもって、当面の外交・安全保障の基本戦略を発表した。「世界の力の分配の変化が新たな脅威をもたらしている」とし、中国について「急速に自己主張を強めており、安定し開かれた国際システムに挑戦する能力がある、唯一の競争相手だ」と規定している。その上で、「米国の信頼と前向きな指導力を取り戻すことで、新たな世界の規範や合意を形成するのは中国ではなく、米国であることを確かなものにする」と主張している。このために、NATO、オーストラリア、日本、韓国との同盟関係を改めて位置付け直すことを強調している。
 NATOとの関係を修復しつつイラン核合意に復帰し、六月のG7首脳会合にオーストラリア、インド、韓国を招請し、QUADを首脳会議の枠組みとして位置付け直す、というバイデン政権の動きは、経済・政治・軍事全般にわたって強く中国包囲を意図して組み立てられた戦略というべきであろう。この中に日米同盟強化も位置づけている。国務長官ブリンケンと国防長官オースティンが三月中旬に来日して日米の「2+2」を二年ぶりに開催する方針も明らかにされている。

 ●第2章 コロナ禍で露呈した現代資本主義の危機

 ▼2章―1節 〇八年恐慌以降の長期不況、停滞から脱却できない資本主義


 コロナ禍に対応して、欧米諸国ではロックダウンが続き、日本では「緊急事態宣言」発令という形で感染対策としての社会活動の制限がさまざまな形でなされてきた。ロックダウンのような法的強制、あるいは日本のような「自粛要請」であっても、コロナウイルス感染拡大を阻止する措置として社会全体の活動に大きな制限がなされてきた。
 出入国が制限され、ヒト・モノ・カネの国境を越える新自由主義的な動きが制約された。モノの輸送は一定程度なされているが、ヒトの移動は国内外で制限されている。航空運輸業は直接的に経営縮小という事態に陥り、電車・バスなどの陸運業にあっても大きな経済的打撃を受けている。経済全体の縮小が続き、原油価格は急落した。勤務・通勤の「密」を避けるために在宅勤務への転換が奨励され、人々が集合する飲食やスポーツ・芸能などが制限され、休校措置などで学校教育も大きく制限された。
 とくに、コロナ感染拡大の第一波が世界各国を直撃した昨年前半期には、各国の国内総生産(GDP)は急落した。二〇年第2四半期(四~六月)は、米国はマイナス31・4%、ユーロ圏はマイナス11・7%、日本はマイナス8・3%と急激に落ち込んだ。最初に感染のピークがあった中国は第1四半期(一~三月)にマイナス6・8%の落ち込みだった。国際通貨基金(IMF)が「大封鎖(グレート・ロックダウン)」と評した事態だった。感染拡大を非科学的に楽観したトランプ政権の対策遅れのために、米国のGDPの落ち込みは急激であった。それ以上に、感染拡大によって多くの人民の命が失われた。
 〇八年恐慌のように主要銀行をはじめとする金融機関、金融システム総体が破綻していく事態ではなく、感染拡大阻止のために制限された経済領域ごとの急激な落ち込みであったため、ロックダウンなどが解除されると、経済的な指標は回復の数値を示してきた。
 ただし、コロナの感染拡大は、その後も第二波、第三波と襲いかかってきている。欧米諸国も日本も、その法的手段は異なってはいても、感染防止のために経済活動を制限する以上、法人・個人の経営への補償をなさなければならないし、休業・失業する労働者の生活を保障しなくてはならない。
 昨年、安倍政権(当時)は、四月に二五兆円余の第一次補正予算、五月には三一兆円の第二次補正予算を成立させて対応した。しかし、第一次補正の一律一〇万円の給付金を決定するのにも右往左往し、決定してからも実際に給付されるまでに長い時間がかかった。雇用調整助成金はその手続きの複雑さゆえに、実際に必要な休業を余儀なくされた労働者には充分には届かなかった。持続化給付金も、緊急に現金を必要としていた中小零細企業や個人事業者(実態は労働者)には届かず、むしろ、その業務を請け負った電通やパソナなどがその中間で「委託費用」をむさぼっていた。

 ▼2章―2節 官製バブルと政府債務の増大

 IMFによれば、コロナ感染拡大による歳出増と歳入減によって世界的に財政が逼迫している。コロナ対策のために財政支出は世界規模で一一・七兆ドル、世界のGDP総計の12%になると推計されている。
 二〇二〇年の政府債務は対GDP比で、世界全体で98・7%に達すると見込まれている。二〇年一〇月一四日のG20財務相・中央銀行総裁会議は、コロナ禍で財政が悪化した七三カ国に対して、債務不履行(デフォルト)を回避するために公的債務の返済猶予期間を二〇年末から半年間延長することを決定した。
 しかし、コロナ禍による政府債務の増大は、帝国主義諸国においてこそ深まっている。GDP比で捉えると、米国の政府債務は22・5ポイント増の131・2%、日本は前年比30ポイント近く増の266・2%と予想されている。
 現代資本主義は〇八年恐慌以降、実体経済における根本的な景気回復をなすことなく、長期不況が続く状態にあった。それは、日銀や欧州中央銀行(ECB)がゼロ金利政策、マイナス金利政策を取り続けてきたことに端的である。米連邦制度準備理事会(FRB)は、オバマ政権時代のイエレン議長の下で利上げに踏み切り、ゼロ金利を脱していた。しかし、パウエル議長は、トランプ政権の執拗な利下げ要請とコロナ禍の経済対策で、ゼロ金利に戻している。
 日帝、欧州各国帝も含めて帝国主義各国は〇八年恐慌以降、資本主義の景気循環としての好況に転じていたのではなく、帝国主義の金融政策と財政政策によるてこ入れで金融危機を回避し続けてきたのである。
 この状態の中で、コロナ感染拡大による経済的打撃によって、政治的にさらなる経済対策をとらざるをえなくなっている。コロナ感染防止という人命に関わる課題、そして、休業、失業が進む事態が深刻化している状況の中では、生活支援の経済政策は必須であり、その要求が高まるのは当然である。政権の側も、これに応えることなくして政権を維持することはできない。
 しかし、各国中央銀行も政府も、コロナ危機という現実を口実にすれば、財政赤字に対する批判が起こらず、放漫な金融政策、財政政策に誰も反論しない状況を、むしろ奇貨としている。安倍政権、菅政権のGoToキャンペーンに顕著なように、政権に結びついた資本は、コロナ対策に便乗して利権をむさぼっているのである。
 コロナ危機ゆえの金融緩和は、〇八年恐慌対策以来の官製相場をさらに一段引き上げている。ニューヨークダウ工業株平均が三万ドルを超え、日経平均株価も三万円を超えたことが報じられてきたが、実体経済に根拠があるわけではなく、金融緩和によってあふれた過剰な資金が株価を押し上げ続けているものでしかない。
 この官製バブルは、金融資本、金融投機資本を潤すことはあっても、労働者人民の賃金や生活には何ら豊かさをもたらすものではない。いくら株価が上昇しても、賃金の上昇には結びついていない。とりわけ、日本の労働者の実質平均賃金は下がり続けている。官製バブルの維持は賃金決定の根拠になるわけではなく、資本の側はコロナ禍を理由にして賃下げを強めようとしているのだ。
 そして、実体経済に全く根拠のない官製バブルゆえに、薄氷を踏むような危うい経済になっている。バイデン政権の追加経済対策が明らかにされると、景気回復の期待と同時にFRBが金融緩和縮小に踏み込む予想がなされ、二月二四日に米長期金利が急に上昇した。この結果、二五日に米国で株価が急落した。この影響を受けて、二六日には日本でも株価が急落した。実体経済に根拠のないバブルは、このようなことで大きく動揺し、連鎖すれば世界規模でバブル崩壊を引き起こすのだ。

 ▼2章―3節 世界支配構造の再編

 中国共産党が二〇年一〇月の「第一九期中央委員会第五回総会(五中全会)」で発表した「国民生活および社会発展第一四期五カ年計画並びに三五年長期目標に関する中共中央の建議」によれば、三五年までに「一人当たりGDPが中等先進国の水準に達する」としており、それが一四億人の規模で実現すると、GDPで米国の経済規模を超えることになる。しかし、コロナ対策に関して、中国が強権的な手法で感染拡大を一挙に抑えたのに比して、米トランプ政権の非科学的な判断の遅れによって米国のコロナ禍は世界最悪の事態を招いてしまった。そのために、このGDPの米中逆転は三五年どころか三〇年にも起こりうると予想されている。
 新自由主義グローバリゼーションと評せられてきた現代資本主義は、決して自由な資本の競争の論理だけで貫かれているのではない。第二次世界大戦後に米帝を中心国として帝国主義諸国がその支配を貫徹するために編制してきた世界的な枠組みの中において、資本の再生産がなされてきたのである。経済、政治、軍事全般にわたる帝国主義の支配の下で、IMFや世界貿易機関(WTO)の協議もなされているのではない。単に貿易額やGDPだけで、この帝国主義の支配の枠組みが変わるわけではない。ロシア、中国がIMFや世界貿易機関(WTO)の枠組みに加入しても、さらには中国のGDPがその数値において米帝を凌駕しても、ドルを基軸通貨とした世界貿易や資本輸出の主導権を米・欧・日の帝国主義は変更しようとはしないだろう。この競争と対立は、「自由」や「民主主義」で解決されるわけではない。世界支配をめぐる矛盾は、帝国主義国間、あるいはスターリン主義との間で、経済、政治、軍事全般にわたる力の対立とならざるをえない。
 そのことは中国の支配官僚たちも承知していることである。単に工業生産で凌駕すれば、IMFやWTOの主導権が中国に移るのではない。経済上の米中逆転ということもが平和的には進まないことを熟知している。中国のGDPは二〇一四年に米国の60%を超えた。三〇年とも三五年とも想定される米中逆転が現実のものとなっている状況の中で、中国スターリン主義官僚は、単に経済規模ではなく、政治・軍事の問題として米帝との対決を捉えている。五中全会の「中共中央の建議」の「二七年の建軍一〇〇年奮闘目標」には「戦争に備える」ことが明記され、これに基づいて「受動的な戦争への対処から主動的な戦争の設計への転換」が指示されている。
 米バイデン政権は、トランプ政権の「米国第一主義」と排外主義の混乱した外交の修復を目指し、米帝は改めて中心国として現代資本主義世界を再編成できるように見えるが、実はそれは簡単な話ではない。〇八年恐慌以降顕著になったことは、米国そのものが中心国として世界支配を貫徹していく軍事力、経済力を喪失していることだ。だからこそ、トランプのような「自国第一主義」を公言する大統領が登場せざるを得なくなったのだ。
 トランプが混乱させた外交=同盟関係とコロナ対策を「修復」したら、米国がかつてのような中心国に復活するということではない。中国スターリン主義官僚によって統制された国家独占資本主義が、戦後世界に君臨してきた米帝国主義を経済規模で凌駕していくことが予想される、という状況において、米バイデン政権は同盟関係を修復して、政治的枠組みを整えることに力を傾注している。しかしそれだけでは米帝そのものの力の減退という根本的問題は解決されない。

 ▼2章―4節 災厄の下で拡大する格差と貧困を許すな

 トランプ政権の四年間、そして昨年来のコロナウイルスがもたらした災厄の混乱の中で、帝国主義とスターリン主義が世界支配の主導権をめぐって争う現状を、われわれは彼らが強行する破壊、流血、強権的支配への憤怒をもって改めて確認しつつ、この抗争の下で何がもたらされているのかを見なければならない。
 コロナ禍が増幅した格差と貧困は、世界支配を強める帝国主義の下にあって日々拡大している。
 日本においては、安倍政権が「緊急事態宣言」を発出した昨年四月、各企業は「緊急事態」という認識の中で、一旦は短期間の休業ということがなされた。休業者は四月には六〇〇万人、五月にも四〇〇万人に達していた。
 その後、緊急事態宣言の解除によって一時的な休業は減少したが、失業率は急上昇せずに、一方では雇用者数が減少していく、という事態が続いている。
 コロナ感染拡大とその対策によって、全産業で停滞が起こっているのではなく、宿泊業や飲食サービス業、娯楽業、運輸業、建設業など限定された業種で急激な経済縮小が起こり、そこでの雇用者の急激な減少が起こっている。一方で、情報通信業や医療・福祉などでは雇用は増えている。しかし、その部門で減少した雇用を吸収できる訳ではなく、また、一方で専門性などを乗り越えた業種間での雇用移動は簡単ではない。結果として二〇年四月以降は、対前年比での雇用は一貫して減少している。
 雇用者数の減少が続きながら、失業率は急増していない。日本の「完全失業率」という統計の特異性もあるが、コロナ禍の状況は単なる不況ではない。休業が続き、また廃業に至る事態もあり、一方では感染への不安があるなかで、失業者として求職活動を行うことを断念するということが起きているからだ。非労働力人口が二〇年四月に急増し、それ以降も毎月前年の数値を上回っている。
 その結果、職を失いながら、雇用保険の対象とならず、収入を絶たれた労働者が急増する事態になっている。
 とくに、コロナ感染拡大と緊急事態宣言に伴って、非正規雇用が急激に減少した。二〇年四月には非正規雇用が一三一万人も減少している。また、シフト型の雇用契約になっている労働者の場合には、「雇用契約」は維持したままシフトを入れずに休業手当は払われないという事態が起こっている。解雇手続きはとらずに、労働者側からの退職を促すという手口なのだ。
 雇用調整助成金によって休業手当が支払えるにも関わらず、その制度そのものが活用されていないことが多い。さらには、労働者自身が申請する「休業支援金」制度の手続きにも協力しない状況もある。
 コロナ禍一年の状況の中で、直面する困窮がコロナウイルスそのものためではなく、現代資本主義の矛盾が凝縮して襲いかかっているのだということに、労働者人民は気づき始めている。
 危機に直面して、支配階級は、労働者人民の命や生活のためではなく、金融資本の利害を貫くがために放漫な金融緩和を持続し、資本の利害を第一にした経済対策をとり続けている。官製バブルが現代資本主義そのものの危機を深めてきただけでなく、労働者人民にとっては格差と貧困を一層強めることを結果している。そして、コロナ禍とその対策の長期化ゆえに社会の分断が進み、差別排外主義が拡大している。
 コロナ禍の中での闘いは、差別や困窮に抗する闘いでありながら、現代資本主義そのもの、その階級支配そのものに向かわざるを得ない。
 米国の「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動に顕著なように、階級支配構造そのものを根底から覆さなければ解決できないというところまで、闘いは発展している。現代資本主義の矛盾がコロナ禍で拡大してきたがゆえに、それに対する憤怒は、この世界を根底から覆そうとする人民のエネルギーが噴出するものとなっている。困難な危機の時代にこそ、労働者人民自身が自らの闘いを見極めていくだろう。
 全世界の労働者階級人民と結合して、現代帝国主義の支配を覆していこう。



 



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