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   ■大阪G20―現代帝国主義の惨状

      戦争重圧と排外主義を打ち破れ
       
                             香川空




 日帝―安倍政権は六月二八・二九日、大阪に高速道路封鎖、小中高校休校まで行う戒厳態勢を敷いた。
 そして何より、韓国の闘う仲間を入国拒否にして、大阪G20首脳会議開催を強行した。
 安倍晋三は会議の冒頭で「自由貿易やイノベーションなどを通じ、世界経済を力強く牽引していく」と語り、閉幕後の記者会見では「意見対立ではなく、共通点に光を当てた」と「成果」を誇ろうとした。二〇カ国・地域は、安倍の言うような「共通点」で合意したのだろうか?
 〇八年恐慌への対応、そして、米トランプ政権の登場、英国の欧州連合離脱という事態の中で、新自由主義グローバリゼーションの破綻は明確になり、帝国主義はその世界支配について一定の協調をなすことすら困難になってきた。大阪G20で露呈したことは、二〇カ国・地域という多国間の表層での「合意」すら困難になっているということだ。安倍は、最初から「意見対立」を回避した。説得できないトランプとの議論は成立しなかった。政治・経済・軍事の力をあからさまにした二国間、各国間の対立が鮮明になったサミットだった。
 大阪G20サミット反対闘争を断固闘い抜いたわれわれは、ここに現代資本主義、現代帝国主義の破局的な矛盾が集約されていることを、はっきりと捉えていく。

 ●第1章 G20大阪サミットで露呈した対立と混迷

 ▼1章―1節 大阪サミットの概要

 日本政府がG20参加国・地域を調整してまとめた首脳宣言は、世界経済に関して「一九年後半から二〇年にかけて徐々に上向く見込み」としながら、「下方リスク」として「とくに貿易と地政学的な摩擦が増している」と評した。米トランプ政権に最大限の配慮を払う安倍政権は、トランプ政権が仕掛けた米中貿易戦争をこのような曖昧な言葉で語るのだ。そして、この状況に対する方策を「自由で公正、無差別的で透明、予見可能で安定した貿易環境となるよう努力し、開かれた市場を保っていく」とした。
 後に述べるが、G20首脳会議を開始した〇八年以来、「反保護主義」、「保護主義と闘う」ということが二〇カ国・地域の中の共通認識であり、首脳宣言に明記されてきた。トランプが米大統領に就任してG20に参加するようになって、反保護主義の合意は困難になった。今回、安倍政権は最初から「反保護主義」についての論争を避け、「自由貿易の促進」という言葉を原案としていた。しかし、その言葉すら「共通点」と確認することができなかった。
 首脳宣言としては、この世界経済とともに、技術革新としての「データ流通」「インフラ投資」「税のデジタル化」「女性の活躍」「環境問題」が、安倍の言う「共通点」として文章化された。それらの多くは抽象的文言を確認しただけのものであった。とても「力強く牽引」するものではなかった。
 首脳宣言の中で激しい対立点を覆い隠すことができなかったのが、「環境問題」だった。G20の諸国・地域は、一五年の第二一回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定の枠組みに入っていた。G20首脳会議では、地球温暖化対策としてパリ協定を遵守することが確認されてきた。しかし、トランプは一七年六月、突如パリ協定離脱を宣言した。パリ協定そのものが大国(CO2大量排出国)間の妥協の産物であるとはいえ、その規定には、地球温暖化の危機の進行に対する世界的な世論に対処せざるをえないという認識があった。財政負担の「不公平」を根拠に米国が一方的に離脱したことは、地球温暖化対策を押し止める歴史的反動となった。
 トランプが大統領に就任して以降のG7、G20でパリ協定が再確認されない現状を、フランス大統領マクロンが批判した。二六日、大阪での記者会見でマクロンは、「パリ協定に言及されなければ」首脳宣言に賛成しないと明言した。
 しかし、安倍政権は、トランプ政権を説得することはしなかった。安倍晋三が議長としてまとめた今回の首脳宣言は、米国の離脱を追認し、この地球規模の危機的事態をあからさまに放置するものだった。
 一九カ国については「パリ協定の参加国は各国事情に配慮しつつ、それぞれの責任を果たすことを再確認する」。一方で、「米国は自国の不利益になるとの理由でパリ協定からの離脱決定を再び強調する」とした後に、次のような言葉が付言された。「一方、米国は先進技術の適用により、温暖化ガスの排出削減に取り組む」。これは妥協ですらない。現状を書き連ねただけだ。しかも、パリ協定を勝手に離脱したトランプ政権が一九カ国・地域よりもすぐれた技術革新で「温暖化対策」を進めているかのような誤解を積極的につくりだす作為がはたらいている。
 今回の首脳宣言には、プラスチックごみ海洋投棄の対策が書き込まれた。安倍は「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」と銘打った。しかし、これは「二〇五〇年までに」海洋投棄をゼロにするというものである。逆に言えば、三〇年という長期にわたって放置する意図かと疑わざるをえない。

 ▼1章―2節 貿易戦争と首脳会議

 この無内容で、米トランプ政権に最大限おもねったG20首脳宣言を誰が注目したであろうか。世界中の耳目は、米中首脳会談をはじめとする大国間の首脳会談の行方に集中していた。
 G20を取材するジャーナリズムも、参加していた首脳たち自身も、貿易戦争が深まる米中首脳会談に注目していた。米大統領トランプと中国国家主席習近平(シー・ジンピン)の会談は二九日午後に行なわれた。米中貿易戦争の両当事者は昨年一二月のG20ブエノスアイレス首脳会議以来直接話してもいなかった。
 米・中は昨年来、関税、追加関税を積み重ね、さらに米側は華為技術(ファーウェイ)への輸出規制にまで着手して貿易戦争を激化させてきた。米中首脳はこの日の会談で、双方が準備していた第四弾の関税発動を一旦先送りし、貿易協議を再開させることで合意した。世界各国のブルジョアジーは、世界経済の危機が一旦遠のいたとの理解をもって、この日の米中首脳会談を捉えた。
 トランプは自分で米中通商関係の危機を作り出し、エスカレートさせておいて、まるで自分がこの危機を収束させたかのように演じてみせた。トランプのおかげで、議長国安倍の記者会見記事は新聞の隅に追いやられ、安倍の面目は潰れた。
 トランプは、G20終了後の記者会見で、G20そのものの評価はせず、自らの「成果」だけを誇示した。
 その後訪韓したトランプは、G20の間にほのめかしていたとおり、三〇日午後、文在寅(ムンジェイン)大統領とともに板門店(パンムンジョム)に赴き、金正恩(キムジョンウン)国務委員長との首脳会談を行なった。トランプは金正恩とともに朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)側に足を踏み入れた上で、韓国側施設で一時間近くの会談を行なった。米朝は非核化協議を再開することを確認した。トランプは、金正恩に対して「ホワイトハウスに招待する」とも語った。
 二月のハノイ会談が「決裂」して以降、共和国、米帝双方がこの総括をしつつ、首脳間の「親書外交」などによって今回の首脳会談は周到に準備されていた。また、この米朝会談の全過程に同行した文在寅、そして、G20直前に訪朝して首脳会談を行なっていた習近平は、この米朝首脳会談―朝鮮半島和平の流れを認め、促進してきた。韓国との首脳会談を拒絶し、朝鮮半島問題に関わる根拠すら失っていた安倍政権は完全に蚊帳の外に置かれていた。外相河野は三〇日夜に、米国務長官ポンペオから電話で説明を受けたのだった。
 G20の議論については何も語ることはなく、自らの「外交成果」に執心するトランプが本心で意識していたことは何だったか。
 米国ではG20の前日から、来年の米大統領選に向けた民主党の候補者二四人の指名争いに向けた最初の討論会が始まっていた。「どちらに投票するか」という類の世論調査では、トランプはバイデンにもサンダースにも負けている状況だった。大統領選を意識するトランプにとって、オバマがやっていないことを、民主党候補の誰よりも先に、何かやるということがとても重要だった。
 トランプを迎え入れた金正恩の言葉「史上初めて、私たちの地に足を踏み入れた大統領だ。並々ならぬ勇断だ」は、権力にしがみつくトランプの野心を讃えるものだった。
 米、韓、中、朝、それぞれの首脳の思惑がはたらいているが、重要なことは朝鮮半島和平の流れが再び大きく動き出したことだ。これは決してトランプの成果などではない。韓国民衆の「ろうそく革命」が生み出した歴史的大道だ。南・北・在外の朝鮮人民が希求する朝鮮半島―東アジアの平和を必ず実現させなくてはならない。

 ▼1章―3節 新たな中東戦争に手をかけたトランプ政権

 米帝―トランプ政権はG20サミットの直前に、イラン軍事攻撃に手をかけた。
 六月二〇日、イラン革命防衛隊は領空侵犯した米軍無人偵察機グローバルホーク(GH)を撃墜したことを発表した。米中央軍は、GHが公海上空で撃墜されたと主張した。トランプ自身は「イランはとても大きな間違いを犯した」と非難のつぶやきを行なった。
 トランプはこのつぶやきの直後に、イランのレーダーやミサイル施設に対する軍事攻撃を承認した。攻撃は二一日未明に強行される計画だった。トランプは、攻撃のリスクがつり合わないことを知って「一〇分前に止めた」と公表した。
 軍事攻撃が自らの政権運営と大統領選にマイナスと考えたトランプは六月二四日、今度はイランのハメネイ最高指導者に対して経済制裁を科す大統領令に署名した。ハメネイ師の資産を凍結し、イラン革命防衛隊司令官やザリフ外相へも経済制裁を拡大する。
 大統領補佐官ボルトンは急遽イスラエルに赴き、ネタニヤフ首相とイラン攻撃について協議している。
 トランプ自身はG20大阪会合の場において、サウジアラビア皇太子ムハンマドと首脳会談を行い、イランへの対応で結束することを確認している
 これが世界最大の軍事力を有するアメリカ合衆国大統領のなすことであろうか。
 トランプ政権の米軍シリア撤退方針に反対したマティス国防長官が二月に退任した後、トランプは後任をすぐに指名すると公言したが決定できず、ボーイング社出身のシャナハンを国防長官代行とした。しかしシャナハンは六月一八日、国防長官に指名されることを辞退し、代行も辞任すると表明した。トランプは、陸軍長官エスパーを国防長官代行に据えるとした。
 国防長官人事すら半年にわたって定まらずにトランプ政権が混乱している状況の中で、政権内のタカ派、ボルトンやポンペオが急激に発言力を強め、「根拠」をでっち上げてイラン攻撃を強硬に主張している。トランプ政権は自国利害貫徹の手段として、常に戦争を準備しているのだ。
 安倍イラン訪問時のタンカー攻撃について、トランプ政権だけがイランの仕業と主張し続けている。しかし、トランプ政権が主張するようなイラン革命防衛隊の魚雷による攻撃ではなく、空からの攻撃だったと報じられている。トランプ政権が、文字通り私利私欲を動機として、恣意的にでっち上げた「根拠」で、新たな中東戦争に突入することを絶対に許してはならない。

 ●第2章 現代帝国主義が抱える危機

 ▼2章―1節 08年恐慌とG20首脳会議


 G20首脳会議は、〇八年九月の米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻によって顕現した米国発の金融恐慌が世界規模で拡大する状況の中、帝国主義国だけでは対応できず、同年一一月に米帝―ブッシュ政権が呼びかけて、当時のサミット参加国(G8)にBRICsや産油国など二〇カ国・地域の首脳を集めてワシントンで開催した緊急会合から始まっている。参加国・地域は、米、英、独、仏、伊、日、カナダ、ロシア、中国、インド、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア、インドネシア、メキシコ、韓国、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合であった。
 この直前の米大統領選で次期大統領はオバマに決まっていた。ブッシュは中長期の戦略を提示する立場にはなかった。このG20首脳会議第一回会議では、世界金融恐慌の危機の認識を共有し、「緊急かつ例外的な措置の努力の継続」を確認しただけだった。
 当時の英首相ブラウン、仏大統領サルコジは、このG20の事前に、米国から始まった金融恐慌をにらみながら「EUが中心になった新ブレトン・ウッズ体制」を相談しあっていた。この金融恐慌がこの後、一〇―一一年には欧州金融危機―通貨危機へと進展していくことを、彼らは想像もしていなかった。
 翌〇九年四月、第二回G20首脳会議がロンドンで開催された。ここでは「二〇一〇年の世界経済の成長率を回復させるため、あらゆる行動をとる」として、具体的には参加国が協調して「総額五兆ドルの財政出動」を発表した。恐慌に際してG20各国の緊急財政対策を積み上げた数字を国際協調であるかのように打ち出したのだが、それぞれの国がそれぞれの利害で自国の金融機関や企業の救済のための国家財政出動を行なったにすぎない。
 この〇九年のG20ロンドン・サミットの首脳宣言は、「保護主義を拒否する」という文言で新自由主義グローバリゼーションの堅持を表明した。具体的には「二〇一〇年末までは貿易障壁をつくらない」ことを宣言に明記していた。

 ▼2章―2節 トランプ登場後のG7―G20

 一七年にトランプが米大統領に就任し、G7、G20の首脳会議に登場すると、その自国第一主義をあからさまに主張した。首脳会議で孤立して「自由で公正な貿易」という文言で各国の貿易黒字を減らすことを要求し続け、昨年のシャルルボワでは遅刻して持論の主張だけを行なって、途中退席するという振る舞いであった。
 トランプ個人の無様な行動様式は置いても、米大統領としてのその言動によって、「反保護主義」は首脳会議で合意できない事項になった。この事態は、トランプの個人の特異な資質によるものではない。〇八年恐慌直後から、表向きの声明では「反保護主義」を掲げながら、各国ごとの経済政策においては保護主義的政策も選択肢として自国利害を貫くという実態があった。トランプ政権においては、このような「建前」すら無くなった。あからさまに自国利害を主張し執行する政権になったということなのだ。
 トランプ政権は、経済政策における保護主義だけではなく、米国資本の利害をあからさまに掲げて、それまでの国際的な合意を一方的に離脱してきた。
 一つは、イラン核合意からの離脱である。現在のイラン核合意をめぐる混乱は、決して「イラン問題」ではない。トランプ政権の強引な合意離脱が協議の場を破綻させ、イランへの制裁、さらには軍事作戦発動にも至ろうという事態を作り出してきたのだ。「米国問題」であり、「トランプ問題」である。
 二つは、地球温暖化対策として温室効果ガスの排出規制を合意したパリ協定からの離脱である。トランプ政権は、地球温暖化が生み出す危機に対して興味もなく、科学的な批判を行なうこともない。彼の論理は、ただ単に、今目の前にある条件が財政負担として「不公平だ」という理屈だけだ。

 ▼2章―3節 新自由主義の破綻

 トランプの登場以降の世界経済・国際政治の混乱、あるいは英帝のEU離脱交渉の破綻という事態は、新自由主義グローバリゼーションそのもの、つまり、現代帝国主義が掲げてきた世界支配の枠組み自体が揺らいでいるということである。「貿易と投資の自由」なのか、「保護主義」なのか。ブルジョア国家権力が、現代の資本主義世界そのものの危機にどう対処するのかが確定できない事態になっていると言えるだろう。
 混沌とする世界情勢において、現代帝国主義が進めてきた新自由主義グローバリゼーションがいかなる未来(破滅)に向かっているのかということを、捉えなおしていかなくてはならないだろう。
 第一に、そもそも〇八年恐慌そのものが、新自由主義グローバリゼーション、より具体的には金融自由化の全世界的な展開のゆえに引き起こされ、国境を越えて金融危機が連鎖したのだった。しかも、恐慌を引き起こし拡大していた金融自由化を遮断することができないということが、現代資本主義のジレンマであった。
 政府の介入を最小限に抑え、金融資本が全地球規模で自由化を進める。強化される搾取と収奪の上前を金融投機資本がはねていく。このような金融自由化が〇八年恐慌で破綻すると、「金融システムの維持」を名目にして、国家権力が全面介入し、その財政を注ぎ込んで金融資本を守ろうとした。
 G20ロンドン・サミットでは、「ヘッジファンド」を恐慌の原因のように捉え、その「規制強化」が議論された。しかし、一部の金融投機資本だけの問題であれば金融システムそのものを世界規模の危機に陥れるような金融恐慌にはならなかっただろう。米国の投資銀行五行のすべてが破綻するか銀行に吸収されるかして、消失してしまった。金融恐慌が全産業に波及し、米帝国主義の機軸産業であった自動車産業の中心―ビッグ3のうちのGM、クライスラーを一時的に「国有化」するほどの事態に至った。
 恐慌の端緒となったサブプライム・ローンは、「住宅金融」の形をとりながら労働者人民に借金をさせ、これを証券化していくものだった。問題は、英帝、米帝が主導した金融自由化の世界規模での進展によって、各国の銀行をはじめとする金融機関総体が、経済活動のあらゆる領域に入り込み、証券化、投機化を進めてきたことである。
 トランプの登場によってG7、G20の議論が混乱していることが問題なのではない。〇八年、〇九年にG20サミットが開始された当初から、現代帝国主義は恐慌の根本的問題を解決する道に踏み込むことができなかったのだ。G20は、金融投機資本の活動の根拠となってきた地球規模での金融自由化そのものを批判することも反省することもできなかった。G20は金融恐慌に急ブレーキをかけて危機の先延ばしはしても、根本的な解決をなすことはできない。アベノミクスに顕著なように、帝国主義が金融緩和を続け、赤字を積み重ねながら財政出動を続ける。そのようにして危機を先延ばしする資本主義は、もはや「新自由主義の成功」などと宣伝することすらできない。
 第二に、新自由主義の破綻ゆえに、この恐慌対策に世界規模で取り組むとした〇八年・〇九年G20首脳会議の中に、すでに新自由主義と保護主義の矛盾は芽生えていたのだ。
 「総額五兆ドル」の各国の財政出動が、金融恐慌を食い止めるべく進められたわけだが、このG20開催を呼びかけた米国において、〇九年の緊急経済安定化法には「バイアメリカン条項」(アメリカ製品を使用する)、「ハイヤーアメリカン条項」(アメリカ人を雇用する)が入っていた。
 これは、トランプ政権の話ではない。〇九年当時のオバマ政権とて、莫大な財政出動にあたっては自国の資本と自国の労働者を優遇することを明示していたのだ。
 米・欧・日の中央銀行はゼロ金利、マイナス金利、量的拡大に踏み込んで金融緩和を継続した。各国政府・地方政府が財政出動を続け、財政赤字は拡大していった。けっして、G20が世界経済総体のためにと一致団結して恐慌対策を継続したのではない。各国それぞれが危機に直面し、自国資本の利害のためにとった行動だった。各国の財政を注ぎ込んで行われた恐慌対策ゆえに、当然、自国の製品、自国の雇用を優先する論議が付随していたのであった。保護主義の主張は、この段階からはっきり存在していた。
 第三に、より根本的には、新自由主義政策こそが階級的対立を激化させてきたことである。世界金融恐慌という事態においてこそ、支配階級の階級的意図が鮮明になった。新自由主義を掲げながら、危機に瀕した金融機関を中心にした独占資本に対しては自己責任を追及することなく、国家財政を注ぎ込んで救済した。労働者人民に対しては、緊縮財政の下で貧困化、生活破壊を強いてきた。国家権力を握った支配階級にとって「危機」と認識されたことは、銀行をはじめとする金融機関と独占資本が支配する基幹産業の破綻であり、これを「国有化」してでも防衛することだった。しかし、この莫大な財政赤字の矛盾は、緊縮財政として、さらには消費税率引き上げのような増税によって、労働者階級人民に押し付けられてきている。
 トランプ政権の登場は、〇八年以降の現代帝国主義の矛盾が解決不可能であることを露呈させた。新自由主義なのか、保護主義なのか。これは、現代資本主義を支配しようとするもの同士の、解決できない論争である。問題の根源的解決に向かっているのではない。いかに自国に有利な手段で世界支配に参画するのかの争闘である。
 対立し混迷する支配階級の見苦しい争いを、世界中の人々が目の当たりにしている。G20の論争の果てに、労働者階級人民の未来は決して拓かれない。

 ●第3章 日米同盟と日米争闘

 ▼3章―1節 同盟強化に腐心した安倍外交のつまずき

 安倍政権は、四―五月「天皇代替わり」と六月のG20をからめて、米大統領トランプとの日米首脳会談を、四月安倍訪米、五月トランプ来日、六月G20と三カ月連続で行なった。
 安倍晋三は四月二二日から二八日、「天皇代替わり」と六月G20首脳会議を前にして、欧州各国と米国、カナダを訪問した。二六日、二七日には米大統領トランプと会談した。
 安倍はこの四月の会談では、G7でもG20でも最も混乱要因となっている米帝トランプとの間で、大阪G20に向けた一定の事前合意を確認しようとしていた。しかし、安倍の思惑通りには進まなかった。大阪G20の首脳宣言で「反保護主義」を確認できるか否かなどという問題どころではなかった。
 安倍政権は新天皇ナルヒトと最初に会見する国賓として同盟国大統領トランプをすでに招請していたが、この来日に向けて、トランプは自らの利害を強く押し出してきた。トランプは、日米貿易交渉をこの五月トランプ来日時点で「合意」しようと切り出した。安倍晋三自身も含め安倍政権は当惑した。
 帝国主義としての日米間の利害対立という次元の話ではなかった。安倍政権は目前の七月参院選が迫っており、トランプ政権は二〇年米大統領選の民主党候補者への対抗策が重要な政治課題だった。双方とも政権としての「外交成果」が念頭にある。見苦しい政治駆け引きだった。
 安倍晋三はここでは貿易交渉の回答を出さず、五月のトランプ来日を再確認した。
 この後、五月の閣僚級協議の場では、米国側は農業分野での先行合意を迫っていた。
 五月二五日から来日したトランプに対して、二七日の宮中晩餐会のみならず、安倍自身がゴルフ、大相撲観戦、炉辺焼きと接待し、二八日には海上自衛隊横須賀基地で護衛艦「かが」に乗船した。「かが」は「いずも」型護衛艦である。「いずも」とともに空母に改修しF35B戦闘機を艦載する予定になっている。トランプは、日本がF35を大量購入することを、この艦上で再確認した。空母化予定の自衛隊艦船上で、軍事同盟強化の再確認と大規模な武器商売の再確認が、一体のものとして行なわれた。
 しかし、トランプは安倍の接待外交に有頂天になっていた訳ではない。トランプは、「七月参院選」という安倍政権の国内事情だけは考慮したが、日米貿易交渉の「八月合意」ということを強調した。
 そして六月二八日、大阪G20首脳会議前に、日米首脳会談が行なわれた。来日直前、トランプは「日米安保は不公平だ」との主張を繰り返し、これをもって貿易交渉を有利に進めようと企図していた。トランプは会談冒頭で「われわれは貿易問題、軍事、日本による武器購入について議論する」と強調した。首脳会談は記者を退室させた状況で行なわれ、官房副長官西村は「日米安保の見直しの議論は一切なかった」と説明した。しかし、トランプ自身はG20終了後の大阪での記者会見で、日米安保は「不公平な合意だ」とし、安倍に対して「改定しなければならないと伝えた」とはっきり述べた。

 ▼3章―2節 安倍政権の利害と大阪G20

 三年前、伊勢志摩サミットで、「消費税率引き上げ延期」という国内政策の変更の「根拠」をでっち上げるために、安倍晋三は「リーマン並みの経済危機」というウソを「首脳宣言」の中に書き込むという恥ずべき行為を行なった。安倍晋三にとっては、世界経済の真実などどうでもいいのだ。G20という政治イベントを、自民党のために、安倍自身のために、最大限利用しようと企てたのだ。
 安倍は四月二〇日、G20首脳会談前に大阪を視察し協力要請を行なった。安倍はこの場で、G20の議題を「貿易摩擦と地球温暖化」だと語った。トランプが大統領に就任してから混乱させてきた二つの問題を真正面から扱うというのだろうか。対中貿易戦争を引き起こし、「パリ協定」から一方的に脱退し地球温暖化対策に非科学的に対抗してきたトランプ政権が最も嫌悪する課題である。
 四月から六月の三度の日米首脳会談でも、G20首脳会議の場でも、安倍はトランプに向かって、貿易問題でも地球環境問題でも、議論を行なうことなどまったくなかった。昨年までのG7、G20のように、トランプが他の首脳と激論し、孤立するような議論は全くなされなかった。これが議長・安倍の成果であろうか。米帝トランプにおもねって、対立を覆い隠し、美辞麗句の首脳宣言はまとめてみたが、破綻した新自由主義政策をどうするのかという、G20諸国・地域全体の合意を生み出すことは何もできなかったのだ。
 それでは、わざわざ「地球温暖化」を強調する安倍は、何を企てていたのか。
 政府は四月一九日、温暖化の対策案として「原発推進」を鮮明に打ち出す方針を国連に提出するとした。「パリ協定」に基づく温暖化対策の「革新的技術」として「原子力の利用」を掲げ、原発を推進することを「長期戦略案」にする方針なのだ。
 アベノミクスの第三の矢=「成長戦略」の環としてきた原発輸出は昨年までに全て頓挫する事態となっている。追い詰められた安倍政権は、「温暖化対策の一環」として原発再稼働―原発輸出を位置づけようと企んでいたのだ。
 一方で安倍政権は、韓国が福島原発事故を理由にして日本の水産物を禁輸していることに関してWTO上級委員会で韓国側が勝訴したことを問題視してきた。安倍は四月にカナダを訪問した際、「(WTO上級委は)紛争解決に資さない形で結論が出される」と批判し、WTO改革をG20の議題とすることを提案していた。G20首脳宣言の貿易問題の項において「WTO改革」に言及している意図は、日帝として韓国に敗訴したことを総括し反撃するものだったのだ。
 G20のごとき多国間協議ではなく、二国間の取引としての協議を優先する米帝―トランプが自らの政権の利害ゆえにではあるが米中首脳会談、米朝首脳会談を行なった。その一方で、日帝―安倍政権は、戦争責任と賠償問題を棚上げにして、韓国との外交関係を狭めてきた。安倍政権は、大阪で文在寅と日韓首脳会談を行なわなかった。朝鮮半島―東アジアの和平の大きな流れに対して、日本だけが自らを遮断するような外交姿勢をとり続けている。
 G20終了直後の七月一日、安倍政権は、韓国の半導体生産に使われる化学製品三品目の輸出規制を強めることを発表した。これは韓国人元徴用工の損害賠償判決に対する事実上の報復措置だ。韓国政府は「WTOへの提訴を含めて必要な措置をとる」としている。六月二九日に大阪で「自由で公正、無差別で透明、予見可能で安定した貿易環境」を宣言した安倍晋三は、その二日後に韓国に対する「貿易戦争」をしかけたのだ。
 根本的には日本の戦争責任問題から引き起こされている日韓間の外交問題を、安倍政権はさらに捻じ曲げていこうとしている。安倍は参院選を目前にして、トランプのごとき排外主義外交が日本の労働者人民の支持を得られると考えているのだろうか。決して、そうではないことを示していかなくてはならない。改憲と戦争、排外主義、搾取と収奪の激化へと突き進む安倍政権を、労働者階級人民の力で打倒していかなくてはならない。


 

 

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