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   7・10参議院選挙総括

   
  改憲に突き進む日帝―安倍政権許すな!


 

 七月十日に投開票された第二十四回参議院選挙(選挙区七十三議席/比例区四十八議席/改選議席の合計百二十一議席)は、自民党・公明党の与党勢力が改選議席の過半数を大きく上回る七十議席を獲得して勝利した。とりわけ、自民党・公明党・おおさか維新の会・日本のこころを大切にする党の改憲勢力は、改憲に積極的な無所属議員をあわせると改憲発議に必要な参議院の三分の二を超えるという事態となった。改憲勢力が衆参両院で三分の二を超えたことによって、まさに改憲をめぐる闘いは決定的な局面を迎えることになる。本論文では、この参議院選挙の結果を分析し、闘いの課題を提起していきたい。

 ●1章 選挙結果

 第二十四回参議院選挙の投票率は、二○一三年の前回参議院選挙は上回ったが、過去四番目の低さの54・70%にとどまった。安倍政権は、今回の参議院選挙をぎりぎりまで衆参同日選挙として実施することを追求した。しかし、最終的にはそれを見送らざるをえなかった。現在、自民党・公明党・おおさか維新の会などの改憲勢力は、衆議院において三分の二を超える三百三十五議席を保持しているが、衆参同日選挙を実施した場合、衆議院において改憲勢力が三分の二を割り込む危険性があったからであった。
 その背景には、アベノミクスのもとで大資本は巨大な利益をあげてきたが、労働者人民の貧困と貧富の格差がますます拡大してきたという現実がある。また、昨年の戦争法(安保法制)制定に対して、これに反対する全人民的なたたかいが安倍政権の予測をこえて拡大したことがある。そして、このたたかいを反映して野党共闘・統一候補の擁立が大きく広がったことがある。これらに強制されて、安倍政権は参議院単独選挙として実施せざるをえなかった。
 まず最初に、各政党の獲得議席を見ておこう。自民党の獲得議席は、選挙区三十七議席、比例区十九議席、合計五十六議席であった。前回参議院選挙において、自民党は改選議席の過半数を単独で超える六十五議席(選挙区四十七議席/比例区十八議席)を獲得し、まさに圧勝した。これにくらべるとかなり獲得議席を減らし、自民党単独では改選議席の過半数に届かなかった。より詳細に見れば、自民党の比例区の得票率は35・91%(十九議席)で、前回参議院選挙の比例区得票率34・68%(十八議席)をわずかだが上回り、自民党に対する支持の底固さを示す結果となった。にもかかわらず、選挙区で前回参議院選挙とくらべて獲得議席を十議席も減らしたのは、いくつもの選挙区において野党共闘候補に競り負けたことが大きな要因となった。公明党は、前回参議院選挙の十一議席(選挙区四議席/比例区七議席)を上回り、十四議席(選挙区七議席/比例区七議席)を獲得し、自民党・公明党の与党勢力による改選議席の過半数獲得を支えた。おおさか維新の会は、大阪・兵庫の選挙区で三議席、比例区で四議席の合計七議席を獲得した。しかし、大阪を中心とした地方政党という性格が強く、それ以外の地方への支持の拡大をつくりだすことはできなかった。
 民進党は、前回参議院選挙での民主党の十七議席(選挙区十議席/比例区七議席)という大惨敗からある程度党勢を回復し、三十二議席(選挙区二十一議席/比例区十一議席)を獲得した。民主党は、昨年の戦争法制定に対して最後まで反対し、日本共産党・社民党・生活の党と山本太郎となかまたちとの野党共闘に軸足を移した。そして、安倍政治の暴走を止めようと訴え、ある程度安倍政権に対する批判票の受け皿となった。日本共産党は、躍進するという事前の予測に反して、選挙区一議席、比例区五議席の合計六議席にとどまり、改選議席三議席から倍増はしたが前回参議院選挙の八議席に及ばなかった。社民党と生活の党は、それぞれ比例区の一議席にとどまった。新党改革、日本のこころを大切にする党は、議席を獲得できなかった。

 ●2章 参議院選挙結果の特徴

 参議院選挙の結果の特徴は、第一に改憲に積極的な改憲勢力が、参議院においても三分の二を超えたことにある。自民党・公明党・おおさか維新の会・日本のこころを大切にする党の四党で非改選議席を含めて百六十二議席となり、改憲に積極的な無所属議員四人を含めて改憲勢力は参議院の三分の二(百六十二議席)を超えた。
 安倍首相は、「(改憲について)私の在任中に成し遂げたい」(三月二日・参議院予算委員会)と明言してきた。安倍の自民党総裁任期は二○一八年九月までである。そして、現在の衆議院議員の任期は二○一八年十二月までであり、改憲勢力が衆議院の三分の二の議席を保障されているのは衆議院の解散がなくともあと二年余りである。参議院選挙の翌日の七月十一日、安倍首相は「わが党は憲法改正草案を示しているが、そのまま通るとは考えていない。いかにわが党の案をベースに三分の二を構築していくのか、これがまさに政治の技術だ」と述べ、国会での審議を加速させていくことに向けて意欲をむきだしにした。
 特徴の第二は、自民党が改憲を参議院選挙の争点とすることを徹底して回避し、「アベノミクスを加速する」ことを主要な公約としたことにある。参議院選挙の最大の焦点が、改憲勢力が三分の二の議席を確保できるかどうかにあったことは明らかであった。しかし、自民党は改憲が最大の争点となった場合自民党に不利だと判断して、改憲を争点とすることを回避した。高村自民党副総裁に至っては、「改憲勢力が(発議に必要な参院の三分の二以上の議席を)取ったとしても、十年先、何年か先は別だが、憲法九条が改正される可能性はゼロだ」(七月五日)とまで述べた。改憲勢力は参議院の三分の二を超える議席を獲得したが、それは改憲を争点とすることを回避した争点隠しの結果であり、労働者人民が憲法改悪を信任したことを意味しない。
 他方で、このような自民党が勝利したことは、アベノミクスに対する幻想がなお労働者人民のなかに広く存在していることを示す事態であった。また、自民党は、「最低賃金の引き上げ」や「同一労働・同一賃金」などを公約に盛り込み、貧困と格差にあえぐ労働者を安倍政権のもとに取り込もうとしたのである。
 特徴の第三は、三十二ある一人区の選挙区のすべてにおいて民進党・日本共産党・生活の党・社民党の四党の選挙協力が成立し、それがある程度の成功をおさめたことにある。参議院選挙の勝敗を大きく左右するのは、一人区の結果にある。一人区は、衆議院の小選挙区と同様に、第一党である自民党が圧倒的に有利となる。三年前の参議院選挙では、自民党は一人区において二十九勝二敗と圧勝し、改選議席の過半数を単独で獲得した。今回の参議院選挙では、昨年の戦争法反対闘争を引きついで、前記の四党は戦争法廃止、立憲主義を守れ、改憲勢力の三分の二を阻止することを中心に、選挙協力を行った。その結果、三十二の一人区の勝敗は、自民党の二十一勝、野党の十一勝となった。
 とりわけ沖縄選挙区では、翁長知事を支え、辺野古新基地建設に反対するオール沖縄勢力に擁立された元宜野湾市長の伊波洋一さんが、島尻安伊子沖縄・北方担当大臣に対して約十万六千票の大差で圧勝した。オール沖縄勢力は、二○一四年一月の名護市長選挙、同年九月名護市議選、同年十一月の県知事選挙、同年十二月の衆議院選挙、今年六月の県議選挙、そしてこの参議院選挙と連勝し、沖縄選挙区選出の衆参両院の六人の国会議員をすべて制した。辺野古新基地建設阻止に向けて結束し、全基地撤去へと向かう沖縄労働者人民のたたかいのうねりを反映した結果となった。
 また、福島原発事故がなお終息していない福島選挙区においても、野党共闘候補が勝利した。福島においては福島原発事故への対応や東日本大震災からの復興をめぐって安倍政権への不信と反発が広く存在しており、その結果だと言える。そして、東北六県のうち秋田を除く五県で野党共闘候補が勝利し、自民党は東北で惨敗した。また、新潟・長野でも野党共闘候補が勝利した。これらの東北・信越においてはTPPを推進する安倍政権への批判が広く存在してきた。安倍政権の農業切り捨て政策への反発が野党共闘候補の勝利をもたらしたと言える。
 これらから明らかなように、十一の一人区における野党共闘候補の勝利は、候補者を一本化したことだけでもたらされたものではない。これらの地域では、辺野古新基地建設阻止・米軍基地撤去、福島原発事故の被災者への支援や東日本大震災からの復興、反TPPなどをめぐって、さまざまな取り組みが組織されてきた。戦争法廃止という要求とその地域の労働者人民の生活と権利、生存にかかわる要求を結合して選挙戦がたたかわれた地域で、野党共闘候補は勝利したと言える。また、参議院選挙と同時に実施された鹿児島県知事選挙においても、川内原発再稼働を推進した現職の伊藤祐一郎知事が落選し、川内原発の一時停止を掲げた三反園訓が勝利した。それは、熊本・大分地震が続く中で九電が川内原発の稼働を続けるという状況があり、これに反対するたたかいの反映にほかならない。
 特徴の第四は、選挙権年齢が十八歳以上に引き下げられて実施された最初の国政選挙となったことである。新たに有権者となったこれらの若者の投票率は、総務省によれば十八歳が51・17%、十九歳が39・66%で、十八歳・十九歳をあわせた投票率は45・45%であった。これは全体の投票率54・70%を下回るものであったが、前回参議院選挙での青年層の二十〜二十九歳の投票率33・37%は大きく上回った。各マスコミの出口調査によれば、これら十八歳・十九歳の有権者は、その半数以上が比例区において自民党・公明党の与党勢力に投票している。若者の政治参加を促進し、たたかいの側に組織していくことが大きな課題であることをあらためて突きつける結果であった。

 ●3章 野党共闘の評価について

 今回の参議院選挙の大きな特徴であった野党共闘は、昨年の戦争法に反対する全人民政治闘争の巨大な高揚をうけて成立したものであった。日本共産党は、戦争法が強行採決された直後に、志位委員長が「戦争法を廃止する国民連合政府」を呼びかけた。そして、この国民連合政府構想で一致することを前提に、これまでの沖縄を除くすべての選挙区において独自候補を擁立するという基本方針を転換させ、参議院選挙の一人区において野党統一候補を追求することを表明した。これに対して、民主党の岡田執行部は共産党との選挙協力は否定しなかったが、連立政権にむけた協議は拒否した。そして、前原・細野などの民主党右派や連合指導部は共産党との選挙協力そのものに反対し、昨年秋の段階では参議院選挙での野党の選挙協力は困難視された。この状況を転換させたのは、戦争法に反対してきた大衆運動であった。
 昨年十二月二十日、戦争法反対運動を推進した「戦争させない・九条壊すな!総がかり行動実行委員会、SEALDs、安全保障関連法に反対する学者の会、立憲デモクラシーの会、安保法制に反対するママの会」の五団体有志の呼びかけで、参議院選挙にむけて「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(略称・市民連合)が結成された。市民連合は、@安全保障関連法の廃止、A立憲主義の回復、B個人の尊厳を擁護する政治の実現を掲げ、参議院選挙のすべての一人区において候補者を一人にしぼりこみ、統一候補を擁立することを野党に要請した。この過程で共産党は、「戦争法廃止の国民連合政府」の樹立で一致することを選挙協力の条件とすることを取りさげた。こうして各選挙区の条件によってさまざまな違いはあったが、民主党・共産党・生活の党・社民党はこの要請を受ける形で、すべての一人区において選挙協力をおこなった。そして、参議院選挙後の七月十二日、四野党は幹事長・書記長会談を行い、次の衆議院選挙の選挙協力にむけた協議を開始するとともに、七月三十一日の東京都知事選挙においても鳥越俊太郎を統一候補とすることを確認した。四野党と市民連合による野党共闘は、次の衆議院選挙にむけて構造化していくことが明確になったと言える。
 われわれは、参議院選挙にむけた野党共闘の流れが生みだされた昨年秋以降、戦争法に反対する全人民政治闘争を参議院選挙に収れんさせていくことに反対し、労働者人民の街頭闘争、大衆的実力闘争こそが基軸であると主張してきた。沖縄におけるオール沖縄勢力の形成とそのたたかいの前進は、辺野古新基地建設と対決する辺野古の海上やゲート前での大衆的実力闘争が切りひらいたものである。この大衆的実力闘争に結集し、それを支援することを中心に、沖縄の圧倒的多数の人民が沖縄解放闘争の主体として登場し、オール沖縄会議という形で新たなたたかいの構造をつくりだしてきた。そのことによって沖縄人民は参議院選挙においても現職大臣の自民党・島尻を落選させたのだ。
 昨年の戦争法反対闘争もまた、国会を包囲する数万、数十万の労働者人民のたたかい、機動隊の阻止線を決壊させ、国会前の路上を占拠した大衆的実力闘争を中心として、全国の労働者人民が日本の未来は自分たちが決めるとたたかいに立ちあがったことによって切りひらかれたものであった。こうしたことから明らかなように、階級闘争の前進にとって何よりも重要なことは、労働者階級と被抑圧人民・被差別大衆が自己解放闘争の主体としてたたかいに立ちあがり、街頭闘争や大衆的実力闘争をたたかいぬき、新たな階級闘争の構造をつくりだしていくことにある。われわれは議会主義者とはちがい、まさにこのような階級闘争を通して権力の打倒、革命へと向かうのだ。
 このことを前提としつつ、今回の参議院選挙における野党共闘の評価をより明確にする必要がある。一人区における勝敗が示すように、野党共闘は一定の効果をあげた。与党勢力と対抗するためには、野党がバラバラに立候補するのではなく、統一候補を擁立した方が有利であることは言うまでもない。われわれもまた、次の衆議院選挙にむけて野党共闘が形成されることを支持する。しかし、そのような選挙戦術としてどうだったのかということだけを評価の基準とすることはできない。労働者人民のたたかいに依拠し、その要求を反映するということにおいてどうだったのかが検討されねばならない。
 その点において、今回の野党共闘はきわめて限界のあるものであった。戦争法の廃止は掲げたが、辺野古新基地建設反対や原発再稼働反対は掲げることができなかった。民進党が、辺野古新基地建設や原発再稼働を容認するという立場に立っているからであった。沖縄においては辺野古新基地建設に反対するオール沖縄勢力が圧勝したが、それは「本土」における野党共闘には反映されなかった。また、原発再稼働はほとんど争点とはならず、参議院選挙の全過程を通して課題としては埋没する結果となった。そして、消費税増税反対も掲げることができず、労働者の生活と権利の擁護をめぐっても、安倍政権に対する明確な対抗軸をうちだすことができなかった。これもまた、民進党が三党合意に基づく消費税増税を推進するという立場だからであった。これらの結果、今回の野党共闘は戦争法廃止という要求は糾合できたが、辺野古新基地建設や原発再稼働に反対する労働者人民の広範なたたかいに立脚するものとはならず、そのエネルギーを糾合するものとはならなかった。そして、貧困と格差にあえぐ労働者人民を広く結集するものとはならず、アベノミクスを前面におしだした自民党に対抗しきれなかったと言える。すでに述べたように、参議院選挙の野党共闘が全体としてそのような限界を持つなかで、十一の一人区における野党共闘候補の勝利は、それぞれの地域における労働者人民の生活と権利、生存にかかわる要求を糾合できたところでもたらされたのだ。
 現状では、最大野党である民進党を外した形での国政選挙のための野党共闘は意味を持たず、民進党を含めた野党共闘を展望するかぎり、このような限界は避けられない。ここから言えることは、国政選挙のための野党共闘は引きつづき推進されねばならないが、労働者人民のたたかいをそこに従属させてはならないということである。戦争法とのたたかいを通して形成された全人民政治闘争の構造は、国政選挙のための野党共闘に従属させてはならず、議会選挙に収れんさせてはならない。街頭闘争、大衆的実力闘争を断固として推進し、戦後平和と民主主義の防衛という枠をこえて、反資本主義・反帝国主義・国際主義に向かう新たな階級闘争の構造へと発展させていかねばならない。問われていることは、資本主義・帝国主義の手直しではなく、その根本的変革にある。そして、そのためにどのような政権を樹立するのかにある。共産主義を労働者人民の解放の希望として再生させ、現社会の根本的変革に向かう階級闘争のうねりをつくりだしていかねばならない。そのことは、左派勢力の共通する課題である。とりわけ、貧困と格差の強制とたたかう労働運動をたたかいの主体として登場させていくこと、青年学生運動を日本共産党やSEALDs指導部の限界を超えて階級闘争の側へと組織していくことは大きな課題である。
 この章の最後に、日本共産党の動向について見ておきたい。共産党が自らの公認していた候補者を取り下げても一人区における野党共闘を推進したことについては、共産党の党勢拡大に一切を収れんする「セクト主義」からの転換として評価する声も多い。しかし、注意しておくべきは、共産党が「戦争法を廃止する国民連合政府」を提唱する過程で、自衛隊や日米安保を違憲とする立場を棚上げにしても、他の野党とともに国民連合政府を樹立するという方向を明確にしたことにある。これは、現状の日米同盟を容認することでしかない。かつて社会党は、細川連立政権に参加し、一転自民党と組んで村山(自・社・さ)連立政権が成立する過程で、内閣の立場と党の綱領の間の矛盾を解決するために、自らの綱領を変更して自衛隊や日米安保を合憲とする立場に転換した。「戦争法を廃止する国民連合政府」の提唱は、共産党がかつての社会党と同じ矛盾を抱え込むことを意味する。自衛隊や日米安保を違憲とするこれまでの共産党の立場を変更し、さらに右へとスタンスを移行していく転換点となるのかどうか、注視しておかねばならない。

 ●4章 改憲阻止!全人民政治闘争の発展を

 安倍政権は、衆参両院において改憲勢力が三分の二を超える議席を確保したことによって、一挙に改憲に向かうであろう。改憲に至るプロセスは、以下のようになる。
 内閣は憲法擁護義務を課せられており、自ら改憲案を国会に提起することはできない。改憲案を審議するのは衆参両院に設置された憲法審査会である。憲法審査会で審議された改憲案は、衆議院百名以上、参議院五十名以の議員の賛成で国会に提出できる(国会法第六十八条二)。衆参両院における改憲案の発議は、内容において関連する事項ごとに区分し、衆参両院の三分の二の賛成をもって行う(個別発議の原則/国会法第六十八条三)。衆参両院で改憲が発議されれば、六十日から百八十日以内に国民投票を実施する。国民投票は、内容において関連する改憲案ごとに行い、過半数の賛成をもって改憲が成立する。個別発議の原則から、自民党改憲草案のように、現憲法の全面改定という形式での一括の改憲案は提起できない。それゆえ、このようなプロセスの最初に憲法審査会は、まず改憲項目を確定させることから審議を開始することになる。そして、確定された改憲条項について、それぞれの改憲案を作成し、国会に提起することになる。
 改憲勢力が三分の二を超えたと言っても、現憲法のどの条項をどのように改定するのか、改憲勢力の四党の間でもすりあわせはこれからである。現段階では、現憲法九条を残したままで「加憲」を主張する公明党と自民党の隔たりは大きく、また自民党とおおさか維新の会の立場も大きく異なっている。改憲勢力が一致した改憲案を作成し、国会に提出することは簡単ではない。これまでの報道によれば、自民党は改憲の最大の争点となる憲法九条の改定を後まわしにして、まず「緊急事態条項」や「環境権」などを付け加えることから改憲を行おうとしているようだ。
 緊急事態条項は、自民党改憲草案の第九十八条に提起するもので、「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」において、内閣が緊急事態の宣言を発することができるというものである。この緊急事態条項は、権力の行使を規制する権力制限規範としての憲法の効力を一時的に停止し、内閣に法律と同等の効力を有する政令を制定する権限を与え、人民の諸権利の一部を停止することを可能とするものである。
 かつてナチスは一九三三年三月、「全権委任法」を制定することによって、ワイマール共和国憲法に拘束されない無制限の立法権を掌握し、ナチスの独裁政権を合法的なものとした。「緊急事態条項」の導入は、これと同じ手口によって、内閣が独裁権力を掌握することを可能とするものである。それは立憲主義を破壊するものにほかならない。全力をあげて国会における改憲の発議を阻止しなければならない。そのことが改憲阻止闘争の最初の天王山となるのだ。国会を数十万、数百万の労働者人民によって包囲するようなたたかいへ全国から決起していかねばならない。
 改憲は、日本の戦争国家化と立憲主義の破壊の総仕上げである。われわれは、この改憲阻止闘争を労働者人民の総力を結集した全人民政治闘争として組織し、そのただ中から日本帝国主義を打倒する革命への展望を切りひらいていかねばならない。集団的自衛権にもとづく自衛隊の海外派兵と合同軍事演習に反対するたたかい、辺野古新基地建設阻止をはじめとした反基地闘争、原発再稼働阻止闘争など、国策に反対するすべてのたたかいを結集し、そのエネルギーに立脚してたたかうことが不可欠である。現に進行する集団的自衛権の行使と海外派兵、米軍基地・自衛隊基地の出撃拠点としての強化とたたかうことなしに、どうして戦争法を廃止し、改憲を阻止することができるのか。また、政治闘争と経済闘争を結合させ、貧困と格差に苦しむ圧倒的多数の労働者の政治決起をつくりだしていかねばならない。
 同時に、この改憲を阻止する全人民政治闘争の勝利にとって、プロレタリア国際主義がますます重要になる。安倍政権は、朝鮮民主主義人民共和国(以下、「共和国」)や中国の脅威を唱え、これに対抗するために集団的自衛権の行使や改憲が必要だと訴えてきた。また、ますます拡大する日本の海外権益や在外邦人を防衛するために、自衛隊の海外派兵が必要だとしてきた。これらを通して排外主義が労働者人民のなかに深く浸透し、核開発・弾道ミサイル開発を推進する共和国の脅威論は多くの労働者人民をとらえてきた。しかし、東アジアの軍事的緊張を高め、共和国を主権防衛のための核開発・弾道ミサイル開発に追い込んできたのは、朝鮮戦争以来六十年にわたって共和国を軍事的に包囲し、戦争態勢を築いてきた日米帝国主義の側なのだ。東アジアの軍事的緊張を解消していくために必要なことは、日米帝国主義が共和国敵視政策から転換し、休戦協定にかえて平和協定の締結をもって朝鮮戦争を公式に終結させることであり、日朝・米朝の国交を正常化させることである。しかし、現状では戦争法や改憲に反対する野党もまた、このような東アジアの平和のための根本的課題に目をふさぎ、共和国の核開発・弾道ミサイル開発を一方的に非難する国会決議に賛成し、国会は共和国敵視政策への翼賛状態にある。それは日本の反戦反基地闘争の大きな弱点と言えるものなのだ。このような事態を変革していくことはさし迫った課題である。
 集団的自衛権にもとづき自衛隊が海外に派兵される時代にあって、アジア・世界の人民に銃口を向けるなと呼びかけ、東アジアの軍事的緊張を高める日米帝国主義に対して、アジア人民の連帯と国際共同闘争をつくりだしていくことが求められている。
 韓国政府は七月十二日、韓国における米軍サード・システム(ミサイルとXバンドレーダー)の配備先を慶尚北道の星州(ソンジュ)郡とすることを発表した。このサード・システムの韓国配備は、日本のXバンドレーダー(青森県つがる市車力と京都府京丹後市経ケ岬)と連動し、米日韓の軍事同盟を強化するものであり、東アジアの軍事的緊張をさらに高めるものである。共和国はこれを激しく非難し、中国・ロシアも抗議を表明している。星州では、行政府・議会をあげてこれに反対しており、七月十三日には五千人が結集した抗議集会が現地で開催された。この韓国民衆のたたかいに連帯しなければならない。米(ハワイ・グアム)・日本・韓国を結ぶアメリカのミサイル防衛(MD)戦略と対決し、韓国へのサード・システム配備阻止闘争と日本に配備されたXバンドレーダー撤去のたたかいを結合させ、国際連帯にもとづく共同闘争をつくりだしていかねばならない。国際連帯とは決して理念にとどまるものではなく、このような現実のたたかいなのだ。このアメリカのMD戦略と対決する国際共同闘争は、韓国の「平和と統一をめざす人々」(ピョントンサ)の代表が昨年十一月の岩国国際集会に、また今年六月五日の京丹後総決起集会に参加することによって、すでに開始されてきた。このような取り組みを断固として支持し、発展させていかねばならない。
 すべてのたたかう労働者人民の皆さん! 参議院選挙の結果、改憲勢力は衆参両院の三分の二の議席を確保したが、それはいよいよ改憲阻止の全人民政治闘争に向かう、新たな課題である。ともにたたかおう。


 

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