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伊方原発再稼働阻止現地闘争へ! 川内原発を即時停止せよ!


 

 四国電力は、七月下旬にも伊方原発三号機の再稼働を強行しようとしている。絶対に許してはならない。再稼働阻止現地闘争に全国から結集しよう。川内原発に続いて再稼働した高浜原発三、四号機は、二度にわたる裁判所の決定によってその運転が停止に追い込まれた。今、稼働しているのは川内原発一、二号機だけだ。その一、二号機も今年の十月と十二月に定期点検に入る。伊方三号機の再稼働を阻止し、再び原発稼働ゼロへと追い込もう。
 六月二十日、原子力規制委員会は、運転期限である四十年を前にした高浜一、二号機の審査を他の原発審査より優先して二十年の運転延長を認める決定を行った。福島第一原発の事故後、新基準では、原発の運転期間は原則四十年と定められ、例外として安全審査や延長認可審査で規制委が合格と認めれば、一回に限り最長二十年運転延長できることとなった。しかし、原子力規制委員会は、今回の審査では期限内に審査を通すための恣意的な審査を行なうなど、例外としての二十年延長規定を無内容にし、稼働可能な原発をすべて動かそうというのだ。再稼働ありきの原発推進委員会としての本性をむき出しにしてきたのである。規制委員会は「過酷事故が起こらないという保証はない」と繰り返し述べている。このような開き直りとずさんで意図的な審査を絶対に許してはならない。
 電力九社は、今年も株主総会において「脱原発」にむけた株主提案をことごとく否決した。住民の安心・安全・健康よりも会社の金儲け優先の電力会社を許すな。熊本地震の発生によって伊方原発の事故発生の可能性は一段と高まった。伊方一号機は、すでに廃炉せざるを得ない状況へと追い込まれている。三号機の再稼働を許さず伊方原発の廃炉をかちとろう。

 ●1章 危険極まりない伊方原発

 伊方原発には三基の原発がある。一号機は、今年で運転四十年目となる。四国電力は新規制基準のもとで安全対策費に見合う収益が見込めないため、今年の三月に廃炉を決定した。これにより国内の原発で廃炉が決定されたものは六基目となる。伊方原発は、全国の原発の中でも浜岡原発に次いで危険な原発と言われてきた。
 ここでは、伊方原発の危険性について、改めて確認しておこう。
 第一は、伊方原発の北側直近には日本最大級の断層、中央構造線が走っていることだ。
 中央構造線は、瀬戸内海南側から紀伊半島西部にかけての巨大な活断層で、長さは三百キロメートルあるが、それが伊方原発北の沖合五〜六キロのところにある。南には活発で大規模な地震発生源である南海トラフが走っている。地震大国日本の原発の中でも大地震に襲われる可能性の極めて高い原発なのである。
 今年四月に発生した熊本・大分地震で、西日本を横断するこの中央構造線が注目された。今回の地震の震源は、熊本の「布田川断層帯」「日奈久断層帯」を中心に、大分の「別府―万年山(はねやま)断層帯」へと波及したとみられ、その延長線上にあるのが中央構造線だからだ。現在、主な震源は別府市の地下で止まっており、さらに東へと波及する兆候はみられないが、「もしも数ケ月か数年の間に別府湾の方で活動が活発化すれば、注意が必要だ」とも言われている。中央構造線では、過去七千年の間に少なくとも五回、大地震が起きたとされる。日本の南の海底では、フィリピン海プレートがユーラシアプレートへ斜めに沈み込んで押しており、そのストレスを解消するため、中央構造線が横ずれを繰り返してきたのだ。
 最も新しい大地震が、別府湾を震源とする一五九六年の慶長豊後地震。数日間のうちに中央構造線に沿って伊予(愛媛県)、さらに伏見(京都府)でも地震が起きたという記録が残っている。
 熊本・大分地震について、緊急記者会見で、日本地震学会会長の加藤照之氏は「中央構造線が動いたら、『日本沈没』ではないにしても,大変な地震になる恐れがあります。このようなことから、中部・近畿地方と四国北部は、M8級までの地震が想定される地域といえます。このような巨大地震の巣を抱えた地方が、日本列島のほかの地域には、海域を別とすればありません」と語っている。
全国で二千本はあるとされる活断層の内、阪神・淡路大震災以降、特に「主要」九十八断層については詳細な調査が行われてきた。しかし、二〇〇〇年の 鳥取県西部地震(M7・3)と二〇〇八年の岩手・宮城内陸地震(M7・2)は、 活断層が知られていない場所でM7を超す地震が発生したため、大きな問題を提起した。
 中央構造線は、過去の大地震の発生実績やM8級の巨大地震が直下で起こる可能性も想定されていることから、伊方原発では過酷事故を免れえないのである。
 巨大地震の可能性が極めて高いにもかかわらず二〇一四年十二月、原子力規制委員会は審査会合で、四国電力伊方原発三号機の耐震設計の目安となる基準地震動について、震源を特定しない場合として四国電力が示した六百二十ガルを了承した。また、震源を特定した場合には六百五十ガルをおおむね了承しており、審査で最大焦点である基準地震動を中央構造線を震源とする六百五十ガルとした。
 しかし、二〇〇八年の岩手・宮城内陸地震(M7・2)では、四千二十二ガルが観測されている。今回の熊本の地震では、四月十四日の前震において、M6・5という規模にもかかわらず上下動で千三百九十九ガルという、構造物にとっては驚異的な値が記録されているのである。さらに、中央構造線は、断層面が南に傾斜しており、それは震源が原発に近付くということである。活断層は伊方原発の沖合五〜六キロといわれるが、実際に地震を発生させるのは海底下数キロの断層面であることから、南傾斜であれば、 地震は沖合ではなく、正に原発の直下で発生することもありえるのだ。そうした場合、最も危惧されているのは、地震波の主要動であるS波の到達時間が震源から極めて近いために短く、燃料制御棒を操作して原子炉を緊急停止させることができない可能性があるという点である。伊方原発は、中央構造線の活動性を無視して設置されてきた。中央構造線の危険性が明白となった今、伊方原発の危険性は極めて顕著であり、伊方原発は絶対に運転させてはならないのだ。
 第二には、伊方原発は唯一内海(瀬戸内海)に面した原発であるということだ。
 福島第一原発事故後、大量の放射能によって海は汚染され、陸と同様に海のホットスポットと呼ばれる地点が原発沖の海洋をはるかに超える範囲で確認されている。放射性物質が海底に沈殿し続けているのだ。そして、福島では今も沿岸漁業及び底びき網漁業は、原発事故の影響により操業自粛を余儀なくされており、「試験操業」が続いている。原発は通常運転の場合でも放射性物質を大気中にまき散らしている。さらに、温排水による海水温度の上昇などにより、原発近隣の漁業に多くの影響を与えている。伊方原発の場合、事故そのものの被害はもちろんのこと、放射能漏れや福島同様の汚染水の流入による海洋汚染の被害は想像を超えるものとなる。
 第三には、避難計画をめぐる問題である。
 伊方原発は、愛媛県の佐田岬半島の付け根近くにあるが、半島の原発西側には約五千人が暮らしている。そして、原発三十キロ圏内には愛媛県の六市町と山口県上関町が含まれ、計約十二万三千人が居住している。伊方原発で事故が起こった場合、この西側で暮らしている人々は、半島の先から海を越えて大分県側に避難するしかない。しかし、半島には百か所の急傾斜地、百九十三か所の土砂災害指定区域などがあり、トンネルが多く地震などにより道路が使用できるかどうかわからない。さらに、津波が発生した場合には船を使って大分県側に渡ることもできない。そして、未だに大分県との避難支援に関する協定も結ばれていないのだ。
 昨年の五月段階ではあるが原発から二十キロの老人介護施設への取材によれば、施設には五十人近いお年寄りが入所しており、多くが自力で歩けない。港までは一キロメートル。車は三台しかなく、車いすのまま運べるのは一台だけ。救急車などの応援がなければとても全員を運ぶことはできず、応援については何も決まっていないという。仮に全員を運べても、フェリーの階段は狭くて急で、客室まで運ぶことは難しい。さらに地震で港が使えない場合に備えて、愛媛県は一昨年、砂浜でも使えるホバークラフトで沖合の船舶に避難する訓練をおこなった。しかし入り口は狭く介護が必要なお年寄りを乗せるのは困難。施設では避難計画も作ったが、肝心の避難先が記されてないという現状である。原発事故にともなう避難がいかに困難であるかは福島第一原発事故の経験をみるならば明らかである。
 基本的な避難計画によれば、重大事故発生でまず五キロ圏内は避難開始。五キロから三十キロ圏は「屋内退避」。毎時二十マイクロシーベルトを超えると「一週間以内に避難」。五百マイクロシーベルトを超えると「速やかに避難」となっているが、毎時二十マイクロシーベルトは約二日で「公衆の年間被曝限度」の一ミリシーベルトに達する量である。毎時五百マイクロシーベルトでは約二時間で達してしまう。「屋内退避」という場合、放射線は木造家屋の場合で約25%程度。コンクリートで約50%程度しか防げないといわれている。実に避難計画は、被曝を前提にした計画となっており、地震・津波・放射能汚染という複合災害が発生する中での避難計画なるものがいかに机上の空論であるかは一目瞭然である。
 第四には、プルサーマルの問題だ。
 伊方原発三号機には、六月二十七日に燃料棒百五十七体すべての装填が行われ、再稼働にむけた最終段階に入った。百五十七体の燃料のうち十六体が、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランとを混ぜた「MOX燃料」である。プルサーマル発電は、廃炉が決定した福島第一原発三号機や今年度中の再稼働を狙う玄海原発三号機、そして運転停止中の高浜原発三号機がある。玄海三号機をめぐっては六月二十七日、玄海原発三号機MOX燃料使用差止控訴審において、福岡高裁は控訴棄却の不当判決を下している。
 プルサーマルの危険性については、専門家からの指摘が続いている。第一には、通常のウランのもつ毒性に比べてプルトニウムの毒性ははるかに強いために、被曝の被害が極めて大きいこと。第二に、MOX燃料の場合には、ウラン燃料に比べて発熱量が高いため使用済み燃料も数年ではなくて、長期にわたり原子力発電所の敷地に保管しなければならず、福島第一原発の四号機で問題となったように使用済み核燃料の保管をめぐる危険性も飛躍的に増すことになる。関西電力は五月、現在停止中の高浜原発四号機用のMOX燃料の製造を、フランスで年内に始めると発表している。二〇一一年中の製造予定だったが、福島第一原発事故を受けて延期していた。国内への搬入の時期は未定だが、過去の実績では燃料の製造開始から発電所での使用開始までに約二年かかっている。あくまでもプルサーマル発電を継続しようというのだ。
 第五には、火山噴火の影響についてである。
 新規制基準の「火山影響評価」では「活動する可能性が否定できない火山」が原発から百六十キロメートル以内にある場合、火山事象の影響を評価し、必要に応じて具体的な対策を取ることが規定されている。日本の原発十七カ所すべてが再評価の対象となっている。対象となる火山は、気象庁の定義でいわゆる「活火山」であり、現在、百十存在している。伊方原発の西方には、鶴見岳、由布岳、そして九重連山から阿蘇へと火山が続いている。阿蘇山で伊方原発からの距離は、約百三十キロメートルである。四国電力は、九重山の噴火による火山灰は、敷地内で五センチメートル、積雪と合わせても二十三センチメートルとしている。しかし、過去の九州の火山噴火により愛媛県では二十センチメートル以上の降灰が確認されているのだ。
 「火山の前兆現象が巨大噴火につながるのかどうかの判定は難しい。現在の科学では想定不可能」と多くの火山学者らが答えている。新規制基準そのものへの疑問が投げかけられているのだ。
 京都大学防災研究所地震予知センターの橋本学教授は、日本列島の地殻変動をGPS調査し、いま一番懸念されるのはエネルギーが蓄積されたこの四国北部だという。まさに伊方原発は、巨大地震が予想される中、再稼働へ踏み切ろうとしているのだ。絶対に再稼働を許してはならない。一号機ともども伊方原発を廃炉へと追い込もう。

 ●2章 五年を経過した福島第一原発事故

 廃炉にむけた作業が進む福島第一原発では、防護服に着替える必要のない作業エリアも増えてきているが、当然にも原子炉建屋周辺では極めて高い放射線量を示している。メルトダウンを起こした一〜三号機には、溶け落ちた燃料(デブリ)の量は推定で二百七十トンと言われている。現在、二〇一七年度中にデブリの取り出し方針を決めるためにロボットによる建屋内部の調査が続いているが、デブリの状態も把握できていないのが現状だ。一方、定期点検中で燃料が装填されていなかった四号機は、二〇一四年十二月に核燃料プールから使用済み燃料の取り出しは終了しているが、解体した原子炉建屋のゴミをどう処分するか決まっておらず、解体できないままになっている。
 建屋への地下水流入を減らすため、建屋周りの土を凍らせる凍土壁は、海側で凍らない地点がいくつもあることが判明。東電は、地中にセメント系の薬液を注入し、地下水の流れを緩くする追加工事をするとしているが、原子力規制委員会の検討会でも凍土壁の効果には疑問の声が相次いでいる。汚染水をためたタンクは敷地に増える続け、その数は千基を超えおり、汚染水タンクが林立している。そして、この汚染水タンクは約三百トンの高濃度汚染水漏れ事故もおこしており、汚染水問題すら管理できていない現状である。
 福島第一原発では、現在一日七千人の労働者が働いている。厚労省や東京電力によると、事故後に第一原発で働いた労働者は昨年八月末時点で約四万五千人おり、累積の被曝線量は平均約十二ミリシーベルト。このうち約47%の二万一千人強が、白血病の労災認定基準の年五ミリシーベルトを超えているという。二十ミリ以上も九千人を超えている。これまでに、福島第一原発での作業後に被曝と関連する疾病を発症したとして、労災申請されたものは八件。うち一件のみが白血病として労災申請が認められた。三件は不支給となり、一件は取り下げ、三件は調査中だという。
 廃炉作業は、今後三十年とも四十年ともいわれる長期の作業過程にはいっている。当然にも被曝労働者の数はますます増加していく。そうした中、原発で過酷事故が起きた際に緊急作業に当たる作業員の被曝線量の上限は百ミリシーベルトとされていたのを、働ける期間を長くするため、二百五十ミリシーベルトに引き上げた。これはもう「殺人」と同じである。そして、福島だけではなく全国各地で再稼働がおこなわれ原発の運転が続くかぎり、被曝労働は拡大し続け、新たな被曝者そして二世をうみだしていくのだ。絶対に許してはならない。

 ●3章 新たな被曝を強制する避難解除

 現在も避難を余儀なくされている福島住民は、約七万人。放射線量が特に高い「帰宅困難区域」では、大部分で除染の予定も決まっておらず、このエリアにあたる大熊町、双葉町の住民は約二万四千人に及ぶ。安倍は、今夏までにこの地区の復興方針を決めるとしているが、五年が経過してもなお除染の目途さえ立たない中で帰還にむけた意欲は急速に失われつつある。二〇一三年十一月の札幌での講演で、当時自民党幹事長であった石破は「いつかはこの地に住めませんといわなきゃならない」と述べている。
 チェルノブイリ原発事故が発生してから三十年が経過したが、今も立入禁止区域への帰還は行われていない。ただし、チェルノブイリでは、立入禁止区域は年間五ミリシーベルト以上の地域とされている。しかし、日本では年間五十ミリシーベルト以上が「帰宅困難区域」とされ、「帰宅困難地区」を除く九市町村に出ている避難指示について年間二十ミリシーベルトで解除するというのだ。通常の被曝線量は、年間一ミリシーベルトであり、この二十倍もの高線量で、政府は来年三月までに順次解除するとしているのだ。
 この除染の目安は、生活圏にあるモニタリングポストで毎時〇・二三マイクロシーベルトとなるが、実際には「畑が除染されず農業ができない」という声にあるように畑や道路、あるいは山間部などの除染は、まったく不十分なままである。取り除かれた汚染土が入った袋は、家の近くに積み上げられたままになっており、年間二十ミリシーベト以上の被曝を受けることは明らかである。そして、そこに一生住み続ける場合、どれぐらいの被曝を受けるのか。とても帰還できる状態ではないのだ。避難解除をめぐる住民説明会で「解除反対」「一ミリシーベルト以下まで除染を行え」の声が上がるのも当然である。
 そして、避難解除とともに医療費や税金関係の免除などの措置が打ち切られることだ。避難を解除したからといって直ちに生活がもとに戻るわけではないのは明らかだ。これが安倍が言ってきた復興の実態である。これが「福島住民の立場にたった支援」だというのだ。すでに避難解除された地区でも、いまも基準を超える地点がいくらでもある。避難解除は、住民への新たな被曝の強制であり、賠償の放棄である。
 政府は、「支援」としているが、これは「賠償」問題であり、被害住民の理解と納得がないかぎり、「解除」も「支援」打ち切りも許してはならないのである。

 ●4章 賠償逃れと責任放棄を目論む電力会社を許すな!

 昨年六月、電力自由化を議題とした参議院経済産業委員会で電気事業連合会会長(関西電力社長)の八木は、電力業界として原賠法の見直しの要望を行っている。今の原賠制度では電力会社の責任が「厳しすぎる」というのだ。今年四月から始まった電力の全面自由化と、かかった費用に利益を上乗せして電気料金を決める「総括原価方式」が二〇年以降になくなる見通しの中で、ますます電力大手を取り巻く環境は厳しくなるからだ。福島の賠償も原発事故の原因さえも解明できてないにもかかわらず、責任の軽減を求めるなど絶対に許すことはできない。利益は会社が私有化し、損失は社会に負わせる。電力会社、国と同罪の原発メーカーは、賠償責任を負うどころか、さらに事故処理で儲けようとしている。事故を起こした責任者は、「強制起訴」でもされなければ処罰さえもされないのだ。日本の原子力損害賠償制度は歪みきっているといえる。責任者の厳正な処罰と、被害者が最後的に納得のいく賠償をおこなわせなくてはならない。
 一一年度から一四年度にかけて全国の電気利用者が電気料金といっしょに賠償費用を負担しており、その額は五千八十三億円に達する。賠償に加え、除染や中間貯蔵施設などを積み上げた事故の対策費用の総額は最低でも十二兆円に達するという試算があり、今後二十年以上にわたってわれわれは支払いを続けることになるのだ。

 ●5章 原発裁判をめぐって

 全国で原発をめぐり係争中の裁判は三十件を超える。伊方原発をめぐっても三件の運転差し止め、仮処分が係争中であり、この六月、七月にも大分県の住民から同様の申し立てが大分地裁になされている。
 これまで、原発をめぐる裁判において原告側が勝訴することは極めてまれであった。しかし、二〇一四年五月大飯原発三、四号機をめぐり福井地裁の樋口裁判長は原発の運転差し止めを命じた。さらに、昨年四月高浜原発三、四号機をめぐり同裁判長が運転差し止めの決定を下し、原発が停止した。そして、今年の三月再び高浜原発三、四号機をめぐって大津地裁山本裁判長が運転差し止めの仮処分を決定した。関西電力は、この差し止め決定の仮処分の執行停止の申し立ても六月に却下され、同時に申し立てた異議審の目途も見通せないことから、この八月から三、四号機の燃料を取り出すことを明らかにした。これにより現在稼働しているのは、川内原発一、二号機だけになっている。
 福島第一原発の大事故を受けて、「安全神話」も木っ端微塵に吹っ飛び、今もなお七万人を超える人々が過酷な避難生活を続けているという状況の中でも電力会社はあくまでも原発を再稼働させようとしている。そうした国、電力会社の理不尽な再稼働を阻止するたたかいの中で、裁判闘争がひとつの大きなたたかいとして力を示してきている。
 この間の一連の原告勝利判決の中に極めて重要な内容がかちとられており、重要な判断内容を今後の再稼働阻止にむけた武器としていかなければならない。
 二〇一四年高浜原発三、四号機をめぐる福井地裁判決(樋口裁判長)において、まず第一に審査において一番重要である基準地震動について「全国で二十箇所にも満たない原発のうち四つの原発に五回にわたり想定した地震動を超える地震が平成十七年以後十年足らずの間に到来している。本件原発の地震想定が基本的には上記四つの原発におけるのと同様、過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づいてなされ、活断層の評価方法にも大きな違いがないにもかかわらず債務者の本件原発の地震想定だけが信頼に値するという根拠は見い出せない」と電力会社の想定した基準地震動だけでは信用できないとした。実際に四つの原発で五回にわたって地震動を超える地震が発生している事実を踏まえ、基準を超える地震が到来した場合に、「施設が破損するおそれがある」としたのである。
 第二には、新規制基準にも触れ「原子力規制委員会が設置変更許可をするためには申請に係る原子炉施設が新規制基準に適合するとの専門技術的な見地からする合理的な審査を経なければならないし、新規制基準自体も合理的なものでなければならないが、その趣旨は,当該原子炉施設の周辺住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害が万が一にも起こらないようにするために原発設備の安全性につき十分な審査を行わせることにある(最高裁判所平成四年十月二十九日第一小法廷判決,伊方最高裁判決)。そうすると、新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに、新規制基準は上記のとおり、緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。新規制基準は合理性を欠くものである」と明示している。現在、審査が行われている新規制基準自体が問題であると指摘しているのである。
 また、樋口裁判長は、大飯原発裁判においても「基準の適否ではなく、安全性が確保されているかで判断すべきである」と述べている。これまでの原発裁判をめぐって、裁判所がその判断の枠組みとしてきたのが「原発の審査指針は専門家が高度の知見を持ち寄って作ったものであり、その審査の過程に見過ごせない誤りがない限り、行政の判断は適法」(最高裁判例)というものであり、審査指針の欠点や問題点など吟味することもなく多くの裁判で門前払いとされる根拠となってきたのだ。政府は、今回の新基準を「世界一厳しい基準」となんの根拠もなく喧伝してきた。しかし、規制委員会の田中は「過酷事故が起こらないという保証はない」と繰り返し述べている。「当該原子炉施設の周辺住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害が万が一にも起こらないようにするために原発設備の安全性につき十分な審査を行わせることにある」とする最高裁判例と新規制基準はいかなる整合性があるのか。新規制基準そのものを粉砕していかなければならない。 
 福島第一原発事故後の原発訴訟をめぐる裁判所の動向として以下の記事に注目しておかなければならない。「大震災翌年の二〇一二年一月、最高裁司法研修所が開いた研究会で、全国三十五人の裁判官が原発訴訟を議論した。『事故を踏まえ従来の判断枠組みを再検討する必要がある』『被告(電力会社)が相当の資料をもって安全性の立証をする必要がある』などと意見が出され、変化のさざ波を感じさせた。ただ、政権が再び交代した後の一三年二月の研究会では、@原発の運営は高度な政治的問題だが判断のあり方によっては政策の混乱を招くおそれがある、A原発訴訟の判断に当たっては最高裁判例が示した枠組みに従うべきである、しかしながら、判決理由については「従来よりはていねいな説明」が必要であろう、B原子力規制委員会の判断を大筋尊重し、ゼロリスクを要求すべきではない、C原子力規制委員会が審査を行っている今は司法が動くべきときではない、仮処分の可能性については消極的に考えたい」(朝日新聞)
 しかし、長年にわたり全国でたたかわれてきた原発訴訟において、原告、弁護団、各領域の専門家による裁判闘争の蓄積と、あまりにも過酷で重い原発事故の現実が、原発訴訟の根幹を揺るがし始めているといえるのである。
 次に、今年三月に出された大津地裁山本裁判長による高浜原発三、四号機の運転禁止の仮処分決定についてみておきたい。ここでは、判断基準の枠組みとして次のように判示がなされた。
 「債務者において、依拠した根拠、資料等を明らかにすべきであり、その主張及び疎明が尽くされない場合には、電力会社の判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。しかも、本件は、福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力規制行政に大幅な改変が加えられた後の事案であるから,債務者は、福島第一原子力発電所事故を踏まえ,原子力規制行政がどのように変化し、その結果、本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどのように強化され、債務者がこの要請にどのように応えたかについて、主張及び疎明を尽くすべきである」。
 これまでは、多くの立証責任を原告側に負わせてきた。しかし、新規制基準の適応にあたり債務者側がその責を負うべきとしているのである。
 決定文では続けて「当裁判所は、当裁判所において原子力規制委員会での議論を再現することを求めるものではないし、原子力規制委員会に代わって判断すべきであると考えるものでもないが、新規制基準の制定過程における重要な議論や議論を踏まえた改善点、本件各原発の審査において問題となった点、その考慮結果等について、債務者が道筋や考え方を主張し、重要な事実に関する資料についてその基礎データを提供することは、必要であると考える」。
 新基準の根幹である安全性の確保をめぐって債務者側の主張や疎明が尽くされない場合には、債務者側の判断に不合理が事実上推認されるとして、高浜原発の過酷事故対策、耐震性能、津波に対する安全性能、テロ対策、避難計画のうち、テロ対策を除く四つの争点に関して、安全性は疎明されていないとして、運転の差し止めを認めたのである。
 次に、過酷事故対策をめぐって「福島第一原子力発電所事故の原因究明は、建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ばの状況であり、本件の主張及び疎明の状況に照らせば、津波を主たる原因として特定し得たとしてよいのかも不明である。その災禍の甚大さに真撃に向き合い二度と同様の事故発生を防ぐとの見地から安全確保対策を講ずるには、原因究明を徹底的に行うことが不可欠である。この点についての債務者の主張及び疎明は未だ不十分な状態にあるにもかかわらず、この点に意を払わないのであれば、そしてこのような姿勢が債務者ひいては原子力規制委員会の姿勢であるとするならば、そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚えるものといわざるを得ない」と述べている。これは、福島第一原発の事故原因の究明も終わっていないのに、それを踏まえて作成されたかのような新規制基準に対する厳しい批判である。まったく正当な評価である。
 避難計画についても、重要な判示が示されている。「本件各原発の近隣地方公共団体においては、地域防災計画を策定し、過酷事故が生じた場合の避難経路を定めたり、広域避難のあり方を検討しているところである。これらは、債務者の義務として直接に関われるべき義務ではないものの、福島第一原子力発電所事故を経験した我が国民は、事故発生時に影響の及ぶ範囲の圧倒的な広さとその避難に大きな混乱が生じたことを知悉している。安全確保対策としてその不安に応えるためにも、地方公共団体個々によるよりは、国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり、この避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれるばかりか、それ以上に、過酷事故を経た現時点においては、そのような基準を策定すべき信義則上の義務が国家には発生しているといってもよいのではないだろうか。このような状況を踏まえるならば、債務者には、万一の事故発生時の責任は誰が負うのかを明瞭にするとともに、新規制基準を満たせば十分とするだけでなく、その外延を構成する避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要があり、その点に不合理な点がないかを相当な根拠資料に基づき主張及び疎明する必要があるものと思料する。しかるに、保全の段階においては、同主張及び疎明は尽くされていない」としている。
 避難計画の問題が新規制基準の審査対象にすらなっておらず、自治体任せとなっており、過酷事故を経たうえで国にその策定義務があることを示唆したものである。避難計画も不十分なまま審査そして再稼働が許されるものではないことを運転の差し止め決定をもって差し示したのであり、今後の再稼働阻止闘争の正当性をさらに強めるであろう。
 最後に、今年四月六日の福岡高裁宮崎支部(西川裁判長)による川内原発稼働等差止仮処分申立却下決定に対する即時抗告棄却決定は極めて不当なものであった。しかし、裁判所はその事実認定において、原子力規制委員会の策定した火山ガイドの内容について「立地評価に関する火山ガイトの定めは、少なくとも地球物理学的及び地球科学的調査等によって検討対象火山の時期及び規模が相当前の時点で的確に予想できることを前提としている点において、その内容が不合理といわざるを得ない」と認定しているのである。
 これら決定をみてみるならば、全国各地で規制委員会や電力会社に対する果敢かつ鋭い批判や裁判での論戦は、確実に規制委員会、電力会社を追い詰めている。これら判決を武器にさらに再稼働阻止のたたかいを強化しよう。
 原発立地住民を先頭に全国の反原発勢力が連帯し、全原発の廃炉までたたかいぬかなくてはならない。七月末、伊方原発再稼働阻止のため現地闘争に全国から総結集しよう。


 

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