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■民衆が政府退陣を迫った韓国総選挙 去る四月十三日に韓国で第二十代国会議員総選挙が行われた。与党セヌリ党(党名の「セ(新しい)・ヌリ(世の中)」は「新社会」という訳も可)の圧勝という事前の下馬評を覆し、野党が勝利して過半数を占めた。政権与党が国会で少数派となる、いわゆる「ねじれ」状態になったのだ。韓国情勢、投票行動、選挙結果を振り返り、その階級的意味を考える。 ●一章 投票前夜――誰もが与党圧勝と予想 選挙前の情勢はどうだったか。 第一に経済だ。昨年の経済成長率は2・6%に終わった。八年前の世界不況が継続し、新興国は軒並みマイナス成長に転落し、また、最大の貿易大国である中国は経済成長の歩みが止まりだしたが、韓国はその影響をもろに受け、加工貿易国の命綱である輸出が激減している。加えて、国内経済の屋台骨であるサムスン財閥、特にその中核企業であるサムスン電子のここ数年の急激な後退が経済全体に深刻な打撃となった。また、造船業界も三大企業がすべて大規模なリストラを強行しようとするなど、交易相手国拡大のための経済外交及び民営化拡大一本槍である政府の新自由主義的経済無策も相まって、第二のIMF危機的状況直前という底なし沼に突進している。 その中で韓国ブルジョアジーも、日本と同様、労働者からの搾取・収奪の強化による収益維持をもって生き残りを図っている。他に手がないからだ。その意を受けて、朴槿恵(パク・クネ)政権は賃金ピーク制など労働法制改悪を矢継ぎ早に行ってきた。今年初めに「成果の低い者の一般解雇」と「就業規則不利益変更の緩和」を主な内容とする二大行政指針を発表した。そして、非正規職を拡大する派遣法改悪案が国会に上程された。現在違法であるが実際は雇用してきた製造業の生産現場での派遣労働者雇用を合法化しようという内容だ。 その結果、労働条件と生活は悪化し、貧富の差が拡大している。賃金労働者約一千九百万人の半分が非正規職だ。青年(十五〜二十九歳)失業率は、政府の公式統計でこの四月に10・5%に達した。平均失業率3・2%の三倍だ。これはIMF通貨危機後の二〇〇〇年の11%並みの水準だ。実際はもっと高い。所得上位10%と同下位10%の階層格差が十倍超だ。GDPに占める社会福祉費の支出はOECD平均21・6%の半分である10・4%に過ぎない。 第二に、政治・軍事外交だ。政治は、セウォル号事件の放置、歴史教科書の国定化、テロ防止法制定など、民主主義を蹂躙する反動政策が山盛り状態だった。 次に、外交では、韓国政府は昨年までの中国重視戦略を米国の圧力の下で軌道修正し、日本との関係修復にかじを切った。昨年末の欺瞞的な日本軍性奴隷制度関連12・28合意はその結実だ。現在、日韓政府間で軍事協定の締結に向けた事務レベルの協議が進んでいる。 最後に、朝鮮民主主義人民共和国(以下「共和国」と略)に対する政策だ。韓国政府はこれまでも一貫して強硬路線を貫いてきたが、共和国の第四次核実験と人工衛星発射などを契機に態度をさらに硬化させ、開城(ケソン)工業団地を一方的に閉鎖した。さらに米韓合同軍事演習を例年通り三―四月に約二か月間行い、その中で共和国指導部殺害訓練である「斬首作戦」も米韓合同で展開した。共和国及び中国発のミサイル対策である高高度ミサイル「サード」の配置問題は、朝鮮半島だけでなく北東アジア全体の軍事的緊張を高めている。 こうした総体的な危機的状況の中で、政党運動は混迷状態に陥った。進歩左派陣営は政党単一化を模索したものの失敗し、国会議員のいる正義党の他に民衆連合党・労働党・緑の党などがそれぞれ選挙運動を展開。野党の新政治民主連合は来年十二月の大統領選挙をにらんだ内部抗争が激しくなり、結局、主流派(共に民主党)と非主流派(国民の党)に分裂した。与党も選挙直前に内部の主導権争いが表面化したが、離党者を出しただけで分裂には至らなかった。世論調査では政権与党に対する支持率も安定しており、小選挙区中心の選挙制度ということもあって、事前予想の大半が「与党圧勝」だった。 ●二章 投票当日――怒れる若者世代と絶望した中高年層による反乱 ところが投票行動は事前予想と全く違った。 投票行動の特徴の第一は、若い世代が野党への投票という形で反政府決起を行ったことだ。グラフ1を見ると、四年前の前回は投票率が低かった二十代(36・2%)・三十代(43・3%)の青年層が、今回は各々49・4%、49・5%と、四十代と同じくらいの投票率になっている。投票傾向は、若いほど野党支持が多く、年取るほど与党支持が増える。生活が不安定で将来の見通しが立たない青年たちが、現政権批判の意思表示として野党に大挙投票したのだ。怒れる若者の反乱だ。 第二に、全体的に与党支持率が低下したが、中でも著しかったのは五十代だ。比例代表政党得票率における五十代の与党支持率を見ると、前回は51・5%だったが、今回は39・9%で、11・6ポイントも落ちた。逆に野党支持率は40・0%から53・7%に上がった(出所:テレビ地上波三社出口調査)。つまり、与党の支持基盤から離れた部分がそのまま野党の支持に回ったという構図だ。五十代といえば、昨年末に導入が決まった賃金ピーク制による賃金大削減の影響を全面的に受けた世代だ。 第三に、与党の牙城である慶尚道で支持基盤が崩れ、野党候補初当選地域が拡大した。この結果から言えるのは、政府による新自由主義政策の強権的貫徹の中で生活が破綻する民衆が急増し、老人の自殺率と貧困率がともに世界最高水準にまで達する中、伝統的な保守支持層の中で政権与党への批判がこれまでになく高まっているということだ。 ●三章 投票翌日――与党の惨敗 韓国の国会は一院制で解散はない。国会議員は任期が四年で定数が三百名だ。選挙制度は日本同様、地域区(小選挙区二百四十一名)と全国区(五十一名)の並立制だ。 今回の総選挙の結果は次の通りだ。 ・与党 セヌリ党百四十六名(前回の獲得議席数。以下同じ)→百二十二名(今回の獲得議席数。以下同じ) ・野党 共に民主党百三名→百二十三名 国民の党二十名→三十八名 正義党五名→六名 ・無所属十七名→十一名(うち二名は進歩派) 選挙結果が示しているのは、政権退陣要求という労働者民衆の明確な意思だ。 ●4章 支配階級の選挙総括 支配階級は選挙結果をどう見ているか。 民主労総元主席副委員長でAWC韓国委員会代表の許榮九(ホ・ヨング)がほぼ毎日執筆する保守的商業新聞社説の批判である「朝鮮日報・中央日報・東亜日報・韓国経済新聞・毎日経済新聞・文化日報社説書評」の二〇一六年四月十四日の題名は「保守資本言論の自分勝手な二十代国会議員選挙評価」(以下「評価」と略)を長いが引用しつつ、確認しよう(ちなみに、韓国の全国商業新聞は約十で、日本のそれになぞらえると、八社(朝鮮・中央・東亜など)がサンケイ・読売・日経、一社(京郷)が毎日・朝日、一社(ハンギョレ)が東京に当たる。また、社説は一日に通常二〜三つ載る) 「評価」はまず、次のように言う。 「朝鮮日報」は「朴槿恵大統領と朴派の傲慢に対する国民的審判だ」という題名の社説で「朴大統領はまず自分から変わってこそ、国政も一大刷新してこそ、その変化は今回表れた民心をありのままに受け入れるところから始めてこそ、セヌリ党も全てを変えなければ、今回とは比較できないほど厳重な審判が下されるだろう」と指摘する。 「文化日報」は「議会権力交替……朴槿恵政権に対する『選挙弾劾』だ」という題名の社説で「現政権がこの有り様に至った根本的な原因は、朴大統領の独善と傲慢、頑固」と主張する。(引用終わり) 味方の保守マスコミも惨敗した政権与党に苦言を呈している。厳しい批判だ。許榮九は「政治は人と人の間で行うことなのだから、政治家やこれらを選んだ有権者の間に共感と疎通がなければならない。政治家は、自分が権力者でなく、有権者から権力を委任された者だという事実を肝に銘じなければならない。故に、自己満足に陥ったり傲慢であったりしてはいけないのだ」と付け加える。 そして、肝心なのは「本当の民心の実体が何かという点だ」としたうえで、「点滴を打ちながらでも投票をしに行っていた(保守層の――訳注)人々が、今回はなぜ投票所に行かなかったのだろうか? 最も重要な問題は、生きることがますます困難になっているという点だ。何が何でも保守与党を選ぶというお年寄りの貧困率と自殺率も、ますます高まっている。政治とは飯であり、生きるということなのだが、自分が飢えざるをえず、死に追いやられているのに、政治に懐疑を感じるしかないだろう」と、今回の与党惨敗の原因が、政権自体の問題にとどまらず、民衆の生活破綻が根底にあり、それが高齢者をはじめとする保守層の離反にあると指摘する。「こういう事実を知っているはず」の「朝鮮日報」は「しかし、表面的な朴槿恵と朴派議員の傲慢についてだけ熱心に話す。セヌリ党が変えるべきことが何かは語らない」。根本原因に注目が集まることを意識的に避けているわけだ。 保守マスコミは富豪の安哲秀率いる「国民の党」の躍進に注目し、その与党との協力に期待をかけている。「評価」は次のように言う。 「朝鮮日報」は、「第三党旋風に込められた意味――『政治が変わらなければならない』」との題名の社説で、「国民が第三党に票を与えたことは、理念と派閥にしばられて抗争を繰り広げるばかりの二大政党中心の旧態政治を一新してほしいという風、朴大統領とセヌリ党、さらに民主が、今回の選挙で明確に現れた国民の警告を謙虚に受け入れなければ、『第三党の風』は、両党を飲み込む台風に変わるかもしれない」と指摘する。 第三党旋風というのも誇張された表現だが、「朴大統領とセヌリ党に対する国民の明白な警告」に共に民主党まで引っ張り込んだのは、意図的に国民の党を擁護しようとする立場と見える。 選挙で議会第一党になった共に民主党に国民が警告したというが、これは本当に言いすぎではないか? セヌリ党が第一党の座を奪われ、腹の中では悔悟と憎悪で死にそうだが、客観的事実まで歪曲しなければならないのなのか? 国民の峻厳な審判は、政権与党の朴槿恵とセヌリ党に下されただけだ。 国民が第三党に票を与えたことを、二大政党中心に示された旧態的な政治を清算しろと意味だと言うが、事実関係をどうしてこのようにでたらめに論述できるのか、開いた口が本当に塞がらない。 国民の党は、最初からあった第三党ではなく、選挙直前に共に民主党から分裂して飛び出した政党なのだが、セヌリと民主の旧態政治を批判するのであれば、国民の党勢力に対しても同じように述べるべきだ。 最低でも進歩左派政治勢力が院内交渉団体になるような選挙旋風が起きる以前は、こうした話をするのであれば、子どもだましと指摘するほかはない。 野党が来年の大統領選挙を巡る争いのために分裂したにすぎず、新しい政治だと言えるものはない。 ところがこの社説は、セヌリ党と共に民主党に対しても国民の警告を謙虚に受け入れろというのだが、内容はない。 その「国民」が、民営化法と労働法改悪を国会でロビー活動する財閥集団を意味するのか、あるいは失業と非正規職、長時間労働と労災、家計負債と貧困に苦しめられる国民を意味するのかも分からない。 そうしなければ第三党旋風によって両党が前に進めないかもしれないという主張をしているが、これは誇張に過ぎない。(引用終わり) 韓国ブルジョアマスコミは政権与党を露骨に応援し、野党を露骨にけなし批判する。軍部独裁以降の反動的水脈が受け継がれ、息づいているのが分かる。今回の選挙で「国民」は、与党だけでなく野党にも怒っているというのがその主張だ。与党批判をいくらかでも和らげようとしているのだ。「評価」から引用する。 「東亜日報」は、「与党の惨敗は、朴槿恵大統領は自らを刷新しろという国民の命令だ」という題名の社説で、「共に民主党は十九代国会で国会先進化法を悪用して政府与党の足を引っ張るなど『反対のための反対』で一貫、国民の目に安保不安・経済不安・信頼不安政党と映っている、第三党に躍進した国民の党の主導で『野党圏が再編されるだろう』 そうならないためには自らを換骨奪胎しなければならない」と主張する。(引用終わり) これに対して許榮九は、「与党の惨敗で朴槿恵大統領は自らを刷新しろという社説を書きながら、同時に、共に民主党を攻撃するのは一体どういうわけだ? 政権与党のセヌリ党が共に民主党に議会第一党の座を譲り渡した状況の心理状態がそのまま表れている部分だ。共に民主党が国会先進法を悪用して政府与党の足を引っ張ったと主張しているが、先進化法は、朴槿恵が野党の時に与党だった民主党の足を引っ張るために作った法ではなかったか? その時は『先進化法』だったが、その後は『足引っ張り法』になったというの納得できない」と、ブルジョアマスコミの根拠なき喧嘩両成敗論を衝く。 一方、支配階級の中で、富豪の安哲秀率いる国民の党への期待が大きく膨らんでいる。そこにしか「ねじれ」現象の中で政権運営の展望がないからだが。社説におけるそうした論理のすり替えと矛盾を許榮九は的確に批判している。保守新聞のいう「国民」が、実は「資本家」のことだという指摘も、日本に通じる点だ。「評価」の引用を続ける。 「東亜日報」は、「『国民の党旋風』安哲秀(アン・チョルス)、大統領選挙ではなく、国民を見て進め」という題名の社説で、「事案別に与野党間を行き来してキャスティングボートを行使するリーダーシップを安代表が十分に発揮してこそ、国会が生産的に動くことができるだろう、『緑色(を党のカラーとする国民の党――訳注)旋風』が続くためには、安代表は大統領選挙ではなく国民を見て進んでこそ、政界の改革を先導して政策と国会運営で国民の信頼を得てこそ、新しい政治を望む国民の希望に国民の党が応えられないならば、もう一つの既得権政党に転落」だろうと警告する。 もちろん、議席数分布で見れば、現実的にキャスティングボートの役割を果たせるようになった。しかし、「与野党間を行き来するリーダーシップ」とは何か? 資本主義社会において国会で扱われる立法は、事実上、尖鋭な階級的対立が表出する場所であり、保守政治勢力によって水増しされる所でもある。だから、与野党間を行き来するリーダーシップというのは、今のままどっちつかずの役割でもしていろとの意味だ。確かにそうなる可能性が高い。(引用終わり) 許榮九に言わせると、「与野党とはいえ、新自由主義者と自由主義者で溢れた国会で階級的対立まで期待するのは難しいのが現実だ」。国民の党の役割が大きくなる可能性がある根拠はそこにある、というのだ。 許榮九の激烈な野党批判に「度が過ぎる」と批判する人は進歩陣営に少なくない。日本側においてもそうではないだろうかと思われる。ただ、共に民主党と国民の党の外交政策及び対共和国政策は以前と比べて大きく右傾化し、セヌリ党との根本的違いを見出すのが困難であるほどにまで変わったという指摘もある(例えばピョントンサの総選挙分析)。政治において与野党の対立点は多くあるのが事実だ。だが、経済・外交・軍事ではどうか。資本主義社会を前提とし、新自由主義政策と米帝との軍事同盟堅持を基本とする点は与野党間に差異はない。このことは日本の自民党と民進党との関係によく似ている。 許榮九は次のようにいう。「また、国民の党の安哲秀代表に、大統領選挙でなく国民だけを見て進めと言うが、来年度の大統領選挙を巡る争いの過程で分党した人間にそのような話をしたところで、効果がない。そして、この社説が言う『国民』が誰なのかは推測がつく。労働法を改悪し、民営化法を通過させろという『東亜日報』の主張の通りなら、『資本家国民』でしかない」「セヌリ党、共に民主党、国民の党の各党に一千億ウォン(約百億円)以上の株式を保有する者がいて、そのうちの一人が安哲秀であるから、今日の株主資本主義をつぶそうとするだろうか? 繁盛するように努力するはずだ」 ブルジョア・イデオローグは、総選挙後に新自由主義政策が中断しないことを心の底から訴えている。「評価」を引用する。 韓国経済新聞」は、「〔前の〕十九代国会は経済活性化という先延ばしされた宿題を解決して行け」という題名の社説の要約で、「サービス産業発展法などは原案のとおり急いで処理を、完全に骨抜きにされた労働改革法はやむをえず新しい案を作るべき、国民の経済生活を改善させるのが政治の競い合いの要」と主張する。サイトには、内容は全く一緒なのに「与野党はぜひ経済再生で競争してほしい」という題名の社説で載っている。(引用終わり) これについて許榮九はあきれながら、次のように批判する。 「選挙に現れた国民の熱望とは全く関係がない自己主張だけ行っている。二十代国会議員4・13総選挙を行って国会権力構造が変わり、これからは民意を反映して二十代国会で改めて新しい法案が議論されなければならない。十九代国会に係留中の法案は与野党が100%同意しない限り全部廃棄されるしかない。それなのに、先延ばしされた宿題をしてから行けと言う。残ってしまった宿題は短時間には一遍にすることもできないし、してもならない。利害関係が尖鋭な法律を、何か突貫工事でもしろというように促すのでは話にならない。それでは一種の『食い逃げ』だ。ところが、労働法改悪は内容をさらに『充実」』せて二十代国会で改悪しろという。国民の経済生活を改善させることが政治としながら、労働者を無視している。 だから以前、全農と民衆連帯の代表を故チョン・グァンフン議長は、労働者と農民は『二等国民』か? と叫んだ。ソン・ギョンドン詩人は最近、労働者民衆の人生を紹介した『私は韓国人でない』という詩集を出した。貧富格差の拡大、労働所得分配率の悪化を見れば、これまでの経済成長が国民の経済生活を改善させはしたが、本質的には少数の財閥と有産者の生活を改善させたのだ。結局、単に政治や国民を語るのではなく、資本主義社会の階級構造を語るべきだ」 選挙後にマスコミが争点に浮上させた国会議員特権問題についても許榮九は苦言を呈する。「今、国会議員特権問題が争点ではないだろう。論争の本質を曇ってとんでもないところに追い込んではいけない。」 朴槿恵政権の反動政策の継続は保守派にとって絶対命題のようだ。「評価」を引用する。 「毎日経済新聞」、「過半議席確保に失敗したセヌリ党、民心の叱責を悟らなければ」。「二十代国会は、妥協と譲歩、意思疎通を重視する生産的な国会でなければならない。朴槿恵大統領は、総選挙直前に『国家経済は止まれば再び回すのに時間が多くかかり、変化の早いこの時代は、一度遅れをとれば再びとり戻すこともできない』と心配したが、言った通りだ。二十代国会では与野党全てが政権継承政党の面目を見せるべきだ。国民との約束を重視するが、ばらまき公約に足をとられてもならない。来年には大統領選挙も予定されているので、ともすると二十代国会がポピュリズム政策の震央になり得る。均衡と節制が支持される生産的な二十代国会を期待してみる」 「文化日報」は「さらに民主・国民の党、責任政治で「多数派野党は民意」を尊重すべき」という題名の社説で「最初に、民生を生かす政治に先に立たなければならない。民生法案について合理的代案によって与党とも超党派的に協力しなければならない。二番目、安保不安を払拭させなければならない。今まで野党は安保・外交・統一問題を無視したり、冷厳な国際秩序と暴圧的金正恩体制を『感傷的民族主義』で見つめたりする傾向が強かった。三番目、運動圏政治、悪口政治と完全に絶縁しなければならない。まだ運動圏出身が相当数で、盧派もまた減らなかった」と主張する。(引用終わり) 共に民主党には運動出身者が多く、ブルジョアマスコミはそれも批判する。だが、許榮九に言わせると、「いわゆる「386世代」を運動圏と言うが、それは彼らが三十代の時の話で、今は五十代半ばになっている。彼らは、金大中、廬武鉉両政権時に、誰よりも忠実に財閥と大企業資本家に有利な新自由主義的金融・企業・労働政策を繰り広げてきた」と、その政治的変質を強く批判し、「労働運動陣営は当時、金大中、廬武鉉政権退陣闘争を行った」と結んでいる。確かに、両政権時の労働運動は、軍事独裁政権時を知る活動家から見ても負けず劣らず過酷だったという。 ●五章 選挙結果をどう見るか 選挙結果の特徴の第一は、与党が惨敗して国会内での少数派に転落したことだ。選挙前は国会議員の欠員が八名おり、国会議員総数が二百九十二名だったので、セヌリ党は全議席のちょうど50%を確保していた。それが二十四名も減ってしまったのだ。セヌリ党と保守系無所属議員を足しても百三十一名に過ぎない。他方、野党は百六十九名だ。与野党逆転による「ねじれ」状態が一七年十二月の大統領選、一八年二月の次期大統領就任まで続く。野党は対決姿勢をさらに強めて安易な妥協は避けるはずだ。結果、朴槿恵政権にとって反動諸法案の成立が選挙前に比べ、極めて難しくなった。 第二に、共に民主党が第一党になり、現在の選挙制度が定められて行われた一九八八年の第十三代総選挙以来初めて、保守・守旧派の与党が第二党へ落ちたことだ。 金大中(キムデジュン)・廬武鉉(ノムヒョン)政権時も、その当時は野党だった保守・守旧派のハンナラ党が第一党だった。それゆえ、廬武鉉大統領に対する国会弾劾決議なども可決したのだ。例え負けても第一党であり続けた保守・旧守派がそこから転落するほど朴槿恵政権と与党への怒りと批判が高まっていたことの証左だ。セヌリ党は分裂含みで内部抗争が激烈に進行中だ。 第三に、進歩派が数としては後退しながらも議席をそれなりに確保したことだ。選挙前には協力関係構築のためのさまざまな努力がなされた。結果として、議席数では、前回は統合進歩党の十三名だったが、今回は正義党六名と旧統合進歩党系の無所属二名の計八名が当選した。得票率では、前回が、統合進歩党10・3%、進歩新党1・13%、緑の党0・48%、青年党0・34%で、合計12・25%だったが、今回は、正義党7・23%、緑の党0・76%、民衆連合党0・61%、労働党0・38%、福祉国家党0・08%で、合計9・03%だった。しかし、統合進歩党は前回選挙後に朴槿恵政権の弾圧で国家保安法により所属議員が逮捕され、政党解散にまで追い込まれた。進歩陣営にとっては逆風が吹き荒れている情勢だった。その中で八名の当選と計10%弱の政党得票率は、進歩陣営の支持基盤が縮小したとはいえ、労働者民衆の中にしっかりと存在していることを物語っている(注一)。 ●六章 最後に 上述の通り来年十二月には韓国大統領選挙があり、政党運動はそれを目指して既に走り出している。単一の進歩政党建設か(注二)、階級政党建設かなど様々な見解と実践がある中で、進歩陣営はどうしていくのかがますます問われるだろう。 われわれ日本の労働者人民は、進歩(左派)陣営の重要な一環である政党運動(注三)のさらなる前進、そして進歩(左派)陣営全体の前進を願いつつ、そのたたかいにさらに注目し、学んで、韓国労働者民衆との連帯運動をより広く深く推し進めていこう。 (注一)許榮九(ホ・ヨング)AWC韓国委員会代表は、AWC第四回総会に提出した各国報告の中で、進歩政党運動について次のように記述している。 「二〇〇〇年に民主労総が中心となって労働者進歩政党として創党した民主労働党は、統合進歩党、進歩新党、労働党、正義党などに分かれた。統合進歩党は、憲法裁判所によって『民主的基本秩序に反した』という理由で解散された。院外の進歩政党としては、社会党と進歩新党が合併した労働党、緑色党、そして今年一月末に創党した社会変革労働者党(略称:変革党)がある。解散した統合進歩党勢力は無所属で出馬を準備している。 二月十八日、民主労総、全農など民衆団体と、正義党、労働党などが参加して、来る四・一三国会議員総選挙において、反労働・反民生・反民主勢力を審判する『二〇一六総選挙共闘本部』を結成した。共闘本部の目標は、労働者と進歩運動の政治的進出を拡大すること、総選挙以降、労働者―民衆政治を復元する事業を積極的に行うこと、民衆総決起の成果を継承した民衆連帯闘争を強化することなどだ。民主労総は、労働者候補を支持する選挙方針を有している」 (注二)平和統一団体の「平和と統一を開く人々」は、単一進歩政党建設と進歩政党及び既成野党による連合政権の必要性を強調しつつ、大統領選挙に対する進歩陣営の役割を次のように述べている。 「進歩陣営の全ての政治力量を結集させて速やかに単一進歩政党を建設し、共に民主党や国民の党との間に差別性があり優位を確保できる、民衆・民族の利害を反映した政策を発掘、提示して、大衆の中へ入って行くのであれば、10%の支持率を大統領選挙における支持率へしっかりと守り切ることができるはずだ。これを土台に、野党単一候補推戴のための予備選に介入して野党陣営分裂による政権交代失敗の可能性を阻止し、これに基づいて行う野党連立政権を樹立して進歩の価値を実現すべきだ。この全ての過程で、単一進歩政党と進歩陣営がキャスティング・ボードを握り、一定の役割を果たし切らなければならないだろう」(『平和の世 統一の世』第一五四号、二〇一六年四月) (注三)進歩左派政党がどういう政策を掲げたのか、その一端を知るための資料として、許榮九氏の総選挙期間中の遊説内容「労働党はこうします」を以下引用する。(出所:左派労働者会ホームページ掲示版) 「労働党は、二〇一三年からアルバイト労組を建設し、最低賃金時給一万ウォンを主張してきたアルバイト労働者と青年たちが今回の選挙に候補で出馬しています。最低賃金引上げ要求は韓国だけの現象ではありません。地球全体の動きです。時給一万ウォンは過度な要求ではありません。OECD加盟国の平均水準です。不況の時代、青年失業の時代にアルバイト労働は一時的な働き口ではなく、相当数が職業的な働き口になっています。ですが、現在の六千三十ウォンでは生きていけません。時給一万ウォンにならないと最小限の生活ができません。アルバイト労働者にも最低限の尊厳と人権が保障されるべきです。労働党は、第二十代国会の立法案として最低賃金一万ウォン法を提出します。 韓国は世界で最も長時間労働をする国です。夜勤や特別勤務など、長時間労働に苦しめられ、労働者の健康と余暇はありません。そして、労災死亡率世界一位という汚名とともに、労働災害が頻発しています。労働時間を減らして適正に働くべきです。他方で、仕事を見つけられなかった人々は、短時間労働者として、失業者として苦しんでいます。労働時間を短縮して仕事を分かち合うべきです。世界的な不況の時代に、追加投資と生産による仕事の創出を掲げる公約は実現するのが困難です。みんながともに働きながらも、少なく働く労働社会を作るべきです。労働党が、週三十五時間労働時間上限制を法として作ります。 新自由主義的資本主義時代は不平等の時代です。所得の不平等で貧富の格差が拡がっています。リストラが続いて労働者は路上に追いやられ、ほとんどの仕事が不安定な短期間非正規職労働です。三百万人を超える大卒失業者の時代です。青年たちは貸与された大学の授業料を返せず、社会人になるとともに信用不良者になる現状です。アルバイト労働だけでは元金どころか利子を返すのも困難です。生計を立てられません。お年寄りの貧困と同様に若者の貧困も深刻です。千二百兆ウォン超の家計の負債は爆発直前です。労働党は全国民に月三十万ウォン(約三万円)の基本所得を支給することを主張します。法人税実効税率の引き上げ、金融資本保有税の新設、株式と派生金融商品に対する総合課税、利子配当税等を通して財源を確保する内容で基本所得を法制化します。 〈労働党の具体的な細部公約〉 正規職の仕事二百三十五万創出(週三十五時間制)、仕事をした分もらえる賃金(最低賃金一万ウォンなど)、仕事・介護・生活の均衡(休暇拡大)、全国民に月三十万ウォンの基本所得、家計負債の削減(利率最高上限15%など)、基本福祉の拡充(医療公共性など)、租税財政改革(財閥への増税など)、全面比例代表制など平等選挙の実現(決戦投票制)、実質的参政権保障(満十八歳)、情報機関による選挙介入の遮断と政治表現の自由拡大、国庫補助金制度改革と全面的選挙公営制、二〇四〇年までに原子力発電所を完全閉鎖、新再生エネルギーへの転換と温室ガス削減、動物権の尊重、朝鮮半島の非核化と平和協定締結、東アジア平和の主導、社会服務制の導入と軍の人権改善、医療サービスの質向上と公共性の強化、教育の公共性の強化、民営化及び規制緩和の中断、金融の公共性の強化、作業場及び食べ物の安全強化、青年に月百万ウォン(約十万円)の保障所得を(授業料無償化など)、青年の仕事問題の根本解決、学生の人権向上と教育の不平等解消、教育の自律性拡大、性平等社会のための制度の変革、女性と男性の平等な介護参加、女性の体の健康な自律性、女性への暴行の根絶、多様な性アイデンティティの認定、性少数者の福祉強化、障害者の労働権と移動権の保障、障害者自立支援、地域の文化社会拠点化、独立創作者が主導する文化芸術、実質的地方自治の土台作り、直接民主主義、財閥大企業のタコ足拡張規制、中小商工人の制度的地位の強化、生態的小農保護育成、農業経済政策(食糧自給率50%、農地維持など)」。 |
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