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   女性の反戦闘争で安倍政権打倒へ

   


 第二次安倍政権は、数を頼みに集団的自衛権行使容認閣議決定をはじめとして国会運営を勝手無法に行ってきた。沖縄の基地被害の歴史を一顧だにせず、沖縄の民意に敵対し、知事を告訴する前代未聞の暴挙を行った。核武装のために、福島の被害状況を放置したまま原発再稼働を急ぎ、また、原発の輸出を進めた。これらはみな、日本帝国主義の再武装そのものである。歴代自民党政権がなしえなかった「戦争できる国」へ一挙に強行突破してきた。
 国民への周知や説明、論争などをまともにせず、切り捨てと詭弁で強行してきた。そして、いまや「改憲の時期が来た」と公言するに至っているのである。安倍政権は、戦争遂行政権であり労働者階級の最悪の敵だ。そして、女性にとっても最悪な敵である。安倍の女性に対する攻撃を打ち返し、多くの女性と共に安倍打倒をたたかおう。

  ●1章 安倍の戦争攻撃と女性の立ち上がり

 昨二〇一五年の安倍首相の安保法制強行に対する国会前、全国でのたたかいは量質ともに、画期的な前進をした。一年以上の長期にわたり、何度もの集会やさまざまな取り組みがあきらめることなく行われた。秋の国会前では連日、長時間の座り込み、道路占拠、過剰警備に対する不服従行動など実力闘争が続けられた。
 人々は、この安保闘争の核として沖縄辺野古問題にも関心を深め、辺野古工事阻止国会包囲闘争は回を重ねるごとに参加者を増やした。
 この一連の大きなたたかい、街頭行動の参加者の半分は女性であった。女性が半分いるのは、当たりまえのようだが、実は画期的なことだ。女性だけに呼びかけをしたデモも全国各地で行われた。恒常的に政治サークルや党派グループ、労働組合などに参加していない女性たちが連れ立って、あるいは一人で、たくさん参加した。これまでの「女性問題」ではない政治的な集まりでは、圧倒的に男性が多いのが事実だ。
 安保法制反対闘争はたくさんの女性の政治的立ち上がりを生みだした。女性たちは「子供たち、孫たちを戦場に送るな」「殺すな、殺されるな」と叫んだ。層として多かったのは七〇年安保世代、全共闘世代の女性たちだったが、若い女性も少なくはなかった。学生や「ママ」たちもたくさん立ち上がった。何度も行われた世論調査でも、安保法制反対は女性が62%、男性50%だ。賛成は女性13%、男性25%だ。街頭に来れない女性を含めてのこの差!
 女性たちは、座り込むための支度を整え、それぞれ創意あるアピールを競っていた。初対面の女性と声を合わせ、怒りを共にした。国会前は女性にとって、解放的な居心地の良い空間だった。
 安倍の参戦政策に対する女性たちの危機感は大きい。安保法制反対で全国で街頭に出た女性たちは、そのスローガンにいうように、戦争がリアルに「殺し殺される」ことであることを主張している。「相互安全保障」「自衛権」「対テロ」「東アジアの安全」「中国の軍備増強」「北朝鮮の脅威」「国際社会への貢献」等々の戦争キャンペーンに与せず、同じ土俵での思考はしない。「戦争は殺し殺される、戦争だけはダメ」という絶対的真実だけが普遍性をもっていると主張した。 
 安倍や排外主義者は言う。「日本が攻められる」「占領されたらどうなるか」「美しい国を守れ」。安倍や歴史修正主義者たちは、稚拙というべき排外主義イデオロギーでしか外交=戦争を語れない。世界は善と悪で構成されているというのだ! 女性たちは、こんな幼稚な世界観に懐疑的だ。
 たとえ占領支配下に置かれたり、不利益を被ったり、酷い局面があったとしても「殺し殺される」より、まだ耐えて生きていける。そもそも、色々な人がいて、同じ感覚で生きているはずだ。連帯できるはずだ。
 こうした感覚こそ、「革命的祖国敗北主義」(レーニン)の基礎ではないだろうか? 敵国の労働者階級、敵国の女性に連帯し、連帯を求めることが排外主義と決別する唯一の正しい道ではないか。
 帝国主義者、差別者は言う。「女は、子供や孫のことしか考えない」「身の回りの怠惰な平和を求めるのはダメ」「国家と経済発展がわかっていない」。こうした差別嘲笑は、価値観の百八十度の違いであって、そっくりお返しすべきものだ。われわれは身の回りの生命の発展を望むし、困難は共同で解決してゆく。世界はこうした生活者の営為で出来ているし、共通している。現代にあってはこの世界の生活者は労働者階級として存在している。われわれは、見知らぬ他国の労働者階級でも、その生活と考えを容易に想像できるのだ。グローバル社会の進展は、全ての国で規制緩和という名の弱肉強食社会を礼賛し、保護と福祉は自己責任化、労働者階級を低賃金で競わせ、貧困を競わせている。資本主義はもう、絶望しか描かない。その挙句に、他国の労働者階級と殺し合わせようというのだ。
 「国家・経済」は資本家の利益のためのものだ。われわれに関係ないどころか、生活を脅かすものでしかない。この「国家・経済」こそが、その利益の衝突こそが戦争の根源であることがますますはっきりしてきた。戦争を拒否し、「国家・経済」を拒否し、違う社会を創ることが望まれているのだ。
 連日の安保法制反対闘争は、若者がまとまって登場したことが注目された。国会正門前車道を埋め尽くす大量の人々が集まった。男性ももちろん半分を占めたが、女性の多さをしっかりと確認しよう。
 この昨年のたたかいの地平、女性たちの決起を受け止め、力として反戦闘争のさらなる高揚を実現しなければならない。
 集団的自衛権の閣議決定、安保法制強行そして非常事態条項、改憲手続きと政治過程は変わるが、この「殺すな、殺されるな! 戦争反対」という女性たちのたたかいを貫き、さらに大きくすることが必要だ。自衛隊の派遣、隊員の犠牲という局面にも揺らぐことなく対応できる反戦運動を女性の力で前進させよう。

  ●2章 日本軍隊「慰安婦」制度 日韓合意を許さない

 安倍は昨年末ギリギリの十二月二十八日、韓国朴政権とのあいだで日本軍隊性奴隷制度問題の「政府間合意」を発表した。内容は、日本政府が十億円を韓国の財団に渡し、財団が首相の「お詫び」を伝えて被害者に渡すというものである。またソウルの日本大使館前の少女像について、今後の課題として確認した。そして、これをもって「最終的不可逆的な決着」で合意したという。「韓国側が、再び政治問題化しない」という合意だ。
 発表の翌日、韓国の外交部次官がナヌムの家に説明に赴いたが、被害女性たちは「私たちに相談もせず、勝手に合意するな」と抗議し、次官の説明を拒否した。
 この被害当事者を無視した「決着」について、直ちに米政府は「歓迎」のコメントを出した。総じて、この突然ともいえる「決着合意」は米帝の強い関与で準備されたものといえる。対中国・対朝鮮民主主義人民共和国の日米・韓米安保同盟の連携にとって、問題の決着が必要とされたのだろう。
 韓国朴政権は、これまで本気で被害者の声を支援し、代弁してきたわけではないが、この「合意」内容は国内世論の批判をあびるだろう。被害者の要求をないがしろにした金銭決着だからだ。被害当事者抜きに「最終的不可逆的な決着」はありえない。少女像について言及していることも、大きな問題を抱えたことになる。韓国の国会では、「国会審議していないから合意は無効」との論戦がなされ、ネットなどで「朴は十億で国を売った」と批判が強まっているようだ。
 問題は安倍だ。安倍は、一貫して歴史修正主義の代表として被害者に敵対してきた。
 女性たちの要求は、「歴史の事実として認めること」「公式な謝罪」「国家による賠償」「責任者処罰」「教科書への記載」であった。
 この要求にことごとく反発して実際に行動してきたのが安倍だ。「家に踏み込んで拉致したわけではない」「狭義の強制性はない」「詐欺師の吉田証言を元に村山・河野談話が出た」「村山・河野談話が日本を貶めた」等々、第一次安倍政権その他で繰り返してきた。放送前夜にNHKに乗り込み、女性国際戦犯法廷の番組を改変させたのも安倍であった。中学教科書の記載を攻撃し、無くしてきたのも安倍たちだ
 安倍は、「強制的連行ではない」ことに異様にこだわっている。首相になる前には「人さらいのように連れて行ったのなら、日韓条約の時に言ってくるはず」「(これまで韓国側が言わなかったのは)韓国にはキーセンハウスがある。……ですからとんでもない行為でなく、生活に溶け込んでいる」など、「売春婦の商行為」とする発言もある。強制でなく、自ら参加したから国家責任はないとする。そもそもが、吉田証言と『朝日新聞』のねつ造と、かたくなに思い込んでいるのだ。
 このような発言を繰り返してきた安倍が、今回の「合意」について「基本的に河野談話を継承する」と言ったところで、誰も信用しない。しかも、「私たちの子や孫に謝罪させ続ける宿命を負わすわけにはいかない」と胸を張った。つまり、歴史の事実を刻むことを「謝罪の宿命」として攻撃し、これを清算し、抹殺したつもりなのだ。これが安倍の合意の内容だ。
 日韓政府間合意は、全く認められない。
 @被害女性当事者を全く無視し、意見も聞かずに結果を押し付けるものだ。日韓合意は韓国のオモニたちだけでなくアジア各国の被害女性も無視、切り捨てることになる。被害女性が多く存在する韓国との合意は「慰安婦問題は決着済み」という無力感をアジア女性たちに与える。フィリピンや台湾の支援グループは、ただちに声明を出したが、日本政府は無視するつもりだ。
 A合意の内容は、金だけだ。それも補償でなく「生活支援」というお助け金としてである。首相の「お詫び」を「伝える」ことになっているが、これも韓国の財団がおこなう。形式も内容もわからない。安倍首相は公式に世界に向かって「謝罪」表明することはしない。韓国の財団に丸投げする。一片の誠意もない。
 中身は、お助け金だけだ。
 「国民基金」の時を思い出す。あの時も被害者抜きで、日本国民が拠金することで勝手な「謝罪と清算決着」が図られた。だが「国民基金」は破産した。今回も同じだ、被害女性の要求は金でなく、「公式の謝罪」と「歴史への銘記」なのだ。
 B十億円で「最終的不可逆的決着」を合意したことを盾に、被害者や支援団体の活動を抑圧しようとするものだ。さらには韓国政府に対して「被害者をだまらせろ」と要請することも充分ありえる。大使館前の少女像の撤去を「課題」として合意に挙げていることは大きい。
 安倍も一月の国会で「国同士の約束」「蒸し返さないという事です」などと答弁。「蒸し返す」行動をゆるさないと明言している。合意の最大の狙いはこれであり、被害者の声を潰すことだ。 
 安倍の被害女性への最大の攻撃として、合意がある。
 Cそして、安倍政権の集団的自衛権行使容認閣議決定と安保法制の強行成立が被害女性たちの「再び日本軍が参戦しないように」という願い、要求をふみにじるものであることだ。戦後四十五年間、女性差別社会の中で、ひっそりと生き延びてきた女性たちが告発決起したのは自衛隊のPKO海外派兵であったことを忘れてはならない。彼女たちは、自衛隊の参戦を阻止するために、名前と顔を晒したのだ。そのために、思い出したくもない辛い証言を繰り返したのだ。日本軍隊を糾弾するたたかいに立ったのである。
 国連軍や多国籍軍、そして米軍が駐留する地域で軍による性犯罪、児童に対する性犯罪がいまだ発生している。彼女たちの告発によって、世界の女性たちも声をあげ、国際社会はこうした駐留軍隊の性犯罪に対して監視をつよめ調査することをはじめたのだ。
 安倍政権は、先の安保法制で参戦の道を開いた。自衛隊が米軍と共に戦闘に参加する、戦地に赴くのだ。駐留軍隊自衛隊の性犯罪を監視阻止するためにも、合意決着を認めず、被害女性たちのたたかいに連帯を強めなくてはならない。

  ●3章 「女性が輝く社会」は女性を酷使する社会

 今年に入って安倍は、「ニッポン一億総活躍社会」のために、「同一労働同一賃金」を法制化すると言っている。しかし、「同じ労働でも、人事異動や転勤規定などが同じでなければダメ」(人材活用規定)、さらに「熟練度が同じでなければダメ」などの概念を導入するだろうと言われている。つまり、全く実効性がないのに「同一労働同一賃金」という見せかけの言葉をばらまいているだけなのだ。女性が多いパートや派遣労働者は、この法ができても、差別待遇のままだ。
 安倍は就任直後「アベノミクス」と称した「成長戦略」経済政策を打ち出した。そしてその要になるのが「女性の活用」だと言う。労働力人口が減少し続けていることを踏まえて「日本経済を押し上げるため」に「我が国最大の潜在的力である女性の力を最大限発揮していただく」となんとも正直に女性労働力の活用を位置づけた。すでにこの時点で「活用とは、女性をなんだと思っているのか」と反感を買ったのだが、安倍は例のごとく薄っぺらな麗句を弄し、「女性が輝く社会」の実現として、いくつかの政策を打ち出してきた。
 「待機児童の解消」「職場復帰・再就職の支援」「女性役員の登用」が柱で、その他にも子育て・介護の相談窓口だの、起業のノウハウ提供だの、再就職研修だのを細かく挙げている。そのために女性活力担当大臣を新設した。そして昨年秋「女性活躍推進法」(十年の時限立法)を成立させた。
 法の内容は、三百人以上の企業に@女性採用の割合や、役員の割合などの分析と課題の設定 A行動計画・目標設定 Bこれらの公表の提出を義務づけるというもの。そして、優秀な企業には「女性が活躍しています」とロゴが入った認証マークが出される。ただそれだけのもので、罰則があるわけでも何でもない。多くの企業が今年の四月までに書式通りの作文を提出することだろうが、実効性はまったくない。
 すでに女性を採用し、比率が高い企業もあるが、それは経営上それなりの理由があるからだ。そうした企業以外が、この法を踏まえて女性役員などの比率を増やすか、また、それが可能か? 働く女性への社会的支援がない現状ではまったく不可能である。
 そもそも、女性の労働力を「経済成長」のために「わが国最大の潜在力」としている出発点がデタラメだ。女性はすでに十分働いている。日本の女性の就業率は72%で、主要先進国のうちで低いほうでは決してない。アメリカや韓国よりも高い。女性たちは、働かざるを得ないからまったく不当な労働条件で働いている。
 安倍は年明けの国会で、例えとして「私の給料が五十万、妻がそろそろ景気がよくなってきたから働こうかしらとなって、パートで月二十五万円」という話をし、女性たちの怒りを買った。パートで二十五万というのも驚きだが、「景気が……」というのもあきれる。
 こんな大勘違いから出てくる「女性が輝く社会」、女性の活用とは、もっと隙間なく働けということでしかない。非正規労働で介護・保育・家事と両立させながら働けということだ。そのためのさまざまな食事・家事・育児サービスを民間企業が売っているから、適宜利用しながら働きなさいということだ。
 女性の活躍や「輝き」と言いながら、夫婦別姓には「家族制度を壊す共産主義のドグマ」(二〇一〇年発言)との時代錯誤な発言をしたのが安倍だ。「女性活躍」を売り物にした高市早苗ほか安倍内閣の女性大臣全員が「別姓」反対論者だ。彼ら彼女らは昨年の最高裁夫婦同姓民法「合憲」判決に強い影響を与えただろう。
 安倍は出産増加・家族制度の護持という女性像も忘れない。就任当初には少子化対策緊急タスクフォースとやらで女性の出産時期を中心にしたライフワークを管理する「女性手帳」の配布を決定するも、「生む時期まで指図するな」「産めよ増やせよではないか?」と、多くの女性に批判され断念した。さらに、育児休業について「三年抱っこし放題」などと言って、子を抱えて働く女性の神経を逆なでした。安倍は子が小さいうちの育児は母親がすべきと思っている。そもそも、三年の育児休業(無給)は全く現実的ではない。経済的にも職場環境的にも三年休んでの復帰は、ほとんど無理な話だ。
 女性が、無知で無計画だから子が生まれないのではない。「産めない社会」だから、少子化が止まらないのだ。女性のせいではない。
 しかし、昨十月、内閣改造時の記者会見で安倍は、二〇二〇年までに合計特殊出生率を一・八にする数値目標を掲げた。これまで、避けていた数値目標を政府として出した。具体的な政策はまだ不明だが、いずれにせよ女性に「出産」の圧力をかけるものだ。
 このように安倍の女性政策は、そもそも女性の現実をきちんと見ていないところから支離滅裂だ。「女性登用」は女性受けを狙ったものにしか過ぎない。だから、矛盾だらけでつじつまもあわない。発言すればするたび的外れになる。あげくに「女性が暮らしやすい社会」のために「日本トイレ大賞」を公募するなど見当はずれなこともはなはだしい。
 「女性が輝く社会」とは思い付きだけもので、女性の環境を改善する中身は全くない。美辞麗句の陰で、女性を取り巻く労働環境や生活環境をますます悪化させる安倍政権を許すな。

  ●4章 「新三本の矢」と女性の現状

 安倍は昨九月「アベノミクス第二ステージ新三本の矢」を発表した。「強い経済―生産性革命」「子育て支援―出生率一・八へ」「社会保障の充実―介護離職ゼロ」の三つだ。あいかわらず聞こえのよい言葉を並べているが、透けて見えるのは少子高齢化社会の矛盾を、国民の総動員によって乗り切りたいという夢想と願望にすぎない。経済は回復せず、少子化(労働力不足)と介護問題は大きくなるばかりだ。この大きな社会問題に言及し手当ての姿勢を見せたわけだが、すこぶる評判が悪い。「そもそも旧三本の矢が終わってない、アベノミクスは失敗」「三本がバラバラで連関性がない」「そもそも矢でなく的=目的だけで政策が無い」「実現できない」などの批判だ。安倍は、さらに「一億総活躍社会」という時代錯誤のスローガンで、この「新三本の矢」に景気づけをした。
 選挙対策のアドバルーンでもあるが、いずれにせよ、安倍が考えていることはわかる。労働者階級をもっと働かせる、特に女性と高齢者を極限まで労働市場に引き出したいということだ。一本目の「生産性革命」はもっと効率よく搾取することであり、三本目の「介護離職ゼロ」は中高年労働者の介護離職を許さず七十歳過ぎまでも働けということだ。
 二本目の「子育て支援」は少子化対策だが、石破地方創生大臣などは、少子化に危機感を持ち、移民政策推進をことあるごとに主張し「日本人と同一賃金」と具体的なことまで言っている。同じ閣内からのこうしたプレッシャーを受けつつ、安倍は「移民受け入れよりも女性と高齢者の活用」とあくまで国粋主義を守るために、女性と高齢者で何とかしたいと考えているのだ。そして、一方で、日本女性が「輝く」ためにアジア女性の家事労働を解禁することを決めた。安倍は、よって立つ国粋主義右翼とのはざまで、グラグラしている。展望の見えない国内政策を空疎な言葉で飾っているだけだ。新三本の矢は、資本家優先政策を根本から改めない限り、最初から失敗であり、実現などできない。それどころか、労働者階級の現状を悪化させ、貧困と悲惨を広げる。
 安倍がターゲットにしている女性の状況を確認しながら、新三本の矢の反人民性を見てゆこう。
 女性労働の現状はいくつかの指標を並べただけで、容易に理解とイメージができる。「女性の貧困」という言葉が、指摘されるようになって久しい。
 女性の就業率72%で過去最高。十五歳以上の女性労働者の57%が非正規、男性は22%、男女合わせると38%、全体の三人に一人が非正規労働者だ。年収は女性正規で三百四十九万円、非正規が百四十三万円。正規非正規問わず、男女間の賃金格差は七割。女性のM型就労は、M字の谷が浅くなっては来ているが、五十年来変わらない(数字は厚生労働省の資料による)。
 非正規雇用労働者の実態と格差の拡大は、指摘を受けるまでもなく、大きな社会問題となっている。最底辺の層が女性で、到底自立できないし、将来の展望が見えない。様々な問題が起きている。母子家庭の貧困、子供の貧困につながっているし、また、経済的理由での不本意な男女関係や家族関係でおこる諸問題などである。
 この格差は、何よりも結婚や出産をためらう、あきらめる若者の層を生み出している。少子化はこの格差を解消しない限り止まらない。
 にもかかわらず、安倍政権は派遣法改悪後、さらにホワイトカラーエグゼンプションの導入を狙っている。そのためのお題目が「生産性革命」なのだ。その内容は「企業の稼ぐ力」などもあるが、肝は「個人の潜在的能力の徹底的な磨き上げ」である。
 これは、ワークライフバランス=働き方改革という体の良い掛け声の、全労働者非正規化攻撃のことだ。「仕事と暮らしのバランスで、もっと生き生きと働き暮らす」「時間・場所などその人にあった多様な働きかた」など、あたかも労働者の側の主張のように見えるが、実は企業にとっての生産性向上のための労働者管理、分断細分雇用の道に他ならない。すでに大企業は熱心に研究し、試みているところも多い。ユニクロの「限定正社員」なども、この路線だ。
 企業は言う。「日本人・男性・大卒・正社員」という、これまでの雇用は排すべき。ネットの活用で何処でも仕事が可能になり、会議は短縮、フレックスタイム、在宅、アウトソーシングなど何でもありだ。でも、これは労働者が決めるのではなく、企業が都合のよい雇用を選ぶということだ。「決まった一律の勤務時間に会社にいれば、働いている」という雇用ではない。企業はその労働者が、一番コンデションよく働ける、最も能力を発揮できる時間と場所だけ雇いたいのだ。
 これが「個人の潜在能力の徹底的な磨き上げ」である。働き方改革とは、労働者に見かけは「選択肢」を与えるようだが、生産性アップ、業績アップの企業戦略国家戦略に過ぎない。成果主義の契約で労働者を競わせる。雇用形態がバラバラになれば労働者の団結・組合もできない、細分雇用だ。
 一部の企業にとって能力の高い労働者は、勤務形態を自分でデザインし、かつ高給を取る。映画に出てくるようなごくごく少数のエクゼクティブと、圧倒的な代替が利く非正規労働者の社会に向かっている。派遣法のさらなる改悪、ホワイトカラーエグゼンプションの導入は、最終的には働き方改革という名の「正社員解体」を目指しているのだ。
 これまでの資本家のやり口をみるならば、女性の正社員の非正規化をより進め、次に男性に手を付けるだろう。成果主義能力主義を勝ち抜く一部の「輝く女性」が称賛され、彼女はアジア女性をメイド、ベビーシッター、介護者として雇うだろう。そのほかの膨大な女性労働者は無権利、無保障で働くしかない。
 安倍の「生産性革命」で、労働者としての女性の未来はさらに悪化する。
 二本目の「子育て支援」はどうか? 二〇二〇年までに出生率を現在の一・四から一・八にあげるという。誰もが無理だと思う数字だ。どのように? というと何もない。安倍は幼児教育の無償化、結婚支援、住宅支援、不妊治療支援まで思いつくままとしか考えられない「政策」を並べているが、あきれるばかりだ。
 昨年の「生涯未婚率(五十歳まで一度も結婚していない)」は男性二割、女性一割であった。この数字は近年急激に高まっている。隣近所、親戚を見回すと未婚の中年男性がたくさんいるのが日常風景になっている。
 七〇年代には2%、二〇〇〇年でも一割を切っていた。厚生白書では二〇二〇年には三割を予想している。この深刻な問題で調査がいろいろ行われているが、どの調査でも、経済的理由が最大の原因となっている。かつて「独身貴族」などの言葉もあったが、今は「結婚できないかも」という危機感で、二十五歳を過ぎた男女の結婚願望は強いが、それでも、未婚率は上昇し続けている。
 結婚しないのでなく、できない。結婚できても二人目の子は経済的に持てない、保育所に入れないというのが、各種調査の結果であり、われわれの周りの若者の実情だ。
 安倍の「政策」の結婚支援、不妊治療支援は笑うしかないが、「子育て支援」に新しい政策があるわけでもない。安倍は昨年六月「幼児教育の段階的無償化」を打ち上げているが、これは五歳児義務教育化という、文科省の長年の主張を政治的に利用したものにすぎない。予算的に到底無理といわれているし、保育園でなく、なぜ幼稚園なのかも説明がない。
 安倍政権の「子育て支援」の特徴といえば、「地域型支援」として各自治体にまかせたさまざまなサービスに、民間業者をさらに引き入れることぐらいだ(無償化も私立幼稚園PTA集会の場で発表した)。保育ママ、事業所内保育所、小規模保育所、訪問型保育などなど、すでに大手企業が、これらのサービスに乗り出しているが、最新のニュースでは、「学童クラブ」を大手企業ベネッセが請け負った。すでに、スポーツや塾など「習い事」をしながら、夜十一時までも学童を預かるビジネスも盛んだ。もっとも、保育の民間事業化は安倍政権が始めたわけでなく、小泉政権から介護保険と同じく民間化が進められてきた。安倍の「二本目の矢」に期待しているのは、保育教育業界だけだ。
 保育教育は金次第、格差は子供の時から始まる。
 三本目の「社会保障の充実、介護離職ゼロ」も、長期的な対策ではない。具体的目標は、二〇二〇年までに全国で五十二万人といわれる特別養護老人ホーム待機者のうち、要介護三以上の人をゼロにするという。特養の新増設に予算を出すという。これで毎年十万人といわれる人が、家族介護で離職するのを防ぐというのだ。この離職者の多くは女性だ。
 しかし、二〇〇〇年の介護保険導入以来、公的介護―介護予防―自立支援―在宅介護―と方向をかえてきて、また特養増床というのは行き当たりばったりで、これも、介護業界が喜ぶものでしかない。
 労働力は欲しいので、企業の採算でベッドを増やす、後のことは知ったことではないという「政策」だ。介護内容や介護労働者不足・待遇問題などは知らぬふりを決め込む。
 介護現場の悲惨さは、数々の事件となって表れている。介護労働者の離職率の高さや虐待問題は、すでに社会問題になっている。介護離職ゼロではなく介護労働者離職ゼロが本当の課題なのだ。安倍は自ら介護報酬を引き下げておいて「社会保障の充実」とは聞いてあきれる。離職率は特別養護老人ホームなどの特定施設では、他の仕事の倍にもなっている。慢性的な人手不足、低収入なのだ。政府は、この離職率対策として「新規入職者」と「潜在的介護労働者の発掘」(離職者や、介護経験のある主婦)で対応しようとしている。介護労働者の待遇を改善するのでなく、非正規で安定雇用を求める若者や、中高年女性で労働力の循環をもくろんでいる。そして、すでに実施されている、フィリピン・インドネシア女性の導入だ。彼女たちは三年間働かされ、多くは試験に落ちてしまい帰国する。離職率をそのままにして、使い捨てで回そうとする雇用政策だ。
 多少ベッドが増え介護離職者が減っても、介護負担は若者や女性、アジア女性に矛盾をおしつけていくのだ。
 一方、介護保険の利用者負担も増え続けている。厚労省は再来年にまた、介護負担費の値上げを計画している。@軽度者へのサービスを保険から外す。手すりなど住宅改造も自費 A保険加入者を現行四十歳から引き下げ B最高負担額を実質廃止などである。一部負担金が払えず、必要な介護が受けられない人の問題がある中、今度は給付を狭める。要介護軽度の人も保険を使える範囲が狭められる。民間の保険だったら、契約詐欺で訴えられる。
 要介護三以上の人は保険で特定施設へ、それ以外の軽度の人は少ししか保険を利用できない。それも金次第というのが利用する側にとっての介護保険だ。
 結局、介護保険がカバーしない介護、要介護一、二の介護は、家族・女性の手によって行われるしかないのだ。パート労働など非正規労働をやりくりしながらの介護だ。正規社員の「介護離職ゼロ」は難しい。
 問題は、介護労働者も要介護の高齢者も、そして家庭介護する女性も同じ労働者階級の存在ながら、みなが負担に耐えていることだ。中に入って儲けているのは一部の巨大介護事業者だ。保育もそうだが、介護も、民間業者の収益追求の場にしてはならない。困難だが、現場も含めた公的な場で解決していくしかない事業なのだ。
 女性を取り巻く状況の中で、どうしても確認しておかなくてはならないのは、「貧困」問題だ。女性だけでなく日本社会の相対的貧困率はOECD諸国の中でメキシコ、トルコ、アメリカに次ぎ四位の高さだ。
 特に女性の貧困は母子家庭の貧困、高齢女性の貧困、子供の貧困と連なっている。安倍政権の下で、男性も含めた貧困が進行しているが、女性の貧困の深刻さは女性差別社会の結果であり、現在再生産されている問題でもある。賃金差別、家族制度と差別的社会慣習によって、女性の経済的自立は困難で、何かひとつでも不足な要因があれば「貧困」に陥ってしまう。病気、家族の庇護を受けられない非正規労働者、母子家庭、夫の年金の半分で暮らす寡婦。彼女たちは必死で働いても非正規では抜け出すことができない。ダブルワークや夜の水商売で、子供と共にいる時間がない母子家庭。進学する余裕がない「貧困の連鎖」などが社会問題になっている。絶対的貧困と違って、日本の貧困は見えにくいといわれてきたが、いまや、そうではない。「子供食堂」などがあちこちで取り組まれ、ネットカフェで暮らす女性などが注目されるなど、顕在化している。これからもっと悲惨な事例が増えていくことは必至だ。
 安倍は今年に入ってだが、貧困率について問われると「日本は貧困ではない。国民総生産を一人あたりで見ても、GDPからも裕福な国」と言ってのけた。格差の問題、貧困率を問うているのに、平均や成長率で言い逃れているのか、あるいはまったく言葉が解らないのか? 怒りを禁じえない。
 十八歳選挙権が施行されるが、これは若者の政治参加ではなく「戦争参加」の準備だ。抵抗のある徴兵制実施ではなく、米帝と同じく「経済的徴兵制」のためにも、十八歳以上を成人にしておく必要があるのだ。自衛隊はこれまでも、国家公務員として高給、各種免許が取れる、防衛大学や看護学校は寮費もタダで学生手当ても支給などなどで、隊員を勧誘してきた。長い不況が続くなか、自衛隊員と警察官は、結婚相手として人気があるという。自衛隊の海外派兵が始まれば、そんなのん気なことは言っていられなくなる。さらなる優遇措置で隊員数を埋めることになるだろう。経済的徴兵制だ。米帝の例を具体的に見れば充分予測できる。
 貧困と非正規労働にあえぐ女性が自衛官になることで安定を望むことも十分考えられる。そこでは海外派兵もある。実際、イラクに派兵された自衛官のうち、女性は二百人と発表されている。
 米軍では直接的戦闘参加が女性兵士に解禁され「平等な任務」なるという。一方で米軍内の性犯罪率は極めて高い。女性兵士は「平等な任務」で高報酬を得られるかもしれないが、暴力と差別にさらされるのだ。自衛隊も別ものではない。
 もう一つ、見ておかなくてはならないのは、先にも触れたが、アジア女性労働者の導入だ。安倍は家事サービス女性労働者の導入を決定し、「国家戦略区」の大阪・神奈川などで、大手家事サービス会社五社がフィリピン女性の現地研修を始めた。「女性が輝く社会」のために、日本女性の下支えを彼女らにさせようというのだ。家事、育児、介護を含めての「家事サービス」だ。これで安心して、女性が思い切り働けるというものだ。社会システムも変えず、男性の家事育児分担もさせず、女性差別構造を何一つ変えず、アジアの女性に押し付ける。彼女は、自分の子を親族のもとに置いたまま、はるか離れた日本で他人の子を育てる、他人の親を介護する。こうした家事サービスを利用できるのは、一部の富裕層の女性だけで影響は少ないか? 彼女らはとっくに日本人の家事サービスを利用している。エグゼクティブを目指す女性や高級公務員の利用は少しづつ拡大するやもしれない。いずれにしろ、アジア女性の代替で、金の力を持って自分だけ「輝く」女性像などには、われわれは連帯できない。
 介護労働者の導入、悪名高い研修・技能実習制度でのアジア女性労働者の導入と同じだ。研修生十五万人の半数である女性がミシン工、農漁村の加工労働者として人権侵害が蔓延する環境で働いている。中国人、ベトナム人、インドネシア人だ。日本社会の矛盾を差別的にアジア女性で糊塗している。難民は認めず、都合のよい労働力として使い、母国に返すのだ。
 われわれもまた、彼女たちの労苦による廉価商品で暮らしを賄っているのだ。このことを忘れてはならない。

  ●最後に

 安倍政権の女性政策は、長期的展望もない行き当たりばったりのものだ。空っぽのスローガンと美辞麗句で、もっと働けと言っているに過ぎない。彼が唯一やっていることは戦争体制、戦争準備だけだ。韓国との政府間合意もその大きなひとつだ。沖縄辺野古工事強行と知事への訴訟、原発の再稼働もそうだ。国内政策では企業の減税を進め、貧困線上にいる労働者大衆に消費税増税を課す。
 どれも反人民的であり、女性に敵対するものだ。戦争―軍事基地、原発は、どんな理由をつけようとも、人民と相いれない。安倍政治が続く限り、労働者階級に展望はない。今や安倍政権を生みだした社会のありよう、グローバル資本主義は言い繕えない限界、改良幻想の余地もない限界にきている。「生きさせろ」という根底的な声があちこちであがっている。
 普通に生きることのできない、その展望もない経済状況、労働状況の上に、安倍政権は戦争に参加するというのだ。
 この危機はチャンスだ。
 戦争反対―安倍政権打倒! 新しい社会へ進もう! が女性のスローガンだ。
 安保法制反対に立ち上がった多くの女性と共に、派兵阻止をたたかおう。
 沖縄人民と共に、辺野古新基地建設阻止をたたかおう。
 岩国基地強化、京都Xバンドレーダー基地建設反対、全国の反基地闘争にたちあがろう。
 「対テロ」参戦をめざす伊勢志摩サミット反対。
 日本軍隊性奴隷制度の被害女性と連帯し、日韓政府間合意粉砕、たたかいの地平を守ろう。
 原発再稼働阻止、原発輸出に反対しよう。
 アジア女性と連帯し、米軍基地撤去を。
 女性労働者と共に、非正規雇用打破、均等待遇要求の労働運動に立ち上がろう。
 多くの女性を、こうしたたたかいに結集させよう。女性の団結をひろげよう。
 女性の手で安倍政権を打倒しよう。


 

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