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   債務危機をはねのけて
   新自由主義支配に挑むギリシャ人民に連帯しよう
    
 
 
 一月二十五日のギリシャ総選挙において、全世界の支配階級、労働者人民の注視のもと、急進左派連合(SYRIZA)が右翼保守政権党を打ち破って第一党となり、過半数に迫る議席を獲得して連立政権を組織した。
 この総選挙の結果は非常に大きな意味をもっている。
 第一は新自由主義グローバリゼーションの「敗者」につき落とされたギリシャにおいて、人民が生活と権利を剥奪されながら抵抗を強化し、ついに腐敗した支配階級の政権を打ち倒したことである。
 第二に、この政権交代は一国における政権交代にとどまらない意味をもっている。EU内においても多国籍企業が巨大な資本を蓄積する一方で労働者人民の貧困の蓄積が拡大し、また国別でもドイツを筆頭にする債権国・「勝者」と他方、経済基盤が弱く、財政赤字と借金がますます累積する周辺国との格差が増大している。後者はEU、ECB(欧州中央銀行)、IMFから資金を借り、その借り入れ条件として極端な緊縮財政・緊縮政策がおしつけられて人民の「人道的危機」という事態すら引き起こしてきた。これが国際帝国主義・国際金融機関・多国籍企業の支配を支えてきた構造であるが、この支配構造がEUの一角において一国レベルで風穴があけられたのである。これは人民が同じく生活破壊にさらされているスペイン、イタリアなどの人民にも大きな激励となるであろう。同様の緊縮政策のもとに苦しんでいるEUの各国にも拡大していくだろう。
 第三に、その後、すでに発足した新政権とEUとの債務交渉に伴ってギリシャ国内外のブルジョアジーの攻撃も強まり、政治状況も急速に変化し、ギリシャ人民の運動も困難で複雑な過程を通りながら発展していくだろう。新自由主義とたたかう国際階級闘争にとって、ギリシャ人民に国際的に連帯し、そのたたかいを前進させ拡大していく問題は、決定的に重要である。また各国階級闘争にとっても、ギリシャのように政治的危機が煮つまるなかで、人民の運動を指導し発展させそして社会総体を変革していく課題は今後各国でも直面する重要な問題である。

 ●1章 総選挙の背景と結果

 SYRIZAは総選挙において人民大衆の反緊縮策の願望と闘いを集中的に体現し、集約して勝利を収めた。「緊縮策か、緊縮策反対=EU離脱=経済崩壊か」と迫るEUブルジョアジーとメディアの激しい選挙介入と、それと連携した与党の攻撃を跳ね返しての勝利であった。SYRIZAは投票総数の36%を獲得し、議席は全三百議席中の百四十九議席を得た。これに比して、前政権の中核与党であったND(新民主主義党)なる右翼ブルジョア党派は28%にとどまり、またこれと連立政権を組んでいた右翼社会民主主義派のPASOK(全ギリシャ社会主義運動)は得票5%弱と後退した。二〇一二年の前回総選挙以降もEUの緊縮策を人民に強制してきた前与党の大敗北であった。
 他に注目すべき点は、公然とヒトラーを信奉する極右政党・ネオナチ党である「黄金の夜明け」党が6%を得て第三党になり、議会に一定勢力として定着したことである。
 階級情勢が煮つまるなかで人民の左右への分裂が進んでおり、右派との闘争が不可避であることを明らかにしている。さらに、KKE(ギリシャ共産党)は得票5・5%と前回よりも微増した。KKEとSYRIZAをあわせて総投票の40%以上が緊縮策反対を支持しており、大衆の左傾化が進行したことを表わしている。

 ●2章 債務危機のもとでの攻撃と人民の闘い

 SYRIZAを政権につけたのは直接には二〇〇九年以来のトロイカ―ギリシャ政府による急速な生活破壊であり、それに対するギリシャ人民の持続的な激しいたたかいであった。
 ギリシャは一九七四年、軍事独裁支配を打倒したあと、ながらくPASOKによる中道右派政権の支配のもとにあった。首相パパンドレウは、社会民主主義の名目のもとに、当時の米ソ冷戦下における米国の援助を利用し、また国債発行による借金に依存してギリシャに都市貧民層、労働者、農民を糾合した中間層の政治基盤をつくりだそうとした。このもとで官公庁の許認可権をめぐって汚職、腐敗が後をたたず、企業や富裕層の脱税も横行し、GDPの三割が地下で動いているといわれるような経済が作られた。直接税収入は減少していき、逆に付加価値税が引き上げられていった。
 二〇〇一年ギリシャはユーロ圏に加盟した。政府と支配層はそれをも利用して借金を重ね、みずからの消費意欲を満たすとともに放漫財政を続けた。二〇〇四年アテネ・オリンピック開催はその頂点であり、以降景気は下降した。
 二〇〇九年一〇月、政権交代によって復帰したPASOKのパパンドレウ首相が従前の政権の粉飾決算を暴露した。そもそもユーロ圏参加の条件は「参加国は借金をGDPの3%に抑える」ことである。NDの前政権は4%と公表していたが、パパンドレウはその4%という公表数字が粉飾であり、実際は14%であることを暴露したのである。これをうけてギリシャ国債の信用は急落し、金利が跳ね上がり、二〇一〇年に入ると国債の売買が成立せず、ギリシャは財政資金を調達できなくなった。このようなギリシャに対してEUは、その経済的中心であるドイツが支援を渋ったが、ようやく翌年五月になってユーロ圏とIMFとが一千百億ユーロ(約十四兆円)を貸し付けた。ギリシャはこの新しい借金によって期限のきた借金返済を行ないデフォルト(債務不履行)を回避することができたのである。
 しかし、この貸付には過酷な条件がついていた。トロイカ(ドイツ、フランスの巨大資本が支配するEU、ECB、IMFをトロイカと呼んでいる)は「財政再建」「構造調整」という名目のもとに、ギリシャ政府がいっそう民営化をおしすすめ、財政の削減・緊縮政策・増税を強化する、という条件をつけた。当時のギリシャ政権はトロイカが作成した緊縮政策を指示されるままに議会で成立させ、人民に押し付けた。すべてはEUの中心で決められ、人民はそれに関与できないままに、トロイカによるギリシャ経済・政治の管理、国家主権の剥奪が行なわれてきたのである。
 二〇一〇年の債務危機からわずか一年のうちに物価が急上昇し、賃金と年金が半分に切り下げられたことによって、人民の可処分所得が半分以下に減少し、生活状態は急速に悪化していった。経済は収縮を続け、企業倒産、商店閉鎖があいついだ。解雇、賃下げの嵐をうけて失業率が25・8%、特に若年層では50%を超えるにいたった。加えて、トロイカからの圧力によって、労働者の諸権利の剥奪(労使間交渉の制限)、公務員の削減・解雇、年金のいっそうの切り下げ、環境保護規制の緩和、国有財産や公営企業の売却・民営化、公共サービスの削減、社会福祉の削減(保健、教育、住宅予算のカット)などが押し付けられた。他方、政治家・官僚の汚職は多発し、富裕層はますます裕福になった。
 とりわけ緊縮策が大きな影響を及ぼしたのは医療分野である。財政削減で40%もの医療予算カットのために多くの公立病院が閉鎖され、医療労働者の解雇、医療水準の切り下げが行なわれた。医療費の値上げによって多くの人々が病気になっても必要な医療を受けられず命を失った。また、自殺率の上昇、幼児死亡率・HIV感染率の上昇などの社会問題が増加した。燃料税増税による暖房石油代が二倍以上もはねあがり人民は寒さにうちふるえた。政府は子供たちに教科書を無料配布しなくなった。税金も年々重くなり、住宅税、「社会連帯税」などさまざまな名目の新税が課せられるなかで、他方、資本家や海運業者の税は実質免除された。住宅税を払えず電気を止められる労働者もでた。最高裁は、これを非人道的で憲法違反と判決を下したが、トロイカの指示で動くカイライ政府はこれに従わなかった。
 これらの結果、ナチスの占領以来ありえなかった飢餓も国中に広がった。空腹を抱えて登校し学校で倒れる生徒数が増加し、貧困な親によってミルクの代わりに大人用の粗末な食品を与えられた乳児の健康被害が増加している、と各地で報告されている。
 ギリシャ社会は人道危機ともいうべき困窮と社会的荒廃にたたきこまれたのである。
 そもそも国の借金は労働者には責任はない。政府への怒りとともにトロイカによる経済再建策への人民の怒りが爆発した。緊縮策に抗議するストライキが多発し、公務員・民間を貫いたゼネストが二十度にわたって敢行された。街頭の激しい実力抗議行動や暴動も数多くたたかわれた。とりわけ二〇一一年には数十万の大衆が「われわれには借りがない、われわれは何も売らない、われわれは払わない」という「債務の帳消し」スローガンを掲げて各都市の広場を占拠した。これらは警察による違法な弾圧や極右による活動家の殺人をもはねのけてたたかいぬかれた。
 二〇一一年十月のEU首脳会議は新たなより厳しい緊縮策をもりこんだ対ギリシャ救済策の第二弾を決定した。すでに貧困と生活苦に疲弊していた人民は、増税と緊縮策を激化させる第二次救済策への反発を強め、パパンドレウを辞任においこんだ。政権はトロイカの意向に従順な与野党大連立合意の内閣にひきつがれたが、相変わらぬ反人民的なカイライ政権に対して人民は絶望的な生活状況をのりこえて一貫してたたかい続けた。人民は大衆的な集会、激しい街頭デモ、実力抗議行動をくりかえした。
 このなかで注目すべき動きも始まった。企業や公共病院の閉鎖に対する労働者による自主管理運動の発生である。労働者が閉鎖に反対し、みずからの賃金支払いを求めるとともに、職場を労働者管理のもとにおき、市民との協力のもとに無料の公共医療をまもるためにたちあがった。
 また、政党や市民運動が自主的に社会運動をはじめた。
 それは例えば、医療労働者や自治体の協力による社会診療所、農民・消費者の協力による安価な農産物市場、失業者やホームレスのための食料供給、教師の協力による放課後学級、などである。これらは旧来の施しのための慈善事業ではなく、社会を変革していく社会連帯運動として位置づけられた。すなわち、政権交代にとどまらず、人民自身が組織をつくり、政治的、経済的、社会的な変革を通じてこの危機を脱出する方策として考えられたのである。
 二〇一二年五月の総選挙においては、連立与党と既成政治家に対する人民の激しい怒りが連立与党を過半数割れに追い込んだ。その結果、六月総選挙が行なわれ、右翼ブルジョア党のNPが30%弱をえてかろうじて第一党になり、右翼社民であるPASOK、DIMAR(民主左派)を抱き込んで不安定な政権を作った。SYRIZAは27%弱を得て第二党に躍進した。選挙が反映したものは全社会的危機の進行とそれをめぐる階級対立・階級闘争の深まりである。革命的左翼にとっては、緊縮策を真に撤回させるために、人民がいかなる政府を樹立し、いかなる社会をめざしてたたかうのか、という課題が現実に迫っていることを意味した。

 ●3章 債務危機の背景

 このギリシャの債務危機の過程で、ブルジョアジーやメディアの狙いや攻撃の階級的意味が明らかになっている。
 第一に、ギリシャの陥っている状況をつくりだした主要な原因は、新自由主義グローバリゼーションにある。国境を越えた資本の活動と広大な市場のもとで、中心国の金融資本や大独占企業は規制なく飛躍的に利益を拡大し富を蓄積した。その構造のもとに人民と経済基盤の弱体な周辺国経済は組み込まれ収奪され、中心国と周辺国の格差・人民内の二極化はますます拡大していく。このことがEUにおいても中心国ドイツの経済成長と南欧・東欧諸国の停滞として現れている。
 これに対して、中心国のブルジョアジーは、デマ宣伝によってこの現実を覆い隠そうとしている。トロイカや各国マスメディアは「ギリシャ人は働かない」という悪意あるデマを流布している。ドイツでは「怠け者のギリシャ人を勤勉なわれわれがなぜ救わなければならないのか」という世論すらも作り上げられた。欧州の他国人民とギリシャ人民を分断しようとしているのである。事実は、ギリシャの大多数の人民は本業だけでは生活できないので副業をもっており、労働時間は工業国といわれるOECD(経済開発協力機構)の中で韓国についで二番目に長いのである。
 第二に、債務危機と緊縮策の結果、ギリシャ経済は縮小していき、不況がいっそう深まり、債務返済はますます困難になっていった。トロイカはギリシャを「救済する」といいながら破滅的な緊縮策をおしつけ経済を破壊しているのである。
 GDPは二千三百十一億ユーロ(二〇〇九年)だったが、一三年には20%以上下落し、以降も縮小を続けている。借金も〇九年当時のギリシャの政府債務はGDPの110%であったが、以降それは増加を続け、一一年には政府債務総額三千五百億ユーロ(三十五兆円以上)となりGDPの160%、二〇一四年には175%へと上昇した。
 ギリシャ人民が緊縮策と増税にあえぎながら流した汗と血が債務利息返済をつうじて大銀行の懐に入り、なお債務は増加しつづける、という収奪支配構造が続いているのである。
 これらの貸付の背景も見ておかねばならない。いうまでもなくギリシャに貸付をおこなう欧州の銀行は利益を目的としており、リスクの高いことを承知のうえで高利で貸し付けている。ギリシャが返済不能となると大きな損失をこうむる。「ギリシャ救済のため」と称するドイツやフランスの政府の貸付は、これらの銀行の債権を肩代わりし救済する目的をもっているのである。
 第三に、ギリシャで増えている債務のなかには、法律に違反するものや政府と癒着した資本の利便のための債務があり、政府が人々の生活や人権を破壊することによってのみ返済しうるような反人道的な債務が多く含まれている。
 トロイカは非人間的な緊縮政策をおしつけて困窮と社会的荒廃におちいっているギリシャを実験場として、あわよくばその緊縮策を全ヨーロッパに押し広げようとしているのである。

 ●4章 SYRIZA新政権と階級闘争の課題

 選挙の勝利をうけて、SYRIZAは「反緊縮」政権を発足させた。議席不足を補うため連立が必要であり、緊縮策反対を掲げているKKEがこれを拒否したため、民族主義党である「独立ギリシャ人」という少数政党と連立しての出発であった。以降、新政権は緊縮策で破壊された生活と権利を部分的に回復させ、懸案のEUとの債務交渉を開始した。反緊縮政策では最低賃金を従前の水準へ回復し、解雇者を一部再雇用した。また、移民の子供にギリシャ市民権を与える新たな政策を導入した。しかし、年金など社会福祉のカットの回復、労使交渉の制限などの撤廃、貧困層への過酷な税制の廃止と富裕層への増税などはいまだ達成されていない。
 懸案の債務交渉ではEUに債務の削減を要求し、国際会議を通じて欧州全体の討論に拡大していこうとしている。このために債務監査委員会を設置し、ギリシャの持つ巨額の債務を調査し、不正・不公正な債務を摘発して公表する事業を開始した。さきの交渉においては償還期限の一時的な延期がなされたが、しかし、ギリシャの交渉戦術が何であろうと、EUとECBが債務の大幅な削減に応じることはありえないだろう。かれらは新自由主義政策や構造改革に反対する政府がEUに存在することは絶対に許容できない。あらゆる手段でSYRIZA政権を崩壊させて、他の南欧諸国などへの事態の波及を阻止しようとしている。
 その中で本質的に社会主義政党ではなく「反緊縮策」を掲げる連合党であるSYRIZAが公約を維持するのか、妥協するのか、屈服するのか、あらゆるシナリオがありうる。選挙でSYRIZAは、具体的に左翼政府構想を提起し、その政府が「緊縮政策=メモランダは拒否するがユーロ圏からの撤退はせず、債権者EUとの交渉による債務問題の解決をはかる」とする願望のような公約を掲げたが、それは「メモランダ撤廃とユーロ維持を併存させEUとの対立を避ける」とする困難なものであった。
 閣内には反緊縮策だが反動的民族主義の政党を抱えての不安定要因がある。それ以上に、国内的にも極右ファシスト、右翼の政党は勢力を保持したままであり、SYRIZAへの大衆の失望が発生すれば、一挙に極右がそれを扇動し集約する危険性も存在する。
 いま大衆の「反緊縮」の自然発生的な要求を最も吸収し代表しているSYRIZAはいかなる政党であるのか。
 SYRIZAはメディアでは左翼政党といわれる。だがこの政党は、社会主義を一般的な遠い未来の目標として言及するだけで、政府を握っても資本主義とブルジョア国家の枠内にとどまる社会民主主的路線の政党である。数年前に統一党となった以降も戦略では分裂しており、実態は十個以上の政党からなる連合党である。SYRIZAは今世紀はじめに、反グローバリゼーション運動の統一行動のなかからシナスピスモスという左翼改良主義党派を中心に選挙連合としてつくられた。以降、腐敗や社会的危機にたいし大衆闘争、統一行動などで活発に活動して勢力を拡大し、KKEの離党者、毛沢東派系やトロツキー主義派系の活動家も党に参加した。現在は主流の穏健派シナスピスモスと反資本主義を掲げる左派グループの多元的な党となっている。SYRIZA内には「左翼政綱派」と称する左翼反対派がお、り約30〜40%ほどの党員に影響力をもっているといわれる。かれらは、党の中道政党化、選挙党への純化に反対している。また債務問題においてもSYRIZAの当初の「左翼政権をつくり債務協定を破棄する」という主張は、今は「ギリシャ負債減免と欧州経済活性化のための融資を論議するヨーロッパ負債会議を召集する」という主張に変わっており、かれらはこうした指導部による「メモランダの即時取り消し要求」からの後退などの妥協的姿勢を批判している。
 数ヶ月のうちに債務返済期限を迎え、債務交渉が煮つまり、SYRIZA新政権は政権の存亡をかけた局面を迎える。債務問題が外交交渉の術策で解決できる問題ではないことがますます明らかかになるであろう。全社会的危機が煮つまり階級対立と樹立すべき政府権力問題が深化していく。それはまず、これまで階級闘争の最前線でたたかっている左翼活動家、先進的労働者、革命的左翼に対して社会主義革命にむけてさらに大きな試練を課している。ギリシャにはSYRIZA、KKEの他にもトロツキー主義者や旧毛派の多くのグループが存在する。その論争が組織内でも組織・グループ間でも深まっている。日本と世界の革命的左翼は、情報の大きな制約がありつつも、国際階級闘争の歴史的経験に基づいて情勢と闘争、論争の発展を注視し、そこからみずからの見解と教訓をひきださなければならない。
 この情勢のもとで世界の革命的左翼にとって第一に重要なことは、この債務危機と全社会的危機の解決は資本主義社会の根本的な廃絶ぬきにはありえないことを鮮明に主張することであるケインズ主義やピケティのような改良主義的政策では根本的な解決にならない。それはすでに二〇〇八年以降の世界金融恐慌が示した。したがって危機の出口は、労働者人民が権力を握り生産手段を所有し経済を管理する革命的変革をめざすべきなのである。革命的左翼は、それにむけて労働者大衆を階級として政治的・組織的に前進させる目的のためにさまざまな改良のための闘争に参加しなければならない。政権の掌握は大きな前進であるが、それは人民が真に権力を握るその一過程である。これらの点からみると、SYRIZAは「資本主義の廃止ではなく改良」という社会民主主義の立場からして根本的な限界をもっている。SYRIZAのツィプラス党首は経済政策でも「緊縮策をやめることは労資双方を利するものである」と述べている。ギリシャでも反資本主義を掲げる党派はもちろん先の原則的な観点からSYRIZAの限界をも厳しく批判している。
 同時に、資本主義を廃絶するには、一貫した共産主義的変革の綱領をもち実践する自覚した労働者人民の組織された部隊と党を必要とすることも国際階級闘争の重要な歴史的教訓である。
 この点で、SYRIZAは厳密な綱領的一致をもった党ではなく実質連合党である。指導部は動揺して時にその綱領に反することも行なう。党内には反資本主義を掲げる左翼反対派潮流が労働運動、市民運動で大きな役割をはたしているが、指導部は現綱領の下での広大な統一左翼政党をつくるという名目で党内各組織の解散を要求し、圧力を強めている。他方で、SYRIZAの反緊縮政策という公約は財政的不安をあおられて攻撃を受けており、今後党内で妥協派がより台頭してくる余地が大きい。このなかで、反資本主義をかかげる左翼反対派は試練にたちむかっている。
 第二に重要なことは、トロイカとブルジョアジーの緊縮政策に対して生活・権利を防衛する反緊縮の広範な人民の全国的統一戦線と闘争組織を拡大することである。数百万の人民の期待を集めたSYRIZAの勝利を利用して、大衆行動を前進させ、緊縮政策に苦しむ他の欧州諸国人民にも波及させることである。またこれによってSYRIZAがEUの支配階級から妥協をひきだす可能性もでてくる。そして新政権が公約した生活救済政策も可能となる。それらは人民にたたかいの確信を与えるであろう。
 SYRIZAの選挙での勝利の背景には、大衆が根本的な変革を望み左傾化が進行しているもののいまだ社会民主主義的な幻想との分岐が充分にできていないことを見てとることができる。膨大な大衆の意識が目覚め発展していくためには、革命党派の宣伝が必要である。だが、宣伝だけではできない。大衆自身が闘争や論争に参加しみずからの政治的経験をとおして改良主義の限界を知っていくしかない。また、債務の無条件の帳消しはEU支配のもとでは達成しえないことも、経験をつうじて理解していく。広範な統一行動と闘争組織はそのための大きな条件となる。革命的左翼はこのような場や条件を保障し、人民の階級意識の発展に全力をあげなければならない。ギリシャの反資本主義左翼党派はこのために多くの努力を重ねている。かれらは、SYRIZAにたいする労働者農民の圧倒的な支持という現状のもとでSYRIZAの支持者を含む広範な大衆を統一した反撃戦に導こうとしている。とりわけ、抑圧された人民の下からの自主的な運動とその組織を来るべき労働者権力の建設の基盤として重視している。また、人民の共通の敵である右翼ファシストと対決する全国的な統一戦線を重視しよびかけている。
 一方、数万の党員を擁し労働運動に基盤を保持してギリシャで一定の影響力をもつKKEは誤った戦術を採用している。SYRIZA主流派の源流であるユーロコミュニズムを批判してきた共産党は、SYRIZAの議会主義と改良主義を鋭く批判して議会内、議会外のいずれにおいてもSYRIZAとの共闘を拒否している。KKEは社会の革命的変革をうたい、EUを脱退し、主要産業を国有化し人民の支配の下におくことを掲げている。この綱領上の立場が問題なのではない。いま大衆行動が何より必要な危機的な情勢であり、数百万の大衆が緊縮策を打破しようと改良主義的党派SYRIZAに期待している現時点で、KKEが戦術的方針を出して大衆の革命的意識を発展させようとしない態度が問題なのである。KKEがSYRIZAとの統一戦線を拒否したことは、反緊縮を望んでSYRIZAに投票した数百万の大衆とKKEとの間に壁を作る。この壁によってSYRIZAの党員や大衆を社会民主主義的指導部から引き離すことが困難になる。KKEは「下からの統一戦線」も拒否し、いま最も必要である職場、学校、地域での反緊縮共同行動をやらず、自己の勢力圏のみの闘いにとどまっている。歴史的に、ロシアのボリシェビキも党の政治的独自性を堅持したまま、広範な大衆を革命の側に獲得するために複雑な妥協、改良主義との選挙共闘などの戦術を駆使した。KKEは労働者階級の政治的経験とレーニン主義の戦術を無視している。こうしてかれらは資本主義と帝国主義の打倒を掲げるが、社民主要打撃のごとく、実践に責任をもたない政党とみられている。
 第三に、世界の労働者人民にとって重要な点は、国際連帯闘争を前進させることである。
 ギリシャの労働者人民は第二次大戦中の反ファシスト抵抗運動、一九四六―四九年の内戦、一九六七―七四年の軍事独裁政権とのたたかい、と輝かしい闘争の歴史をもっている。その経験をも受け継いで反緊縮と反トロイカのたたかいを前進させている。しかし、EUと金融資本は交渉によってはギリシャ新政権への態度を変えないであろう。かれらは問題がギリシャ負債の返済という経済的な問題を越えて、ギリシャの反緊縮政策が南欧諸国へ、そして全ヨーロッパに拡大するのを恐れているからである。EU各国においても緊縮政策に反対する闘争が存在し、国境を越えて全ヨーロッパの人民の運動として結合し拡大している。SYRIZAの勝利がこれらのたたかいに対し大きな激励となっている。ギリシャの先進的人民もみずからの闘いが欧州を変革するたたかいであると自覚している。こうしていまやギリシャのたたかいはヨーロッパ、そして世界の階級闘争に重要な位置を占めているのである。
 全世界の労働者人民は、大きな試練にたちむかうギリシャ労働者人民のたたかいを支持し連帯しよう。トロイカと帝国主義者によるギリシャ人民のたたかいへの攻撃を打ち砕こう。そしてEU内、世界を貫く反トロイカの連帯運動、新自由主義とたたかう階級闘争の前進をかちとろう。


 

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