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   集団的自衛権の「合憲」化攻撃粉砕!

   
戦争国家化の道を突き進む安倍政権打倒

                                           


 今日の日帝―安倍政権の反動攻勢は、その究極的な目標としての憲法改悪―立憲主義の否定に示されるように、戦後日本のありようを右翼的・反動的に根本から再編しようとするものだという意味で、歴史的な性格をもっている。この攻撃の重要な柱の一つが、こんにち強力に推進されている日本を「戦争のできる国」へと変貌させていくための諸攻撃だ。
 われわれは『戦旗』第一四二七号(二〇一三年十一月二十日付)の論文「安倍右翼反動政権の戦争国家化と総対決しよう」において、この領域における安倍政権の攻撃の全体像を提示するとともに、とりわけ当時はいまだ第一八五国会において審議中であった国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案と特定秘密保護法案のもつ重大な意味を検討し、それらに対する闘争へと立ち上がっていくことを呼びかけた。
 膨大な労働者人民の批判と反対闘争への決起にもかかわらず国家安全保障会議設置法と特定秘密保護法を強行成立させた安倍政権はさらに今日、日本の戦争国家化に向けた次なるステップに向かっている。それに対する労働者人民の強力な抵抗闘争が組織されていかねばならない。
 今号においては、先の『戦旗』第一四二七号掲載論文を引き継いで、安倍政権による攻撃の現段階、とりわけ昨年十二月に閣議決定された「国家安全保障戦略」「新防衛大綱」「中期防」の内容について検討し、あわせて集団的自衛権の「合憲」化に向けた攻撃のもつ意味と現在の情勢を明らかにしていきたい。
 戦争国家化を推進する安倍右翼反動政権を打倒する巨万の労働者人民の決起をつくりだしていこう。

 ●第1章 国家主義をむきだしにした「国家安全保障戦略」

 昨年十二月十七日、安倍政権は「国家安全保障戦略」、「平成二十六年度以降に係る防衛計画の大綱」、「中期防衛力整備計画(平成二十六年度〜平成三十年度)」を閣議決定した。
 「国家安全保障戦略」の策定は、昨年十二月四日に設置されたばかりの戦争司令部=国家安全保障会議の初仕事であった。それは従来の「国防の基本方針」(一九五七年五月二十日閣議決定)に代わり、「おおむね十年程度の期間を念頭に置いた」ものとされている。他方、「新たな防衛計画の大綱」は民主党・菅直人政権時代の二〇一〇年十二月に策定された大綱に代わるものであり、中期防衛力整備計画は今後五年間の軍備増強に関する基本計画である。どちらも「国家安全保障戦略」を踏まえたものとされている。
 従来の「国防の基本方針」は一枚の紙に、@国際連合の活動を支持し、国際間の協調をはかり、世界平和の実現を期する、A民生を安定し、愛国心を高揚し、国家の安全保障の基盤を確立する、B国力国情に応じ自衛のため必要な限度において、効率的な防衛力を漸進的に整備する、C外部からの侵略に対しては、将来国連が有効にこれを阻止する機能を果たし得るに至るまでは、米国との安全保障体制を基調としてこれに対処する、という四項目が箇条書きされた簡潔なものだった。これに対して、今回策定された「国家安全保障戦略」は三十二ページにおよび、@策定の趣旨、A国家安全保障の基本理念、B我が国を取り巻く安全保障環境と国家安全保障上の課題、C我が国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチ、の四章により構成されている。
 日本を「戦争のできる国」へと変貌させていこうとする支配階級の意図を示すものとしては、むしろ自民党が参議院選挙前の昨年六月に公表した「新『防衛計画の大綱』策定に係る提言」(「防衛を取り戻す」)のほうがより直截な物言いをしており、昨年十二月に閣議決定された三つの文書に関しては一国の政府の公式決定文書として抑制された表現になっているという側面もある。また、これらの文書のなかには、例えば「『核兵器のない世界』の実現に向けて引き続き積極的に取り組む」(国家安全保障戦略)など、安倍政権がまったく考えていない美辞麗句がところどころにちりばめられている。そうした空疎な文言や建前を除いたうえで、閣議決定されたこれらの文書の内容を検討する。以下、少し長くなるが、九点にわたってその特徴をあげる。
 その特徴の第一は、そのむき出しの国家主義である。国家安全保障戦略はその冒頭、「政府の最も重要な責務」を「我が国の平和と安全を維持し、その存在を全うすることである」と規定している。人民の生活やその幸福の実現、基本的人権が尊重され、文化的で最低限度の生活を営む権利が保障されることといったことではなく、「日本という国家」の「存在を全うすること」が政府の最重要任務とされているのだ。従来の「国防の基本方針」はかろうじて「民生の安定」に触れていた。しかし、今回の国家安全保障戦略にはそうした視点はどこにもない。「立憲主義の否定」という安倍政権の根本精神がここにも貫かれているのだ。
 第二に、第二次安倍政権がつくりだした「積極的平和主義」というまやかしの言葉を用いながら、国家安全保障の基本理念として「我が国は……国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく」(国家安全保障戦略)とし、アジア太平洋地域さらには全世界における日本の関与を強めていく意志をはっきりと宣言していることである。「平和国家としての歩みを引き続き堅持し……」などと枕言葉のように記されているが、その実際の内容はアジア太平洋地域および全世界における日本の軍事的関与、軍事的プレゼンスの拡大である。自衛隊はすでにアフリカのジブチに在外基地をもっている(支配階級はこれを「拠点」などというまやかしの言葉で呼んでいるのだが)。
 第三に、中国および朝鮮民主主義人民共和国へのはっきりとした敵視姿勢である。新防衛大綱から引用すれば次のとおりである。朝鮮民主主義人民共和国については「朝鮮半島における軍事的な挑発行為や、我が国を含む関係国に対する挑発的言動を強め、地域の緊張を高める行為を繰り返してきている。こうした北朝鮮の軍事動向は、我が国はもとより、地域・国際社会の安全保障にとっても重大な不安定要因」としている。また、中国に関しては「特に、海洋における利害が対立する問題をめぐっては、力を背景とした現状変更の試み等、高圧的とも言える対応を示しており、我が国周辺海空域において、我が国領海への断続的な侵入や我が国領空の侵犯等を行うとともに、独自の主張に基づく『東シナ海防空識別区』の設定といった公海上空の飛行の自由を妨げるような動きを含む、不測の事態を招きかねない危険な行為を引き起こしている」としている。しかし、朝鮮半島および東アジアに軍事緊張をつくりだしているのは、頻繁化する合同軍事演習など日米帝国主義の側の動向、軍事的な挑発行為であって、まずこの点がはっきりと批判されねばならない。
 第四に、日本が持つべき「防衛力」の概念として、新たに「統合機動防衛力」(新防衛大綱)という概念を打ち出したことである。周知のように、敗戦帝国主義としての制約により、戦後ながらく、日本は「専守防衛」に徹し、軍備の保有は必要最小限にとどめるという「基盤的防衛力整備構想」を掲げてきた。これを転換し、自衛隊のリアルな海外出動を念頭においた「動的防衛力」なる概念を打ち出したのが、民主党政権下で策定された二〇一〇年の防衛大綱であった。今回の安倍政権による「統合機動防衛力」、より詳しくは「即応性、持続性、強靱性及び連接性も重視した統合機動防衛力」なる概念は、民主党政権下で図られた転換を不十分なものとして、さらに徹底的に推し進めようとするものである。「領土や主権、海洋における経済権益等」をめぐって発生する「純然たる平時でも有事でもない事態」を指すものとして、「グレーゾーンの事態」という用語が何度も登場する。また、「シームレス」(隙のない)という用語も今回の国家安全保障戦略や新防衛大綱におけるキーワードのひとつとなっており、自衛隊の統合運用の強化、日米両軍の連携の強化、有事の際の官民一体となった対応の推進等をこの用語を用いて表現している。
 第五に、「領土や主権、海洋における経済権益等をめぐる……グレーゾーンの事態」、具体的には釣魚諸島の領有権問題の存在を背景にして、中国に対する軍事的対抗と実際の軍事出動態勢の構築・強化のために、沖縄、宮古、八重山など政府が「南西諸島」と呼ぶところの島々とその周辺海域における軍事態勢の強化を打ち出していることである。いわゆる「離島防衛」だ。また、この方向性に合致するように自衛隊三軍を再編していくことも打ち出されている。新防衛大綱においては「海上優勢及び航空優勢の確実な維持に向けた防衛力整備を優先する」一方で、「大規模な陸上兵力を動員した着上陸侵攻のような侵略事態への備えについては……最小限の専門的知見や技能の維持・継承に必要な範囲に限り保持する」と表現されている。
 第六に、日米安保体制の基軸性をあらためて確認し、そのさらなる強化を打ち出していることである。安倍政権は今回、「日米安全保障体制を中核とする日米同盟は……世界全体の安定と繁栄のための『公共財』」(新防衛大綱)だと位置づけた。そのもとで、日米防衛協力ガイドラインを改定し、共同訓練・演習、共同の情報収集・警戒監視・偵察活動、米軍と自衛隊の基地・施設の共同使用、弾道ミサイル防衛システムの構築などを推進していくとしている。さらに、「在日米軍再編を着実に進め」るとしている。これに関して、国家安全保障戦略においては、「アジア太平洋地域における米軍の最適な兵力態勢の実現に向けた取組に我が国も主体的に協力する」としている。アジア太平洋全体で軍事プレゼンスの増強を狙う米国の利害を実現する一部として、沖縄、岩国、神奈川での米軍基地の強化・新設、京丹後での新たな米軍基地の建設を日本政府も「主体的に」推進するといっているのだ。徹底的に弾劾しなくてはならない。同時に、国家安全保障戦略において、TPP協定など「自由貿易体制の維持・強化」、「普遍的価値の共有」(実際には資本家的価値を意味するのだが)などを日本の安全保障戦略のなかに位置づけていることも重要だ。
 第七に、日米軍事同盟(日米安保体制)を基軸としたうえで、同盟国間の軍事的連携・協力の拡大を打ち出していることである。韓国については情報保護協定や物品役務相互融通協定(ACSA)の締結をめざすことが明記されている。すでにこれらの協定を結んでいるオーストラリアとの間では、「共同訓練等を積極的に行い、相互運用性の向上を図」り、さらに、「日米韓・日米豪の三国間の枠組みによる協力関係を強化し、この地域における米国の同盟国相互の連携を推進する」(以上、新防衛大綱より)としている。さらに国名をあげて書かれてはいないが、フィリピンとの間での軍事協力も進んでいる。フィリピンのガスミン国防相は昨年六月、「フィリピン政府は他国の駐留、とりわけ日本の自衛隊の駐留を、この分野における共同戦略として、既存の取り決めに基づき歓迎している」と、ある記者会見で発言している。
 第八に、軍備増強、最新兵器の導入、軍事費の増大である。中期防では二〇一四年度から五年間での新たな兵器の導入に関わる予算は、総額で総額二十四兆六千七百億円とされた。二〇一〇年に民主党政権が策定した前計画(今年一月に廃止)と比較すると、一兆一千八百億円の増加である。そのなかでは、MV22オスプレイ十七機、イージス艦二隻、F35ステルス戦闘機二十八機、グローバルホークなど無人偵察機三機が含まれている。米国の巨大軍産複合体が製造するこれらの最新兵器を導入することで日米両軍の相互運用性の向上をはかり、日米軍事一体化を推進するというわけである。オスプレイ十七機については、新たに編成される陸上自衛隊の水陸機動団に配備される。この水陸機動団には加えて五十二台の水陸両用車も配備されることになる。
 第九に、自衛隊へのいわゆる「海兵隊的機能」の付与である。昨年六月の自民党提言「防衛を取り戻す」に書かれているこの用語は、昨年十二月に閣議決定された三文書のなかでは直接には用いられていない。しかし、水陸機動団の新編とそこへのオスプレイや水陸両用車の配備は、その具体化を意味している。これは即時的にはいわゆる「離党奪還作戦」に備えたものとされているが、同時に「世界各地で活動する在留邦人等の安全を確保する」(国家安全保障戦略)ことを口実とした自衛隊の軍事出動を念頭に置いたものである。「機動輸送力」の整備が強調されているのもそのためだ。アジアを中心にして世界各地に膨大な海外権益をもつ日本帝国主義は、その維持・確保のために、必要とするときに自国の軍隊をいつでも派兵できる軍事態勢とそのための法整備を追求してきた。緊急時の「在外邦人の救助」のための自衛隊による陸上輸送を可能とした昨年十一月の自衛隊法改悪は、この流れに沿うものであり、自衛隊への「海兵隊的機能」の付与は、それができる軍事態勢を具体的につくりだそうとするものである。もちろん、「在外邦人の保護・救出」は、歴史的に侵略戦争・軍事出動の口実として利用されてきたものだ。
 さらに、武器輸出禁止三原則の解体、「特定秘密保護法体制」の構築とでも言うべき「情報機能の強化」、「社会基盤の強化」として掲げられた愛国心教育の推進など、多くの問題点があるが詳細の検討はここでは割愛する。
 労働者人民は、「国家安全保障戦略」、「新防衛大綱」、「中期防」に示されるような、立憲主義の否定と一体となった安倍政権による日本の戦争国家化に向けた全面的な攻撃と対決し、それを断固粉砕していかねばならない。

 ●第2章 集団的自衛権の「合憲」化攻撃の現段階

 周知のように、安倍政権による日本の戦争国家化に向けた攻撃の現在の焦点は、集団的自衛権の「合憲」化に向けた攻撃である。
 一九四五年に発効した国連憲章の第五一条は次のように記されている。「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」。ここで初めて集団的自衛権が明文化された。
 確認しておかねばならないことは、それまでは集団的自衛権は、それまでは国家がもつ「固有の権利」とはされていなかったということだ。個別的自衛権については確かに、それ以前から国際法において近代国家が保持する自然権と一般的にみなされてきた。しかし、集団的自衛権はこの国連憲章の条項において新たに創設された概念なのである。それは、国連憲章の採択に向かう過程で、自らの中南米における覇権の維持・確保を目的として(一九四五年三月の米州諸国会議における「チャプルテペック決議」を参照のこと)、米国が強引に持ち込んだ概念であって、最終的にはソ連や英仏もそれに同調したことによって、国連憲章第五一条に明記されたというのが経過である。だから、あたかも集団的自衛権が国家が保持する「固有の権利」であると歴史的に認められてきたかのような前提に立つ議論は、そもそもまやかしなのである。
 さらに、「自衛権」という概念がもつ意味それ自体が、米帝・ブッシュ政権によるアフガニスタン、イラクへの侵略戦争の発動以後の現代世界では、すっかり変容してしまっている。そもそも集団的自衛権は米帝によるベトナム侵略反革命戦争(一九六五〜七五)やニカラグア軍事介入(一九八三〜八四)に示されるように、以前から侵略反革命戦争や軍事介入の口実とされてきた。そのうえで、二〇〇一年のアフガニスタン侵略戦争においては9・11事件の首謀者とみなしたオサマ・ビン・ラディンを当時のタリバン政権が庇護していることを理由に、またイラク侵略戦争においては「大量破壊兵器の存在」を理由として、「差し迫った軍事的脅威」に対する「先制的自衛権の行使」だとして、これらの侵略戦争が遂行されてきた。ブッシュ政権は核先制攻撃を含む先制攻撃戦略を米国の「国家安全保障戦略」にまで高めあげた。オバマ政権は「武力行使の前に他の手段の努力を尽くす」として、米国政府の公式の立場としてはそれを取り下げているが、先制攻撃論はごく近年でもシリア内戦への介入をめぐって、また、イランの核開発問題をめぐって、米国政治のなかで繰り返し浮上している。
 もちろん、「先制的自衛権」なるものが国連憲章第五一条に示されている個別的自衛権あるいは集団的自衛権として認められると考えるような国際法の研究者はほとんどまったく存在しない。しかし、現実にはそうしたでたらめな主張を掲げて、侵略戦争と軍事占領が遂行され、今日まで続けられてきているのだ。このような現実のなかで、日本が「集団的自衛権」あるいは「集団的自衛権の行使」を「合憲」化するということは、アフガニスタンやイラクに対する侵略戦争におけるイギリス軍と同様に、日本の自衛隊がまさに米軍と肩を並べて、「先制的」に侵略反革命戦争へと突撃できるようになるということを意味しているのだ。狙われている日米防衛協力ガイドラインの改定もまた、日本による集団的自衛権の発動を前提としたものに日米共同作戦計画をつくり直し、とりわけ東アジアにおける日米帝国主義の侵略反革命戦争態勢を飛躍的に強化しようとするものだ。現在の安倍政権による集団的自衛権の「合憲」化攻撃はそのような重大な意味をもっており、日本の労働者人民は、かつて日本帝国主義のアジア侵略戦争を阻止しえず、それに動員されアジア人民に銃を向けていったという日本階級闘争のあまりにも痛苦な敗北を歴史的教訓とし、それを繰り返さないために、今日の安倍政権による戦争国家化攻撃を粉砕するたたかいに断固として立ち上がっていかねばならない。
 ところで、集団的自衛権をめぐるこれまでの日本政府の公式見解は、一九八一年の「九十四 回国会衆議院稲葉誠一議員提出の質問主意書に対する答弁書」を基本にしている。この答弁書は集団的自衛権を、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」と定義したうえで、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」としている。これに対して、安倍政権はいま、「憲法第九条は集団的自衛権の行使を禁じていない」とし、そうした「憲法解釈」の変更を行うことで、集団的自衛権が行使できるようにしようとしている。しかもそれを閣議決定で済まそうとしている。それ向けた策動のひとつが第一次安倍政権下で集団的自衛権をめぐって従来の内閣法制局の見解とは異なる憲法解釈を提起した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(第一次安保法制懇談会)で立案実務を担当した元フランス大使・小松一郎の内閣法制局長官への任命であった。
 しかしそもそも、かつてのアジア侵略戦争・植民地支配の反省に立てば、日本が集団的自衛権を保有しているという見解自体が到底認められるものではない。そうした意味で、現在の安倍政権による集団的自衛権の「合憲」化に向けた攻撃は、二重三重の大反動攻撃なのである。
 第二次安倍政権の発足とともに再開された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(第二次安保法制懇談会)は、今日まで六回にわたる会合を開催してきた。「国家安全保障戦略」など三文書が閣議決定された昨年十二月に開催された第五回会合では、国連PKO活動における武器使用などが議論され、いわゆる「駆けつけ警護」における武器使用を認める方向が打ち出された。「駆けつけ警護」とは、PKO活動に参加している自衛隊の部隊が、離れた場所に所在する他国の部隊等のもとに駆けつけ、武器を使用して助けることであり、自身の生命・身体に危害が及んでいる状態とは異なることから、現在のPKO法の武器使用基準では禁じられている。今年二月四日の第六回会合では、集団的自衛権の「合憲」化にともなって改定が必要とする二十一の関連法制が示された。また、「武力攻撃に至らない侵害に対する措置」が議論された。その具体例を「議事要旨」から紹介すれば、「我が国の領海に潜没航行する外国潜水艦が退去せよという命令に一向に従わない場合」、「海上保安庁等が速やかに対応できないような海域や離島等において船舶や民間人に対し武装集団が不法行動を行う場合」、「邦人救出に関連して外国で日本人の生命が脅かされる場合」(当該政府が日本が対処することに同意した場合)、などである。相手側が武力行使をしていなくても、必要であれば日本の側から先制的に武力攻撃ができるようにしよう、という議論である。このために自衛隊の海外での「在外邦人の保護・救出」やPKO活動に際する武器使用についての法整備の必要が指摘されている。
 安倍政権による戦争国家化、集団的自衛権の「合憲」化に向けた攻撃の重大性はもはや明白である。全国の労働者、青年・学生はこの策動を粉砕するために全力で立ち上がろう。

 ●第3章 強化される日米軍事同盟と日本の戦争国家化策動粉砕

 安倍政権はもともと「国家安全保障基本法」を制定することで、「自衛権行使(集団的自衛権を含む)の範囲を明確化」(自民党提言「防衛を取り戻す」)しようとしていた。しかし、集団的自衛権の「合憲」化を急ぐ安倍政権は今日、この重大な問題について「閣議決定」というきわめて乱暴で姑息なかたちで済まそうしている。それは同時に、国会での正面からの論戦、それを経るなかで労働者人民の批判と怒りが高まっていくことに対する安倍政権の恐れによるものでもある。
 その後、安倍政権は集団的自衛権の「合憲」化にともなう関連法制の改悪、「邦人救出」を名目にした自衛隊の海外出動のための自衛隊法の改悪、武器使用の条件を拡大するためのPKO法の改悪など、一連の攻撃を繰り出してくるだろう。「国家安全保障法」の制定策動もなくなったわけではない。自民党は同法の制定を昨年七月の参院選にあたっての選挙公約として掲げており、内閣法制局長官・小松一郎の「首相は、自民党が野党時代に決定した基本法を提出する考えはないと思う」(三月十一日・参院予算委員会)という発言は、自民党の内部から反発を呼んでいる。さらに、日米防衛協力ガイドラインの改定策動がある。
 日本の戦争国家化に向けた攻撃との関係で、われわれはまた先の「マレーシア航空機不明事件」において、安倍政権が自衛隊のP3C哨戒機やC―130輸送機を派兵し、オーストラリアおよびその他の周辺海域において、米軍やオーストラリア軍などとの共同展開をおこなっていることを批判しておかなくてはならない。これは「捜索活動」を口実とした統合軍事演習に他ならない。東日本大震災が米軍と自衛隊の共同展開―合同軍事演習の機会として利用されたように、日米豪の政府と軍隊は、今回のマレーシアの民間機の行方不明事件を同盟国間の統合軍事演習―軍事一体化の機会として活用しているのだ。
 このような安倍政権による日本の戦争国家化に向けた策動は、米国・オバマ政権のアジア軍事戦略を大きく支えるものとなっている。米国防総省はさる三月四日、「四年毎の国防計画の見直し」(QDR)を公表した。米国の軍事態勢の軸心をアジア太平洋地域へとシフトするいわゆる「再均衡」戦略が維持され、二年前のパネッタ国防長官の発言どおり、二〇二〇年までに海軍艦艇の60%を太平洋地域に配備するという計画を確認し、あわせて「日本における海軍駐留を強化する」と述べられている。また、日本を含む同盟国・友好国との軍事協力をさらに発展させることが表明され、国家財政危機に直面して軍事予算を削減しなければならない現実のなかで、それを補うものとして「同盟国・友好国からの貢献」を強調している。われわれは先に安倍政権が「アジア太平洋地域における米軍の最適な兵力態勢の実現に向けた取組に我が国も主体的に協力する」(国家安全保障戦略)と述べていることを見てきた。実際、横須賀港を母港とする第七艦隊の洋上兵力を含めると、日本はすでにドイツを抜いて世界最大の米軍受け入れ国であり、駐留米軍に対する世界最大の財政支援国である。安倍政権による戦争国家化策動は、必要なときにいつでもどこにでも自国の軍隊を派兵できる態勢をあらゆる側面においてつくりあげるという目的とあわせて、米国のアジア太平洋地域における軍事プレゼンスを支えつつ、日米軍事同盟の下で日米軍事一体化を推進することを通して、日米帝国主義の同地域における政治的・軍事支配をさらにいっそう強化していこうとするものでもある。
 しかし、このような日本帝国主義の野望、そしてまた米帝国主義のアジア太平洋支配強化のもくろみは、単純にストレートに進んでいくようなものではないし、実際に進んでいない。安倍政権による日本の戦争国家化策動は、中国や朝鮮民主主義人民共和国のみならず、韓国などの同盟国との間でも軋轢と不協和音をもたらしている。同盟国間の軍事協力の深化として米帝国主義が望み、日帝―安倍政権も打ち出している日韓の情報保護協定やACSAの締結策動も、韓国の労働者人民の激しい批判のなかで、すんなりと進むようなものではない。米帝は、アジア太平洋地域における自らの支配の強化のために、日本に対して集団的自衛権が行使できるよう法整備を要求してきたが(例えば二〇一二年八月の「アーミテージ第三報告」)、しかしそれが他の同盟国の反発を生み、同盟国間の軍事的連携・協力(米軍を中心にした同盟国軍の一体化)の推進にとって桎梏と化そうとしている現在の事態にいらだっている。昨年末の安倍の靖国神社参拝に対して、米国務省が「失望」を表明したのもその現れだ。三月二十五日のオランダ・ハーグでの核安保サミット終了後の日米韓の三国首脳会談、この四月二十二日から始まるオバマのアジア歴訪の目的の大きなひとつは、このような事態のなかで何とか自らの利害と戦略を貫徹するために同盟国間の調整を図ることにある。しかし、安倍政権による戦争国家化策動と歴史歪曲―日本によるアジア侵略戦争・植民地支配の歴史の肯定・美化は切り離しがたい一対のものであり、絵に描いたような解決はありえない。
 このような情勢を根底で規定しているのは人民のたたかいである。米軍基地の新設・強化や米軍プレゼンスの増強に対するアジア各地の労働者人民の抵抗、安倍政権による歴史歪曲と戦争国家化策動に対するアジア各地の人民の激しい怒りの表明が、米帝国主義を中心とした多国間軍事協力体制の内部に亀裂をつくりだし、日米帝国主義間の矛盾をも顕在化させているのである。実際、今日の安倍政権の動向に対するアジア各地の労働者人民の怒りはすさまじく、それは安倍政権の攻撃が強まれば強まるほど拡大していく。
 こうしたなかで、決定的に重要なのは、言うまでもなく安倍政権による戦争国家化策動と総対決するわれわれ日本の労働者人民自身のたたかいであり、その全人民政治闘争としての発展によって安倍政権打倒をかちとっていくことである。個々の攻撃に対する抵抗を安倍政権の打倒に向けたひとつの太い奔流へとまとめあげていかねばならない。アジア人民と連帯して、安倍政権の戦争国家化攻撃と総対決しよう。攻撃の歴史的な性格に照応して、労働者人民の側の闘争もまた歴史的な飛躍をかちとっていかねばならない。



 

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