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■再均衡戦略のもとで強化される米軍展開 米軍のアジア太平洋からの総撤収を! 米国・オバマ政権は二〇一二年一月、「米国の世界的リーダーシップの維持:二十一世紀の国防の優先事項」と題する新たな「国防戦略指針」を公表した。そこに示されたいわゆる再均衡戦略、アジア太平洋地域の戦略的基軸化の下で、各地でさまざまなかたちで米軍の駐留・展開態勢が増強され、また米国と各国政府との軍事協力・軍事同盟の強化がおし進められている。こうしたなかで、アジア太平洋地域をつらぬく労働者人民の反基地国際共同闘争の前進がますます切実に要請されている。 ●第1章 アジア太平洋各地で進む米軍駐留の強化 周知のように、米国・オバマ政権は二〇一二年一月、「米国の世界的リーダーシップの維持:二十一世紀の国防の優先事項」と題する新たな「国防戦略指針」を公表した。今後の米国の軍事戦略の大きな方向性を示すものである。ここにおいてオバマ政権は、「米国の経済および安全保障上の利益は…西太平洋および東アジアからインド洋および南アジアに至る弧の発展と一体不可分である」という認識を提示し、「それゆえ米軍はグローバルな安全保障に寄与しつつも、必然的にアジア太平洋地域に向けてリバランス(再均衡)を図るだろう」として、米国の世界的な軍事展開態勢をアジア太平洋地域を基軸としたものへと戦略的に再編していくことを打ち出した。 そこではまた、「長期にわたって、地域大国としての中国の台頭は、様々なかたちで米国の経済および安全保障に影響を与える可能性がある」、あるいは「核兵器計画を活発に追求している北朝鮮からの挑発を抑止・防衛する」として、中国および朝鮮民主主義人民共和国に対する軍事的な包囲・けん制・対抗を進めていく意図を明らかにし、あわせて、米軍のローテーション配備、合同軍事演習、「同盟国、協力国の軍隊の能力構築」などを通して米軍のプレゼンスを拡大していくことが打ち出された。その後、パネッタ米国防長官(当時)は二〇一二年六月、シンガポールで開催された第十一回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)のなかで、二〇二〇年までに太平洋と大西洋に配備されている海軍艦船の比率を現在の五十対五十から六十対四十へと太平洋重視に転換していく方針を明らかにした。 この新たな国防戦略指針は、それ以前まで堅持されてきた「二正面戦略」を放棄すると同時に、とりわけ地域的・世界的に台頭する中国への軍事的な包囲と対抗を軸にして、アジア太平洋地域における軍事プレゼンスの増強を図ることを米国の世界支配の維持のための戦略的課題に明確に据えるという点で、きわめて大きな戦略的転換であった。危機を先送りするために行ってきた資本救済のための巨額の財政出動とイラク・アフガン侵略戦争のための膨大な戦費支出がもたらした国家財政危機は、「同時に生起する二つの大規模紛争に対処する」という従来の「二正面戦略」を最後的に放棄することをオバマ政権に余儀なくさせた。それは米帝の一極的世界支配の限界を端的に示すものであり、歴史的没落の趨勢にある米帝の姿を象徴するものであった。同時にこの新たな国防戦略指針は、その具体化にともなって、アジア太平洋地域の軍事緊張を不可避に拡大させ、また、増強された軍事力を背景にした米国の同地域における経済的巻き返し策動がさらに激しさを増していくだろうことを予測させるものであった。 以降、今年三月に発表された「四年毎の国防態勢の見直し」(QDR二〇一四)では、「再均衡」戦略にもとづき、軍事予算が抑制されるなか、それを各軍の兵力規模や装備、展開態勢において具体化していくものとして位置づけられ、二年前のパネッタ発言どおり二〇二〇年までに海軍艦船の60%を太平洋地域に配備するという計画をあらためて確認した。またここでは、米軍のアジア太平洋地域における軍事プレゼンスの拡大に関するいくつかの事例が報告されている。さらに、今年四月に行われたオバマのアジア歴訪においては、訪問先であった日本、韓国、マレーシア、フィリピン、韓国の政府との間でさまざまな軍事協力の強化に関する協定や合意がなされてきた。 ▼1章―1節 各地で進む米軍駐留の強化 二〇一二年初頭の新たな国防戦略指針の発表から三年近くがたつなかで、米軍のアジア太平洋地域へのリバランスは、どのように進めれてきたのか。 海軍兵力の基軸である十隻の原子力空母の展開態勢については、現在は太平洋五隻、大西洋側五隻だが、昨年から整備に入った三隻を除くと配備中の空母は四対三と太平洋側の方がすでに多くなっている。米海軍はまた、二〇一五年夏に整備に入る空母ジョージ・ワシントンに代わってロナルド・レーガンを横須賀港に配備し、これに伴い「太平洋艦隊の海軍プレゼンスを高めるリバランス戦略の一貫として」(米海軍)、ロナルド・レーガンの母港であった米国サンディエゴ(太平洋側)にセオドア・ルーズベルトを大西洋側から移動させるとしている。これによって来年には配備中と整備中をあわせた太平洋と大西洋の空母の展開態勢は六対四となる。 米軍の新たな駐留・展開、同盟国との軍事協力の強化や新たな軍事協定の締結に関しても、アジア太平洋全体をつらぬいて進められてきた。このかんのとりわけ顕著な動きを以下にあげてみよう。 オーストラリアについては、国防戦略指針に先立つ二〇一一年十一月のオバマ大統領のオーストラリア訪問時に発表された「米豪戦力態勢イニシアチブ」にもとづいて、二〇一二年四月からオーストラリア北部・ダーウィンへの米海兵隊の駐留が、いわゆる「ローテーション配備」として開始された。二百五十人から始まったこの米海兵隊の駐留は二〇一四年段階で千百五十人に増強され、早ければ二〇一六年までに二千五百人までに拡大されようとしている。 米軍はまた、二〇一三年四月よりシンガポールへの米沿海域戦闘艦(LCS)フリーダムのローテーション配備を開始した。東南アジアにおける米軍駐留態勢の強化の具体的な現れである。フリーダムは十カ月にわたってシンガポールのチャンギ港に駐留し、その間に米海軍と東南アジア九カ国の海軍との一連の二国間軍事演習「カラット」(協力海上即応訓練)をはじめとする各種の合同軍事演習に参加してきた。このように米海軍部隊のシンガポールへの駐留は、同国のみならず、東南アジア諸国との軍事的連携を強化させていくものとしてある。米国はこのシンガポールへの沿海域戦闘艦の配備を、二〇一七年までに四隻態勢へと増強していく計画だ。 フィリピンに対しては、このかん米軍艦船のフィリピンへの寄港が拡大してきたが、よく知られているように、今年四月に新たに「米比防衛協力強化協定」が締結された。米軍によるフィリピン国軍基地の使用、フィリピンへの米軍部隊のローテーション配備、フィリピンへの軍事物資の事前集積を認める内容である。これによりこれまでもなし崩し的な拡大されてきたフィリピンにおける米軍駐留態勢はさらにいっそう拡大されていこうとしている。 さらに、沖縄および日本「本土」においては、沖縄での辺野古新基地建設や高江ヘリパッド建設、岩国での米軍住宅建設、京丹後でのXバンドレーダー基地建設などの諸策動に加えて、基地機能の強化をもたらす米軍の駐留・展開態勢の増強が各地でおし進められてきた。このかんすでに実行されてきた主な動きだけでも、垂直離着陸機オスプレイ二十四機の普天間基地への配備、最新鋭のP8対潜水艦哨戒機六機の嘉手納基地への配備、F22ステルス戦闘機十二機の嘉手納基地への追加配備、無人機グローバルホークの三沢基地への展開の開始などがある。この十月には京丹後に建設中の経ヶ岬通信所へのXバンドレーダーの搬入が強行された。米軍はさらに今後、F35ステルス戦闘機の嘉手納基地や岩国基地への配備、佐世保基地への最新鋭ステルス揚陸艦の配備、イージス艦二隻の横須賀港への追加配備などを計画しており、すさまじい勢いで在沖・在日米軍基地の強化をおし進めようとしている。 こうしたなかでさる十月八日に発表された「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)見直しの「中間報告」は、ガイドラインの見直し作業を米軍による再均衡戦略と「整合」するものとし、安倍政権による集団的自衛権の「合憲」化攻撃を取り込んで、日米両軍による軍事展開を地域を制限しないグローバルなものへと再編・強化していく方向性を打ち出した。それゆえ日米軍事同盟の下で飛躍的に強化されようとしている在沖・在日米軍基地と日米軍事一体化、安倍政権による戦争国家化策動に対するたたかいは、日本の労働者人民のプロレタリア国際主義にもとづく第一級の任務としてますます切実なものになっている。 これらに加えて、グアムにおいてはアンダーセン米空軍基地やアプラ港米海軍基地の拡張工事が進められ、攻撃型潜水艦や爆撃部隊、無人偵察機の配備増強などが具体的に計画されており、グアム基地はアジア太平洋地域における米軍の主要拠点・中継拠点としてますます強化されようとしている。 これまで見てきたような再均衡戦略の下でのアジア太平洋各地における米軍駐留態勢の強化は、釣魚諸島問題や南沙諸島問題などこの地域における「領土問題」をも口実にして進められており、それゆえ中国などからの大きな反発を生み出しながら、地域の軍事緊張をますます拡大させている。同時に、強まる米軍プレゼンスに対して、各地での労働者人民による抵抗が生み出され、拡大している。反基地国際共同闘争の前進を勝ちとっていくことが、アジア太平洋地域の労働者人民の喫緊の共通課題としてますます大きく浮上している。 ●第2章 東アジアのMD体制と米日韓軍事協力の強化 米軍によるアジア太平洋地域への再均衡戦略の一部として、このかん東アジアにおける米国のミサイル防衛(MD)体制の強化が進められている。それはまた、米日韓の三国軍事協力、三国軍事同盟の形成に向けた動きを促進させるものであり、日韓、そして東アジアにおける反基地・反米軍闘争の国際連帯と国際共同闘争のさらなる前進を要請している。 ▼2章―1節 韓国へのサード・ミサイルの配備策動 駐韓米軍のスカパロッティ司令官は今年六月、韓国国防部が主催したあるフォーラムのなかで、米軍の終末高高度迎撃ミサイル(THAAD、サード)の韓国配備を検討中であることを明らかにした。拡張工事が続けられている平澤米軍基地がその配備先の候補地とされている。米軍が韓国へのサード・ミサイルの配備を計画していることはそれ以前にも指摘されてきたが、米軍関係者が公にそれを認めたのはこれが初めてである。 サード・ミサイルは、米本土の防衛を軸として飛来する弾道ミサイルを事前に迎撃するためとして構築されてきた米国のミサイル防衛(MD)システムの中核を担う最新鋭の迎撃ミサイルである。イージス艦などに搭載されたスタンダード・ミサイル3(SM3)が高度百五十キロ以上の大気圏外での迎撃を想定し、パトリオット・ミサイル3(PAC3)が地上から二十キロから四十キロ(大気圏内)での迎撃に対応するのに対して、サード・ミサイルは約二百キロの射程距離をもち、PAC3より高い高度四十キロから百五十キロの大気圏内外での迎撃態勢を構築するものとして新たに開発が進められてきた。このサード・ミサイルは二〇〇九年から本格運用が開始されたばかりであり、このサード・ミサイルは米本土外にはほとんど配備されておらず、アジア太平洋地域においては、二〇一三年四月にグアムに初めて配備された。 このサード・ミサイルに対応するレーダーが、最近になって京丹後に搬入されたXバンドレーダーであり、アジア太平洋地域ではそれ以外に青森県の車力基地およびグアムに先行配備されてきた。韓国の平澤基地にサード・ミサイルが配備されることになれば、これらのレーダーが捕捉した情報にもとづいて、韓国からサード・ミサイルが発射されることになる。このように韓国におけるサード・ミサイル配備策動は、アジア太平洋各地での米軍プレゼンスの強化の一体性と連動性を象徴するものである。 米国はこのかん中国や朝鮮民主主義人民共和国の「脅威」を口実として、アジア太平洋地域、とりわけ東アジアにおけるミサイル防衛体制を強化してきた。京丹後へのXバンドレーダーの配備や二〇一七年までの横須賀港へのイージス艦二隻の追加配備もその一部だ。米国政府も日本政府もミサイル防衛(MD)は受動的なシステムだなどと説明しているが、それは米軍による先制攻撃後の相手国による反撃の芽を摘み取るためにも機能するのであり、米国による侵略戦争・軍事介入を支える攻撃的な兵器体系の一部である。 同時に、米国は同盟国に対して自国のミサイル防衛(MD)システムへの参加を強く要請してきた。それまで各国が独自に開発・配備してきたミサイル防衛システムを米国のそれに統合することで、米国と各国との軍事的一体化が進み、それによってMD体制の飛躍的な強化がもたらされる。日本とオーストラリアはすでに二〇〇三年から米国のMDシステムに参加している。MDシステムの統合によって、情報は米国と各国との間で共有され、同盟国のレーダーが捕捉した情報にもとづいて米軍がミサイルを発射することも可能となるし、その逆に米軍のレーダーが捕捉した情報にもとづいて同盟国の軍隊がミサイルを発射することも可能となる。日米間について言えば、米国に向かうミサイルを自衛隊が撃ち落とすことは、これまでは集団的自衛権の行使にあたるために、可能ではあってもしてはならないとされてきた。しかし、集団的自衛権の「合憲」化攻撃に踏み出した安倍政権はこの制約を突破しようとしている。実際、安倍政権は集団的自衛権の行使の事例のひとつとして、米国に向かう弾道ミサイルを自衛隊のイージス艦に搭載されたSM3ミサイルで迎撃する場合を想定している。 韓国はこれまで、「韓国型ミサイル防衛システム」(KAMD)と呼ばれるPAC3を主軸にした低高度での迎撃態勢を構築し、米国のミサイル防衛システムには参加してこなかった。しかし、駐韓米軍によるサード・ミサイルの配備策動は、韓国に米国のミサイル防衛システムへの編入をさらに強く迫るものとなる。それは、韓国の労働者人民に巨額の財政負担を負わせるとともに、中国を念頭に置いて駐韓米軍の役割を朝鮮半島のみならず、より広くアジア太平洋地域全体を対象としたものへと再編していこうとするものだ。そしてまた、この韓国におけるサード・ミサイル配備と米国のミサイル防衛システムへの参加は、このかん一歩一歩進められてきた米日韓の軍事協力をさらに加速させていくものとなる。 ▼2章―2節 米日韓の軍事協力強化を許すな この十月に発表された「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)見直しの「中間報告」は、「二国間協力をより実効的なものとするため」として、「地域の同盟国やパートナーとの三カ国間及び多国間の安全保障及び防衛協力を推進する」と述べている。これは一九九七年のガイドライン改定時にはなかった内容であり、米日韓や米日豪の三国軍事協力をおし進めていくことを日米両政府が共同で確認したものとしてある。 三十六年間にわたる植民地支配およびそれに対する真摯な謝罪と個人補償を行ってこなかった日本帝国主義に対する韓国労働者人民の怒りを背景に、日米の支配階級も長期にわたり日韓あるいは米日韓の軍事協力を進展させられないできた。しかし、李明博・前韓国政府の時期から、とりわけ二〇一〇年代以降、米日韓三国による軍事協力の強化のための作業が具体的に進められ、朴槿恵政権のもとでも継続している。 この米日韓の三国による軍事協力は、三国による安保協議の定例化、米国主導の軍事演習への自衛隊や韓国軍の参加、そして米日韓による三カ国軍事演習の実施として積み重ねられてきた。とりわけ二〇一三年六月に韓国・済州島南方海域で実施された米日韓による「捜索・救助訓練」は、米軍から原子力空母ジョージ・ワシントンが、自衛隊と韓国海軍からはイージス艦が参加する初めての本格的な合同軍事演習となった。 軍事協力を推進し、軍事的一体化を推進していくためには、軍事情報の共有および軍事機密の秘匿に関する取り決めが必要となる。米日韓の各政府は現在、これを三カ国による「軍事情報共有了解覚書」(MOU)の締結として推し進めようとている。これは二〇一二年に浮上して韓国の労働者人民の強い反対で締結がとん挫した「日韓軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)に代わるものだ。この軍事情報の共有に関しては、二〇〇九年の段階で当時のエドワード・ライス在日米軍司令官が、「情報共有が米日、米韓両者間で排他的になされているために、MD推進に支障をもたらしている」と吐露しているように、東アジアにおける米国のミサイル防衛体制の構築を推進していくために必須のものとして位置づけられている。日韓政府のあいだではまた、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結策動も継続している。 東アジアにおけるミサイル防衛(MD)体制の強化とそれをも梃子として推し進められようとしている米日韓の軍事協力強化、三国軍事同盟の形成を許さないたたかいを断固として進めていこう。 ●第3章 豪における米軍駐留と米日豪の軍事協力 オーストラリアは米軍の再均衡戦略を受けて最も先行的に米軍プレゼンスの強化が進んでいる国のひとつである。このかん米日豪の軍事協力体制の強化が年を追って強められている。 歴史的にオーストラリアは、一九五一年に米国との間で締結されたANZUS条約のもとで、アジア太平洋地域における米国の主要な同盟国のひとつとして、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争にも参戦してきた。さらに、二〇〇〇年代に入ってからは、アフガニスタン侵略戦争、イラク侵略戦争、そしてこのかんのシリア空爆と、米軍を先頭とした「有志連合」による侵略戦争に加担し続けている。オーストラリアの二大政党である保守党も労働党も、そのいずれが政権を担っているときであっても、オーストラリアはこの米豪軍事同盟を堅持してきた。二〇一一年と二〇一三年にはオーストラリア海軍の艦船が米第七艦隊に一時的に編入され、米海軍の一部として活動している。オーストラリアはまた、太平洋地域における大国として近接するインドネシアや東ティモールなどの東南アジア諸国、太平洋の島しょ国に対する強い政治的・経済的・軍事的な影響力を発揮してきた。 ▼3章―1節 在豪米軍基地と海兵隊の新たな駐留 オーストラリアには現在、約四十の米軍基地・施設が存在すると言われている。その最も大きなものは北部にある「パイン・ギャップ」と呼ばれる施設であり、ここには米国の国家安全保障局(NSA)やCIA、米軍から約千人が派遣されている。このパイン・ギャップは、米英を主軸にカナダ、オーストラリア、ニュージーランドが参加する巨大な通信傍受システムであるエシュロンの中心的役割を担っていると言われており、また、グローバル・ホークなどの無人機を制御する衛星の地上局としての機能も果たしている。 このパイン・ギャップをはじめとしたオーストラリアの米軍基地の特徴は、在沖・在日米軍基地や在韓米軍基地の場合とは異なり、その多くが米軍による情報収集(スパイ活動)、攻撃目標設定、通信、電子戦のための基地として存在してきたということである。これらの施設は、指揮(コマンド)、統制(コントロール)、通信(コミュニケーション)、コンピューター、諜報(インテリジェンス)の機能を果たしているため、その英語の頭文字をとって通称4CI基地と呼ばれてきた。パイン・ギャップなどの主要な施設はきわめて機密性が高く、立ち入りが厳格に制限されている。 このような既存の基地機能に加えて、二〇一一年十一月の「米豪戦力態勢イニシアチブ」の発表以降、オーストラリアにおける米軍プレゼンスの新たな増強が開始された。オーストラリアはインド洋と太平洋の双方に面し、中東からの原油の海上輸送路の要衝であるマラッカ海峡にも近い。米軍部隊のオーストラリア展開はここに睨みをきかすものとなる。 「戦力態勢イニシアチブ」では主要に、@ダーウィンなどオーストラリア北部において米海兵隊が毎年六カ月程度のローテーションで展開し、オーストラリア軍との軍事演習・訓練を実施すること、Aオーストラリア北部におけるオーストラリア軍の施設・区域への米空軍機のアクセスを拡大し、共同演習・共同訓練の機会を拡大すること、の二点が打ち出された。 これにもとづき、早くも二〇一二年四月にはハワイから米海兵隊がオーストラリア軍のダーウィン空軍基地へと移駐し、ローテーション展開が開始された。駐留期間は一年のうち乾季ににあたる四月から九月の間とされている。すでに述べたように、この数は二一〇四年の第三次のローテーション展開に際しては、四機の重輸送ヘリを含んで千百五十人にまで拡大された。そして、拡大する米駐留部隊に対応するためにダーウィン空軍基地およびロバートソン陸軍駐屯地の拡張が実施された。駐留中の米海兵隊は、「タリスマン・セイバー」や「クーレンドン」などの主要な米豪合同軍事演習に参加している。 早ければ二〇一六年に二千五百人になるとされる米海兵隊の駐留以外にも、米軍のオーストラリアへの駐留・展開の強化のための計画がさまざまに議論されている。二〇一一年段階から打ち出されてきた北部にあるオーストラリア空軍の複数の基地への米空軍部隊の展開に加えて、北部のココス諸島への無人機グローバルホークの配備、南西部パースにあるスターリング海軍基地への米海軍の潜水艦やイージス艦の駐留などが検討されている。米豪両政府が今年八月に「戦力態勢イニシアチブ」に法的枠組みを整える「戦力態勢協定」を締結するなか、米軍の展開はオーストラリア各地でますます強められていこうとしている。 ▼3章―2節 強化される米日豪軍事協力 先にガイドライン見直しの「中間報告」において、日米間に加えて他の同盟国との多国間軍事協力の推進を打ち出していることを見たが、そのなかで米日豪の軍事協力体制の推進に向けた日豪間の軍事協力は比較的早くから進められてきた。 「安全保障協力に関する日豪共同宣言」が発表されたのは、第一次安倍政権の時代の二〇〇七年三月のことであった。日本が米国以外の国と安保政策に関する文書を交わしたのはこれが初めてのことであった。その目的は「アジア太平洋地域および国際的な平和と安全への脅威への対処」とされ、また「適当な場合には、自衛隊と豪軍は人的交流、共同訓練等の実際的な協力を強化すること」と明記され、その後、日豪の防衛・外務大臣による2プラス2会合が開始された。さらに二〇〇八年十二月には「日本国防衛庁とオーストラリア国防省との間の防衛協力に関する覚書」が調印され、「防衛当局間の情報共有、多国間訓練への参加、ロジスティックス(兵站)分野での協力を推進する方策の検討」など軍事協力の具体的な内容も記された。このような過程を経て、二〇一〇年には日豪物品役務相互提供協定(ACSA)が締結され、二〇一二年には日豪情報保護協定が締結されている。 このような動きと並行してまた、米日豪の三国が共同で参加する合同軍事演習が積み重ねられてきた。それは二〇〇七年に米豪の合同軍事演習「タリスマン・セイバー」に自衛隊が参加するかたちで開始された。二〇一〇年には沖縄近海で大規模な三国軍事演習が実施され、二〇一二年には伊丹基地での日米合同指揮所演習にオーストラリア陸軍が参加し、続いてこれまで日米の両空軍によってグアムで実施されてきた軍事演習「ノース・コープ」にオーストラリア空軍が参加している。二〇一三年にも米日豪の陸上部隊による合同軍事演習「サザン・ジャッカルー」がオーストラリアにおいて行われている。東日本大震災、フィリピンでの台風被害、マレーシア航空機の墜落事件なども、三カ国の軍事的連携を進める機会として利用されてきた。 これらに加えて今年七月には「日豪防衛装備品・技術移転協定」が締結されている。そのもとで日豪両政府は新型潜水艦の共同開発を決定しており、米国がそこへの参加を検討するなど、日豪そして米日豪の軍事協力は年を追うごとにますます拡大してきている。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 以上、アジア太平洋各地でおし進められている米軍駐留態勢の強化を概括し、進行する米日韓・米日豪の軍事協力の状況について見てきた。同盟国との二国間・多国間の軍事一体化を伴いながら各地でおし進められている米軍駐留の強化に対して、労働者人民の国際的な反撃がいまこそ強化されていかねばならない。アジア太平洋各地の労働者人民と連帯し、再均衡戦略のもとで強化される米軍展開態勢の強化を許さず、反基地国際共同闘争の前進をかちとろう。集団的自衛権「合憲」化攻撃をおし進め、日米両軍によるアジア太平洋および世界に向けた侵略戦争出動態勢を強める安倍政権と対決しよう。日米軍事同盟を粉砕し、アジア太平洋地域からの米軍の総撤収を実現するためにたたかおう。 |
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