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   三つの韓国社会主義革命綱領草案の
                      紹介と比較検討(下)

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 目次

 はじめに
 1、草案の概要
(一)解放連帯
(二)労革推(以上、上論文に掲載)
(三)社労委(以下、本号)
 2、三つの草案の比較検討



 ●一、草案の概要

 ▼(三)社労委


目次
T、資本主義と社会主義革命
一、問題は資本主義だ
二、「災いか、社会主義か」、人類は岐路に立っている
三、韓国社会の当面の変革は社会主義革命だ
U、継承と革新で社会主義運動を再構築する
一、ロシア革命の成功と失敗を教訓にし、社会主義を生きている階級闘争として蘇らせる
二、市民主義運動は労働者階級の代案ではない
V、われわれが建設すべき社会主義と移行のための闘争要求
一、われわれが建設すべき社会主義
(一)労働者権力・プロレタリアート独裁
(二)生産手段の社会化と民主的計画経済
(三)搾取の終息を通した労働の自己実現と普遍的人間解放
(四)労働者国際主義と世界革命
二、移行のための闘争要求
(一)労働の不安定化に抗する闘争
@非正規職撤廃
A賃金および労働条件の低下のない労働時間短縮を通した失業解消
B夜間労働撤廃、労働時間短縮、安全な労働条件の争取
C生活賃金争取
(二)労働者・民衆の生活権保障、全面的福祉
(三)民主的諸権利争取
(四)女性、性的少数者、青少年、障害者解放のための闘争
@女性解放
A性少数者、青少年、障害者解放
(五)環境破壊・自然災害に対する闘争
(六)労働組合の階級的再編と現場組合員運動
(七)労働者生産統制
@現場権力争取闘争を全面的な労働者生産統制闘争へ
A社会の全領域に対する労働者・民衆の統制
(八)労働者統制下の没収国有化
(九)帝国主義と戦争に抗する闘争
(一〇)米国の朝鮮半島支配粉砕、南北労働者・民衆が解放される統一
(一一)資本家暴力に抗する正当防衛
(一二)総(大衆)ストライキと民衆蜂起
(一三)評議会に基づく労働者直接権力


 概要
 第一章では、第一に資本主義を批判する。「資本主義は資本家と労働者の二大階級によって成立する「階級社会」で、資本家階級が労働者の剰余労働を搾取することで利潤を蓄積し、巨大な富を占有する社会だ」。「資本主義は世界を『労働者・民衆の生存権破壊・恐慌・戦争・自然災害』という残酷な危機に追いやっている」。周期的恐慌により労働者民衆の生存条件が悪化している。前資本主義時代の抑圧と差別を資本主義は活用する。現在の世界資本主義は帝国主義体制だ。
 そして「世界資本主義は二〇〇八年『世界大恐慌』に突入した」。この危機を克服する術を資本主義は持っておらず、矛盾をすべて労働者民衆に押しつけている。したがって、「災いか? 社会主義か?」の二者択一が労働者民衆に迫られている。
 第二に韓国の資本主義と階級闘争の現段階が次のように述べられる。「韓国資本主義の(六〇年代以降の)高度成長の結果、帝国主義によって一方的に規定されない資本蓄積のメカニズムを形成したのであり、帝国主義・周辺部国家に偏在している世界資本主義の中で中上層の地位を占めるほど成長した。即ち、韓国資本主義は亜流帝国主義化している」「従って反帝闘争は、帝国主義に抗する闘争、帝国主義的多国籍機構(IMFなど)に対する闘争と合わせて、韓国支配勢力の他国(の労働者・民衆)に対する搾取的・侵略的行為に抗する闘争と結合しなければならない」。「一九八〇年光州民衆抗争を通じて韓国社会で社会主義運動は長い断絶を踏みしだいて新たに始まる」。
 「韓国政治は一九八七年以後民主主義が拡張した」。同年以降、労働者階級が「実体として」登場し、農民運動・都市貧民運動・学生運動・女性運動・性的少数者・障害者運動も展開した。労働者階級が前衛となり、「農民、都市貧民、環境・女性・少数者運動の諸主体との連帯を先導する力量を持ち得た時、資本主義を終わらせることができる」。
 第二章では、第一にロシア革命が検証される。ロシア革命の解放精神、「労働者階級の自己解放としての労働者権力(評議会権力)創出」、「生産手段の社会化を通した階級関係の廃絶」、「階級社会が生み出した全ての搾取・抑圧・差別の撤廃を通した人間解放」を社労委は継承する、とまず宣言し、続いてスターリン主義批判を次のように展開する。すなわち、一九二〇年代後半にスターリンが権力を掌握した。「スターリン主義反革命」の特徴は@党内民主主義の喪失、A党・国家官僚の命令経済体制の完成、B国家機構の巨大化と官僚層の労働者階級からの自立化、C共産党が労働者階級を支配する政党に変質した、Dソビエトの無力化と党・国家官僚層の支配層(階級)化。そして、草案は「一国社会主義論」「社会主義生産様式論」「無謬の党論」を批判し、「結局ソ連は、党・行政・技術官僚層が特権集団化(支配階級化)して社会主義運動の原則から逸脱することで、社会主義への移行に失敗した」と結論付ける。
 第二に、社労委の社会主義論が次のように展開される。世界革命―労働者国際主義の立場に立つ。下から労働者権力を創出する。生産力主義を克服し、自然と人間が共存する。女性・障害者・性的少数者解放がその中に含まれる。党内民主主義が確立される。
 朝鮮民主主義人民共和国(以下、「共和国」)について草案は次のように述べる。「北韓(※注)では解放以後、各地に建設された自主的自治機構である人民委員会が日帝残滓清算、革命的土地改革、生産手段の国有化措置などを通して新たな国家樹立へ進んだ。現在の北韓社会はスターリン主義が民族主義と極端に結合した社会で、労働解放社会・社会主義社会と見ることはできない。従って、われわれは北韓労働者階級が主体となり北韓体制を変革することを支持する。同時に南韓支配勢力と米帝国主義の北韓崩壊の企図に抗して闘っていく」。
 最後に、社民主義・議会主義・改良主義・民族主義、具体的には統合進歩党(旧民主労働党)を批判している。
 第三章は「移行のための闘争要求」だ。社労委の中で労革推と一年以上討議したからだろう、項目がほとんど重なっている。ここでは社労委だけが主張している項目を列挙する。
〈労働者〉間接雇用撤廃。外注化反対。移住労働者の労働権・団結権保障。公共サービスの市場化反対。失業者の基本生活保障。
〈民主主義的権利〉教育と医療の国有化と社会化。全面無償教育。無償医療。無償住居。社会保障制度の拡充(児童・障害者・老人など)。社会的基本生活に必要な財貨(サービス)に対する無償供給を含む社会的供給体制構築。オン・オフライン全域での検閲の撤廃と全ての政治活動の自由争取。国家権力と資本によるあらゆる監視と統制体制粉砕。機動隊解体。
〈女性〉女性に対する一切の差別廃止。雇用・昇進などでの差別廃止。家事・養育・育児労働の社会化および男女間平等な役割分担。性的自己決定権の尊重と合意による性的活動保障。性売買廃絶志向。性売買を犯罪化する性売買特別法反対。性売買女性の非犯罪化と権利保障。異性愛中心家族を越えた家族形態の多様性保障。
〈青少年〉有害領域での青少年雇用の禁止。大学間の格差解消。私学財団の社会化/教職員、学生、親で構成される学校運営委員会建設。青少年の政治活動保障。満十六歳以上の選挙権保障。学校運営委参加権。学生自治会など自主的結社の権利。国家の責任の下での青少年の生活権保障。
〈障害者〉脱施設自立生活権保障。特殊雇用施設および教師の大幅な拡充。
〈環境〉有害物質排出に対する労働者・民衆の統制。四大江事業など反環境事業の中断。環境にやさしい大衆教育の拡充。
〈現場組合員運動〉組合員直接民主主義実現。労働組合の資本家政党との断絶。労働者の作業中断権争取。分会・支会別独自スト権争取/非公認スト活性化。全国的総ストライキの組織化。
〈労働者生産統制〉企業秘密の撤廃。現場で生産統制運動を本格化させる。この運動は労働者権力樹立闘争の道をこじ開け、社会主義経済建設のための重要な架け橋になる。社会の全領域に渡る労働者・民衆の統制。
〈労働者統制化の没収国有化〉民営化反対および国家機関産業の(再)国有化。財閥大企業の没収国有化。
〈反帝反戦闘争〉反帝反戦闘争を反資本主義闘争に発展させる。国家保安法と憲法の領土条項撤廃、北の関連法条項撤廃。駐韓米軍撤収と韓米軍事同盟の廃棄、北韓が中国・ロシアと結んでいる軍事同盟廃棄。米帝国主義の侵略同盟に協調する各種協定と条約の廃棄。南北労働者・民衆の自主交流往来の全面保障。南韓資本による北韓労働者の労働搾取反対。北韓労働者の自由な組織決定権と団体行動権の保障。南北労働者・民衆が主体となり解放される韓半島統一の実現。
 南北統一問題に関する記述を引用する。
 「南北労働者・民衆は自らの意思と関係なく南北支配勢力と地域の覇権諸国の利害のための軍事的対立と緊張に動員されてはならない。南北支配勢力の対立と葛藤のせいで労働者・民衆の生存と権利が抑圧される状況が続いてはならない。分断による南北労働者・民衆の苦痛を解消していき、韓半島・東北アジアにおける米帝国主義の支配をやめさせることは『社会主義』建設のための重要な闘争課題だ。
 私たちが志向する韓半島の統一は、南韓資本主義が生み出した矛盾と北韓のいわゆる『主体社会主義』が生んだ矛盾を完全に克服し、南北労働者・民衆が解放される結果物としてなされなければならない。統一国家は階級解放だけでなく、生態破壊、性不平等、人権など南北社会が持つ矛盾を解決する社会で、全世界社会主義建設を進展させる国家でなければならない。このために南韓労働者階級は北韓労働者階級が北韓体制の問題点を克服する主体として立ち上がるよう支援・連帯する。さらには、韓半島に対するあらゆる帝国主義的圧迫と干渉をなくし、南北労働者・民衆の自主的意志に基づいて統一を推進していく」。
 蜂起による労働者権力樹立については、「ブルジョア革命ですら蜂起なしには不可能だった」と指摘し、韓国における光州民衆抗争と一九八七年六月抗争を挙げた上で、「労働者階級は権力を掌握するためには総ストライキに基づく民衆蜂起を組織しなければならない」とする。さらに、議会を通じて労働者権力が打ち立てられたことは歴史的に一度もないと指摘し、一八七一年パリ・コミューン、一九一七年ロシア・ソビエト、一九六八年フランス「スト委員会」、一九七二年チリ・コルドン(評議会)を例に挙げて、評議会に基盤を置く労働者直接権力の樹立の必要性を主張している。


 ●2 三つの草案の比較検討

 ▼@ 構成が共通する三草案

 以上、労働解放実践連帯(準)・労働者革命党(推進会)・社会主義労働者政党建設共同実践委員会の綱領草案の骨子を見た。三草案は構成がよく似ており、順序の違いはあるが、いずれも、資本主義批判、国際共産主義運動、韓国革命、革命政府の政策、の四分野からなっている。
 資本主義批判は、(『マルクス・エンゲルス全集』(MEGA)ではなく『マルクス・エンゲルス著作集』(MEW)の――これは日本の左翼も同じ――、かつ、巻によってはドイツ語ではない翻訳書の重訳である)『資本論』を土台にし、現代資本主義に対する批判をそれに加えた上で、資本主義とは何かについて述べ、ブルジョア支配体制を覆す必要性を訴える。国際共産主義運動の総括は、ロシア革命の地平、コミンテルンの意義・限界・変質、ソ連など「社会主義国」の誤りが指摘される。韓国革命は、韓国資本主義の性格を述べ、階級闘争の歴史を押さえて、その性格・主体・戦略戦術を規定している。革命政府の政策は、『国家と革命』でレーニンが提起した内容を基礎にして、それに韓国と世界の労働者民衆闘争の成果を盛り込んだものとなっている。

 ▼A 前提として押さえるべき点

 三草案を吟味する前提として押さえるべき点が二つある。文献上の制約性と国際連帯活動の制約性だ。
 第一に、文献上の制約性だ。韓国では社会主義・共産主義に関する文献が一部の学術研究を除き、八七年前後まで公に発行できなかった、つまり非合法だった。同年の六月抗争および七月以降の労働者大闘争の結果として『経哲草稿』『共産党宣言』『資本論』などの基本文献が徐々に書店に並び始めたが、その数年後にはソ連と東欧「社会主義諸国」が崩壊し、社会主義・共産主義に関する本の発刊が打撃を受けた。基本文献とはいえ最初は抜粋集で、それからしばらく経ってから世に出た『資本論』第一巻は英語版からの重訳だった。日本の『マル・エン全集』に当たる「全集」は韓国にはない。以上は鄭文吉『韓国のマルクス・エンゲルス研究――著作の翻訳と研究の現況を中心に』(『経済』第九二号収録、二〇〇三年)による。レーニンの翻訳と研究の状況はつまびらかではないが、もっと散々な状況と思われる。コミンテルンの通史は、ケヴィン・マクダーマット、ジェレミ・アグニュー『The Comintern: History of International Communism from Lenin to Stalin(コミンテルン――レーニンからスターリンまでの国際共産主義の歴史)』(一九九六。邦訳『コミンテルン史』(大月書店、一九九八))の翻訳書(二〇〇九)がおそらく最初だ。日本の『コミンテルン資料集』に相当する資料はない。『資本論』や『ドイツ・イデオロギー』の編集問題――学術研究はあるが――、『資本論』フランス語版の問題提起や、いわゆる「レーニン最期の闘い」、初期コミンテルンの三ブロック階級闘争論や、民族植民地テーゼおよび補足テーゼに代表される民植問題を検討するための材料がほとんどないと推測される。日本の状況に置き換えれば、ただでさえ文献学的に難点の多い文庫版だけを頼りに論を構築せざるをえない――それは日本の左翼も五十歩百歩だが――という、決定的ともいえる文献上の制約性を理論作業において持っていることを押さえる必要がある。
 第二に、国際連帯活動の制約性だ。韓国では八八年まで一般人の海外渡航が基本的に制限されていた。加えて、同年以降も南北分断に基づく国家保安法を柱とする弾圧の継続と反共主義思想の根深い定着を背景に、ただでさえ本格的な進展期を迎えてまだ間もなかった労働運動と民衆運動の活動空間が最初から極めて限られ、国際連帯活動自体が大きな困難を強いられた。生活過程は意識を規定する。活動家でさえもその問題意識は、南の階級闘争、北の現状、南北分断の克服という「国内問題」に集中せざるをえず、海外の階級闘争の動向について関心を持つのが難しいというのが実状だろう。

 ▼B 注目すべき点

 上記のような制約性をはらんではいるが、三草案には注目すべき点が多くある。
 第一に、革命政府の政策すなわち過渡期建設の内容だ。自己解放闘争に立ち上がるべき革命主体として労働者・女性・性的少数者・障害者・青少年を位置付け(社労委はこれにさらに農民と都市貧民を加える)、それぞれの自己解放のための政策が多岐にわたり具体的に提起されている。環境・生態に関する政策を重視している点も三者共通だ。
 第二に民族解放闘争の位置づけだ。解放連帯だけがこれに触れている。社労委と労革推は言及がない。そこに革命性を見ていないということだ。
 第三に、ラテンアメリカの「反米左派政権」に対する評価だ。解放連帯はこれを労働者民衆の抵抗闘争として積極的に評価している。しかし、社労委は言及がない。労革推は「ベネズエラの企業没収・国有化運動」を肯定的に取り上げる一方で、キューバを搾取・抑圧体制だとして批判する。ちなみに労革推は社労委の分裂過程で、キューバとベネズエラを打倒されるべき対象と規定している。
 第四に、韓国階級闘争の評価だ。解放連帯は甲午農民戦争・民族解放闘争(=抗日闘争)・反独裁民主化闘争を積極的に評価するが、社労委と労革推はこれらの歴史的闘争への言及がない。社労委は八〇年光州民衆抗争と八七年労働者大闘争を、労革推は労働者大闘争だけを、階級闘争の転換点として積極的に位置付けている。
 第五に、三者ともに労働者国際主義とインターナショナルの再建を打ち出している。国際連帯に関して社労委は、他国に進出した韓国系企業で働く労働者との連帯の必要性を反帝闘争の一環として打ち出している。同委がこれまでどのような実践を積み重ねて来たかは今後調べる必要があるとはいえ、社会進歩連帯などいくつかの市民社会団体が行っているこの領域に関する社労委の主張は、韓国の労働者をどういう中身で階級形成していくのかという点で大きな意味を持っている。
 第六に、韓国革命の性格と戦術だ。ロシア革命をモデルにしている点、世界革命の一環として韓国革命を位置付けている点は三者共通だ。革命の性格は、解放連帯と社労委が社会主義革命、労革推が共産主義革命としている。革命の戦術について、解放連帯は具体的言及がないが、社労委と労革推はともにゼネストと蜂起による政府打倒を主張する。 

 ▼C 朝鮮民主主義人民共和国の評価と南北統一問題

 南北分断という条件の下にある韓国の革命政党にとって、共和国をどう評価し、南北分断をどう克服するかは避けて通れない重要な課題だ。
 まず共和国の評価だが、現在の共和国の体制をスターリン主義と規定して批判し、変革されるべき対象と位置付けている点は三者に共通している。だが、南北分断の克服については違いがある。解放連帯の主張は、連邦制を通じた社会主義体制への統一だ。連邦制は労働者解放よりも民族解放を重視する進歩勢力の主張だが、それを左派の組織が掲げるのは非常に珍しい。社労委は、「南北労働者・民衆が解放される結果物として」統一がなされるべきだとする。つまり、南の資本主義体制と北の「主体社会主義」体制がそれぞれ変革された後に社会主義体制として統一される必要があるという内容だ。労革推は、労働者革命による北のスターリン主義体制打倒は述べているが、南北統一に言及していない。これは、南北統一を労働者解放にとって必要な条件とは考えていないことを示している。南北統一・民族解放の問題を革命戦略の中でどう位置付けるのか、階級と民族の関係をどうとらえるのか。この問題への三者それぞれの見解が大きく異なっている。

 ▼D 三草案に対する評価

 論点ごとに共通点と相違点のある三つの草案を、乱暴だが一まとめにして簡単に評せば次のようになる。
 第一に、二つの国家の樹立と朝鮮戦争の勃発および休戦から六十年以上が経過し、また、労働者と資本の関係が主な社会関係になってから久しい韓国社会において、革命綱領草案が労働者民衆に提起されたことの意味は歴史的に極めて大きい。例えそれが社会的影響力の極めて限定された諸グループによるものだとしても、労働者階級の自己解放闘争において三つの草案が持つ歴史的意義は少しも減らない。少数者の決起から歴史は変わると言うではないか。ソビエトを権力機関とし、ゼネストと蜂起を通じて資本主義を打倒する社会主義(共産主義)革命の実現を公然と掲げた三草案は、朝鮮共産党―南朝鮮労働党によるパルチザン闘争の敗北により消えた(かに見えた)「見果てぬ夢」の灯が再び灯されたことの証だ。
 第二に、先述したが革命政府の過渡期社会建設、その中でも特に労働者に関する政策は、八七年労働者大闘争以来の、もっと遡れば七〇年代以降の数十年にわたる民主労組運動の実践を総括する中でつかみ取られた精華だ。三組織がともに労働者運動内の左派グループとして活動してきているのだが、その特徴が最も刻印されている部分だ。その内容の広さと深さに、われわれは自らの綱領をさらに発展させる上で貪欲に学び、吟味し、取り入れるべきだ。
 第三に、今後克服すべき(とわれわれには思える)課題もまた明らかになった。
 一つは、米帝を中心とする帝国主義による世界軍事支配、とくに北東アジアにおける日米韓の同盟を根拠とした中国と共和国に対する戦争策動ならびに軍事的重圧と対決する反戦反基地闘争の位置づけが弱い点だ。世界革命即ち資本主義の世界史的一掃を掲げる以上、新自由主義グローバリゼーション反対という経済闘争と同時に米帝の軍事戦略およびそれに全的に規定された韓国支配階級の軍事外交路線との全面対決は必要不可欠の必要条件だ。韓国軍は自衛隊と同様に海外派兵を通じて侵略軍としての性格をすでに帯びている。反帝反戦闘争抜きに侵略される側の国・地域の人々との国際連帯はない。労働者国際主義は成り立たないのだ。実践的には済州海軍基地建設反対闘争への関わり方が鍵だ。
 二つは、民族解放の位置づけが弱い点だ。具体的には南北統一と南北労働者民衆が主人公になる統一国家建設の展望だ。三草案のうち解放連帯と社労委は最後の項目としてではあるが内容を展開している。この領域は、共和国と朝鮮労働党に対する評価ないし批判とつながっているので、左派にとっては困難と思える課題だろう。また、左派が「改良主義」などと批判する、民族解放を重視する諸組織が主導してきたことも影響していると思われる。
 だが、南北分断が帝国主義と韓国支配階級にとって軍事的にも経済的にも大きな利益となっていること、国家保安法を柱とする反共イデオロギーによる民衆支配と弾圧を「正当化」する根拠となっていること、教育と宣伝により労働者民衆が反共意識に根深くからめとられ、労働者民衆運動の前進を阻害する内的要因になっていること、南北と在日など海外同胞との連帯と団結をどう作っていくのかについて内容的に掘り下げて活動すること、分断の克服である南北統一が労働者民衆の自己解放にとって欠くことのできない条件であること、これらをしっかり押さえて、階級闘争における民族解放の契機をより積極的に位置付け直せるかどうかがとても大切だ。
 共和国と朝鮮労働党に対する評価と批判も、@権力や差別排外主義者の「アカ」攻撃よろしく「スターリン主義」とレッテルを貼って分かった気になり思考停止する、嫌悪感に満ちた裏返しの反共主義的思考枠を排することを前提として、A同国および同党の歴史と現状に対する批判的な総括と分析が基礎になるのは当然だが(ちなみに、解放後の北における共産主義者の実践に関する社労委の見解は韓国での共和国研究の成果を踏まえており、注目に値する)、同時に、B国際的な階級関係のとらえ返し作業の上になされるべきだ。つまり、米ソの冷戦構造の中での南北分断と朝鮮戦争、帝国主義の今も続く経済封鎖と軍事的恫喝、中ソ対立、ソ連・東欧「社会主義国」の崩壊といった「外部的環境」(キム・ヨンチョル『北韓産業化過程の政治経済』、『北韓学叢書3 北韓の経済』収録論文、二〇〇六)を共和国と朝鮮労働党の路線と実践にとっての大きな規定要因としてとらえる必要があるのだ。その「外部的環境」には、日帝の侵略と植民地支配、強制連行や日本軍性奴隷制度をはじめとする国家犯罪と、戦後のいわゆる「朝鮮特需」と軍事的経済的包囲、そして、そうした戦前・戦後の責任を未だに清算できていない日帝足下の共産主義者・労働者階級人民であるわれわれの歴史的実践が当然含まれる。
 三つは、労働者国際主義の実践についてだ。なかでも、アジア労働者民衆との連帯、さらには、アジア革命をどれほど考えているのか、という点だ。国際連帯活動の必要性を強く意識している韓国の活動家の大部分は、フランスをはじめとする欧州の労働者民衆闘争に関心が集中し、日本と米国の労働者民衆運動は「つぶれて存在しない」と信じ、アジア諸国の階級闘争に対する関心度はゼロに近い。韓国スミダ労組連帯運動やフィリピントヨタ労組連帯運動をはじめとする日系企業で働く他国の労働者に対する歴史的な支援活動の実践と経験が日本の左派労働運動の内容的核心の一つだが、民主労総傘下の労組でこうした国際連帯活動を展開した事例は非常に少ないのが現状だ。
 だが現実は、日本の大企業と同様に、韓国のサムスン・LG・現代の財閥をはじめとする大企業も押しなべてアジア諸国に進出し、現地の労働者を搾取し抑圧している。アジアの労働者にとって、資本だけでなく、韓国労働者が管理者すなわち資本の手先として登場し、敵対することが日常化し構造化しているのだ。それゆえ、労働者の国際主義は、自国企業が進出している他国の労働者の闘いと結びつき、それを支援する実践抜きにはありえない。それなしには自国企業に苦しめられている労働者との結びつきも信頼関係も絵に描いた餅だからだ。同時に、こうした国際主義的実践は、国内における正規職―非正規職の間の構造的差別を突破するための意識および実践と根っ子でつながっている。自分たちが国際的国内的に置かれている社会的階級的位置をとらえ返し、そのように存在させてからめとる資本と権力の差別分断支配の本質を見抜き、その策動を突破して連帯を作り上げていく階級意識を労働者が自ら獲得していくための国際連帯活動に韓国の左派はもっと意識的に関わるべきだろう。その実践の積み重ねの中でこそアジア労働者民衆の階級闘争の連帯が生み出され、その連帯を基礎として初めてアジア・インター、世界規模のインターナショナルが再建されるからだ。
 また、九七年アジア経済危機や〇八年恐慌などが示している経済危機とそれが生み出すオキュパイ(占拠)運動をはじめとする民衆闘争の世界規模でのすさまじい連動性と波及性をしっかりと押さえ、また、八〇年代後半のアジアにおける反独裁民主化闘争の伝播(フィリピン・台湾・韓国・インドネシアなど)と昨年来のアフリカ中東地域における民衆決起に代表される、先行する闘争に鼓舞され国境を急速に越えて伝わっていく闘いに結合してそれを何十倍何百倍に増幅した上で国際ブルジョアジーへの決定的鉄槌に転化させるためにも、インターナショナル再建の礎となる具体的な国際連帯活動が絶対に必要なのだ。
 韓国階級闘争は、総評解体から連合結成に向かう日本の八〇年代と同質の局面にすでに突入している。そうした情勢の中で、社会主義(共産主義)革命を掲げて革命党建設を目指す諸グループが公然と登場したのはまさに時代の要請だ。社会主義者・共産主義者と労働者民衆に国境はない。これからもこの動きと実践に注目し、同時にわれわれもまた自らの綱領・路線と実践をもっともっと鍛え上げ、国際主義の旗の下で韓国革命運動とともに考え、連帯していこう。
※(注)「概要」では、共和国を意味する「北韓」、韓国を意味する「南韓」、朝鮮半島を意味する「韓半島」を直訳した。全て韓国で一般的に使用される表現だ。韓国の北部地方を意味する「北韓」を、一つの国家と認めずに「北朝鮮」と呼ぶのは日本帝国主義者の用法であり、また南北分断の現実と国家保安法の存在により「朝鮮民主主義人民共和国」と韓国で呼ぶことは「親北」の政治的立場を表明することになってしまうことから、この表現は韓国では基本的に(つまり左派グループも)使われていない。以上の理由で「北韓」と直訳するほかなく、これに対応して「南韓」も、さらには「韓半島」も直訳した。しかし、「比較検討」はわれわれの見解なので、便宜上「共和国」「韓国」「朝鮮半島」と訳した。


 

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