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■アロヨ政権の政治的殺人攻撃に抗するフィリピン人民の闘い

 

●1 アロヨ弾劾に全力で取り組む中間選挙戦

 フィリピンは今、五月十四日投票の中間選挙戦最後の段階にさしかかっている。三年ごとに改選される全下院議員、上院議員の半数、州・市町村など地方政府の首長および議員を選出するのである。人民の運動は一方で止まることのない政治的殺人攻撃とたたかいながら、この選挙戦の勝利にむけて全力をあげている。

 この中間選挙は八六年のピープルズパワー以降最も大きな政治的意味をもつ選挙であると見られている。そもそもアロヨ大統領自身が、はじめて現職の大統領として二〇〇四年の大統領選挙に立候補し、政府の資金・軍警察などの弾圧機構をフルに利用して対立候補に「勝利」したものである。しかし、さっそく翌二〇〇五年六月にアロヨ自身がその開票の不正工作を直接選管に指示した盗聴テープが暴露されるなかで、アロヨの当選の正当性への疑惑、大統領職の正当性が大きな政治問題、社会問題になってきた。アロヨの退陣をもとめる集会・デモが席巻し、下院は二度にわたり大統領弾劾決議を提出した。アロヨは金銭・官職で下院議員を買収してこれをかろうじて葬り、以降、政権にしがみついて徹底したアロヨ反対派つぶしに打って出たのである。この矛先はアロヨ弾劾の先頭にたったバヤンムナ党など合法左派政党、民族民主主義運動、労農大衆団体にとどまらず、政界財界のアロヨ反対派にも向けられた。合法的大衆団体をターゲットにして犠牲者八百名を超える政治的殺人攻撃は二〇〇五年以降急増している。その背景には広く米帝国主義の世界戦略からの要求があるにしても、その国内的契機はここにある。アロヨは選挙の敗北が自己の政権の危機に直結し、エストラーダ前大統領と同様に訴追―投獄へといたることを自覚しているがゆえに、なりふりかまわずあらゆる手段に訴えている。人民運動、そして支配階級内反対派など反アロヨ勢力は、なんとしても下院の三分の一を確保して弾劾を成立させようとしている。彼らにとって、アロヨの勝利は、大統領選不正疑惑に正当性をあたえることになるのみならず、政治的殺人などの超法規的弾圧をいっそう全面化させ、アロヨによる憲法改悪を許すことになるのである。したがって選挙戦に全力をあげるとともに、必ず存在する政府・軍・警察による投票―開票不正工作を監視するために多くの力をそそいでいる。

●2 殺人的弾圧・妨害を強めるアロヨ政権

 三月に入って、フィリピン政府が人民運動にたいして更なる攻撃に打ってでた。

 第一には、三月七日、フィリピン裁判所がアロヨ政権の請求によって、シソン(NDF顧問、ILPS議長、フィリピン共産党創立時議長)、ハランドーニ(NDF代表)、サトール・オカンポ議員(バヤン・ムナ党首)など主だったリーダー五十三人にたいして、逮捕状を発行したことである。この容疑はなんと八〇年代にレイテにて共産党内の内部粛清で殺害された人々の遺骨を発見したが、その殺害を指揮した責任を問うというものである。事実そのものもでっち上げであり、彼らは当時マルコス戒厳令下逮捕されて獄中にいたことが明らかになっているにもかかわらず、この時期に彼らを逮捕する狙いは見え透いている。このかんのアロヨ政権にきびしい国際世論への対応であるとともに、五月中間選挙において旗色が悪いアロヨ政権による進歩政党への先制攻撃であった。国軍は国際警察機構にも逮捕協力を要請し、政権による選挙不正操作の以前に、政党の選挙参加すら否認される危険性も存在した。進歩政党の事務所は逮捕状を携えた権力の監視のもとにおかれ、活動も制約された。サトール・オカンポは三月十六日最高裁にて逮捕状の取り消しを請求中に不当逮捕された。しかし、軍警察のやり方への世論の反対が高まるなかで四月三日、彼は十九日ぶりに奪還された。最高裁による仮釈放決定(十万ペソの保釈金)によるものだが、殺人罪など重罪の場合は保釈がきかないので、司法も告訴理由薄弱を認めたことになる。国軍、政府の目的は、世論調査においても最大の支持をえているオカンポ議員とバヤンムナの排除抹殺であり、かつアロヨ政権の政治的殺人にたいして日増しに厳しくなっている国際的な批判をフィリピン共産党(CPP)による殺人事件への非難へとすりかえることであった。オカンポ議員の奪還は、これにたいする半歩の勝利であるといえる。しかし、サトールの訴えた逮捕状の撤回についての審理は進んでいない。立候補しているアナクパウイス党首ベルトラン議員の拘留も引き続き、保釈請求も放置されたままである。

 さらに今後も選挙運動を通じてバヤンムナ、アナクパウイス、ガブリエラ女性党などの民族民主主義勢力、真のアロヨ反対派にたいする軍の選挙妨害、開票不正工作は激増することは必至である。すでに軍は人民運動が強いと目される派遣された地域で、「これらの民族民主主義勢力はテロリストであり共産党のフロント組織であり、したがって殺害は人権問題ではなく内戦問題である」「選挙で投票してはならない」との宣伝を撒き散らしている。選挙ポスターを破り、活動家を恫喝してまわっている。農村部のみならずスラム地域など都市部にまで治安確保の名目で軍を駐屯させ、人民運動と組織の情報を集め、恫喝をはじめている。すでにアロヨ陣営によるふんだんな政府資金を流用しての買収工作は各地で報告されている。アロヨ反対派であるマカティー市長にはいいがかりをつけて市財政、個人口座を凍結し、選挙への立候補にもさまざまな妨害をおこなった。選管はこれらに何もできないどころか、世論調査では七割にも上る人々が政府による投票の意図的紛失・大量差し替えなど不正工作があると予想している。政治的殺害を先頭にたって指揮した「殺し屋」パルパラン退役将軍をも今回の選挙で政党区での立候補をみとめている状況である。アロヨはひとつでも多くの議席を得ようと少数政党選挙区にまで一味のものをでっち上げ立候補させている。こうして、今回の選挙も金権のみならず銃弾がとびかう血生臭い選挙となっている。選挙戦開始以降、すでに候補者を含めて百二人が命を失っている。

●3 反テロ法の成立でデッチあげ弾圧策す

 もうひとつの攻撃は、四月、アロヨが国会で可決された反テロ法(正式名称「人身の安全確保法」)に署名し、これが正式に法律になったということである。これは米国の愛国者法をまねて七年前に議会に上程されたが、人権侵害の危険性が指摘され、たなざらしにされたままであった。反テロ法は二〇〇一年に成立した資金洗浄防止法と並ぶテロ対策関連法の二本柱と位置付けられている。

 上院は反アロヨ派が多数であったにもかかわらずかくも早く可決されたのは、その背景に米国からの野党議員への強烈な働きかけがあったからである。支配階級内の反アロヨ派も基本的に米国への従属の点ではアロヨと同様であり、その土台の上でただグループ間の経済的・政治的利害を争っているのみである。

 成立した法は、若干の修正がなされたが、基本的に権力が「テロリスト」(テロリストの定義もあいまいであるから権力の恣意できめられる)と疑った者は誰でも逮捕状なしに逮捕拘束しうる、また実質的には制約なしに盗聴し外部との通信を遮断したり銀行口座を調査できるという危険なものである(資料参照)。このため、人民運動のみならず、支配層内の政敵や反アロヨ派経済人にも大きな恫喝となり、一口でいえば権力にとってあらゆる弾圧が可能な法を手に入れたといえる。さすがにアロヨも選挙中は執行をためらい、法の執行は選挙後からといわれているが、この悪法が今後の人民運動弾圧の中心にすわることは確実である。今後は弾圧の中心を、すでに国際的非難から逃れられない超法規的殺人から、でっち上げと悪法を駆使した弾圧へと切り替えてくる可能性もある。 

●4 政治的殺人と弾圧に対する国際的包囲網

 他方で、アロヨ政権の政治的殺人と人権弾圧にたいする国際的な包囲網は拡大強化されている。二月末、国連人権問題特別調査官のフィリップ・アルストンがフィリピンを訪問した。その調査の概要は政治的殺害に関するフィリピン軍・警察の直接の関与を指摘し、政府による「国家の敵にたいする反乱鎮圧作戦」という名目での関与の責任を認めるものであった。四月には列国議会同盟(IPU)の人権委員会代表が調査にフィリピンを訪れ、ベルトラン議員の逮捕拘留とバヤンムナなどの進歩的政党の議員への政治的迫害を弾劾する声明を公表した。

 フィリピンの政治的殺人、人権弾圧については米議会でも民主党議員などが問題視しはじめ、公聴会が開かれた。上院の外交委員会は米国の対外援助とアロヨ政権の内乱鎮圧作戦の関係について調査をおこなっている。数名の議員は直接アロヨに責任者を処罰し、これ以上の政治的殺人をやめるよう申し入れをおこなった。

 三月二十一日―二十五日にはオランダのハーグでフィリピンの政治的殺害に関する国際民衆法廷(PPT2)が開催された。法廷は、証拠調べ、証言を通じて、フィリピン軍のみならずアロヨ政権とブッシュ政権を「人間性にたいする犯罪」として有罪判決を下した。

 このような状況のもとで、フィリピン人民はあらゆる事態を想定しながら選挙勝利で反撃しようと総力あげて活動している。ある活動家は、「政権の不正工作で敗北に追いこまれ、より激しい弾圧にさらされることもありうる。しかし、敵も危機なのだ。われわれはそれにも備え、必ず運動の前進によって勝利する」と決意を語っている。よりいっそうフィリピン人民への連帯を強化しなければならない。

 

▼(資料)★ 

 反テロ法の主な内容は以下の通り。

【テロの定義】社会に広範かつ異常な恐怖、パニックを引き起こすため、または政府に不法な要求を受け入れさせるために行われた海賊、反乱、暴動、クーデター、殺人、誘拐、監禁、破壊行為、放火、有害・放射性物質の使用や製造など、ハイジャック、銃器・爆発物の製造や売買など。司法省は「テロリスト」、「テロ組織」の指定を裁判所に通知し、裁判所がテロリスト、テロ組織に指定する。

【テロ対策評議会】官房長官を議長に、司法、外務、国防、内務自治、財務各長官と大統領顧問(国家安全保障担当)らで構成され、テロ対策法を履行し、同法履行に伴う責任を負う。また、包括的かつ効果的なテロ対策計画の策定なども行う。事務局は大統領府国家情報統合局に置き、国家捜査局、入国管理局、国防省市民防衛室、国軍情報部、資金洗浄防止理事会、国家警察情報部などと連携する。

【刑罰】共謀者を含め禁固四十年。テロ実行を直接支援した「共犯者」は同十七〜二十年。テロ実行には不参加ながら、証拠隠匿・隠滅や隠れ家提供などでテロを間接的に支援した「従犯」は同十〜十二年。

【盗聴による捜査】警察官またはテロ対策評議会に権限を付与された法執行官、その捜査班の構成員は控訴裁の許可を得た上でテロ容疑者・組織の通信、会話、文書などを盗聴・調査できる。弁護士と依頼人、医師と患者、マスコミ関係者と取材源の通信、会話などは盗聴・調査の対象外。控訴裁許可の有効日数は三十日で、さらに三十日の延長・更新が可能。延長・更新にはテロ対策評議会の許可が必要。許可期間終了から三十日以内にテロ対策法違反容疑で送検できなかった場合、警官や法執行官は盗聴の事実を盗聴対象者に通知しなければならない。控訴裁の許可を得ずに盗聴を行った警官や対象者への通知を怠った警官らは禁固十〜十二年。盗聴に関する記録、メモなどは盗聴許可期間終了後、厳封した封筒に入れ、捜査参加者の合同宣誓供述書を添付して四十八時間以内に控訴裁に提出する。封筒の開封には控訴裁などの許可が必要。

【銀行預金などの捜査】テロ対策評議会の承認と控訴裁の許可を得た上で、テロ容疑者や「テロリスト」、「テロ組織」の銀行預金や信託口座、資産などの捜査、凍結を認める。捜査・凍結に関する控訴裁許可の有効日数は三十日で、さらに三十日の延長・更新が可能。許可期間終了から三十日以内にテロ対策法違反容疑で送検できなかった場合、警官や法執行官は捜査・凍結の事実を対象者に通知しなければならない。捜査で得られた情報はすべて、許可期間終了後、厳封した封筒に入れ、捜査参加者の合同宣誓供述書を添付して四十八時間以内に控訴裁に提出する。封筒の開封には控訴裁などの許可が必要。控訴裁の許可を得ずに口座などの捜査を行った警官や対象者への通知を怠った警官らは禁固十〜十二年。口座などに関する情報開示を拒否した銀行員らも同十〜十二年。

【逮捕・拘束】警官または法執行官はテロ容疑者を令状なしで逮捕し、最長三日間、拘束できる。警察署などへの連行前、最寄りの裁判所または判事宅に立ち寄り、逮捕の事実や理由を通知する。ただし@通知を怠ったA逮捕から三日以内に適切な司法機関に容疑者の身柄を送らなかったB黙秘権など容疑者の権利を侵害したC自供強要や拷問などがあった……などの場合、警官らに禁固十〜十二年を科す。テロ対策法違反で有罪の確定した被告の脱走を許した公務員は同十二〜二十年(有罪確定前は六〜十二年)。

【資産凍結】テロ対策法違反容疑で起訴された被告や「テロリスト」、「テロ組織」の資産や移動・通信手段などは差し押さえ、凍結の対象とする。これら資産などは判決確定まで政府の手で信託される。裁判で無罪や公訴棄却が確定した場合、資産などを即時返還した上で、補償金(差し押さえ期間一日当たり五十万ペソ)を支払う。資産返還を拒否した場合や資産を喪失・不正流用した場合、禁固十〜十二年を科す。有罪確定の場合、政府が没収する。

【訴追】テロ対策法違反事件の裁判は原則、毎日(月・金曜日)公判を開き、審理の迅速化を図る。被告が他事件の裁判の被告になっている場合、テロ対策法違反事件の審理を優先させる。同法違反の罪に問われ、裁判で無罪が確定した場合、警察またはテロ対策評議会は補償金(拘束期間一日当たり五十万ペソ)を無罪確定から十五日以内に支払う。

【執行停止】あらゆる選挙の投票日前一カ月と投票日後二カ月の計三カ月は、執行を自動的に一時停止する。

 

 

 

 

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