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■読者からの手紙 大阪
「大江・岩波沖縄戦裁判」判決の日に
「軍の関与」を認めた一審判決
三月二十八日に大阪地裁で「大江・岩波沖縄戦裁判」の判決公判があることを知り、裁判所まで出かけてきました。
ご存知のように、この裁判は元日本軍の軍人らが、大江健三郎さんと岩波書店を相手取って〇五年八月に起こした裁判です。旧日本軍が沖縄住民に「集団自決」を命じたことを記述した岩波書店発行の『沖縄ノート』(大江健三郎)や『太平洋戦争』(家永三郎)によって名誉を傷つけられたとして、元座間味戦隊長の梅沢裕らが出版差し止めなどを求めて提訴したものが「大江・岩波沖縄戦裁判」です。徹底的に断罪されるべき立場の人間たちが、正当な主張をおこなっている側の人たちを被告として訴えるという、まったく倒錯としか言いようのない裁判です。それ以上に問題にすべきは、この裁判が、歴史修正主義者たちによって計画的に組織された政治運動という性格をもっているということです。昨年〇七年三月、文科省が高校の教科書から「集団自決」における「軍の強制」の記述を削除したさいには、文科省はこの裁判が存在していることを削除理由のひとつとしてあげていたのです。
さて、当日、午前九時半前に裁判所に出向くと、すでに多くの人たちが地裁の駐車場に集まっていました。その後も人の数は増えつづけ、最終的にはざっと数えて四、五百人の人たちが、六十五枚の傍聴券を求めて列をつくりました。私も列に加わって並んでいると、初老の男性が話しかけてきました。「静岡から来た」と言っていましたが、話の内容がどうも怪しい。「岩波のやり方はおかしい」などと言い始めるのです。「大江・岩波」支援の人が大半だろうと思っていたら、「新しい歴史教科書をつくる会」などの右翼勢力も、この判決公判には相当数の動員をかけていたようです。
傍聴券の抽選にもれ、報道陣が群がる裁判所の裏門前に行き、少し待っていると、映像で良く見かける縦長の紙を広げた女性が、テレビ・カメラに向かって駆け込んできました。白い紙には「勝訴」と書かれています。大きな拍手があちこちからわき起こり、感激のあまり泣き出す人もいました。「軍の強制関与が裁判所に認められた」「原告側の請求は棄却された」とのことでした。
昼から「エルおおさか」を会場にして、記者会見と、支援三団体主催の判決報告集会がもたれました。二百五十人の参加者で集会場はいっぱいです。弁護団からは、「想定した最良の判決。一審判決は大勝利」「隊長命令に大きく踏み込んだ判決であり、三人の裁判官は勇気をもって判決を書かれた」などの声があがりました。支援団体の発言のなかでは、「きょうの判決を聞いて『つくる会』会長の藤岡信勝は『最悪の判決』と言ったそうだ。たしかに勝利判決ではある。しかし、喜びは半分。何よりも私たちは文科省の検定意見を撤回させていない」との自戒を込めた言葉が印象的でした。沖縄からは、裁判に協力してきた安仁屋政昭・沖縄大学名誉教授が駆けつけ、講演をおこないました。「『集団自決』の事例は沖縄だけでなく、サイパン、フィリピン、満州にもある。『集団自決』の本質を明らかにするためには、それらを見渡す大局的な見地が必要」などの指摘には、考えさせられるものが多くありました。
その夜、帰宅して夕刊(朝日新聞)を開くと、「集団自決『軍、深く関与』」などの見出しをつけて、一面で今回の判決が大きく取り上げられていました。他の紙面では、ちょうど六十三年前のこの日、「強制集団死」で多数の島民が亡くなった沖縄・渡嘉敷島の人たちの、「大変うれしい」「裁判所が正しく判断してくれた」との声も載せられています。記事中には判決理由(要旨)とともに、判決についての分りやすい「解説」も掲載されていました。ただ、今回の判決は、「軍の主要な関与の記述が復活された現高校教科書」の「歴史認識」を「支持」するものであるとする「解説」のなかの主張には、首をひねらざるをえませんでした。文科省が「軍関与」の記述を「復活」させたのは、〇七年九月、十一万六千人が参加した県民大会に示される沖縄民衆をはじめとした人民の怒りと反撃の前に、ただただ譲歩せざるをえなかった結果にほかなりません。かれらが歴史認識の内容を、少しでも変更したというのではないのです。文科省中枢に存在する歴史修正主義者、あるいはその影響を受けたものたちの歴史認識と、「文科省の誤りが明らかになった」(弁護団)と評価される今回の判決の内容とは基本的に別物ととらえねばならないでしょう。ただし、今回の判決でも軍による「強制」が明確に表現されていない点は大きな問題であると思います。
歴史修正主義者たちは、「軍隊慰安婦問題、南京大虐殺、沖縄集団自決」を「自虐史観の三点セット」としてとらえていると言います。そして、これらに該当する教科書記述の修正・削除を要求・強要するなどの歴史歪曲運動を進めています。「大江・岩波沖縄戦裁判」はもちろんのこと、現在、問題となっている映画『靖国』上映への妨害運動も、こうした右派勢力の運動の一部と思われます。
判決直後の四月二日、原告・梅沢らは、判決を不服として大阪高裁に控訴しました。「大江・岩波沖縄戦裁判」は長期化することが予想されます。今後もこの裁判に注目しつづけていきたいと思います。
(大阪・読者)
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