共産主義者同盟(統一委員会)






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   流動するフィリピン情勢と強まる米軍の介入

     
     フィリピン人民の闘いに連帯を



 ●1章 施政方針演説に対する抗議行動

 さる七月二十四日、フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテによる二回目の施政方針演説が行われた。この日、大統領府があるマラカニアン宮殿近くには新民族主義者同盟(BAYAN)を先頭にした三万五千人~四万人の人民が集まった。また、ルソン島北部から南部ミンダナオまで、全国の主要都市で抗議行動が行われた。
 昨年五月の大統領選挙に勝利したドゥテルテは当初、自らを「フィリピン初の左派大統領」と呼び、人民の生活状況の改善を約束し、フィリピン民族民主戦線(NDFP)との和平への意欲を表明し、「米国との離別」を示唆するなど、これまでの政権とは異なるイメージをアピールしてきた。それは貧困にあえぎ現状変革を求める人民の大きなを期待を集めてきた。そうした状況のなか、BAYANは昨年の施政方針演説に際して実現すべき政策を「ピープルズ・アジェンダ」(人民の政策課題)としてまとめあげ、それを大統領に直接に提出した。また、民族民主主義運動から三人がドゥテルテ政権の閣僚に就任し、中軸を支配階級と軍部が握る政権のなかでも、人民に寄り添う可能な政策の実現に務める、とした。
 しかしながら、フィリピン人民の直面する深刻な状況はこの一年を通して大きく改善されることはなく、むしろいっそう深刻なものになってきている。とりわけドゥテルテ政権が推進する麻薬戦争による死者はすでに八千人を超えた。NDFPとの和平交渉は今年四月の第四回交渉以来、中止されたままになっている。さらに、ISとつながりがあるとされるイスラム武装勢力の掃討に端を発したミンダナオ全土での戒厳令の布告とその延長のなかで多数の避難民と民間人の死者が発生している。こうしたなかで、今年の施政方針演説に対する行動は、ドゥテルテ政権の公約違反を厳しく指弾するものとなった。
 BAYANは施政方針演説の当日に発表した声明の中で、「ドゥテルテ氏が就任当初に示した約束は、彼の政府の血塗られた人権侵害の記録、富める者を利し、貧しいものを害する新自由主義経済政策への彼の経済チームの固執、米国からの離別という約束を撤回して独立外交政策を追求できなかったことにより、すべて掘り崩されてきた。さらに悪いことに、ドゥテルテ大統領は親米の軍事専門家の指揮の下でミンダナオ全体で過酷な戒厳令を敷いている」と指摘した。そして、「就任からの一年、ドゥテルテ氏が帝国主義者と寡頭政治家たちの道具であることが明らかとなってきた。ファシスト的政策と新自由主義政策を混ぜ合わせた彼の政策は、人民の権利を侵害し、貧困を拡大し、我が国の富と資源を失わせてきた」とドゥテルテ政権を厳しく批判している。
 BAYANは実際に行われたドゥテルテの施政方針演説について、「われわれは平和と秩序、麻薬戦争、人権侵害の正当化、NDFPとの和平交渉継続の拒否、新税制の導入、戒厳令などについて、これまでと同じレトリックを聞かされた。バランギガの鐘(比米戦争時の一九〇一年に米軍が戦利品として略奪した教会の鐘)の返還や法を犯した鉱山企業への制裁についての発言は積極的なものではあるものの、なおも政府の具体的な行動と戦闘的な人民の闘いを必要としている。全体としてその施政方針演説は、悪化する支配体制の危機を解決する首尾一貫したプログラムを提示していない。それとは逆に、ドゥテルテ政権の計画は、貧困、失業、土地なし状態、国家主権の侵害、人権侵害、不処罰をいっそう悪化させるものになるだろう」と述べ、民族民主主義にもとづく闘いの更なる前進を呼びかけた。

 ●2章 「米国―ドゥテルテ体制」との対決

 これと前後する時期、フィリピン共産党(CPP)はその機関紙アンバヤンに、「米国―ドゥテルテ体制の反人民的・ファシスト的支配に抵抗しよう」と題する中央委員会名義の論文を発表した。「ドゥテルテ政権は今では明らかにアメリカ帝国主義の新植民地的顧客国家の役割を引き受けている」と始まるこの文章のなかで、CPPはドゥテルテ政権を「米国―ドゥテルテ体制」、すなわちドゥテルテ政権を米国に後押しされた、あるいは米国と結託した政権と規定し、それに対する抵抗を呼びかけている。
 ドゥテルテ政権の発足以降、CPPはこれまで、一方では新人民軍(NPA)を軸とした農村部における武装闘争を堅持しつつ、他方において、支配階級内部の分裂を促進し革命運動を有利に進める観点から、ドゥテルテ政権との関係を「闘争と戦術的同盟」の枠組みで整理してきた。今回のCPP中央委員会の小論文におけるドゥテルテ政権の規定はそこからの転換である。
 この論文はドゥテルテ政権を、「米国の安保政策への従属」、「米国の対反乱ドクトリンへの従順性」、「帝国主義が指揮する新自由主義経済政策の実行」という三領域において、それぞれ具体的な例を挙げながら批判している。
 米国の安保政策への従属という点については、米比相互防衛条約、米比訪問軍協定、米比防衛協力強化協定などの主要な軍事条約・協定にまったく手が付けられていないこと、米比防衛協力強化協定の下でのフィリピン軍基地内への米軍事施設の建設についてその実施が発表されていること、諜報・電子監視作戦や合同軍事演習、フィリピン軍への軍事訓練などの名目で不特定多数の米軍部隊のフィリピン駐留を許し続けていること、などが挙げられている。
 米国の対反乱ドクトリンへの従順性に関しては、ドゥテルテ政権が革命勢力に対する全面戦争を宣言し、米国の反乱鎮圧作戦に則ったオプラン・カパヤパーンを発動してきたこと、それにもとづいて地方のコミュニティーに軍を進駐させ、空爆を実施し、多くの人権侵害をもたらしながら、革命勢力を鎮圧しようとしてきたことが批判されている。ここではまた、「党と革命勢力は、半植民地・半封建体制の危機の悪化、支配階級内部の矛盾の強まり、多極化する世界との相互作用がアメリカ帝国主義に挑む政権を生み出し、その半封建的経済と政治的基盤を打ち破る可能性を認めていた。そのような根拠の上に、革命的左派はアメリカ帝国主義への反対と人民の利益に沿った進歩的改革のために、初期のドゥテルテ政権との同盟の可能性を提起した。しかし、ドゥテルテは就任以来数ヶ月の内に血塗られた麻薬戦争および数百の民間コミュニティーの軍事占領を実行することでマルコスにインスパイアされた彼の独裁者への願望をあらわにした」とある。
 さらに新自由主義経済政策の実行という点で、ドゥテルテ政権が掲げるいわゆる「十項目の経済政策」や五ヵ年の「フィリピン開発計画」が、これまでの政権と変わらない新自由主義にもとづくものであること、関税障壁を撤廃し地元の産業をむき出しの国際競争にさらす中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉を積極的に推し進めていること、そうしたなかで労働者の低賃金、契約労働(非正規職労働)が改善されず、社会正義の実現としての農地改革についても消極的であることが批判されている。
 こうして論文は、「ドゥテルテのアメリカ帝国主義への隷属、全面戦争、戒厳令に直面して、フィリピン人民にはその民族民主主義の大義を前進させるために革命闘争を遂行する以外に選択肢はない」として、「人民を固く団結させ、米国―ドゥテルテ体制に対する抵抗に動員するために全力を注ぐこと」をすべての革命勢力に呼びかけている。

 ●3章 闘うフィリピン人民に連帯を

 現状変革を求める人民の高い期待を集めてきたドゥテルテ政権は、しかし、この一年を通してその期待に応えられてこなかった。加えて、麻薬戦争における人権侵害の拡大、NDFPとの和平交渉の中断、ミンダナオ全土への戒厳令の布告など、その強権的対応を強めてきた。ミンダナオでの戒厳令をめぐっては、イスラム武装勢力掃討の中心舞台となっているマラウィ市ですでに四十六万人の避難民が生み出されるなど深刻な事態が続いている。
 また、ドゥテルテ大統領が強権的態度を強めるなかで、閣内の左派的部分への圧力が強まり、今年五月には環境破壊をもたらす野放図な鉱山開発に批判的であった環境大臣が解任された。続いてこの八月には、民族民主主義運動出身の社会福祉大臣も解任されている。
 こうしなかで、フィリピンの民族民主主義運動―革命勢力はドゥテルテ政権との対決へと向かおうとしている。それはまた、帝国主義による強まるフィリピンへの介入との闘いでもある。
 実際、米国のフィリピンへの介入は、ドゥテルテ政権による戒厳令の発動を利用して、このかん強められてきている。戒厳令下のミンダナオにおいて米軍はフィリピン軍の作戦行動への直接支援を行っている。さらに八月上旬の報道によれば、米軍の無人偵察機による直接の空爆さえも検討されている。これに対して、ドゥテルテ大統領は八月七日とのティラーソン米国務長官との会談の際、「私は東南アジアにおける米国のささやかな友人だ」とさえ述べている。また、日本の安倍政権も巡視船や自衛隊機の供与などを通してフィリピンとの軍事協力関係を引き続き強めようとしている。
 ドゥテルテ政権と対決し、帝国主義の支配・介入とたたかうフィリピン人民との連帯をいっそう強めていこう。きたる十一月十三日・十四日には、第十二回東アジア首脳会議がフィリピンで開催される。ASEAN首脳会合に引き続いて行われるこの会議には、米国のトランプ大統領や日本の安倍首相も出席する予定だ。これに対して、フィリピン人民運動は会場に向けた「民衆キャラバン」など大規模な抗議行動を展開する予定であり、これを国際的な共同闘争として闘うべく世界各地の反帝国主義勢力の結集を呼びかけている。この闘いを成功させ、反帝国際共同闘争とフィリピン人民への連帯を強化しよう。



 

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