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   継続する韓国「ローソク革命」



 昨年十月二十七日、PCタブレット内の情報をもとにマスコミで一民間人の大統領と同格での国政全般への関与と国家機密情報流出が暴露され、いわゆる「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」が一大社会問題となった。娘の梨花女子大不正入学と財閥による崔順実一家及び関係者への巨額の資金提供、平昌(ピョンチャン)冬季五輪関連事業の私物化、セウォル号事件に関する政府批判への対処としての「左傾」文化人・芸術家一万人を対象にしたブラックリスト作成、軍事・外交も含む政策決定および閣僚・大使の任命など政府人事権への崔順実の全般的関与など、今年に入って以降も新たな不正と腐敗の事実が次々に明らかになっている。崔順実に対して、朴槿恵は「院長様」、閣僚よりも上位に立つ青瓦台(大統領府)の側近は「崔先生」などと呼び、崔順実は側近を「キム」「パンダ」など、韓国では侮辱に当たる姓だけの呼称やあだ名で呼んだことも明らかになり、韓国政府の上位に大統領のマブダチが君臨していたことも暴露されている。
 この問題が明らかになった直後から、腐敗した朴槿恵政権への民衆の怒りと弾劾の声が全国各地での毎週土曜日のローソク集会デモとして急速に拡大した。最初の数万人から、最大の結集となった十二月三日には全国で二百三十二万人が朴槿恵の退陣もしくは逮捕を叫ぶに至った。現在のスローガンには韓国最大財閥サムスンの領袖である李在鎔(イ・ジェヨン)の逮捕も加わっている。ローソク集会デモには小学生からお年寄りまで、一般大衆が大挙参加している。政治的には進歩陣営から野党支持者、さらには自称「真正保守」(=反朴槿恵派)まで含む全人民政治闘争として今も展開されている。極右議員が「風が吹けばローソクは消える」と発言するや、LEDローソクが登場するなど、怒りの炎は三カ月以上にわたって燃え続けている。
 結果、大統領支持率は十二月には4%にまで落ち込み、「コンクリート支持層」といわれた保守派30%の支持は瓦解し、与党セヌリ党は一月に分裂した。野党は様子見を決め込んでいたが、民衆のたたかいに押され、国会では大統領弾劾決議が可決された。弾劾決議は憲法裁判所で現在審議中で、有効か無効かが遅くとも六カ月以内に出る。これとは別に疑獄の真相究明を使命とする特別検察が国会によって任命され、二カ月間(さらに一カ月延長可)の操作が進行中だ。現在まで、崔順実本人とその親戚・取り巻き連中、現職元職大臣を含む朴槿恵政権の側近多数が逮捕された。朴槿恵自身が今回の問題にすべて関与し決定していたことがこれまでに明らかになっている。「崔順実ゲート」が実は「朴槿恵ゲート=疑獄」であることがはっきりしたのだ。
 朴槿恵は弾劾無効を訴える文書を憲法裁判所に提出した。以降も、関与は一切していないと言い張っている。また、朴槿恵の弁護人は証人の大量申請や弁護人総辞任のカードをちらつかせるなど審理遅延策を連発。さらに、青瓦台への特別検察の捜査は国家機密を盾に政権側が拒否している。権力者と資本家の癒着の象徴である李在鎔の逮捕は裁判所により却下され、米国政府とともに財閥が韓国において不可侵の存在であることを韓国民衆は改めて思い知らされ、腐敗構造に対する怒りに油が注がれている。
 今回の「市民抗争」の背景には、第一に、新自由主義政策の失敗による経済危機(中国景気停滞の影響を正面から受けた貿易量の縮小、家計負債の増大、不動産投機バブル崩壊直前の危機)がある。第二に、対外的には南北対決の冷戦構造復活と、対内的には反政府勢力への徹底弾圧を特徴とする朴正煕時代への回帰を思わせる反動独裁政治の限界が露呈した。公務員労組と教職員労組を政府が労組とみなさずに労働法の適用対象から外した「法外労組」化、進歩政党の強制的解散と国会議員の逮捕、多くの高校生が溺死したフェリー沈没事故の放置と無関心、歪んだ歴史教科書の国定化、警察の放水による農民殺し、成績の「悪い」労働者が自動的に解雇になる成果年俸制の導入などがそれだ。第三に民衆抵抗運動の継続があった。セウォル号真相究明要求闘争、歴史歪曲教科書の国定化反対運動、12・28合意反対運動、THAAD配備反対星州(ソンジュ)住民運動、放水で殺害された農民の遺体解剖反対闘争、鉄道労組をはじめとする公共運輸労組の九月連帯ストなどだ。
 朴槿恵退陣闘争の意義は極めて大きい。権力の不正に対する民衆の抵抗闘争の爆発だ。規模は、一九四八年の韓国建国以来最大の規模だ。また、大統領府から百メートルの地点までデモ隊が肉薄したのも史上初だ。抵抗闘争の歴史が脈々と受け継がれている。高校生のデモ隊列の中には一九六〇年の大統領を退陣に追いやった4・19学生革命を継承するとの横断幕もあった。八七年民主化闘争を担った人々が「未完の革命」の完成を目指して連続して参加し、子どもを連れた同窓会の輪も合流している。
 だが、闘争の基調は「民主主義の回復」だ。社会体制の根本的転覆を掲げているわけではないことも事実だ。
 朴槿恵退陣闘争を構成する諸潮流のうち、主力部隊は議会野党即ちブルジョア左派の支持者だ。野党三党は、弾劾が有効になれば今年五月、無効の場合十二月の大統領選挙までの一年間の政治過程における主導権の確保と大統領選挙での勝利が目標だ。野党三党は、ローソク集会デモに押され、そのあとをついていっている。要求事項も街頭闘争に規定されて変更を重ねてきた。野党は、セウォル号事件、THAAD配備、労働法制改悪、日韓軍事協定締結のどれをとってもポーズだけの反対にとどまった。その求める所は金大中・ノムヒョン政権時への回帰であり、米韓軍事同盟と新自由主義という韓国ブルジョア階級にとっての基調を根本的に変更する意志はない。
 第二に、進歩陣営は、民主労総が主導する「民衆総決起闘争本部」から進歩陣営総体が参加する「朴槿恵政権退陣非常国民運動」へ衣替えをして現在の闘争を主導しているが、予想を超える民衆の結集と家族や小中高生が大量に決起している等の事情を鑑みた「平和デモ」戦術を取り続け、保守マスコミも絶賛する事態となっている。ただし、進歩陣営総体が推す独自の大統領選挙候補を押し立てるに至る可能性は極めて少ない。
 第三に、反朴保守派もローソクデモを「民心として受け止める」と評価せざるを得なくなっている。
 第四に、朴正煕支持派である極右勢力がカウンター集会デモを数万人規模で活発に展開している。これまでに政権が指示を出し、サムスンなど財閥から金をむしり取って極右団体の官製デモを支援したという事実も明らかになっている。参加手当は一人二万ウォン、風呂に入って来れば五万ウォン、乳母車を引けば十五万ウォンだ。
 今後の展望だが、憲法裁判所の裁定が出るのは早ければ三月で遅くとも五月、特別検察の結果が出るのが遅くとも三月だ。憲法裁判所で弾劾が有効と裁定されれば朴槿恵は失職し、二カ月以内に大統領選が行われる。しかし、弾劾無効裁定が出れば朴槿恵は一八年二月までの任期を全うすることになり、一七年十二月に大統領選挙が行われる。朴槿恵はこれを狙っている。そうなる可能性は少なくない。また、昨年末に期限の切れた潘基文(バン・ギムン)元国連事務総長を保守派候補として擁立しようとした。だが、これは彼の資質の問題と戦術の失敗で支持率が下落して、不出馬宣言の発表に至った。
 早ければ五月初めと言われていた大統領選挙の実施時期は、日ごとに不透明になっている。現在、民主党の文在寅(ムン・ジェイン)の支持率が二月二日現在で30%を超えて断トツだが、潘基文の大統領選レースからの脱落後に、大統領職務代行を務める総理の黄教安(ファン・ギョンファン)の支持率が急増している。右翼で朴槿恵疑獄の加担者である彼の候補擁立が現実味を帯びている。弾劾が否決されればマスコミと検察を「整理」すると朴槿恵が語ったという報道もあった。極右勢力を動員しての政権側の反撃が全面的に展開され、土俵際で持ちこたえたうえでの押し返しがなされるかもしれない状況だ。
 また、野党候補が大統領に当選したとしても、先述のように南北問題での一定の進展の可能性を除けば保守派大統領と本質的に変わらない政策に終始することは明らかだ。
 例えば、「THAAD配備の国会同意と国会特別委の設置、THAAD配置手続き中断を」要求する国会議員署名に応じたのは、一月現在で民主党百二十一人中六十三人、国民の党三十八人中二十一人、正義党六人中六人、無所属八人中五名の計九十五人だ。第一野党の民主党議員の約半数がTHAAD容認ということだ。
 「ひろばのローソクが支配体制に若干の亀裂をもたらしているものの、労働者民衆の生活の現場には変化がない」(労働党スポークスパーソンの許榮九氏)。一月には、成果年俸制阻止を掲げた三波にわたるストライキを違法と決めつけ、それを理由に釜山地下鉄労組幹部四十人に対して罷免又は停職の処分を下した。また、年間四千時間もの労働を強いられているバス運転手の平昌(ピョンチャン)運輸労組がスト中に連行された。他方、成果年俸制廃棄七十四日間ストライキを打ち抜いた民主労総公共運輸労組鉄道労組が鉄道公社を相手取り起こした報酬規定(就業規則)即ち成果年俸制導入効力停止仮処分申請を大田(デジョン)民事二十一部が一月三十一日に受け入れてもいる。
 二百万人を超える労働者民衆の怒りの決起が結果として「民主主義の回復」にとどまるのか、それとも資本主義社会の根底的変革にまで突き進むのか。現在の闘争局面は「改良か革命か」の分岐点、又は、「革命の始まり」ととらえるべきだろう。
 それゆえ、韓国左派の主流派としての登場が歴史的に要請されている。また、韓国左派と結合する日本における日韓連帯運動の強化が我々にとっての責務だ。「崔順実ゲート=朴槿恵ゲート」は、韓国のブルジョアと国家権力の構造的腐敗と矛盾を部分的に露呈した。政権交代にとどまらない、資本主義変革に進むたたかいが必要だ。そのための主体力量を確立することが求められている。左派はそれを非正規職労働者の組織化を中心に据えた労働者民衆勢力の登場として展望している。そのためのたたかいの主なスローガンは、財閥解体、新自由主義打破、日米韓軍事同盟解体、朝鮮半島の非核化、自主的平和統一などといえるだろう。それらの課題を掲げて実現する左派勢力の登場が労働者解放・民族解放のために強く求められているのだ。韓国左派と結びつく日本労働者階級人民の国際連帯闘争をさらに前進させていこう。
 次は日本の番だ。

【訂正】本紙第一四九四号の訪韓報告記事中、「六千三百五十ウォン(約六百円)」を「六千三十ウォン(約五百七十円)」に、国会前ハンストの「二十二日間」を「二十一日間」にそれぞれ訂正します。


 

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