共産主義者同盟(統一委員会)






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   ■激しく流動するアジア情勢

   
韓国・フィリピンで前進する人民の闘い


 


 このかんアジア太平洋地域における情勢は各国・地域において激しく流動している。米国のいわゆるアジア回帰とそれに対する中国の対抗のなかで、この地域の情勢はさらに大きく激動していくだろう。それは米帝の歴史的没落と資本主義の不均等発展のなかでもたらされている世界規模での新しい政治流動のアジア太平洋地域における反映である。そのなかで、労働者・民衆のたたかいが着実に前進している。立ち上がるアジア太平洋地域の労働者・民衆と連帯し、帝国主義の支配をくつがえす共同闘争をさらに力強く前進させていかねばならない。ここでは、このかんのアジア各国の激動のなかでのいくつかのテーマをとりあげる。

 ●第1章 新自由主義がもたらした韓国・セウォル号事故

 四月十六日に韓国南西部の全羅南道・珍島沖で発生した旅客船セウォル号の転覆・沈没事故は、韓国社会に大きな衝撃をもたらしている。乗客乗員四百七十六人のうち、修学旅行で済州島に向かう途中だった檀園高校の生徒ら三百余人がこの事故によって命を奪われた。韓国では犠牲者とその遺族に対する哀悼と同時に、事故をもたらした船舶会社の利益優先の実態と韓国政府のずさんな事故対応に対して労働者・民衆の怒りが拡大している。
 清海鎮海運が所有する大型旅客船セウォル号は当日、濃霧のため定刻から約二時間遅れて仁川港を済州島に向けて出港した。その遅れを取り戻すために本来の異なる航路をほぼ全速力で進む途中で急旋回し、そのために荷崩れを起こして横転した。このとき、セウォル号には車両百八十台や大型タンク三台など約三千六百トンの貨物が積載されていた。これは船の復元力(船が傾斜した状態から元に戻る力)が維持される上限の三・六倍にあたる。また、積荷をより多く載せ、過積載を隠蔽するために、船体を安定させるのに必要なバラスト水があらかじめ抜かれており、基準の四分の一しかなかった。これらが事故の直接的の要因となった。そしてまた、「動かないでください」という誤った指示が、救えたかもしれない多くの命を奪った。
 韓国政府の初動対応も実にひどいものであった。朴槿惠(パク・クネ)政権のもとに設置された事故対策本部や安全行政部は事故を小さく見せかけるために虚偽の発表を繰り返した。海洋警察は、救出に必要な海洋クレーンの使用料をどちらが負担するかをめぐって清海鎮海運と対立し、クレーンの出動を大きく遅らせた。また、行っていない救出作業を実施しているかのように説明して、乗客の家族の激しい怒りを買った。救出作業員の規模や体制についても虚偽の説明を繰り返した。
 しかしその後、それだけでなく、利益を優先し、安全対策と安全を無視してきた清海鎮海運の実態が次々と明らかになった。貨物の過積載は日常的に行われてきた。救命ボートも固定器具が錆びついて、手では外せず、実際には使えない状態であった。二ヶ月前に実施された特別安全点検の際に救命ボートの安全点検を行ったはずの整備会社は、実は検査を行っていなかった。この特別安全点検ときに不具合が指摘された他の箇所についても、措置をとったという報告がなされているだけで、実際には修理されていなかった疑いが濃い。老朽船であるがゆえに、操舵機をはじめとした機器に度々の故障が発生していた。また、船員への緊急時の避難教育もなされていなかった。清海鎮海運が昨年、研修など船員教育のために使った必要は総額でわずか五十四万ウォン(約五万三千円)であった。セウォル号の操船関係者十五人のうち、船長を含む九人が非正規雇用労働者であったことも、社会に衝撃を与えた。
 セウォル号はもともと日本の海運会社マルエーフェリーが所有し、旅客フェリーとして十八年間就航して退役したものを清海鎮海運に売却したものである。清海鎮海運はこの老朽化した船を買い取った後、一度により多くの乗客や貨物を載せて利益をあげるために客席等の増改築を行った。このために、船の重心が上部に移動し、船の復元力が大幅に低下した。
 この背景にあるのは船舶の規制緩和だ。二〇〇九年に当時の李明博(イ・ミョンバク)政権は、旅客船の船齢制限を二十年から三十年に大幅に緩和した。これによって、船舶会社はより長期間にわたって旅客船を運航できるようになり、また、より低コストで老朽化した船舶を確保することができるようになった。日本など外国の船舶会社にとっては、自国で運航できなくなったは老朽船を韓国に売りつけることが可能になった。こうした規制緩和策の恩恵を受けて船舶の取得コストを削減し、また、非正規雇用によって人件費を抑え、安全対策には支出せず、ただただ利益の拡大を追及してきた結果、ついにとりかえしのつかない事故が引き起こされたのだ。
 このような、乗客の生命、安全よりも利益を優先する資本の貪欲さ、それを支えるために韓国政府が推進してきた規制緩和が、セウォル号の転覆・沈没事故をもたらした根本原因に他ならない。AWC韓国委員会はこの事故を「資本の規制緩和を推進した新自由主義政策と腐敗した韓国資本主義体制の産物」と端的に指摘している。
 朴槿惠(パク・クネ)政権はすべての責任をセウォル号の船長ら乗組員、あるいは清海鎮海運や海上警察庁に押し付けようとしてきた。しかし、遺族および社会からの批判が政府の対応にも及ぶなかで、四月二十九日になって「初動対応や収拾が不十分だった。多くの尊い命を失い、国民の皆さんに申し訳なく、心が重い」と「謝罪」した。しかしそれは遺族に向けたものではなく、非公開の閣議のなかで述べたにすぎなかった。それゆえかえって批判を拡大し、遺族対策委員会も「謝罪として受け入れることはできない」と声明し、また、大統領との面会を要求した。朴槿惠が青瓦台で遺族との面会に応じ、遺族に直接謝罪したのは事故発生から一ヵ月後の五月十六日のことだった。この場で遺族は、特別法の制定による真相究明とそこへの遺族の参加、大統領や政府機関を含め必要なすべての機関を調査対象とすること、すべての関連情報の透明な公開などの六つの要求を明らかにした。
 その後、五月十九日、朴槿惠は「国民に向けた談話」を発表し、「事故に十分に対処できなかった最終的な責任は大統領である私にある」と認め、海上警察庁を解体する方針を明らかにした。しかし、この談話は特別法の制定をうたっているものの遺族の参加には触れず、遺族からの他の要求にはまったく言及していない。
 こうしたなかで、犠牲者への追悼と共に朴槿惠に対する批判が社会的に拡大し、それは今、大統領退陣要求へと発展している。
 五月十日、檀園高校がある安山市には二万人が集まり、「セウォル号犠牲者の追慕と真実を明らかにする国民キャンドル行動」が行われた。五月十三日の四十三人の教員による大統領退陣を求める教師宣言に続き、一万五千八百五十三人の教員が「国民の生命を守る意志も能力もない大統領は、もはや存在する理由がない」とする実名での教師宣言を発表した。五月十七日にはソウルの中心部・光化門の清渓広場で「汎国民キャンドル行動」が開催され、五万人が集まった。民主労総はこの取り組みと同時に、清渓広場での座り込みに突入した。こうした取り組みと並行して準備が進められたきた「「セウォル号惨事国民対策会議」が五月二十二日に正式に発足した。ここにはさまざまな社会層を包含する六百十団体が参加している。五月二十四日には第二次の大規模な行動がキャンドル行動が開催される。こうした民衆の動きに対し、朴槿惠政権は五月十七日から十九日の三日間だけで二百四十六人を逮捕・連行するなど、強権をもって民衆の動きを押さえつけようとしている。
 セウォル号の事故は、さらにメディアのあり方を含めて韓国社会のこれまでのありようを問い、人命よりも資本の利益が優先される社会の変革を求める行動に人々を立ち上がらせている。しかし、いうまでもなく、これは韓国の労働者・民衆だけの課題でない。新自由主義政策に直面しつづけているわれわれ日本の労働者・民衆、そして全世界の労働者・民衆が共同して立ち向かうべき課題なのだ。

 ●第2章 米軍駐留を公式化する米比防衛協力強化協定

 米国防総省が今年三月に発表した「四年毎の国防計画の見直し」(QDR)は、「アジア太平洋地域へのより広範囲なリバランスを支えるために、米国は北東アジアで強固な駐留を維持し、オセアニア、東南アジア、インド洋でのプレゼンスを高める」と述べている。これは二〇一一年初頭以来のいわゆる「再均衡(リバランス)戦略」を引き継ぐものであり、実際に今、沖縄や日本「本土」を含むアジア太平洋各地で米軍基地と米軍の展開態勢が強化されている。そのフィリピンにおける最新の現われが、米比間での新たな軍事協定の締結である。
 さる四月二十八日、駐フィリピン米国大使フィリップ・ゴールドバーグとフィリピンの国防大臣ボルテア・ガズミンは、「米比防衛協力強化協定」(EDCA)に調印した。その核心的内容は、①米軍によるフィリピン軍基地の使用、②フィリピン軍基地内における米軍基地の建設、③米軍のフィリピンへの「ローテーション配置」、④フィリピンへの物資等の事前集積を二国間協定によって認めたことにある。
 一九九一年に在比米軍基地の継続使用の批准がフィリピン上院によって否決され、同年中に米軍はフィリピンからいったん撤退した。しかし、米国政府はフィリピン政府とのあいだで、一九九八年に米軍のフィリピンへの寄港と「一時滞在」を認める「訪問軍協定」(VFA)を締結し、合同軍事演習などを口実にした米軍のフィリピン再駐留への道をこじ開けた。その後、二〇〇一年に九・一一事件が勃発すると、フィリピンは米国にとって「対テロ戦争」の「第二戦線」と位置づけられ、二〇〇二年の米日合同軍事演習「バリカタン」への参加を口実にフィリピンへの再駐留を開始した。以来、今日まで約七百人の米兵がフィリピン南部のミンダナオ島を中心に駐留し続けている。だから今回の米比防衛協力強化協定によって、これから米軍のフィリピンへの駐留が再開されるわけではない。新協定はVFAに違反してこれまで続けられてきた米軍のフィリピン駐留を公式化するものとしてあり、フィリピン国内に米軍基地をつくることを公式に認めるものとしてある。フィリピン軍基地のなかとはいえそこにはフィリピンの国内法は適用されない。
 ところでフィリピン憲法には以下のような条項がある。「米比の軍事基地協定が一九九一年に失効した後、上院が正式に条約に同意し、さらに議会の要求に応じて国民投票での過半数の賛成と、締結相手国による条約としての承認があれば、外国の軍事基地、軍隊または施設は、フィリピン国内において許される」(第十八条二十五項)。つまり、上院の批准あるいは国民投票での過半数以上の賛成がなければ、フィリピン国内における米軍基地の建設や米軍の駐留は認められないとうたっているのだ。VFAでさえフィリピン上院での一年以上の議論を経て、ようやく批准された。しかし、フィリピン政府は「今回の協定は一九五一年に締結された米比相互防衛条約の範囲内であり、その条約を促進するものであるので、上院の批准は必要ない」などとして、上院での批准なしにすまそうとしている。また、今回の新協定の具体的な文案は、米国大使とフィリピン国防相のあいだの調印が済み、米比首脳会談を終えて米国大統領オバマがフィリピンを去るまで民衆のみならず上下院議員にまで一切公表されてこなかった。このようなでたらめなやり方にはフィリピンの上院議員のなかにも反発を生み、新協定の締結プロセスに関する調査を要求している議員たちも存在する。
 米国政府は今回の米比防衛協力強化協定によって、フィリピンへの米軍駐留態勢を飛躍的に強化しようとするだろう。すでに米海兵隊が南沙諸島に近いパラワン島に前進指揮所を建設することを検討指定したことが報じられている。今回の新協定はこの章の冒頭に述べたように、米国のアジア太平洋地域における「再均衡戦略」のなかに位置づけられ、この地域において無視しえない大国として台頭する中国への軍事的対抗、軍事的包囲の強化を目的としているからだ。米国大統領オバマは米比首脳会談後のアキノ大統領との記者会見で、「フィリピンは戦略的な位置にある」とその意図を語っている。米国は南沙諸島をめぐるフィリピンと中国のあいだの領土紛争の存在をその口実にし、フィリピン軍の近代化を支援するなどという名目で新協定および東南アジアにおける米軍プレゼンスの増強を正当化しようとしている。しかし、米軍プレゼンスの増強と領土紛争への米国の政治的・軍事的介入は、それに対する中国の側の対抗措置をも引き出しながら、東南アジアおよびアジア太平洋地域における軍事緊張をさらにいっそう拡大するものになるだろう。
 このフィリピンへの駐留について、恒常的駐留ではなく、「一時的に、巡回ベースで」なされるという説明がされている。いわゆる「ローテーション配置」でだ。フィリピン政府もまた民衆に向かってそのように説明することで、批判の高まりを少しでもかわそうとしている。しかし、部隊が入れ替わったとしても米軍がフィリピンに切れ目なく駐留し続けることにはかわりがない。また、新協定の有効期限は十年間といったことが日本のメディアでも紹介されているが、協定は「どちらかの側が終了を通告するまでは自動的に継続される」とあり、永続的な協定なのだ。
 新協定はまた、「装備、補給品、物資の事前集積」を認めている。これについては現在「対テロ戦争」の展開のためにアフガニスタンに配備されている物資がフィリピンに再配置される可能性が高い。それを「人道支援・災害対応」に活用すると米軍は説明しているが、米軍のフィリピン駐留の目的は、先に述べたように中国に対する軍事的対抗・軍事的包囲にあり、また、フィリピン国軍と共同したフィリピン国内における「対テロ戦争」の推進にある。「人道支援・災害対応」にあるわけでは決してない。
 フィリピン軍基地内における米軍基地・施設の建設にかかわる作業管理権は米国側にある。米軍が使う水光熱費はフィリピン側が負担する。新協定には「核の持ち込みの禁止」や「(フィリピン国内の環境法の遵守」などの制限条項がある。しかし、VFAの条項に違反して、米軍がフィリピン国内に駐留し続け、対テロ戦争を展開してきたように、これらの制限条項はいとも簡単に破られてしまうだろう。フィリピン新民族主義者同盟(BAYAN)は、今回調印されたこの米比防衛協力強化協定(EDCA)について、次のように述べている。「EDCAは相互防衛条約や訪問軍協定などこれまでに米国と結ばれたあらゆる既存の条約を超えるものだ。これはまったく新しい状況だ。フィリピン政府は今、具体的に米軍に割譲する地区を検討している。紙の上では、私たちフィリピン側がこれら合意される場所の所有者であるが、実際には、米国がその地区の治安管理を含む運用管理権をもつことになる」「EDCAは不平等であり、それゆえ私たちの主権を侮辱している。フィリピン憲法が定める法的プロセスも経ていない。EDCAはフィリピン全島に米軍が駐留する機会を拡大する。それは米軍部隊を受け入れる財政的・社会的な負担をフィリピンに負わせ、また、国内・国際の司法に訴えるべきなのに、何の議論もなく米軍に不処罰を与えている」(五月二日付けニュース・リリース)。BAYANはオバマの来比と米比防衛協力強化協定に対して在マニラ米国大使館に対する激しい抗議行動を展開した。米軍駐留態勢の固定化・強化とたたかうフィリピン民衆との連帯を強め、アジアから米軍総撤収を実現する共同闘争をさらに発展させていかねばならない。

 

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