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■1657号(2024年5月5日)6面 韓国総選挙の持つ意味 ―政権弾劾と社会の右傾化 国際部 四月一〇日に韓国国会の総選挙(一院制、全三〇〇議席、うち地方区二五四、比例代表四六)が行われ、与党が惨敗し、野党が圧勝した。獲得議席数は、与党が「国民の力」九〇(「未来統合党」だった前回に比べ六増)に同党系比例専門政党「国民の未来」一八(「未来韓国党」だった前回比一増)を合わせた計一〇八(同五増、全議席の36・0%)、野党は、まず「共に民主党」一六三(前回と同じ)に「共に民主連合」一四(「開かれた民主党」だった前回比一一減)を加えた一七五(前回比五減、58・3%)、「祖国革新党」一二(今年三月結党、4・0%)、国民の力から割れた「改革新党」三(1%)、進歩党一(地方区、前回〇)だった。前回六議席を獲得した進歩政党の正義党は、今回緑の党と連合して「緑正義党」を結成して臨んだが、政党得票率2・14%で議席確保の必要条件である3%に達せず、議席を失った。総じて、与党が三分の一強、野党が三分の二弱の議席を得る結果になった。 ●メディアの評価 マスコミはどう評しているか。新聞の社説の題名を見てみよう。まず、日本で言えば産経・日経・読売に当たる右派の「朝中東(チョジュンドン)」だ。 朝鮮日報「傲慢で意思不通の尹を民心が審判、残り三年の国政をどうするのか」 中央日報「惨敗した執権与党、与野党協力と意思疎通へ国政の基調を全面的に革新せよ」 東亜日報「類例のない与党惨敗……国民は尹大統領を厳しく叱責した」 どれも構文が長く、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権への怒りと絶望とやり切れなさに心底打ち震えており、結果は当然だ、と突き放している。特に保守勢力の司令塔(殆どみな多角経営の大企業である韓国メディアの影響は日本と比較できないほど広く深い)である朝鮮日報の「もう駄目だ」的な深い慨嘆が印象的だ。 次に、中道左派(毎日新聞・東京新聞的位置だ)はどうか。 京郷(キョンヒャン)新聞「民心は尹錫悦政権を厳しく審判した」 ハンギョレ新聞「国民は尹大統領を審判した」 簡潔な構文だ。予想通り、ということだ。 つまり、総選挙は当然の結果になった、という評価で韓国メディアは一致している。 ●敗北を招いた政権の失政 では、当然の結果を招いた原因である現政権のこの二年間の失政はどういうものか。 第一に、経済分野では、まず、民主党の協力を得て金持ちと企業に対する減税を行って収入が数十パーセント減る一方、政府機関関連は現状維持だが研究開発・福祉・教育分野など庶民の生活に直結する予算を大幅に減らし、抗議の声を大統領警護室が物理的に封殺した。次に、今年に入ってリンゴ一個一万ウォン(約一一〇〇円)を超えた日があるなど、食料品を中心に物価高が今も続いている。最低賃金は今年一月一日以降九八六〇ウォン=一〇九〇円(全国一律)なので、昼食とほぼ同額だ。実質賃金は下がり続けており、労働者民衆の生活は苦しくなる一方だ。労働者性が今も否定されている宅配などのギグ・ワーカーなど個人事業主や零細企業も将来の不安と絶望しかない人たちで溢れている。選挙直前には大統領がスーパーに行って一束八七五ウォン(約一〇〇円)というおよそあり得ない価格の長ネギを見て「物価は安定している」と言って社会的な批判を浴びた。そのため、長ネギを持っての事前投票所来訪を選挙管理委員会が禁止した。後述の海兵隊兵士死亡事件と共に人々の怒りに油を注ぎ、選挙結果につながった。続いて、企業でも、最大の貿易対象国だった中国及び一〇〇〇社以上が進出していたロシアとの交易が現政権の米帝追従の中露への非難で激しく減少した。最後の活路と想定したASEAN諸国も中国企業との結びつきが極めて強固で、経済成長率がOECD加盟国中で最低水準と低迷している。総じて、日本と同様、貧富の差が拡大して生きていけなくなっている人が増えているのに、政府はそれを放置し、大企業だけが儲け続けている。 第二に、政治分野では、まず一年半前から、記者会見が一度も開かれていないことだ。野党党首との会談もない。討論したり批判に耳を傾けたりといった意思疎通のできない大統領との評価が保守も含めて出されている。朴槿恵(パククネ)元大統領と同じだ。 次に、労働弾圧だ。一昨年の造船非正規職労働者とダンプ運転手の労組である運輸連帯への弾圧、一昨年から昨年にかけて特に建設労組に対する国家保安法弾圧、昨年の労組会計簿の提出を強要する攻撃など、現政権の労働政策は労組潰し・労働運動弾圧で一貫している。加えて最低賃金引き上げを抑制する圧力をかけ続けている。 続いて、外交の私物化だ。月一回という高い頻度で外遊し、つれあいは当地でブランド品を買いまくるとともに慈善事業などの記念写真を撮って政府ホームページ掲載写真では夫を差し置いてセンターを確保した。ところが、そうしたあり方が批判を浴び、今年に入ってドイツとスウェーデンの国賓訪問を数日前に取り消した。国賓訪問には全国家機関の約一年間の準備が必要で、ブルジョア政治の基準では大変な侮辱だ。また、それに先立つオランダ訪問では韓国側の余りに無礼な態度にオランダ政府が韓国大使を呼び出して「処置」(厳しい叱責)をする異例の事態となった。現大統領が検事だった時の方法論を維持して外交を食い物にしている。 さらには、今年に入って十数回開いた「民生討論会」というバラマキ公約発表会での大統領の露骨な選挙介入、政府による医大生定員二〇〇〇人増員計画の一方的発表とそれに抗議する研修医・医大教授などの集団辞職による医療現場の崩壊、投票日直前の計三日間にわたり野党代表を裁判所に呼び出すなど検察の露骨な選挙妨害、テレビ放送局に対する政府批判表現にとどまらず無関係な表現までも懲罰を重ねるなど、スウェーデンの「民主主義の多様性研究所」が年次報告書で韓国を「独裁化が進んでいる国」に分類するほどの専制政治が選挙期間中に激しさを増した。 第三に、軍事分野だ。二二年秋の日米韓合同軍事演習の再開、同時期のシンガポールでの日米韓共同声明、同一一月の韓国独自のインド太平洋戦略の発表、二三年三月の日韓首脳会談とウクライナへの武器輸出の暴露、四月の米韓首脳会談、八月の日米韓首脳会談、秋の三国実務者協議で韓国軍が「台湾有事」を含むインド太平洋地域への作戦範囲拡大の決定、一一月の南北間の9・19合意の破棄(朝鮮半島の過度の軍事的緊張を危惧する米帝がこれを歓迎する発言を遂にせず、事実上不満を表明。他方で米帝は今年三月に岸田がぶち上げた日朝間の交渉を国務省が公式に「歓迎する」と表明)、今年に入り、朝鮮民主主義人民共和国が総選挙に対して軍事挑発するという趣旨の発言を国防大臣などが連発したものの「韓国リスク」が浮上して株価が急落するや、株取り引きをしている当人の発言の途絶などがあった。 また、昨年以降、中国と競争しつつも協力関係維持を現段階での外交基調とする米帝は、ロシア・ウクライナ戦争とイスラエルのパレスチナ人民虐殺戦争に深く関与するなかで、第三の戦争勃発地点と指摘される朝鮮半島及び台湾での現時点での戦争突撃の困難性を認識しているが、三月の例年の米韓合同軍事演習に核搭載爆撃機をはじめとする「軍事資産」を一切動員しないなど軍事動員を抑制し、また異例なことに報道をほぼ統制することで、「共和国が朝鮮戦争を決断した」「朝鮮半島の戦争危機がかつてなく高まっている」とする米国内学会の言説を受けつつ、鎮静化に全力で努めているという状況だ。 第四に、大統領本人と連れ合いの金建希(キム・ゴンヒ)および側近の不正疑惑に対する検察の無捜査=たなあげだ。金建希一家の高速道路建設予定地先買い疑惑。金建希のドイツモータース株価操作疑惑とブランド品などの賄賂授受。大統領最側近の韓東勲(ハン・ドンフン)の子どもの学校教育関連疑惑。昨年夏の豪雨災害で人命救助の過程で死亡したチェ海兵隊上等兵が殉職した事件で事実隠蔽のために元国防大臣のオーストラリア大使任命と出国(「逃亡」と批判された)ならびに二週間後の突然の帰国と辞任など海兵隊司令官も含めた上司の責任を隠蔽して責任を現場だけに押し付けた疑惑。このような政権与党関係者の案件が放置されて山積み状態だ。 総じて、正直に働いている一般庶民が食べていけない一方で、権力者と金持ち層が不正に手を染めて私腹を肥やす現状への憤怒が積もりに積もって吹き出す寸前に達していて、それが大統領に対する実質的な弾劾として爆発した。例えば、取材を受けた釜山の人々の中には釜山馬山抗争の歴史を語り、その延長線上に投票を位置付ける発言が多数あった。義を見てせざるは勇無きなり、ということだ。民主化運動の精神が心の中に生きている。 当選者数を見る限り前回の総選挙と大差ないが条件が全く異なる。野党の民主党にとって、前回はコロナ事態という未曽有の状況があり、かつ、政権与党という極めて有利な条件の中で支持を集めた。だが今回は野党という不利な条件だった。しかし、上記の労働者民衆の怒りが総選挙を「政権審判」選挙に押し上げて、野党が過半数を史上初めて超える、それも、大統領の拒否権を拒否できる二〇〇議席に肉薄するほど大きく上回るという結果になった。大統領は政策実行力を失った、七年前の街頭闘争によるろうそく革命に次ぐ投票という形での「長ネギ革命」だ、という論評がメディア報道を埋め尽くしており、先述の新聞社説題名も併せ、政権与党の受けた衝撃は巨大だ。政府は、総理をはじめ大臣の辞職が相次ぎ、日本の内閣府に当たるが権限のより大きい大統領室も政府の司令塔である第一次官金泰孝(キム・テホ。日米韓準軍事同盟を推進する親日派)のいる国家安保室を除いて総辞職した。が、後任者として浮上しているのはほとんど極右だ。 韓国には特別検事法がある。検察庁高位幹部、大統領や長官など高位公職者が捜査対象になった時に国会で該当事件についての同法が成立すると、独立的な地位を持つ「特別検事」が事件捜査に当たる。捜査対象、捜査範囲には制限がない。国会では今後、金建希、韓東勲、チェ上等兵死亡事件についての特検法が次々に審議・議決される「特検国会」になる。事実上の弾劾を食らったにもかかわらず、大統領がこれまでと同じく拒否権を連続発動する確率が高いが、そうなれば、大統領の任期を短縮するための憲法改定、さらには大統領弾劾へと政治が動いていくものと思われる。なかでもチェ上等兵死亡関連特検法については安哲秀(アン・チョルス)など与党内の非大統領派から賛成票を投じるとの声が早くも上がっていると同時に、責任を逃れた軍幹部の間に動揺が広がっていて真実を語る「良心宣言」をする可能性がある。いずれにせよこの問題の真実が解明されれば司令官・元国防長官だけでなく事件の大本と推定される大統領の違法行為が明らかになる確率が高いが、違法行為は弾劾事由に該当する。故に大統領弾劾=打倒へ流れが加速する可能性が少なくないが、文在寅(ムン・ジェイン)前政権がろうそく革命の公約を貫徹できなかった事例を念頭に、その後の政策の構想と実践がカギになるとの指摘が多くなされている。 ●各政治勢力にとっての意味 許榮九(ホ・ヨング、AWC韓国委員会代表)は今回の総選挙を次のように評している。 「全有権者四四二五万一九一九人のうち、投票率67%で、二九六四万八七八五人が投票に加わった。共に民主党は投票者の58・33%、一七二九万四一三六人の得票で一七五議席を確保した。一方、国民の力は総投票者の36%、一〇六七万三五六二人の得票で一〇八議席を確保した。全有権者対比各党得票率を見ると、共に民主党の場合39%、国民の力は24・1%を得票した」。 「ビジョンと政策公約の対決は目にすることができず、第二〇代大統領選挙の尹錫悦対李在明(イ・ジェミョン)対決の延長線上にありました。結果は、第二一代〔総選挙〕と同じく、守旧保守派の与野党の巨大両党が議席を独占し、進歩左派陣営は没落、または、共に民主党の衛星政党第二中隊に編入されました」。 惨敗したブルジョア右派の国民の力は、選挙指導部が総辞退して混乱状態に陥っており、大統領批判の声が高まっている。国会議員は大統領よりも任期(四年)が長い(大統領の残りの任期は約三年一か月)ので大統領の顔色を窺わない政権批判発言が早くも続出している。他方、圧勝したブルジョア左派の共に民主党は、大統領審判を推し進めるとしながら、二五年の地方選挙、二七年の大統領選挙を意識して、謙虚な姿勢を忘れない、と強調し、大統領が拒否している与野党領袖会談を求めている。 共に民主党は、韓国では自称他称「進歩勢力」「民主勢力」「改革勢力」であり、日本でも 「進歩(革新)系の最大野党」(朝日)、「進歩系の最大野党」(毎日)、「左派系最大野党」(読売)、 「革新系の最大野党」(NHK)、「革新系最大野党」(産経)と規定されている。しかし、統一政策・人権問題では極右の与党よりは確かにましだが、財閥と深くつながり、開発推進、原発推進、気候変動問題への対処実質なしという基本政策では与党と共通しており、労組活動家出身議員はいるものの労働政策では結局資本家の利益を代表する保守政党に過ぎない。 今回の総選挙で台風の目になったのが比例代表区だけに候補を立てて一二人当選した祖国革新党だ。数年前に尹錫悦検事総長(当時)から家族ぐるみの弾圧を受け、日本のマスコミからは「玉ねぎ男」と品性ゼロの嫌韓丸出しの罵倒を食らい、自身も裁判闘争中で今年の刑事裁判控訴審において実刑判決を受け、今後上告審で有罪判決を受けて収監され議員職を剥奪される確率の高い曺国(チョ・グク)元法務大臣が、第二審判決直後に政党結成を宣言した。進歩民主「船団」の本船である民主党と協力しつつ、より進歩的で強力で実践的な「曳船」の役割を果たすと自らを位置付けた。総選挙の戦術として、比例区のみに候補を立てて小選挙区では与野党一対一の構図を作って野党候補を支持する、とした。マスコミはこれを「チョグク新党」と呼んだが、彼の名と同じ綴りの「祖国(チョグク)」と「新党」の間に「革」を挿入して「祖国革新党」として投票日ひと月前の三月三日に曺国を代表として結党した。同党は、元検事・弁護士を中心に技術・外交・政策・医療など各界の専門家を候補に据え、「(現政権の残りの任期である)三年は長すぎる」(大統領任期は五年)、「現政権の早期退陣」を掲げて、民主党支持基盤のみならず「中道」からも多くの支持を得た。民主党支持基盤の単なる分割ではなく、中道の多数の支持を取り込んだ「パイの拡大」すなわち「進歩民主勢力」が急増し、それが、小選挙区での民主党候補の支持拡大さらには与党盤石区の転覆にもつながる結果をもたらした。 民主党と祖国革新党は、資本論にも出てくる、現状を憂う善良でよりましな資本家の立場であり、その代弁者だ。後者に労働者候補はいない。前者の労働運動出身候補も政策内容では経営側に配慮し、民主労総の主張と明確に一線を画す。両党ともに労働解放に向かう労働政策が欠けている。 進歩左派陣営はどうだったか。二〇〇〇年に結成された民主労働党の流れをくむ主な政党は、進歩党・緑正義党・労働党・社会民主党(数年前に正義党から分岐)だ。民主党は選挙制度上より多くの議席を獲得するために形式的に独立した比例区専門政党として「共に民主連合」を作った。これは、「共に民主党」を軸に進歩党・社会民主党・基本所得党および市民団体の候補が合流した連合政党だ。連合とはいえ、実質は合流だ。進歩陣営の一部が民主党に合流することは金大中政権以来、繰り返された事態ではあるが、今回も再現された。巨大政党と協力する中での独自性の発揮は容易ではない。 進歩党は上記の連合政党への候補者名簿入りに加えて小選挙区の多くで民主党との候補一本化を行い(一部競合した)、協力関係を深めた結果、小選挙区で一人当選した。同党には民主労総中央指導部の少なくない部分が所属しているが、議会で協力しているのに現場で闘えるのか、法制定や争議において企業側に結局は立つ民主党のブルジョア的提案及び仲介と争えるか、懸念を禁じ得ない。進歩陣営内でも批判の声が大きく上がっている。他方、今年に入って正義党と緑の党が一つになって緑正義党を作り、連合政党には加わらず、小選挙区と比例区で候補を立てた。複数の元民主労働党国会議員(タンビョンホ元委員長と元全農議長)が現場で応援演説し、また、民主労総の金属労組委員長も映像で支持発言をした。また、労働党も三人の候補を擁立した。しかし両党ともに当選を勝ち取ることができなかった。 さらに、政策上の問題点も多くあった。その一つである原発政策を見てみよう。韓国の原発は稼働中が二五基、建設中が四基だ。 まず、労働党の総選挙公約案には「寿命の尽きた原発の寿命延長禁止及び新規原発建設中断」とあるが、肝心の公約には「原発」「原子力発電所」という言葉自体がない。「反原発」も「脱原発」もない。つまり、原発政策がない。 次に、緑正義党の公約は、「原子力振興法の廃止など、早急な脱原発を実現していきます」という題目の下、 「・原子力振興法を廃止して原発拡大政策の基盤解体 ・設計寿命が満了する老朽原発の閉鎖、新規原発の建設中断 ・原発が位置する地域に高レベル核廃棄物貯蔵施設の建設禁止 ・パイロプロセッシング(乾式再処理法)など一切の核再処理の試みの禁止、高レベル核廃棄物直接処分の推進」とあり、政党の中で最も鮮明だった。 続いて、祖国革新党は公約で、「時代錯誤的な原発強化政策」と現政権を批判し、「二〇三〇年までに再生可能エネルギーの割合を30%に、二〇五〇年までには80%に拡大します」としている。そのため、全発電に占める原発の割合は結果的に減ることにはなるが、原発政策はない。 国民の力と共に民主党は原発推進、原発輸出推進だ。民主党系連合政党に加わった進歩政党はこの政策から自由ではありえない。 ●日韓労働者民衆連帯運動にとっての意味 韓国総選挙は、韓国民衆の民主化運動の原動力がろうそく革命に続いて復活し、大統領に審判という事実上の弾劾を下したが、同時に、七年前と同様にブルジョア左派がその成果を丸ごと手に入れ、進歩左派勢力は一部がブルジョア陣営に移行して残りが国政の足場を失い、総じて政治の右傾化が進み、一歩前進二歩後退だった――というのが筆者の結論だ。 民主党及びそれと進歩政党との協力について考えてみる。 現政府に批判的な評論家は緑正義党の議席確保失敗の原因を、過去四年間の組織内問題に加えて、先の大統領選挙で独自候補を立てて「進歩民主勢力の支持を分散させて現大統領当選を結果的にもたらした」点、イジェミョン民主党代表の逮捕同意案の投票で賛成に回るなど、民主党との協力関係を拒否して独自路線を選んだので、支持層の多くが祖国革新党に回って支持を失った、などの点に求めている。 大いに疑問だ。「進歩民主」または「民主進歩」という括りは正しいか? 民主党を進歩とする分類が妥当とは到底思えない。保守内改革派であり、支配階級の利益の代弁者であるブルジョア左派だ。それが民主化運動と進歩陣営の闘いの成果を喰らいながら国民の利益を掲げて勢力を維持・発展させて来た。著名な労働弁護士だった盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時の無慈悲な労働運動弾圧の水準と自殺する労働者数が史上最高を記録したことを忘れられない。ブルジョア政党の政治理念における労働の不在、労働者民衆の不在は労働者解放を目指す者からすれば決定的致命的瑕疵だ。「進歩民主勢力」規定と「進歩左派勢力」規定との間には深くて長い河がある。 民主党が主導する比例区専門政党「共に民主連合」の候補者選出過程に参与連帯はもちろん進歩連帯の人士も参加したが、米韓合同軍事演習反対運動に参加した経験のある人、高高度ミサイル防衛システムであるサードに反対したことのある人、軍隊内の人権問題に関する運動の先頭に立っているが軍内部の性的少数者に人権状況の改善を掲げて徴兵に応じることができなかったのに徴兵忌避者とレッテルをはられた人が自主的辞退あるいは失格という形で候補になれなかった。しかしこれらの課題は進歩陣営にとって核心中の核心で、それがなければ進歩とはおよそ呼べない。だが、進歩ではない基本所得党はともかく、進歩勢力であることを自認する進歩党と社会民主党は候補者を辞退せずに名簿に残って他の民主党党員及び市民団体活動家と選挙運動を展開し当選した。これまでの選挙で繰り返されたことだが、今回の総選挙でも進歩陣営が内容的及び戦術的に分裂して、国会の中では民主党と協力した党は生き残り、独自の道を選んだ政党は消失した。 大統領退陣闘争が急激に強まる確率が高いが、それがどう展開するか。また、その中で進歩左派陣営はどう闘うのか。議会政治が階級闘争において持つ影響力は巨大だが、しかしそれは議会の内と外の両方にある。保守二大政党の動きをとらえつつ、進歩左派勢力にはさらに注目し、かつ、連帯していこう。同時に、抗議の声に耳を貸さない日東電工の100%子会社であるオプティカルハイテックの偽装倒産と不当解雇の撤回、雇用継承を掲げて高空籠城闘争などで抗拒する同労組など、悪徳外資企業の食い逃げと闘う韓国労働者への支持と連帯の実践を引き続き行おう。韓国サンケン闘争の一環である尾澤孝司さんの裁判の第二審が五月中旬に始まるが、無罪判決を闘い取ろう。 共に闘おう。 |
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