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   映画評

  『パラサイト 半地下の家族』

                      


 奉俊昊(ボン・ジュノ)は朴槿恵(パク・クネ)前政権(二〇一三~一七年)から反体制的ないわば「不逞監督」としてイ・チャンドク(『ペパーミントキャンディー』(二○○○)は必見)、朴贊郁(パク・チャヌク)などとともにブラックリストに載った映画監督だ。
 デビュー作の『ほえる犬は噛まない』、軍事独裁政権下での警察のずさんな殺人事件の捜査とでっち上げを描いた『殺人の記憶』(二○○三)は共にDVDで、ソウル市内を東西に流れる漢江(ハンガン)に在韓米軍が危険な薬品を違法に大量廃棄したことで魚が巨大に変異して人間を襲う『グエムル』(怪物、二○○六)は日本公開時に映画館で観た。
 市井の人々の日常的営みを通じて腐敗した政府や米国を鋭く批判する彼を時の独裁者はひどく恐れたのだろう。
 昨年韓国で大ヒットし、第七二回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した同監督の最新作『パラサイト 半地下の家族』(原題『寄生虫』)が昨年末に日本で公開されたので二月初めに観た。割安の深夜上映で観客はまばらだった。数日後には第九二回アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞・国際長編映画賞を受賞している。
 大筋は、極貧の一家が大金持ちと偶然に縁ができて「寄生」=依存し始めたが、同じような関係にある人々と遭遇し、最後は三つ巴の死闘になり、生き残れるのか? というもの。持たざる者同士の生死を賭けた競争、持たざる者と持てる者との思想的共有、持たざる者は死ぬまで持たざるままなど意味深だった。
 観終わってエンドロールが流れる中、先の受賞後にインタビューで「資本主義を描いた」という監督の発言が理解できた。『共産党宣言』や『資本論』での資本主義に対する告発が根底にある。ちなみに同じく貧富の格差を描いたイ・チャンドン監督の名作『バーニング』(二○一八)と手法が対照的なのも面白かった。
 監督はしかし何故「寄生虫」と題したのか。「宿主」目線の命名ではないか。先日闘争で来日した韓国の労働運動活動家はこれを労働者民衆に対する侮蔑だと憤っていた。その批判に半分は頷いたが、残り半分は別の考えも浮かんだ。「宿主」すなわち有産者=支配する側の見方・思想を無産者=支配される側も無意識・無批判に、「自発的」に共有している資本主義社会での支配する・される関係・構造をあぶり出しているのではないかと思ったからだ。
 監督は別のインタビューで「労働の立場から見れば、金持ちの側こそ労働が生み出した価値に群がる『寄生虫』だ」とも言っている。
 極貧の一家と金持ち家族の対比も秀逸だ。半地下に住む前者は、生活状況もあって兄妹間の差別はなく、親子間もほぼ平等な関係だった。あり得るのか? と訝しく思うほど良好なのだ。「『格差社会に適応した家族』をわざと戯画的に描いているとしたら格差社会のサバイバル術はもはや賞味期限の切れた『血縁家族』を通じてしかないことを逆説的に証明している。」(ハン・トンヒョン、朝日新聞二月二六日付朝刊「耕論 「パラサイト」のリアル」)の意見はその通りだ。
 他方、金持ちの方はどうか。父母は小学生の息子にしか興味がない露骨な男子選好で、関心を向けられない高校生の娘は親に反発し、夫婦間・親子間もあからさまな男尊女卑の絶対的主従関係だった。
 「一木一草に天皇制がある」と竹内好は断じたが、資本主義の利潤追求原理と差別思想が支配する側だけでなくされる側の民衆の中にも根深く内面化されて、すべてに始めと終わりがある諸行無常を無視して資本主義を「永遠の今」と信じて疑わない「信仰」に囚われている構造的な大問題を、他作品と同様にプロパガンダではなく庶民のありふれた日常の物語として指し示しているのだ。
 登場人物全てが身も心も資本の論理にがんじがらめになった不条理劇の中に深く潜りながら、大雨の中で階段を次々に上から下へと下って帰宅するシーンは安部公房『砂の女』、モールス信号男はドストエフスキー『地下生活者の手記』、金持ち依存の人々の交代場面は押井守『イノセント』および『スカイ・クロラ』それに別役実『堕天使』、社会構造の変革ではなく支配する側になることを夢想する息子の手紙の場面は底なしの絶望感が漂うがここではサミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』を思い出した。
 私たち支配される側を取り込み、その意識に深く根を張って行動を全的に規制する資本主義=ブルジョア思想を、だからこそ根底からそれを見据え、捉え、実践的に「こそぎ落とす」、そして決起することが全ての労働者階級、被抑圧人民被差別大衆に要請される。
                        (高橋功作)



 

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