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   徴用工裁判大法院判決から一年

  安倍政権の報復外交を弾劾する
   政府と加害企業は謝罪し賠償せよ

                   高城誠一
   



 昨年一〇月三〇日に韓国大法院が新日鉄住金に対して元徴用工への損害賠償を命じる判決を出してから一年が経過した。
 韓国では大法院判決後も、同趣旨の判決が続いてきた。しかし、新日鉄住金をはじめとした加害企業は、安倍政権の指示にもとづき損害賠償に一切応じてこなかった。安倍政権は、朝鮮植民地支配の賠償の問題は一九六五年の日韓基本条約・請求権協定によって完全に解決済みであり、徴用工裁判大法院判決は国際法違反だとして、文在寅(ムンジェイン)政権に対して大法院判決の「是正」を要求してきた。
 そして、文在寅政権がこの要求に応じないことに対する報復措置として、本年七月四日には半導体関連三品目の輸出規制措置、八月二八日には輸出優遇措置の対象から韓国を除外するという経済制裁を実施した。そして、マスコミを総動員したすさまじい排外主義煽動、反韓・嫌韓キャンペーンをくり広げてきた。
 これに対抗して文在寅政権もまた、韓国の輸出優遇措置の対象から日本を除外した。この日韓の対立は安全保障の分野にも波及し、韓国は八月二三日、GSOМIA(日韓軍事情報包括保護協定)の終了を日本に通告するに至った。
 このような事態の中で、一〇月二二日の新天皇の即位式典に韓国の李洛淵(イナクヨン)首相が参列し、日韓首相会談がもたれた。その直後に、日韓両国が水面下で検討している「収拾案」がマスコミ報道された。
 そして、一一月五日には韓国の文喜相(ムンヒサン)国会議長が、徴用工問題を解決するために韓国側で基金を設立し、元徴用工に「慰謝料」を配布する、その財源には徴用工裁判の被告企業をはじめとした日韓の企業・個人からの寄付金、元日本軍「慰安婦」問題の「和解・癒し財団」に日本政府が拠出したお金の残金などをあてるという法案を準備していると表明した。
 これらの「収拾案」を検討する動きについて、現段階では日韓両国政府は否定しており、これが両政府の合意になるかどうかは不確定である。また、徴用工裁判の原告団・弁護士は、原告が求めているのは、植民地支配に対する日本政府および加害企業による謝罪と損害賠償だとして、文喜相国会議長の表明を厳しく批判する見解を表明した。
 事態はきわめて流動的になっている。この背景には、米日韓安保協力の強化・GSOМIAの継続を求める米帝―トランプ政権の強い圧力が存在している。

 ●1章 安倍政権は経済制裁を撤廃し、韓国大法院判決に従え

 昨年一〇月の韓国大法院判決は歴史を画するような画期的な判決であった。それはまず、判決の全体が日本の植民地支配への厳しい断罪と批判に貫かれたものであった。大法院判決は、元徴用工の損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権であるとした。そして、一九六五年の日韓基本条約・請求権協定への批判にもとづき元徴用工の個人請求権だけではなく、韓国政府の外交的保護権もまた消滅していないことを判示するものであった。
 すなわち、日韓基本条約・請求権協定の締結をめぐって、「日韓併合条約」は日本軍による軍事的威圧によって強制されたもので、最初から違法・無効なものだとする韓国の主張と「日韓併合条約」を合法・有効なものだとする日本政府の主張との対立が解決されなかった。その結果、日韓基本条約・請求権協定では朝鮮植民地支配に対する日本政府の謝罪は一言も表明されず、植民地支配の賠償は無償三億ドル・有償二億ドルの経済協力の問題にすり替えられた。
 大法院判決は、こうした日本の植民地支配の謝罪と賠償という未解決な問題を未解決な問題として正面から提起するものだったのである。われわれは、このような大法院判決を断固として支持する。
 安倍政権による大法院判決への非難と韓国への経済制裁を絶対に許すことはできない。それは、朝鮮植民地支配を合法・有効だとする立場にもとづき、朝鮮の人民に筆舌に尽くせぬ犠牲を強いた植民地支配を正当化し、居直るものである。
 元日本軍性奴隷制度の被害女性たち、元徴用工をはじめとした植民地支配の犠牲者たちのはらわたが煮えくり返るような怒りと日本政府に謝罪と賠償を要求する闘いに真っ向から敵対するものである。
 それはまた、かつての宗主国意識そのままに韓国の内政に干渉し、自由韓国党などの保守勢力に期待して、意のままにならない文在寅政権の打倒すら展望したまぎれもない侵略行為なのだ。韓国の民衆は、ろうそく革命をもって朴槿恵(パククネ)政権を打倒し、それを背景として文在寅政権が誕生した。日帝―安倍政権は、このような韓国民衆の闘いを圧殺しようとしているのだ。
 そして、それは植民地支配への謝罪と賠償を否定し、朝鮮半島の南北分断を固定する日韓基本条約・請求権協定を固守し、南北の和解と自主的平和統一に敵対するものである。
 だからこそ韓国では日本の経済制裁に対して、六〇〇以上の広範な労働運動団体・市民団体が結集して「歴史歪曲・経済侵略・平和威嚇 安倍糾弾 市民行動」を結成して大規模な抗議行動をくり返し、また日本製品への不買運動が広がってきたのだ。
 日本帝国主義の戦後史を振り返ってみても、今回の韓国への経済制裁は他国の政権の打倒までを展望した侵略行為だという点で歴史を画する動きだと言える。なぜ安倍政権はこれほど強硬で凶悪な政策を推進しているのか。それを安倍個人の反動性や歴史修正主義者としての本性だけに根拠を求めることはできない。
 日本帝国主義が絶対に許せないことは、韓国に存在する日本の独占資本・多国籍資本が実害を被り、その権益が脅かされることにある。日本政府は、大法院判決の執行として差し押さえられた加害企業の資産が現金化され、日本企業に実害が及ぶかどうかに着目し、そうなれば相応の報復措置を実施すると公言してきた。
 日帝は東アジアにおいて膨大な海外権益を保持し、東アジアはまさに日帝にとって「生命線」と言える位置にある。進行する日本の大軍拡は、中国や朝鮮民主主義人民共和国に軍事的に対抗するものであるとともに、東アジアにおいて日本の独占資本・多国籍資本の海外権益が脅かされれば、集団的自衛権の行使をもって自衛隊の海外派兵を行い、軍事介入していくという事態を想定したものである。
 「武器を持たない戦争」と呼ばれる経済制裁とこのような軍事力の発動はまさに陸続きのものなのだ。現在の韓国への経済制裁はただちに軍事力の行使を想定していないにせよ、日本の海外権益が脅かされれば経済制裁を発動し、さらには自衛隊の海外派兵をもって軍事介入していくという日帝の新たな段階が始まりつつあることを示すものなのである。

 ●2章 韓国民衆に連帯する反帝国際主義政治闘争を

 このような中で日韓両国が検討している「収拾案」なるものは、欺瞞的であって断じて許せないものである。日本のマスコミ報道や韓国国会議長の表明によれば、「収拾案」はほぼ日本政府の主張を尊重したものだという。
 すなわち、①植民地支配の犠牲者への賠償問題は日韓基本条約・請求権協定とそれにもとづく無償三憶ドル・有償二億ドルの韓国への経済協力によって解決済みであること、②この経済協力資金が元徴用工に配分されなかったのは、当時の韓国政府が韓国経済の発展のためのインフラ整備などに使用したためであり、その解決は韓国の国内問題であること、③徴用工裁判の被告となった日本企業や経済協力によって恩恵をうけた韓国企業や韓国政府などからの寄付によって基金を創設し、元徴用工に「慰謝料」や「お見舞金」などの名目でお金を配分すること、まだまだ幅はあるがおおよそこのような内容を中心に検討されていると報道されている。それは日本帝国主義の朝鮮植民地支配を免罪し、日本政府と加害企業による植民地支配の謝罪と賠償という根幹の課題を否定するものに他ならない。
 日本政府は一九九五年、元日本軍性奴隷制度問題をめぐって民間からの募金によって「女性のためのアジア平和国民基金」を設立し、被害女性たちに「見舞金」(償い金)を支給することによって解決をはかろうとした。
 さらに日韓両国政府は二〇一五年一二月に「日韓合意」を締結し、日本政府が一〇億円を拠出することによって「和解・癒やし財団」を設立し、被害女性たちにお金を配分すること、平和の少女像をソウルの日本大使館前などから撤去させること、この問題をめぐって日韓両政府間での非難を行わないことをもって日本軍性奴隷制度問題の「最終的かつ不可逆的」な解決だとした。
 しかし、日本政府による国家としての謝罪と賠償を欠落させた「国民基金」や「日韓合意」は、被害女性たちの拒否や韓国民衆の闘いによって破綻し、「和解・癒やし財団」は解散に追い込まれた。日韓両国政府が検討する「収拾案」なるものは、日本政府・加害企業による朝鮮植民地支配の謝罪と賠償を否定するものであり、「国民基金」や「日韓合意」と同じ誤りをくり返そうとするものだ。そのような「収拾案」は、たとえ日韓両国が合意したとしても、「日韓合意」と同様に元徴用工をはじめとした韓国民衆の闘いによって不可避に破綻していかざるをえない。
 ここにおいて決定的に重要なことは、日本の民衆の日韓基本条約・請求権協定に対する態度、朝鮮植民地支配とアジア侵略戦争に対する態度が根本的に問われているということである。マスコミの世論調査では、実に約70~80%が韓国への経済制裁を支持している。さらに野党共闘の中でも、立憲民主党や国民民主党は安倍政権の対韓外交を支持するという立場を明確にしている。日本共産党を含むリベラル派の一部は、韓国への経済制裁に反対してきたが、その多くの部分は日韓基本条約・請求権協定によって韓国の外交的保護権は消滅したが徴用工などの個人請求権は消滅していないということを論拠として安倍政権と対抗しようとしてきた。しかし、それは韓国大法院判決の一面的な理解、あるいは曲解にもとづくものである。
 大法院判決において、日本政府の日韓基本条約・請求権協定によって解決済みだという主張を否定し、加害企業に賠償を命じた主要な論拠は、個人請求権が消滅していないということだけにあったのではない。
 そもそも日韓基本条約・請求権協定の締結をめぐって、日韓両国政府は朝鮮植民地支配の法的根拠とされる一九一〇年の「日韓併合条約」がその締結時から違法・無効なものなのか合法・有効なものなのかをめぐって対立し、日本政府は「日韓併合条約」が合法・有効なものなので朝鮮植民地支配の謝罪と賠償は不必要だという立場に立ち続けた。
 大法院判決は、このような状況で締結された日韓基本条約・請求権協定の対象に含まれているのは未払い賃金など債権債務関係の処理であって、その対象に朝鮮植民地支配の賠償が含まれているとは考えられない。植民地支配の賠償の問題は未解決なものであり、徴用工などの個人請求権だけではなく、韓国の国家としての外交的保護権も消滅していないと判示したのである。
 それはまさに朝鮮植民地支配と日韓基本条約・請求権協定に対する根本的批判を内包した画期的な判決であった。日本の河野外相(当時)は、大法院判決は「日韓基本条約・請求権協定というこれまでの日韓関係の根幹を揺るがすものだ」と主張したがまさにそうなのだ。まさに問われているのは、朝鮮植民地支配と日韓基本条約・請求権協定に対する根本的態度である。
 そのような中で、日韓基本条約・請求権協定を前提としたうえで、個人請求権は消滅していないということだけを論拠として安倍政権と対抗していくことはできず、そのようなリベラル派は日韓両国の「収拾案」にとりこまれていく危険性が高い。
 日韓関係をめぐって、日本の民衆は歴史的な敗北をくり返してきた。一九一〇年の「韓国併合」による朝鮮植民地支配を許したこと。そして、一九六五年の朝鮮植民地支配への謝罪と賠償を欠落させ、朝鮮半島の南北分断を固定化する日韓基本条約・請求権協定の締結を許したこと。われわれはもうこれ以上、敗北の歴史をくり返すことはできない。朝鮮植民地支配とアジア侵略戦争の責任を日本帝国主義に徹底してとらせ、国家としての謝罪と犠牲者への賠償を実現する闘いは、東アジアの平和をめざす闘いと一体のものである。
 平和とは単に「戦争をやっていない状態」を指すものではない。朝鮮植民地支配とアジア侵略戦争の犠牲者が謝罪と賠償を受けられず、その尊厳が踏みにじられたままの状態をわれわれは「平和」と呼ぶことができるのだろうか。独占資本・多国籍資本による搾取・収奪のもとで多くの民衆が飢え、生きづらさに苦悩し、人らしく生きることができない状態をわれわれは「平和」と呼ぶことができるのだろうか。労働者が労働三権すら破壊され、差別され抑圧された人々の解放にむけた闘いが残虐に弾圧されている状態をわれわれは「平和」と呼ぶことができるのだろうか。各国の米軍基地がますます強化され、東アジアを覆うミサイル防衛戦略と自衛隊の海外派兵が推進されている状態をわれわれは「平和」と呼ぶことができるのだろうか。東アジアの平和とは、このような状態を根本的に変革していく闘いと結びついたものであり、正義を実現しようとする闘いの基盤のうえにこそ実現されるものである。
 すべての闘う仲間の皆さん! 個人請求権の問題に一面化する日本共産党を含むリベラル派の限界を突き破り、排外主義の嵐と対決し、朝鮮植民地支配とアジア侵略戦争への日本の謝罪と賠償を実現する闘いを大きく発展させていこう。日韓両国による欺瞞的な「収拾案」を絶対に許さず、まさにいまこそ左派としての立場を明確に掲げた闘いをつくりだしていかねばならない。
 われわれが打ち出していくべき政治的立場は以下のことにある。
 ①韓国大法院判決は朝鮮植民地支配および日韓基本条約・請求権協定への批判にもとづき、元徴用工への賠償を命じたもので、この大法院判決を断固として支持すること。
 ②日本政府は朝鮮植民地支配とアジア侵略戦争の犠牲者への謝罪と賠償を実施せよ! 韓国への経済制裁撤廃! 日韓関係を植民地支配の謝罪と賠償にもとづくものへと変革しよう! 朝鮮民主主義人民共和国への経済制裁撤廃! 朝鮮敵視政策、米韓合同軍事演習を中止せよ! 高校無償化制度・幼保無償化制度からの民族学校の排除を許ないぞ! 日朝国交正常化を実現しよう! ③東アジアの平和を! 朝鮮戦争を終結させる平和条約の締結を! 米軍は東アジアから総撤収せよ! 朝鮮半島の自主的平和統一に連帯しよう! ④辺野古新基地建設阻止! 米軍Xバンドレーダー基地撤去! イージス・アショア配備阻止! 日米安保廃棄! 韓国のTHAAD配備反対闘争に連帯を! 自衛隊の海外派兵を阻止しよう!
 このような闘いの旗を掲げ、朝鮮半島南北と在日の民衆の闘いに連帯し、反帝国際主義政治闘争に決起しよう。



 

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