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   「骨太の方針2018」「生産力革命」
      「働き方改革」による労働再編

  
                  金子文人


 ●1章 少子高齢化と労働力不足への「対策」

 安倍政権は六月一五日に「経済財政運営と改革の基本方針二〇一八~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~」(いわゆる「骨太の方針二〇一八」 以下「骨太二〇一八」)を経済財政諮問会議の答申を経て閣議決定した。
 「骨太の方針」は二〇〇一年六月に小泉政権が「聖域なき構造改革」と銘打った本格的な新自由主義政策を実施する際に作成され、各省庁に「改革」を行わせるための方針書として、以後も継続して閣議決定をされてきた。
 ここでみられる政府・財界の問題意識は少子・高齢化に伴う労働力不足と社会保障増への「対策」だ。社会保障費の増大を「財政健全化の足かせ」となるとし、さらなる医療・介護の自己負担増と社会保障の削減を盛り込み、一九年一〇月一日の消費税率8%から10%へのの引き上げを宣言している。
 また、軍事政策については「情報収集・分析機能や危機管理機能を含め、我が国の防衛力を大幅に強化する。また、これを支える防衛産業についても、民生分野の知見活用、競争環境の確保、徹底した原価の低減などの施策に取り組み、その結果生じ得る企業の再編や統合も視野に効率化・強靱化を図る」と軍事費増大路線を明らかにし、治安管理についても、一九年大阪G20首脳会議や二〇年東京オリンピック・パラリンピックに向けた入国管理体制の強化などが盛り込まれた。TPPの推進・拡大もうたわれている。

 ●2章 女性、高齢者、障害者に対する搾取の強化

 安倍政権はこれらの内容を「生産性革命」「働き方革命」の一環とし、二〇二〇年を中期的な目標として「東京オリンピックが開催される年を日本が生まれ変わる年」にする意志を表明している。AI(人工知能)による技術革新と働き方の改悪を団塊の世代が七五歳以上(後期高齢者)となる二〇年代中盤までに行おうというのだ。
 この間、政府・財界は少子高齢化による労働力不足を補うために、女性・高齢者・障害者・外国人といった層を労働市場に投げ込み、最賃張り付きの低待遇で働かせるという政策を採り、それを「一億総活躍社会」などと美化してきた。
 「骨太二〇一八」の中でも「多様な人材の活躍」として、「女性活躍の推進」「高齢者雇用の推進」「障害者雇用の推進」を明記している。とりわけ、高齢者雇用を「官民挙げて取り組まなければならない国家的課題」とし、六五歳以上の継続雇用年齢の引上げを準備し「エイジフリー社会」を目指すとしている。しかも、現役並みの仕事をする高齢労働者に対して「現役並みの待遇をしろ」と企業を指導するということはなく、成果主義・能力主義の賃金体系を構築する企業には補助金を出すというおまけ付きだ。さらに、公務員の定年六五歳への引き上げと徹底した評価主義の導入も提案されている。
 人生の最後の時まで、格差が固定化された賃金労働条件で働けということだ。二〇二〇年代に向けて、高齢労働の当事者たちによる労働組合運動を組織していくことが課題となる。

 ●3章 外国人労働者政策の転換

 「骨太二〇一八」の目玉は、外国人労働者を受け入れるための新たな在留資格の新設だ。安倍首相は「日本経済は、人手不足感が高まる中で、質・量の両面で人材を確保するとともに、生産性の向上により、その潜在成長率を高めていくことが急務となります」「一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材に関する新たな在留資格の創設などの方針も明記しました」と語っている。
 この五年間、外国人労働者の数は倍増している。全国で一二〇万人の外国人が働いていて、日本の全労働者のうち五〇人に一人が外国人である。通訳、翻訳、記者、教員、研究者など高度専門的な人文、知識、国際といった在留資格の労働者を除けば、大きく分けてふたつの背景が外国人労働者にはある。ひとつは留学生としての在留資格で、多くは週二七時間のアルバイトに就きコンビニなどの店舗や飲食産業などで働いている。ベトナム、カンボジアなどの東南アジア、モンゴル、ネパール、中央アジア、クルド系の人たちが増加していて、大学によっては学生の半数が留学生という所もあり、日本企業や母国の日系企業に就職するために語学スキルを学ぶために接客業で働いているケースも多い。もうひとつは技能実習生だ。技能実習制度は途上国での技術移転を行なうために、「技能実習」という在留資格で賃金の発生する実習を行うという制度だ。実態は、人手不足の深刻な産業で安価な労働力として搾取されていて、暴力・暴言による労務管理、労災隠し、パスポートの取り上げ、強制貯金、強制帰国、最賃法違反などが相次いでいる。
 日本の入国管理体制には「労働ビザ」は存在しない。永住、定住、配偶者ビザがあるだけで、働くことが目的で日本に移り住む外国人には定められた仕事をするしかない「在留資格」があるだけで、他の仕事はできず職業選択の自由はない。こうした現状の上に、新しい在留資格を新設しようと、秋の臨時国会で入管難民法の改定が行なわれようとしている。高度専門的な労働者から「単純労働」にまで在留資格を拡大するということで、大手メディアもこの流れを「外国人労働者政策の転換」と報じている。
 まだ詳しいことは明らかにされていないが、介護、造船、建設、農業、宿泊の五業種に在留資格が新設されようとしている。どれも人手不足の産業だ。業界団体の「技能試験」を受けながら、最長で五年間連続して働くことができる。なぜ五年間かといえば、無期雇用への転換権を行使させないためだ。家族の帯同も基本的に認められない。建設や宿泊(ホテル、旅館など)は東京オリンピックを視野に入れたものである。この労働者に対してはオリンピックが終わってしまえば、バブル崩壊後に外国人建設労働者がやられたようなオーバーステイ狩り―国外追放が行なわれるのではないか。

 ●4章 「骨太2018」路線と対決できる労働運動を

 「中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている。このため、設備投資、技術革新、働き方改革などによる生産性向上や国内人材の確保を引き続き強力に推進するとともに、従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある」。
 「このため、真に必要な分野に着目し、移民政策とは異なるものとして、外国人材の受入れを拡大するため、新たな在留資格を創設する。また、外国人留学生の国内での就職を更に円滑化するなど、従来の専門的・技術的分野における外国人材受入れの取組を更に進めるほか、外国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組む」。
 「骨太二〇一八」は以上のように外国人労働政策を展望している。財界のある部分は長期滞在可能な移民労働者としての受け入れを主張するが、政策立案に関わる高級官僚は「移民政策とは異なるもの」だと言い切っている。どこまでも排外主義に貫かれた労働政策だ。
 一九二三年関東大震災時の戒厳令下、軍や警察とともに日本人労働者によって組織された自警団が虐殺に手を染めた。差別賃金で安く働く朝鮮人や中国人労働者に「仕事を奪われた」と認識した日本人労働者の歪んだ差別感情が爆発したのだ。今はまだ「人手不足のための外国人労働者受け入れ」だが、安価に働かさせられる外国人労働者と日本人労働者が競合し合った時にどのような事態が起きるのか。欧米ではすでに移民襲撃事件が現実になっているが、日本でもメディアを使ったヘイト宣伝(七月二三日放送のNHK『クローズアップ現代+』「日本の保険証が狙われる~外国人急増の陰で~」など)や警察・入管当局による日常的な外国人監視・治安管理など外国人労働者排斥の下地はつくられている。
 左派労働運動・階級的労働運動にはこうした流れに対して強力かつ大衆的・具体的に反撃していくことが求められる。国際連帯と反差別闘争の原則に立って、日本に住み働くすべての労働者の生活と権利を防衛し、外国人労働者の仲間たちとの団結と信頼関係を発展させていこう。



 

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