共産主義者同盟(統一委員会)






■政治主張

■各地の闘争

■海外情報

■声明・論評

■主要論文

■綱領・規約

■ENGLISH

■リンク

 

□ホームへ

   労働法制大改悪を弾劾する

   
職場―地域から反撃の闘いを

    
              中央労働運動指導委員会



 安倍政権は、二〇一八年六月二九日参議院本会議において「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(以下「働かせ方推進一括法」または「働かせ方一括法案」と表記する)の採決を強行し可決成立させた。われわれは、この暴挙を絶対に許すことができない。
 「高プロ=残業代ゼロ制度」の適用阻止! 長時間労働を許すな! 偽の「同一労働同一賃金」押し付け反対! 裁量労働制拡大阻止!の闘いを職場―地域で組織する決意である。

 ●1章 ウソとペテンに満ちた「働かせ方推進一括法」

 「働かせ方一括法案」の審議の過程で安倍政権の驚くべきインチキが、露呈したことも絶対に忘れてはならない。安倍首相は、当初「労働者のニーズに応えるもの」とアピールし、衆院で「働かせ方推進一括法案」を強行採決することで導入した高度プロフェッショナル制度。これに対して参議院での審議の中で「高プロに必要性はあるのか」という声があがってきた。
 加藤勝信厚労相は安倍首相と同様に、労働者から労働時間規制を外すことに肯定的な意見があると主張して「働く方からいろんなお話を聞かせていただいている」と答弁してきた。
 だが、その肝心のヒアリングした人数は、たった一二名でしかいないことが判明した。しかも「働かせ方一括法案」の原案を作る過程で話を聞いたのはたった一人でしかなかった。その上、この聞き取り対象者は、厚労省が聞き取りを依頼した企業側が選んでおり、企業側の同席者がいたことが発覚した。端的にいえば「やらせ」調査だったのだ。
 また、参議院が行った地方公聴会で陳述した三州製菓の斉之平(さいのひら)伸一社長は、高度プロフェッショナル制度は、「該当する社員もいないし、社員が望むこともまったくない」と導入の考えがないとしたうえで、「過労死につながらないよう歯止めはお願いしたい」と懸念を述べた。このように誰も「高プロ=残業代ゼロ」を望んでいないことが明らかになった。
 すると安倍首相は、六月二五日参議院厚生労働委員会において「高度プロフェッショナル制度は、産業競争力会議で、経済人や学識経験者から制度創設の意見があり、日本再興戦略において、とりまとめられたもの。(中略)適用を望む企業や従業員が多いから導入するというものではなくて、多様で柔軟な働き方の選択肢として整備するものであります。利用するか分からないという企業が多いと言われていますが、経団連会長等の経営団体の代表からは高度プロフェッショナル制度の導入をすべきとのご意見を頂いておりまして、傘下の企業の要望がある事を前提にご意見を頂いたものと理解をしているところであります」と前言を簡単に翻し、今回の「働かせ方推進一括法」の狙いをあけすけに答弁した。
 労働者を過労死に追い込み、ただ働きを強い、職場の団結を破壊し、労働者保護法である「労働法」を「生産性向上法」に大改悪したのは、ブルジョアジーからの要請であると白状したのだ。
 「高プロ=残業代ゼロ法」は、厚生労働委員会の審議の過程で今後の「政省令」や「指針」に委ねる項目は六〇以上に及ぶことが明らかになった杜撰なものである。本来なら撤回すべき代物だったのである。そして過労死遺族会の「命より大事な仕事はない」という怒りの声を無視し、遺影の前で平然と可決成立させた。この事実だけでも「働かせ方一括法案」に賛成した自民、公明、維新などの議員たちをわれわれは絶対に許さない。
 また、「働かせ方一括法案」の厚生労働委員会での採決の際四七項目にも及ぶ「付帯決議」が採択された。この法的拘束力のない「付帯決議」を付けさせることをもって厚生労働委員会委員長の解任決議を葬り去った国民民主党の振る舞いを我々は絶対に許さない。
 また、政府の審議会などの委員となり、悪法を推進してきた竹中平蔵は六月二一日付の東京新聞の記事でインタビューに応じ、「時間に縛られない働き方を認めるのは自然なこと」などとデタラメな高プロの必要性を強調する一方で、平然と、こんなことを述べているのだ。
「時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい」。
 そもそも、残業しなければ終わらないような仕事を課していることがおかしいのであって、問題は雇用者側にある。それを労働者に問題があると責任を押し付け、「生産性の低い人」と断罪した挙げ句、竹中は労働対価として当然の残業代さえ「補助金」と呼ぶ。つまり、竹中にとって残業代とは、「仕事のできない奴のために仕方なく会社が補助金を出してやっている」という認識なのだ。こんな奴らの思いのままにさせるために今回の「働かせ方推進一括法」の強行採決があったことをわれわれは決して許さない。

 ●2章 労働力を搾り取る「働かせ方推進一括法」

 今回可決成立した「働かせ方推進一括法」の特徴は以下の通りである。
 まず第一に、「雇用対策法」の名称を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」に変え、法律の目的を「『労働力の需給が質量両面にわたり均衡すること』」から「『労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上』に改める」とし、新たに次の項目を加えた。「労働者は、職務の内容及び職務に必要な能力、経験その他の職務遂行上必要な事項(以下この項において「能力等」という。)の内容が明らかにされ、並びにこれらに即した評価方法により能力等を公正に評価され、当該評価に基づく処遇を受けることその他の適切な処遇を確保するための措置が効果的に実施されることにより、その職業の安定が図られるように配慮されるものとする」としている。
 このことに表されていることは、労働者の雇用安定を目的としていた「雇用対策法」を改変し、労働者は「生産性の向上」のために働き、「能力が評価」され「評価に基づく処遇」をうける者として規定され、労働強化を法律の目的にしてしまったのである。ここに今回の「働かせ方推進一括法」の真の狙いがある。まさに、労働者保護のための労働法制を生産力向上のための労働者支配法に改悪したのである。
 そして「働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、国は、改革を総合的かつ継続的に推進するための『基本方針』(閣議決定)を 定めること」としている。この閣議決定で定めることができる「基本方針」には、この間の労働法改悪に向けた各種審議会等の答申による「非雇用型を含む多様な就業形態の普及の推進」で明らかなように労働法制に守られない、使用者にとって都合のよい(個人事業主や個人請負型などの)労働者を増やそうとしていることは明らかである。こうした動きについても、今後引き続き闘いを強化しよう。
 第二に、これまで三六協定を結ぶ際の上限時間については規定がなかったが「労働基準法」を変えて、残業時間の上限を罰則付きで規定することになった。しかし、この残業時間の上限は「月四五時間、年三六〇時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年七二〇時間、単月一〇〇時間未満(休日労働含む)、複数月平均八〇時間(休日労働含む)を限度に設定」と規定された。この結果現在過労死ラインと言われている残業八〇時間を「例外上限」と定めようとしている。これでは、過労死や過労による心身のダメージを受けた労働者や家族などが訴えても使用者が「法律通り働かせていました」と責任逃れすることを許すこととなる。
 また、労働時間の削減といっても、人員が増えずに業務量が変わらない中、「効率の良い働き方」や「生産性をあげる働き方」などが奨励され労働密度が上がっている。そして、残業しても申告しない、させない残業代不払いや持ち帰り残業などが横行するというような違法不当の蔓延も起きている。
 さらに、この残業時間の上限規定から適用猶予となる「自動車運転業務」「建設業」「医師」についての詳細は今後労政審で審議されることになるが、これらの業務は過労死や労働災害が多い職場である。また、現在残業時間の労基法上の適用がない公務員とりわけ長時間労働が続く教育労働者も過労死、心身の衰弱が増えている職場である。こうした職場に対する真の労働時間削減を目指した取り組みが今後の大きな課題となる。
 第三に「職務の範囲が明確で一定の年収(平均年収の三倍程度)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間一〇四日かつ四週で四日以上の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする」「特定高度専門業務(高度プロフェッショナル制度)」=残業代ゼロ制度(以下「高プロ=残業代ゼロ制度」と表記)の創設をした。
 年収の上限は厚生労働省の省令でいつでも変えることがでる。年間一〇四日の休日は週休二日と同じ日数でしかない。四週間で四日以上の休日と言っても二四日間二四時間働いて四日休んでも何ら問題がないことも法案の審議過程で明らかになった。資本にとっての生産性を極限まで高めるための残業代ゼロ法である。インターバル規制も努力義務であり、産業医の指導強化も働かせるための方便でしかない。この制度の下で働いた労働者が過労死をしても「会社側は当該労働者の労働時間の管理は行っていないし、法律に従って働かせていたのだから何ら瑕疵はない」として労災認定も損害賠償も行われない可能性すらあるのである。
 安倍のいう「過労死をなくす」とは「過労死とカウントされる労働者をなくす」ことであることが明らかになった。「高プロ=残業代ゼロ制度」の職場での適用を許さない闘いを行おう。
 第四に、「同一労働同一賃金」と喧伝されている正規と非正規の格差是正については、この法案のどこにも「同一労働同一賃金」とは書かれていない。「短時間・有期雇用労働者に関する正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化」すると定められているだけである。「不合理な待遇の禁止」と書かれているが、「不合理か否か」と決めるのは使用者側であり、労働者は説明を求めることしかできない。これでは、差別合理化法である。
 郵政の職場においては労働契約法二〇条裁判で不合理な格差として指弾された非正規労働者への住居手当の未支給を、限定正社員への支給をなくすという、低い方に平準化して差別待遇はなくなったとする許すことのできないやり方が行われている。
 六月一日には、不合理な労働条件の違いを禁止する労働契約法二〇条裁判において、初めて最高裁判決が出された。最高裁第二小法廷の山本庸幸裁判長は、有期契約労働者への差別的待遇の是正を訴えた、物流会社・ハマキョウレックスの契約運転手には五つの手当てについての格差を不合理と認めた。一方、運送会社長澤運輸の定年後再雇用運転手の賃金については定年前と同一の業務であるにも関わらず再雇用・短期雇用を理由に正規社員との賃金格差を是認し、賃下げを是認した。
 今回、山本裁判長は労契法二〇条が「職務内容などの違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定」とし、賃金格差が不合理化どうかは「各賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」とし、ハマキョウレックス、長澤運輸事件で判断を下した。
 最高裁判断の労契法二〇条の不合理の判断基準は、「①職務の内容や責任の程度、②職務の内容や配置の変更範囲、③その他の事情」の三要素を考慮することとしている。これまでは、三要素を総合的に考慮するという判決が多かったが、今回の最高裁判決は「上記①を検討し、②を重視し、③は補助的な考慮事情に止まる」という論旨になっている。
 この最高裁判決が今後の偽りの「同一労働同一賃金」のガイドラインの基準になる可能性がある。現在生産性が高いか否か、将来企業の生産力向上に期待できるか否かが判断基準になるのである。労働契約法二〇条裁判を支援し、職場から真の「同一労働同一賃金」を目指して闘いを更に強化しよう。

 ●3章 全国各地で繰り広げられた労働者の闘い

 われわれは、この間全国各地で「働き方改革推進法案反対」のキャラバンをはじめとする闘いを積極的に取り組み、過労死遺族会を先頭にした官邸前座り込みや街頭宣伝行動、そして厚生労働委員会開催時の国会前行動などを闘ってきた。

 ▼3章―① 裁量労働制拡大に対する闘い

 当初この「働かせ方一括法案」の中には「裁量労働制の拡大」が含まれていた。しかし、厚生労働省によるデータのご都合主義的引用や誤りが発覚して、「裁量労働制の拡大」については今回の提案から外された。以下簡単にこの問題に対する闘いを振り返る。
 そもそも裁量労働制は、一九八七年に労働基準法の改悪により初めて導入された。この制度が適用されると、定額の残業代(みなし残業代)のみでいくら残業しても残業代は支払われない(深夜と休日の割り増し残業代の支払いはある)ので「定額働かせ放題法」と言われている。
 この制度は導入当初(一九八七年)、対象を研究開発の業務等に限定されていた。しかしその後、一九九八年の労働基準法改悪の際、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」も対象に含まれた(この制度は一般に「企画業務型裁量労働制」とよばれる)。今回目論まれているのは「企画業務型裁量労働制」の対象範囲を企画や立案、調査を行う営業職にも広げることである。野村不動産では、裁量労働制を違法に適用していたことや脱法裁量労働制を押し付けられた労働者が過労死したことも明らかになっている。
 総務省の労働力調査によれば営業職の労働者は三六〇万人いる。しかも、「裁量労働制」は年収の制限も、正規・非正規の制限もない。たとえば、裁量労働制により、年収三〇〇万円と決められた労働者は、何時間働いても三〇〇万円しか支払われないまさに「定額働かせ放題」になるのである。これに対する闘いがまず行われ、緒戦において勝利した。
 まず、「働かせ方一括法案」が衆議院に上程される前から闘いは開始され、首相答弁のウソと厚生労働省の慢心が明らかになった。
 二〇一六年一二月二六日、東京労働局の勝田智明局長は、「プレゼントもう行く? じゃ、やろっか」と発言して裁量労働制の違法適用で野村不動産を特別指導したことを発表した。
 野村不動産は、会社の中枢で企画立案をする人に限り適用できる企画業務型裁量労働制を、営業など対象外の業務を行う社員約一九〇〇人のうち約六〇〇人に違法適用していた。しかも違法な適用の結果二〇一六年九月、顧客などへの対応に追われて残業が月一八〇時間を超えることもあった労働者が自殺した事実があった。しかし、この記者会見ではこのことについては一切触れなかったのである。
 さらに二〇一八年三月三〇日、野村不動産の過労自殺との関連を記者会見で追及されると勝田智明局長は、「何なら皆さんの会社に行って、是正勧告してもいいんだけど」と恫喝を行った。
 四月六日の集中審議でも加藤勝信厚労相は「本人にお会いして確認しなければならない」と遺族が公表を求めているにも関わらず、自殺と脱法行為との関連をごまかす答弁を行った。
 こうした事態の進展の中、四月七日に上程した「働かせ方一括法案」の審議に影響が出ると判断した政府は、四月一一日勝田東京労働局長に対して、減給と部長級から課長級への降格を決定した。まさに安倍政権延命のためのトカゲのしっぽ切り第一号が行われた。
 過労自殺という重い事実を覆い隠し、違法摘発の公表を「プレゼント」と表現し、追及されると恫喝とごまかしを行い、それでも逃れられないとなるとトカゲのしっぽ切りを行ったのである。
 この一連の経過は財務省におけるセクハラへの対応についても同じことが行われたことを見れば、安倍政権と忖度する高級官僚の慢心と腐敗を表している。安倍政権に対する怒りはさらに広がり支持率は低下した。
 こうした事態と並行しながら、二〇一八年一月二九日参議院予算委員会において安倍首相は、「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います」と答弁した。
 「働き方改革」を審議していた労働政策審議会に提出された二〇一三年「労働時間等総合実態調査」が杜撰なものであり、しかもデータをご都合主義的に引用していたことが次々に明らかになった。公的統計としての有用性・信頼性を揺るがす状況に至った二月二八日深夜 安倍首相は一転、その内の裁量労働制の対象拡大部分について全面的に削除することを表明した。
 まさに緒戦において労働者側と労働法などの研究者、問題を取り上げるマスメディアが一体となった闘いで「裁量労働制拡大」を阻止したのである。

 ▼3章―② 「働かせ方推進一括法案」との闘い

 四月七日安倍政権は、今国会の最重要課題と位置付けていた「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」を閣議決定し、衆議院に提出した。しかし、「安倍のお友達」を優遇した森友事件、加計事件に対する怒りが全国に広がる中、野党六党が審議拒否を続けた。
 「働かせ方一括法案」は四月二七日、衆院本会議で審議入りしたが、主要野党が欠席する中で目玉法案の審議が始まる異例の事態となった。五月八日から野党も出席した審議が始まり、毎週火曜日・木曜日、「厚生労働委員会」が開かれることに対して雇用共同アクション主催で国会前集会が欠かさず行われ、傍聴もおこなわれた。この中で、「高プロ=残業代ゼロ制度」の法案の杜撰さが次々と暴露された。安倍政権のみならず日経や読売が喧伝している「時間に縛られない成果に応じて働く柔軟な働き方」ということは、法案のどこにも書かれておらず、今後の厚生労働省の省令やガイドラインによって規定されること。また、例えば二四時間の勤務を命じておいて休息等をとった分は欠勤時間として賃金カットすることも禁じられていない。「同意」拒否や「途中で適用除外」を申し出てもよいことになっているが、これに対する労働者への不利益処分への対応は決められていないことなどが暴露された。こうした事実が明らかになると「働かせ方一括法案」に対する怒りは更に高まっていった。
 また、四月一七日には「働き方改革推進法案反対」の声を広げる全国キャラバンの結成集会が東京連合会館で行われた。以降南からのコースは四月二〇日沖縄から出発し、北からのコースは四月二一日帯広からスタートした。各地域では受け入れた地域の労働組合・ナショナルセンターの枠を超えた労働団体と共に集会やメーデーへの参加、街頭宣伝、労働局交渉など多彩な取り組みを行った。われわれも各地においてキャラバン成功に向けて奮闘した。そして五月二二日日比谷野音で開かれた労働弁護団主催の集会には二二〇〇名が結集した。この取り組み引き続いて全国各地で「働かせ方一括法案」反対の声と運動を繋ぐ力を創り出した。
 また、過労死、過労自死した遺族の方も立ちあがり「二度と自分たちのような家族を作らないでほしい」という必死の訴えが繰り広げられた。五月二二日衆議院特別委員会参考人質疑で「過労死を考える家族の会」の上西さんは、過労死家族の怒りと思いを訴えた。午後からは炎天下の中「過労死を考える家族の会」は首相官邸前での座り込みを行った。座り込みは二三日雨天の中も行われた。しかし、安倍首相は「厚生労働大臣の所管である」ことを理由に家族と会うことを拒否した。
 五月二五日衆議院厚生労働委員会は「働かせ方一括法案」の強行採決を遺族が見守る中行った。法案は三一日衆議院本会議で可決され、参議院に送られた。
 労働者市民、労働弁護団、過労死遺族たちは参議院段階でも活発な行動を続けた。六月四日、働かせ方一括法案」は参院本会議で審議入りした。安倍晋三首相は参議院の審議過程で「高プロ=残業代ゼロ」法を望んでいる労働者がほとんどいないことが明らかになると「適用を望む企業や従業員が多いから導入するというものではなく、経団連からの要望だ」と本音を吐露した。これに対して、「高プロ=残業代ゼロ法」の危険性と政府答弁のいい加減さを広く伝えるため「過労死を考える家族の会」と「労働弁護団」は街頭での映像を流す宣伝行動を開始した。六月一三日新宿駅西口地下広場、二〇日秋葉原駅、二七日新橋で行われ、多くの労働者市民が足を止め映像や家族の訴えに見入っていた。
 国会会期末を迎え七月二二日まで延長を決定した後、参議院厚生労働委員会では、「働かせ方一括法案」の不備や過労死が促進されることなどに対する追及が行われ、国会前や街頭での行動が全国各地で繰り広げられた。しかし、国民民主党が厚生労働委員会委員長の解任決議に反対すると六月二八日四七項目もの付帯決議の採択と合わせて委員会採決が強行され、二九日本会議において可決、成立した。

 ▼3章―③ 労働契約法一八条に基づく無期雇用転換を求める闘い

 「働かせ方推進一括法」には入っていないが、今春期の闘いのもう一つの大きな課題に労働契約法一八条に基づく有期雇用から無期転換の問題がある。
 二〇一三年四月一日施行された、労働契約法第一八条により、「有期労働契約が更新されて通算五年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約 (無期労働契約)に転換できるルール」が定められた。これにより、二〇一三年四月一日以降の有期労働契約では、通算五年にあたる今年から無期雇用への転換が可能となる。国の推計では勤続五年超の有期社員は四五〇万人いる。しかし、正規労働者数は、二〇一三年平均三三〇二万人から二〇一八年四月の三四六七万人と一六五万人しか増えていないことから、多くの職場で無期転換が行われなかったことが推定される。
 例えば、東北大学、日大等では、違法な雇い止めなどに対して労働委員会への申し入れ、裁判提訴などが行われている。更に雇い止めが行われた労働者が個人加盟のユニオンなどに加入して闘いを開始している。一方使用者側の脱法的行為とも言える就業規則の変更とりわけクーリングと呼ばれる六か月間以上の空白期間をもうける制度導入を黙認し、無期雇用への転換契約の権利を奪う制度導入を許した自動車総連(自動車業界等)等がある。
 今、多くの未組織労働者は申し込み権の発生前に企業の雇い止めが横行している中にいる。二〇一七年から雇い止めが申し渡されている有期雇用労働者が増加している。また、六カ月以上雇用関係がない「空白期間」があると、勤続年数の通算はゼロに戻るという制度の隙間を悪用して「六か月間は直接雇用ではない派遣に登録してほしい」「雇い止め後六か月間過ぎたら再雇用する」などの違法行為さえ行われている。こうした脱法行為を許さず、労働相談体制を強化し未組織労働者の組織化をすすめよう。
 また、郵政やダスキンなどで行われているように有期雇用労働者が無期転換になっても労働条件は良くなっていない。転換後の労働条件の多くは①賃金等労働条件を変えない②職務・勤務時間・勤務地などを限定する限定正社員③プロジェクトなどの職務が続く限りなどの条件付き――の三つが行われているのが実態である。人材支援のエン・ジャパンが昨夏、企業五一三社に行った調査では無期転換を進める企業(全体の67%)の半数以上は「条件や待遇は変えない」としている。受け皿として「無期転換社員」という新たな社員区分を作るのが主流となっているのである。こうした差別の固定化を許さず闘おう。

 ●4章 団結と闘いを強め、安倍打倒へ

 われわれはこの闘い中で培われた職場―地域を貫く団結を更に強化しよう。過労死家族の「命より大事な仕事はない」という言葉を胸に刻み「高度プロ=残業代ゼロ」適用阻止、残業時間を監視管理する職場からの闘いを強めよう。また、労働契約法一八条、二〇条を生かして闘う労働者を支援しよう。そうした闘いと同時に今後行われる「働かせ方推進一括法」の実質的な適用のための労働政策審議会の動きを注視し、労政審委員への働きかけを強めよう。さらに、再浮上が狙われている「裁量労働制拡大」に向けた動きを粉砕しよう。そして安倍政権打倒に向けて進撃しよう。



 

当サイト掲載の文章・写真等の無断転載禁止
Copyright (C) 2006, Japan Communist League, All Rights Reserved.