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   福島原発被ばく労災
     
 
     
損害賠償裁判を支援しよう



 昨年十一月、福島原発事故の収束作業に従事し被ばくした北九州市在住の一人の男性労働者あらかぶ(仮名)さんが東京電力、九州電力に対して損賠賠償を求める裁判を東京地裁に起こした。
 あらかぶさんは、被ばくにより急性骨髄性白血病を発症し、その後うつ病にも罹患した。そしてこの二つとも労災認定された。にもかかわらず東京電力らは「作業員の労災申請や認定状況について当社はコメントする立場にない」といっさい非を認めず、全面的に争う姿勢だ。そのような姿勢に対しあらかぶさんは、地域の労働組合ユニオン北九州に加入し、原発関連で働く労働者のためにも、自分たち下請け労働者を捨て駒のように扱う電力会社を絶対に許さないと敢然とたちあがった。
 このあらかぶさんのたたかいを支援しようと、首都圏では四月二十六日に「福島原発被ばく労災 損害賠償裁判を支える会」(あらかぶさんを支える会)が、七月十六日には地元北九州で「同支える会・北九州」が結成された。この運動を全面的に支持し全力で支援しよう。

  ●1 「東北、福島の人達の力になりたい」

 二〇一一年三月の東日本大震災、福島原発事故が起きた当時、北九州市で鍛冶工として働いていたあらかぶさんは、津波などで犠牲になっていく住民たちの映像を見て福島の役に立ちたいと思っていた。そこに仕事仲間から「福島原発事故の収束作業を手伝わないか」との誘いを受け、福島原発に出向いたと言う。
 家族の反対を押し切って福島に向かったあらかぶさんは、当時放射能がどれだけ身体に悪影響を及ぼすのか、原発事故によってどれだけ大量の放射性物質で原発周辺地域が汚染されているのかそれ程深刻にとらえていなかったとも話している。
 このことからも国、電力会社による原発はクリーンでエネルギー政策として無くてはならないものだ、原発事故による放射能の影響は大きくはないという情報宣伝が浸透していたことがわかる。

  ●2 ずさんな安全管理と作業実態

 あらかぶさんは何度か福島原発事故収束作業に出向いている。
 一一年十一~十二年一月福島第二原発四号機建屋の耐震化工事では、作業員にAPD(警報機付き個人線量計)が渡されていなかったり、APDを持っていた現場監督は警報機が鳴っているのに「大丈夫だ」と警報を解除して作業を続けさせていた。
 一二年十月~一三年三月の第一原発四号機の原子炉建屋のカバーリング工事では、放射線防護のための鉛ベストが足りず、ベストを着けずに作業をさせられ10・7ミリシーベルトの被ばくをした。一三年五月~十二月第一原発の雑個体廃棄物焼却設備建屋などの設置工事に従事し4・98ミリシーベルトの被ばくをしている。
 また、一二年一月~三月まで九州電力玄海原発四号機の定期検査工事で余熱除去配管の取替工事にも従事していて、そこでも4・1ミリシーベルトの被ばくをしている。
 あらかぶさんの累計被ばく線量は記録されているだけでも19・78ミリシーベルトだが、管理実態がずさんであり、内部被ばくも含めて記録された数字以上の被ばくを伴っていると考えられる。
 結果、あらかぶさんは一三年十二月頃から発熱、咳が続き一四年一月電離放射線健康診断で急性骨髄性白血病と診断された。辛く苦しい抗がん治療や骨髄移植で命を落とすことはなかったが、苦しい闘病生活や家族を置いて死ぬかもしれないという思いからうつ病も発症し、このうつ病も白血病と共に労災認定された。

  ●3 責任逃れ、居直りの東電らを許すな

 あらかぶさんは、現在も治療を続けていて、健康に不安を抱えながらも裁判をたたかっている。
 一六年十一月二十二日に原子力損害賠償法に基づいて東京地裁に提訴された訴状の趣旨は次の通りだ。
 「二〇一一年3・11に発生した福島第一原発事故の収束労働に従事し、五百日余りの被ばく労働によって公的に記録されているだけで19・78ミリシーベルトの放射線被ばくを被ったあらかぶさんは急性骨髄性白血病を罹患し、その死の恐怖に苛まれうつ病も発症した。その後に労災認定をかちとったが、原子力事業者(東電ら二社)に対して原子力損害賠償法により五千九百十九万円余の賠償請求をする裁判である」(この原子力損害賠償法は、民法の損害賠償規定の特例を定めたもので、事故を起こした原子力事業者には事故の過失・無過失にかかわらず無制限の賠償責任があり、不法行為立証の必要なく「原子炉の運転等により原子力災害を与えた」因果関係を明らかにしなければならない)
 裁判はすでに一七年二月二日第一回口頭弁論、四月二十七日第二回、七月二十八日第三回が開かれている。第二回口頭弁論で東電は、「100ミリシーベルト以下の低線量被ばくと白血病発症との因果関係は医学的・科学的に立証されていない」と全面的に反論して争う姿勢だ。あらかぶさんが一年半で被ばくした19・78ミリシーベルトは白血病の労災認定基準(5ミリシーベルト×従事年数と被ばく開始後一年以上で発症)を大きく上回っている。しかも作業現場は劣悪な環境で、記録以上の被ばく線量になっている可能性は極めて高い。このような責任逃れの犯罪会社を決して許してはならない。
 また第三回口頭弁論では第一準備書面で東電に対する反論として、第二原発での個人線量計を持たない作業での被ばくの問題や、鉛ベストの不足と着用時の線量測定での法令違反などを指摘した。さらに第二準備書面では、原告が受けたとされる放射線被ばくでは白血病が発症することはないとする東電の主張に対する反論として、低線量被ばくとがんとの因果関係を示唆する研究八論文、「低線量被ばくリスク管理に関するワーキンググループ報告書」(低線量WG)が科学的知見に反するという研究九論文が紹介された。これに対して裁判長は、被ばく量(19・78ミリシーベルト)での争いがあることを認めて、被告に被ばく量管理制度と本件に当てはめた場合との説明をそれぞれ求めるとしている。また被ばく労働の期間で何月何日から何日までとの若干の争いがあるからと書証提出を求めた。
 第四回口頭弁論は十月十三日十一時から開かれる。あらかぶさん自身の尊厳の回復と補償、同じように働く労働者があとに続けるようにと立ち上がった裁判を、大法廷を埋め尽くす傍聴で見守っていこう。

  ●4 労働者、労働運動の未来かけて裁判勝利を

 あらかぶさんに次いで一六年八月、五十代の男性が白血病で労災認定、十二月、緊急作業に従事した東電社員が甲状腺がんを発症し労災認定されている。収束作業に携わった労働者はすでに六万人を超え、三千人近くが50ミリシーベルト超の被ばくをしている。今後、被ばくの影響による労働者の健康被害は更に出てくるだろう(この原稿を書いている最中に、福島第一原発で放射能汚染水を保管するタンクを解体していた二次下請けの作業員が鼻腔内部に汚染が確認され内部被ばくしたという情報が飛び込んできた)。
 このような中でのあらかぶさん裁判について、あらかぶさんが所属するユニオン北九州は全労協に宛てた「支援要請文」(一七年三月)で、「第一にAさんが陳述書で述べたように、『東電らに自分の責任と向き合ってほしい。…他の作業員たちのためにも声を上げる責任があると思いました』という言葉は、このまま日本の労働者・労働組合がこれから長い時間直面する『被ばく労働』との問題をつきだしています」「第二に、被ばく労災で損害賠償請求裁判において勝った例はないが、裁判の勝利は被ばく労働が存在するという事実と責任を認めさせる一歩を勝ち取ることだ」と訴えている。労働組合へのこのような支援要請の運動は「あらかぶさんを支える会・北九州」の共同代表に全労協・ユニオン北九州、自治労・全国一般福岡地本、北九州地区労連の役員が名を連ね、組織の枠を超えた共同の運動として形作られてきている。
 また、首都圏での支える会結成集会で、双葉地方原発反対同盟の石丸代表はあらかぶさんの裁判闘争の意義について、放射線被ばく労働に光を当てるものとして、そして健康管理手帳、国の責任による生涯無料の健康診断、健康保持、生活保護や保障の要求交渉につながっていくものであると提起した。首都圏では被ばく労働問題を取り組んでいる団体が中心となり、この裁判を運動の重要な柱として取り組みを進めている。
 さらに、電力会社の下、六次、七次下請けという重層的な構造のもとに下請け労働者が使い捨てられ、手当もピンハネされている実態に対するたたかいだということも忘れてはならない。あらかぶさんが北九州に帰った理由は、危険手当が二千円しか本人に手渡されていなかったことがきっかけだった。
 われわれは、そのような観点をしっかりと踏まえ、首都圏で、北九州で、全国であらかぶさんを支え、被ばく労働者との団結を作り出していこう。そして国、東電ら電力会社に謝罪と責任を取らせ、労働者に犠牲を強いる原発政策を改めさせよう。



 

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