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■精神保健福祉法改悪を許すな 河原 涼 本年二月二十八日、日帝―安倍政権は、精神保健福祉法の改悪案を、先の通常国会に提出した。昨年の障害者大量虐殺事件―相模原事件―をうけて、措置入院の退院後における警察を交えた地域監視網体制の整備をうたったものである。六月十八日、第一九三回通常国会は、土壇場で共謀罪を強行採決して閉会し、精神保健福祉法改悪法案は継続審議ということになった。舞台は次回臨時国会に移された。緊迫した情勢が続いている。絶対に法案成立を阻止しなければならない。 厚労省は、相模原事件の「報告書」を「再発防止策の提言」という形で昨年十二月八日に公開しているが、この法案は、当時安倍が、措置入院の退院後の地域監視網の整備を主張した内容に沿った形で書かれており、先の安倍の意向を条文化したものである。 相模原事件であぶり出された障害者に対する差別虐殺を正義とする思想は、徹頭徹尾、天皇制優生思想、差別排外主義に貫かれたものであり、日本社会に根深く浸透する差別思想である。法案は、こうした差別思想の総括を全く行わないまま、加害者の個人の責任に全てをなすりつけた上に、加害者が措置入院経験者であることを最大限利用しながら、精神障害者に対する治安対策の法整備を一層強化するものとなっている。事件を個人の「自己愛性パーソナリティ障害」という症状によって引き起こされたものとし、全てを加害者個人の病状、人格に解消させつつ、問題解決の矛先を精神障害者弾圧に凝縮し、精神障害者に対する隔離、収容政策を推し進めんとする攻撃を断固として粉砕し、改悪法案成立を阻止しなければならない。 ●1 法案成立を阻止しよう 厚労省がまとめた法案に関する「概要」は、次のとおりである。 まずこの法案の趣旨として、「1.国及び地方公共団体が配慮すべき事項等の明確化」を挙げ、「国及び地方公共団体の義務として……精神障害者の人権を尊重し、地域移行の促進に十分配慮すべきことを明記する」とし、さらに「措置入院者が退院後に社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な医療その他の援助を適切かつ円滑に受けることができるよう、以下のような退院後支援の仕組みを整備する」として、「(1)措置を行った都道府県・政令市が、患者の措置入院中から、通院先の医療機関等と協議の上、退院後支援計画を作成することとする。 (2)退院後は、患者の帰住先の保健所設置自治体が、退院後支援計画に基づき相談指導を行うこととする。 (3)……他の自治体に居住地を移転した場合、移転元の自治体から移転先の自治体に対して、退院後支援計画の内容等を通知することとする。 (4)措置入院先病院は、患者等からの退院後の生活環境の相談に応じる『退院後生活環境相談員』を選任することとする」と明記している。 前半部分は一見、精神障害者の精神医療に重きをおくかのごとき表現の体裁をとっているが、これは、後半部分の「地域移行の促進に十分配慮する」という文言にかかる枕詞であって、入院期間を長くし、退院処遇を慎重にするということである。 措置解除後の退院は全体の二割ほど、一年以上の入院継続は六割に達するという。限られた退院の狭い枠の中で、さらに退院する場合は入院している間に「退院後支援計画」なるものを自治体が作成し、その計画に沿って「相談支援」なるものを行うというのだ。退院後も地域監視網を張り巡らせるということを法律に明記したものである。 そして、「3.精神障害者支援地域協議会の設置」と称して、「保健所設置自治体は、措置入院者が退院後に継続的な医療等の支援を確実に受けられるよう、精神障害者支援地域協議会を設置し…(2)退院後支援計画の作成や実施に係る連絡調整を行う。 1 協議内容 いわゆる「グレーゾーン事例」への対応について → 行政、医療、警察の間の連携について協議 ・確固たる信念を持って犯罪を企画する者への対応 ・入院後に薬物使用が認められた場合の連絡」と明記している。 冒頭、精神障害者の医療の充実を図るかのごときから文句は、ここにきてすっかり解消され、「支援地域協議会」の下に「確固たる信念を持って犯罪を企画する者」など、明確に精神障害者を「犯罪素因者」として認識し、地域、行政(警察主導)、裁判所などがネットワークを構築しながら、死ぬまで監視し続けることを宣言している。医療機関と自治体行政、警察が、精神障害者の個人情報を共有し、転居すれば転居先の行政、警察に伝達され、行政・警察などが一生つきまとうことになるのだ。 「協議会」で作成する計画は、退院した精神障害者を「指導」するとなっており、精神障害者は医療と地域生活の自由を縛られ、計画を拒否できない。拒否しようものなら一切の医療を受けられなくなるどころか、警察の弾圧がいつでも敷かれるという状況を常に精神障害者は強制されるのである。絶対に許してはならない。 ●2 相模原事件の検証なく、精神障害者の治安弾圧に利用することを許すな この法案は、そもそもが昨年起きた相模原事件をうけてのものである。 相模原事件の本質は、第一に天皇制優生思想、差別排外主義に貫かれた障害者抹殺思想に貫かれたものとしてある。 石原慎太郎は、都知事時代、「障害者は生きていてもしかたがない」とか、「行政のお金の無駄遣い」などと公然と言ってはばからなかった。麻生太郎もナチス思想の信奉者であることは言を待たない。障害者を差別抹殺せんとする天皇制優生思想、差別排外主義は、拠って立つ階級、階層を問わず、個別の人格を選ばず、社会的に体制側の権力思想として浸透している。これに無自覚ならば、「われわれとは違う人が起こしたこと」として人格を特定して排外主義的にバッシングに手を染めるのだ。 天皇制優生思想、差別排外主義は日帝の支配体制の支柱である。それを根本から問い直す作業は行わず、事件の責任を加害者の個人的病状に全て転化し、その上で「措置入院経験者」ということを最大限利用し、精神障害者に対する治安弾圧の強化を目論むことを許してはならない。「精神障害者の人権」など配慮する気は最初から全くなく、差別排外主義を全面化させて、治安弾圧の要としているのである。 ●3 日帝の戦時障害者政策と対決しよう 日帝国家権力は、精神障害者を、様々な入院形態に分類し、収容する。 例えば入院形態は精神保健福祉法、通院は障害者総合福祉法、それに保安処分の実体化としての医療観察法である。精神障害者を、こうしたいくつもの法によって隔離、収容する体制が確立されている。 国家権力は、治安体制の法整備の中で精神障害者を分類して隔離収容する法体制を確立させた。また戦時政策としても障害者総体を法体制の中で位置付けて隔離収容する体制を整えている。障害者、精神障害者に対する政策は、ナチスドイツの優生攻撃による大量虐殺、断種政策によって数十万の障害者が差別虐殺されている通り、世界的におこなわれてきた。その中でも、日帝足下にあっては、天皇制優生思想、差別排外主義政策が全面化する中で、独特の障害者政策が行われてきたと言える。 相模原事件も、それを受けての今回の改悪法案も、天皇制攻撃として一体のものである。様々な法律による精神障害者に対する政策も、日帝の戦争と差別の元凶である天皇制の下で、戦争動員体制の要として行われてきた。天皇の赤子としての大和民族の優秀性、純血性を唱える一方で、不良な子孫を根絶するための政策が、着床前検診から行われる。天皇の下での平等を唱えるが、排外主義的動員政策であるがゆえに、「平等」志向は、階級対立の激化、差別の固定化、激化があろうとも、天皇への忠誠だけの問題であり、むしろそうした階級矛盾、差別社会の固定化を前提とすると言える。 そうした差別社会の労働者人民の排外主義的分断により、障害者に対する差別虐殺が公然と行われ、その加害者に全責任をおしつけた上で、精神障害者に対する治安監視網の整備を進める政策が同時並行ですすめられるのだ。千葉市の精神科病院「石郷岡病院」で、二〇一二年一月、入院患者が准看護師から暴行を受け、約二年後に死亡したが、二〇一七年三月、千葉地裁判決では、一人が無罪、もう一人が罰金三十万円であった。カメラにその映像が残っていたにも関わらず、精神病院での入院患者虐殺が正義であり、なんの問題もなく無罪を勝ち取るという理不尽な現実は、一九八四年宇都宮病院患者虐殺の時から全く変わっていない。 精神障害者は「何をするかわからない」「危険」として差別虐待、隔離が横行し、殺人すら合法であるとする、こうした理不尽な差別の現実を絶対に許してはならない。精神保健福祉法の差別改悪を絶対に許すな! ともに闘おう! |
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