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   福祉・介護総がかり行動を建設しよう

        階級的視点から見た福祉の戦取



 来る五月十二日(金)十八時三十分、大阪市北区民センター大ホールにて「介護の切りすてアカン! 5・12大集会」が開催され、福祉・介護総がかり行動が立ち上がる。ここでは、大阪における介護業種別労働運動の建設から総がかり行動の立ち上げに至る取り組みを紹介するとともに、公的福祉制度の階級闘争上での意味、闘いをどのような質で組織するのかについて共に考えたい。

 ●1章 資本主義下の制度は資本家の都合と当事者の抵抗の総和

 一九九〇年代以降アメリカの障害者自立生活運動で掲げられ始めたスローガンがある。「私たちのことを私たち抜きで決めるな」というものだ。障害者の権利条約を作る国際的な障害者運動の中で普及し、日本では障害者自立支援法(現在は改正されて障害者総合福祉法)制定過程(二〇〇五年)での障害当事者を中心とする抵抗運動の中で有名になった。近代以降の福祉制度(障害者には限らない)は多くの場合その対象とされる人たちのあずかり知らないところで定められてきた。そもそも福祉制度を必要とすること自体が現代の資本主義社会で排除されている結果なのだから当然ともいえる。前記のスローガンはこうした現実に対する抵抗の中から生まれ、普及した。障害者に限らず支援が必要なすべての場所で普遍性を持つ内容だといえる。
 公的な支援制度はそれを必要とする人たちのニーズを軸に構想されるべきである。何が必要なのかを一番わかっているのは学者でも官僚でもなく、当事者自身なのだから。だが現状では日本の福祉制度はまだそのようには変革されていない。
 これまでの障害者運動の多く、あるいはその他の公的支援を求めるたたかいの多くには、「社会認識」や「政府批判」において不十分な点があったといわざるを得ない。それは現在の社会が資本主義のもとにあること―すなわち大資本が権力を握っていること―である。福祉制度は―それにかかわる労働者がサービスという財を生産しているといえども―それ自体では富を生み出さない。福祉産業の運営の原資は税金と公的保険料である。この税金と保険料はすべての産業で生み出された富、すなわち資本家の搾取分と労働者に支払われる生活賃金から徴収される。その使途は政府が、すなわち大資本が支配している政府が決定する。当然資本の利益に基づいて。したがって前記で普遍性があるとしたようなスローガンなどはそのままでは決して実現しない。福祉の対象者自身が主体となる制度を作りたいのであれば階級闘争は不可避である。階級闘争に勝利するためには介護労働者、そして福祉の対象者自身である障害者、高齢者の組織化がすすめられなければならない。いまだそれは不十分であり、むしろ新自由主義の攻撃の中で、対決できずに混迷していると言える。何よりも差別分断を自覚的に乗り越えるべき労働運動がその弱さを露呈し、当事者の立ち上がりの困難性が強いられている。公的福祉・介護支援が、「措置から選択へ」の美名の下に民営化され利潤追求の具とされつつ、他方ではその支援削減の中で当事者が「消費者個人」に落とし込められていく構造がある。それゆえ、関係者の中から「一番影響力があるのは新自由主義に引きずられた障害者運動の一部分」との声もあがる「現実」がある。

 ●2章 介護労働者と障害者、高齢者との矛盾

 さて、介護労働者、障害者、高齢者の組織化を進めるうえで、相互がどのような関係を結び団結をするのかは難しいテーマだ。七〇年代青い芝や養護学校義務化反対闘争をはじめとする障害者解放運動が活発に闘われた。このころ福祉にかかわる労働者や労働運動はどのような態度をとったであろうか。残念ながら多くの部分は障害者解放運動の訴えを無自覚にも「労働強化」とみなしてしまった。障害者の人として生きさせろという要求にこたえた労働者・労働運動は少数にとどまった。このような問題は実のところ本質的には解決していない。福祉切り捨ての攻撃の中で介護労働者、障害者、高齢者が等しく行き詰まる現状がある。この線で総がかり行動への機運が高まっているが、上記の問題は横たわったままだ。障害者、高齢者の人らしく生きる権利を守る事と、それを支える労働者の労働環境を守る事の双方を推進しながら、しかも介護という関係の持つ力関係に自覚しながら闘うという質の労働運動が求められている。

 ●3章 介護分野の業種別労働運動の実践

 介護産業の労働運動では、個別企業との対決だけではおのずと限界に達する。その原資が政策制度にある以上、こことの対決を抜きにして闘いの成長はあり得ない。したがって前述した質の労働運動建設は必然である。実際にこの間の労働運動はそれを証明してきた。
 おそらくどこの組合でも最初はそうだろうが、介護産業でも組合立ち上げ当初は激烈な組合攻撃とのたたかいから始まる。介護産業で特殊なのは組合攻撃の言説に「利用者(障害者、高齢者)を犠牲にする組合」という中傷が入る(注一)ことだ。スタートから経営との思想闘争である。何年か粘り強くたたかいを続ければ労使関係もある程度安定化し、法令順守やいくばくかの待遇改善が勝ち取れるが、そこから先には進まない。公的介護制度でサービスに対する報酬額から配置人員まできめられている(注二)ので一定以上は個別企業とのたたかいではどうにもならないのだ。
 かくて政策制度要求への機運が生まれる。この間のたたかいの中では、労働運動の過程で問題になった事案、たとえば虐待通報制度の不備や福祉切り捨て政策への抵抗を地方自治体や厚生労働省に突き付けている。また行政交渉で得られた情報や言質を現場に持ち帰って活用している。たとえば各地の地方自治体で六十五歳になった障害者を本人の意思に反して介護保険に移行させる問題(注三)では担当者の言質も得たし、再度の通知も勝ち取った。処遇改善加算(注四)をめぐる問題では行政交渉で得た情報を生かしながら個別企業の不正を暴き、労働者の手に賃金を取り戻している。
 このように、現場と行政交渉との間でフィードバックを繰り返しながら前述した質の労働運動を目指して実践がすすめられている。こうした闘いは介護産業分野にとどまらず、労働運動再生の一翼として注目を集めている。

 ●4章 福祉・介護総がかり行動

 福祉・介護総がかり行動への動きの直接のきっかけは、要支援切り(注五)の問題である。全国的に問題だが、特に大阪市では問題が突出している。大阪市では基準緩和型サービスでは従事資格(ヘルパー二級、介護福祉士等)を問わない代わりに報酬が75%まで減らされる。さらにこのサービスに振り分ける基準が介護保険の状態像では要介護二くらいまで入ってしまう(注六)(要するにそれ以下の人はみんな安かろう悪かろうサービスに放り込まれる)といった内容である。大阪市の説明ときたら支離滅裂である。「制度の目的は人員確保」と言いながら、直前の三月現在時点でこのサービスに従事する労働者の研修は全然足りない。既存事業所が破産すると訴えたら、(基準緩和サービスを)引き受けなくてよいといってくる。この状態で制度を強行すれば当の高齢者が介護難民になってしまうのは目に見えている。
 このような状況の中で介護産業分野を組織している複数の労働組合、共産党に近い立場の福祉要求の大衆運動である社会福祉推進協議会、研究者、中小事業所など異なる立場と歴史を持ってきた人々が小異を捨てて結集することになった。こうして福祉・介護総がかり行動の呼びかけが始まった。この闘いをどこまで成長させていくことができるか、それはこの問題を巡る当事者(介護労働者、障害者、高齢者、事業者も)について、いかなる質で団結を組織できるかによっている。この中で介護労働運動に期待される役割は重大だ。過去のように狭く自らの個別的利益にとどまって反動に転落するのか、それとも自他の権利を共に勝ち取る運動の推進者になるのか。今各地で進められている介護労働運動は全体として後者の流れで進められている。確信をもってともに進もう。


※注一 経験上そういうことを声高にいう経営者が虐待含めて一番利用者を犠牲にしていることが多い。

※注二 正確には決められているのは最低配置人員だが、報酬が全体として低い中で職員を加配する事業所は少ない。したがって最低の線にほとんどの事業所が一致してしまう。

※注三 介護保険法によれば六十五歳以降は介護保険法適用を優先するという内容になっている。ただし、そのために本人の生活が悪化してはならないとされており、介護保険にないメニューを使っている人がそのサービスを取り上げられてはならない旨、複数回通知が出ている。残念ながら理解していない自治体職員も多い。

※注四 国が示した条件を満たした事業所に介護職員の処遇改善に限った目的で報酬の加算を受けられる制度。政府が介護職員の待遇改善をしましたと主張するとき(たとえば月額一万円の賃金向上とか)は大体この加算が増える。ただし条件が厳しくて応募できなかったり、並行して本体報酬が減ったりするので、実際にはあまり効果がない。

※注五 介護保険を申請すると対象者の身体・精神の状態をもとに八段階に区分される。軽いとされているほうから順に、非該当(介護保険サービスを受けられない)、要支援一、要支援二、要介護一、……、要介護五となる。この要支援の対象者の多くが新規申請分より今年四月より基準緩和型サービスに移される。大きな改正点は国の財政負担がなくなり、その分地方行政が財務上の責任を負うことになることだ。もちろん財務基盤が小さい自治体では切り捨てが進むことになる。

※注六 介護保険は申請すると最初に認定調査というものが行われる。「立ち上がれるか」とか、「服を着られるか」といったたくさんの項目について調査されて数値化し介護の必要度を図ろうという仕組みだ。基準緩和型サービスは要支援一と要支援二の人を対象としている。ところが大阪市の振り分け基準でシュミレーションをしてみると、介護保険の認定調査では要介護二になる人(本来対象者ではない)が基準緩和型に当てはまってしまった。この件は厚生労働省の役人まで(個人的見解と前置きしたうえで)論理的におかしいと言わざるを得なかった。


 

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