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   最低賃金引き上げ運動を労働者の団結形成に

    


 ●1章 最低賃金制度と労働者の生活

 最低賃金(以下、最賃)引き上げへの注目はワーキングプアの増加とともに年々高まっている。非正規雇用労働者が増加し(二〇一二年で38・2%)(表①)、時間給で働く低賃労働者が増えている。正社員の賃金低下と長時間の未払い労働により正社員でも最低賃金を下回るケースが増えている。
 労働組合の組織率は17・7%に低下し、百人未満規模の中小零細企業では組織率は1%以下と極めて低い。圧倒的多数の中小零細企業では労働組合の不在によって、賃金労働条件をめぐる交渉の場がなく、最低賃金の引き上げが現実的な賃上げの方法になっている。最低賃金の引き上げによって影響を受ける労働者は年々増えている。二〇一三年には直接影響を受ける労働者は7・4%にもなっている。
 また、地域最賃+α円で時給を決めている場合も多く、時給で働く労働者にランク制を導入している職場では最下位が引き上げられると全体が引き上げられることになる。影響率より数段多くの労働者が影響を受けているのが実態だ。
 最低賃金制度をめぐっては、二〇〇八年六月二十日「成長力底上げ戦略推進円卓会議」において「賃金の底上げを図る趣旨から、社会経済情勢を考慮しつつ、生活保護水準との整合性、小規模事業所の高卒初任給のもっとも低位の水準との均衡を勘案し、当面五年程度で引き上げること目指し、政労使一体となって取り組む」という政労使合意がなされた。そして、二〇一〇年六月三日第四回雇用戦略対話においては、二〇二〇年までの目標として「できる限り早期に全国最低八百円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均千円を目指すこと」を条件付きながら確認され、政労使一体となって取り組むことが合意された。しかし、現状は全国平均で七百六十四円、地方により六百六十四円~八百六十九円と大きな開きがあり、目標の千円には程遠い。
 法定労働時間(月百七十三・八時間)で考えても時給六百六十四円で月十一・五万円、東京の最賃八百六十九円でも十五・一万円にしかならない。ここから所得税、社会保険料を引くと、とても生活できる賃金ではない。目標の千円になっても、年収二百万円程度でワーキングプアの水準である。

 ●2章 貧国拡大させるアベノミクス

 安倍政権は今春闘で労働者の賃金引き上げを財界に迫った。アベノミクスの成長戦略成功のためにGDPの85%を占める内需の拡大をはかろうとしたものであり、消費税増税による景気の失速を回避しようというものであった。それは同時に政権の安定のために中間層を引き付ける必要によるものだ。
 「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」を三本の矢とするアベノミクスは、巨額の財政出動による多国籍資本、大企業の優遇政策を核心とするものである。安倍政権は財政出動による赤字を消費税増税で補いつつ、大企業には減税を、中小零細企業に対しては赤字でも課税することを検討し、労働分野を先頭に規制緩和をすすめている。それは「日本を世界で一番企業が活動しやすい国にする」という表明からもあきらかだ。賃金引き上げはそのわずかばかりのおこぼれで労働者上層を買収しようというものに過ぎない。
 実際、安倍政権が大号令をかけた賃金引き上げは2・19%と十五年ぶりの水準になったと厚生労働省は発表しているが、集計対象は資本金十億円以上かつ従業員千人以上で労働組合がある企業三百十四社のみであり、中小零細企業や非正規雇用労働者の賃上げには触れていない。厚労省の集計に含まれない中小零細、非正規雇用労働者の賃金水準を左右する最低賃金については、中央最低賃金審議会は目安として全国加重平均十六円を答申した。アベノミクスによるインフレターゲット2%、消費税増税分3%、社会保険料の引き上げなどで労働者の支出増は6%を超えるが、最賃の十六円引き上げでは焼け石に水である。最賃レベルの賃金で働いている労働者にとってはますます生活が苦しくなることしか意味しない。
 株価の上昇、円安による輸出の増加(これは一時のものであった)、減税、などにより資産と利益を増やした大企業はますます資本を集中させ、権力を強めている。
 新自由主義政策の下で、多国籍資本は強欲な本質をむき出しにして資本の集積にまい進してきた。日本でも一九八〇年半ば以降、労働分配率は下がり続けている。賃金は、一九九七年をピークに、二〇〇二年~二〇〇七年にかけての好景気の時期でも平均賃金は下がり続けている。
 アベノミクスが唱えるようなトリクルダウン理論はまやかしにすぎない。景気の回復は大資本の強欲な集積を強め、利益はさらなる投資に振り向けられ、資金を集めるために株主への配当に充てられ、労働者への配分はますます小さくなっている。企業と投資家だけがますます富み、格差は拡大する。多国籍資本の権力は強まり、自分たちに都合のいい政策が実現される。労働の規制緩和が進み、それは労働者の貧困化に結果する。政府が資本家に都合のいい経済政策のためにつぎ込んだ莫大な財政支出は、労働者民衆の将来への借金として税に上乗せされ続ける。これが新自由主義の下で起こっていることだ。

 ●3章 最低賃金制度の変遷

 一九五九年に最低賃金法が制定された。法制定当初は主に業者間の協定で最低賃金が定められ、やがて産業別最賃へと広がった。労働者のセーフティネットという発想よりは、業者間の不正競争防止の意味合いが強かったようである。一九六八年に法が改正され、業者間協定は廃止され、審議会方式へと移っていく。一九七〇年中央最賃審議会は答申の中で「全国・全産業の労働者があまねくその適用を受ける状態が実現されるよう配慮すべき」と最賃制度の全労働者への適用を訴えた。
 一九七五年にはすべての都道府県で地方最賃が設定され、地域最賃と産業別最賃が併用されることになった。ここにおいて、やっとすべての労働者に最低賃金が適用されることになった。この年、当時の労働四団体の統一要求により全国一律最低賃金制度が野党共同提案として国会に上程されたが可決されず、二年半の中央審議会の審議の後、地域別最賃の引き上げ額の「目安」を中央審議会が提示する方式が導入された。
 現在の最低賃金法は二〇〇八年七月に施行されたもので、この改正にはワーキングプアの増加が社会問題化されたことが背景としてある。最低賃金法では第一条(目的)に「この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と定められている。第九条(原則)では①地域別最低賃金はあまねく全国各地域について決定、②地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定め、③労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護・に係る施策との整合性に配慮とされ、労働者のセーフティネットとしての役割が明示されたことが、改正の特徴である。しかし最低賃金の現状はセーフティネットとは言い難い低い水準にある。

 ●4章 今こそ最賃闘争に立ち上がろう

 最低賃金引き上げに対して、労働運動の取り組みは長年極めて弱かった。最低賃金に影響される層はいわゆる「主婦パート」や「学生バイト」などの非正規雇用労働者であること、あるいは正社員であっても中卒・高卒の初任給の時期で、その給与は世帯主の男性正社員の収入に対して補助的な収入であると考えられてきた。電算型賃金体系に基づいて作られた社会モデルがこうした低賃金を温存してきた。その中には同一価値労働同一賃金という均等の原則から大きく逸脱した差別的取り扱いが長年にわたってまかり通ってきたのだ。
 高度経済成長期から中小企業の製造業のパートタイマーや季節雇用を中心に徐々に増えてきた非正規雇用労働者が、一九八〇年代には大企業や第三次産業に大幅に広がって常用雇用化するとともに、当初は比較的単純な労働が中心であったものが、業務内容が拡大し、責任も重くなり、基幹的な労働力となっていく。
 グローバリゼーションの進行とともに、製造業の海外移転が進み日本社会のサービス産業化が深まると、業務の繁閑や二十四時間三百六十五日稼働に対応する労働力として資本はますます非正規雇用労働者を増やし、製造業ではジャストインタイム方式(必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給する生産方式)が労働者の雇用にも適用され、労働者をモノ扱いする風潮が強まった。
 一九九五年に当時の日経連が発表した「新時代の日本的経営」は、年功賃金・終身雇用制度を捨て去り、非正規雇用を主流にすることを公式に宣言するものであった。
 こうした労働の変容の中で、労働者の上層と下層への分解が進んできた。労働運動は、大企業正社員と公務員と中小零細企業社員と非正規雇用労働者の二つの層に分解している。そして、最大のナショナルセンターである連合の大企業正社員の労働組合は、自らの労働条件が膨大な非正規雇用、下請け企業労働者の劣悪な労働条件によって支えられていることに目をそむけ、非正規雇用労働者の組織化や闘いに無関心であり続けているだけでなく、抑圧する側にさえ立っている。現在、流通業のパートタイマーを中心に、非正規雇用労働者を数の上で多数組織しているのは連合であるが、その実態は第二労務部とも揶揄される労働者管理の機関と化している。連合の中にも闘おうとする労働者が存在するのかもしれないが、その闘いは見えてこない。
 中小零細企業の労働組合組織率が1%以下という現実は、労働者・非正規雇用の労働者にとって労働組合が疎遠なものになっている根拠である。それだけではない。パートタイマーやアルバイト、公務職場でも三分の一を超えると言われる嘱託や臨時職員などの公務非常勤労働者、派遣労働者や請負契約の労働者、下請けなど中小零細企業の労働者、運送や原材料納入の業者の労働者、そうした相対的に下層に位置する労働者にとって、目の前に現れる労働組合員は横柄な態度で、下請け企業や業者に無理難題を押し付け外注コストを削減することに血道を上げる大企業の一部でしかない。同じ職場で働きながら、非正規雇用労働者を管理し、こき使う正社員でしかない。安定した雇用と手厚い労働条件・福利厚生に守られていながら、非正規雇用労働者への差別や使い捨てには一顧だにしない、自分たちとは無縁の組織が労働組合というものだと非正規雇用の労働者には認識されている。
 労働運動の中から、下層へと追いやられている労働者の立場に立って共に闘いを作り上げていくことが今ほど重要な時はない。
 最低賃金制度は、長らく行政主導の審議会方式にゆだねられてきた。働く貧困層にとって、大きな影響のある最賃制度を、セーフティネットとして意味あるものへと労働運動が取り戻していく闘いが求められている。最賃引き上げを、最低賃金に張り付くような低賃金で働いている労働者自身の闘いへと取り戻さなくてはならない。その闘いを真剣に取り組むことを通じて、労働者階級の中に資本家が撃ち込んだ楔をはね返す団結を形成していくことが求められている。
 労働組合が、一部の「特権労働者の会員制クラブ」などではなく、資本家階級と非和解な労働者階級の闘いの武器であることを多くの労働者の前に示す労働運動が求められている。
 全国の闘う労働者が、最低賃金の今日的な意味を改めて確認し、格差と競争の中で個々ばらばらに分断された労働者の中に分け入って団結を取り戻す闘いとして最賃闘争を闘うことを訴える。


 

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