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■「新たな捜査手法」導入を許すな! 「可視化」後景化し盗聴法拡大・強化 四月三十日、法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」の第二十六回の会議が行われた。この会議で、事務局を握る法務省は「事務当局試案」を示した。日帝国家権力は、この試案をもとにした答申を今夏中に取りまとめ、「新たな捜査手法」などの刑事司法改悪案を来年の通常国会で法制化することを狙っている。 試案の内容は、以下のようになっている。①取調べの録音・録画制度(可視化)、②刑の減刑制度、捜査・公判協力型協議・合意制度、刑事免責制度、③盗聴捜査の拡大強化、④証拠開示制度、⑤ビデオリンク方式による証人尋問、証人の氏名などの秘匿、⑥虚偽証言の禁止、証言強制などである。 ①の取調べの録音・録画については、取調べの全面可視化をつぶし、密室での取調べを維持する方向を打ち出している。試案では、二つの案が示されている。A案は、可視化を裁判員裁判の対象事件に限っている。B案は、A案に加えて、すべての身柄事件については検察官による取調べだけを可視化するとしている。警察の取調べは可視化しないということだ。 裁判員裁判は殺人や放火などに限られ、すべての起訴事件の中で裁判員裁判が占める割合は3%程度なのが現状だ。つまり、A案にしろB案にしろ、警察による取調べについて、起訴される事件の97%は密室での取調べを維持することになってしまう。志布志事件、大阪地検による証拠捏造やPC遠隔操作事件では、強圧的な取調べによって、やってもいない「犯罪の自白」を強制していたことが明らかとなっている。しかし、これらの事件は今回の試案では可視化されないことになる。事実上、警察権力は取調べの可視化はしないということなのだ。 可視化の対象とされる裁判員裁判対象事件にしても、警察・検察権力の裁量が大きく確保されている。たとえば、「記録に必要な機器の故障、その他のやむをえない事情により、記録することが困難であるとき」、あるいは、取調官が「…その他の被疑者の言動により…被疑者が十分な供述をすることができないと認め」たときは、取調べを記録しなくてよいとしている。つまり、それは取調官の判断次第ということだ。「全過程の可視化が義務づけられた」とは到底言えない制度なのだ。 ②の減刑制度などは、いわゆる「司法取引」の導入である。とりわけ、捜査・公判協力型の協議・合意制度は、被疑者や被告人が、他人の犯罪事実を明らかするなど捜査に協力した場合に、起訴を見送ったり減刑したりする制度だ。検察・警察は、代用監獄=密室の取調べにおいて、常に転向強要を企図している。転向者をつくり、嘘の供述を強制して、「組織犯罪」をでっちあげ、組織や運動を弾圧する。「司法取引」こそ、この転向強要の新たな手段として位置付けられているのである。 ③の盗聴捜査の拡大強化については、従来の盗聴対象が四つの類型(薬物、銃器、集団密航、組織的な殺人)に限定されているものから、傷害や窃盗、詐欺や恐喝など十の罪種を追加して、拡大適用しようとしている。傍受方法についても捜査権力の都合に合わせて、手続きや手段を簡便にしようというものだ。従来はNTTなどの通信事業者の施設において、事業者の立会いのもとで盗聴してきた。これが、新たな案では、盗聴装置を警察署内に設置する。盗聴対象の通信は、事業者がその警察施設に送信し記録する。その記録を、誰の立会いもなしに、捜査員が盗聴するというのだ。盗聴記録を公判廷での証拠とするにはいくつかの形式的な制約がつくが、盗聴捜査としては、ほとんど制約がなくなることになる。警察の盗聴が野放しになる制度だということだ。 ④の証拠開示制度については、検察による証拠の一覧表交付を制度化するとしている。これは、警察が保持する証拠は除外されている上に、公判前整理手続きに付された事件に限定している。再審事件では、一覧表は明らかにされない。数々の冤罪事件で明らかになったことは、権力が持つ証拠の中に、被告人の無罪を示す証拠があるにもかかわらず、検察がその証拠を隠して裁判を進め、被告人が「有罪」にされた事件が数多くあることである。無実の人に刑罰を課すという権力犯罪をなくすためには、すべての証拠が開示されたうえで裁判が行われなければならない。しかし試案では、証拠そのものの開示ではなく、証拠の一覧表(リスト)にとどめようとしている。そのうえ、「検察官は……一覧表を交付することにより、次に掲げるおそれがあると認めるときは……その事項の記載をしないことができるものとする」として、ここでも検察官の裁量を大きく認めようとしている。 ⑤ではビデオリンク方式による証人尋問を拡大していこうとしている。ビデオリンク方式は、空港反対同盟の裁判闘争で、空港会社―国家権力側が使ってきた手法だ。試案では「犯罪の性質…その他の事情により、同一構内に出頭するときは精神の平穏を著しく害されるおそれが」あったり、「畏怖し若しくは困惑する行為がなされるおそれがある」と裁判所が認める場合にビデオリンクによる尋問を認めようとしている。 「証人の氏名などの秘匿」は、証人を「畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがある」と検察官が判断した場合、被告人に対してその証人の氏名や住所を隠し、適当な呼称と連絡先で代えることができる手段である。ビデオリンクとともに、公安警察によるデッチあげ事件において、供述を強制された転向者が糾弾を逃れ、デタラメな証言をする手段として使える制度となるものだ。 ⑥の「虚偽供述の禁止」では、刑事訴訟法第三百十一条に「被告人は、虚偽の供述をしてはならない」という文言を加えようとしている。今回は罰則の規定は入っていないが、将来的に、黙秘権の否定に道を開こうとするものだ。「証言強制」は、裁判所が「証人が、正当な理由がなく、召還に応じないとき、又は応じないおそれがあるときは、これを勾引できる」ようにするものである。 そもそもこの特別部会は、無実の人に刑罰を課すという数多くの検察・警察の権力犯罪が明るみになった中で、二〇一一年六月に設置された。代用監獄制度における密室での取調べが、こうした許しがたい権力犯罪の根源だということが明らかとなり、検察・警察権力は密室で何をしているのか、私たちの前で明らかにしろという人民の要求が突きつけられてきた。それが取調べの全面可視化の要求であり、代用監獄廃止の要求だ。今回の試案は、こうした人民の要求をねじ曲げ、火事場泥棒のように、検察・警察権力の強化に着地さようとしている。このようなデタラメな結論を絶対に許さず、新たな捜査手法の導入を阻止しよう! |
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