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■全ての原爆症認定要求を実現しよう! 放射線ヒバクの過小評価を許すな 昨年十二月、日帝―安倍政権によって示された新たな原爆症認定基準を徹底弾劾する。この基準は国の戦争責任・戦後責任を曖昧にして、放射線の人体への影響を過小評価するものであり、絶対に許すことはできない。 1章 国が認める被爆者とは まず、原爆症の新たな認定基準の問題点を示す前に、国―厚生労働省が認める原爆被爆者とはどういう人を指すのかを説明する。一九九四年に旧原爆二法(原爆医療法と原爆特別措置法)を統合して制定された「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」(以下、被爆者援護法)によると「被爆者」とは、原爆が投下された瞬間被爆地にいた直接(一号)被爆者、原爆投下後二週間以内に爆心地から概ね二キロ以内に立ち入った入市(二号)被爆者、原爆投下時、またその後に、爆心地の外に避難した被爆者の救護や死体処理にあたるなどした救護(三号)被爆者、そしてそれらの胎内にいた者が胎内(四号)被爆者となる。以上の被爆者が居住地の都道府県知事に申請すれば被爆者健康手帳が交付される。申請には申請書と添付書類が必要とされる。添付書類とは、当時の罹災証明その他公の機関が発行した証明書、あるいは当時の書簡、写真等の記録書類、あるいは市町村長等の証明書、あるいは第三者二人以上の証明書である。戦後六十九年が経とうとする現在、添付書類を準備できる被爆者は少なくなっており、代わりに当時の状況を記載した申述書及び誓約書を提出する場合もある。 被爆者健康手帳が交付されると健康診断や医療給付(保険適用をした上での自己負担分の国費負担)が受けられ、条件を満たせば保健手当、健康管理手当、医療特別手当、特別手当、原子爆弾小頭症手当、介護手当、家族介護手当などの手当が受けられる。現在も、被爆者健康手帳の申請を行う人々が存在するのは、被爆者差別がある中で、被爆者であることを隠し続けてきた被爆者が多数いることを物語っている。また、韓国やブラジルなどに住む在外被爆者は、戦後長い間被爆者援護法の適用を受けられず、裁判に勝訴する中で一つ一つの援護施策を勝ち取ってきた。しかし、被爆者援護法の枠外で行っている医療助成に上限があるなど、日本国内に住む被爆者と較べて援護の面でまだまだ差別が残っている。しかも朝鮮民主主義人民共和国に住む被爆者には、日本と国交がないという理由で、国は被爆者援護法にもとづく援護を一切行っていない。在外被爆者に対するこうした差別は、国の戦争責任・戦後責任が大いに問われる問題だ。さらに、現在の被爆者援護法では被爆地と認められないために、被爆者援護法の適用を受けることができない被爆者も多数いる。被爆者健康手帳の交付を求めて、長崎では、「被爆体験者」と呼ばれる被爆者が二陣に及ぶ集団訴訟に立ち上がっているし、広島では「黒い雨の降雨地域」を六倍に改めよと行政も一緒になって被爆地の拡大を求めている。 それに加えて、国は被爆二世―三世に対して原爆の放射線の遺伝的影響を認めず、単年度措置の年一回の被爆二世健診の実施しか行わず、ガン検診の実施や実態調査を拒み続けている。また被爆二世の中には、ガンや親と同じような病気で亡くなっている者もいるし、健康不安は今まで以上に大きくなっている。被爆三世の多くが成人に達している中で、国の責任による被爆三世健康診断の実施も必要だ。被爆二世―三世を第五の被爆者(五号)として被爆者援護法の中に組み込んでいくことが是非とも必要となっている。 ●2章 原爆症認定問題とは何か 「原爆症認定」制度とは被爆者健康手帳を持つ被爆者が病気になった場合に、厚生労働大臣の「認定」を受けることによって、医療給付(認定を受けた病気について無料で医療を受けること)や医療特別手当(月額十三万五千五百四十円:二〇一三年三月末現在)の支給を受けることができる制度だ。 被爆者援護法第十条で定められた原爆症の認定要件は二つある。第一の要件は、被爆者が原爆の放射線によって病気やけがを発症したこと、あるいは、治癒能力が原爆放射線の影響を受けているという、「放射線起因性」だ。第二の要件は、原爆放射線によってその病気やけがが治療を必要とする状態にあるという、「要医療性」だ。 被爆者の側からすれば、自らの病気や傷害が原爆を受けた所為であることを認めさせる闘いだ。それは、その傷害や病気により受けた社会的差別や不利益を被爆者個人の責任にされている現実から転換し、国家の戦争・戦後責任として追及してその責任を日帝―国家権力に取らせることにある。すなわち戦争を遂行し国体を守るために敗戦を遅らせることで原爆投下に至らしめた日帝―国家権力の戦争責任を追及することであり、侵略戦争も核兵器使用を始めとする核の被害も二度と繰り返させない証としての闘いなのだ。しかし、認定制度が厳しく全被爆者の0・8%しか認定されてこなかった。二〇〇三年被爆者は、原爆症認定集団訴訟に立ち上がった。ある被爆者は、原爆症認定集団訴訟の中で次のように意見陳述した。「第一に、私の身体を友だちと同じように働ける身体に返して欲しい。皆と同じように働きたかった。第二に、子ども達の身体のことが心配だ。私の子どもが同じような病気で苦しんでいる。被爆二世―三世に被爆者援護法を適用して欲しい。最後に世界中から戦争を無くして欲しい。今も、イラクで続く戦争を止めて欲しい。私が原爆を受けた時と同じような子ども達が戦争の被害に遭い、『劣化』ウラン弾の被害に苦しんでいる。これが私の願いです」と述べた。この思いは、被爆者共通のものだ。この集団訴訟で、国は連続敗訴した。二〇〇九年、国は要件を少し緩和して認定基準の新しい審査の方針を策定したため、認定される者が多くなった。しかし、年月が経つにつれ認定基準がまた厳しくなった。 二〇一三年三月末現在の医療特別手当受給者数は八千五百五十二人であり、被爆者健康手帳保持者数約二十万二千人のわずか4%に過ぎない。ほとんどの被爆者が、今もガンなどの病気になっても「原爆症」と認められていないのだ。しかも、二〇一三年十二月十六日に了承された原爆症認定基準の「新しい審査の方針」は、原爆症認定集団訴訟の勝訴判決の中味を全く反映しておらず、未だに放射線被爆の影響を過小評価しており、司法判断と行政処分の隔たりはむしろ拡大している。 ●3章 積極的に原爆症と認定する範囲の欺まん性 具体的に見てみよう。今回、放射線起因性を削除し積極的に原爆症と認定する範囲として、七つの疾病を三分類してそれぞれの該当条件を定めた。 その第一の疾病は、①悪性腫瘍(固形ガンなど)、②白血病、③副甲状腺機能亢進症の三つで、(ア)被爆地点が爆心地より約3・5キロメートル以内である者、(イ)原爆投下より約百時間以内に爆心地から約1・0キロメートル以内に入市した者、(ウ)原爆投下より約百時間経過後から、原爆投下より二週間以内の期間に、爆心地から約2キロメートル以内の地点に一週間程度滞在した者、という各条件がついている。すなわち入市被爆者の場合、原爆投下から五日目以降に被爆地に入った者は一週間程度以上滞在しないと例えガンや白血病や副甲状腺機能亢進症になったとしても「原爆症」とは認められない厳しい条件になっている。原爆投下約一時間後には、広島のキノコ雲は、高さ約14・2キロメートル、幅は約18・7キロメートルにも及び、この雲の下では、放射性物質を多量に含んだ黒い雨やスス、そして目に見えない放射性微粒子が充満して地上に降り注いだ。また、爆心地付近では、原爆から放たれた中性子が地上付近や地面の物質にぶつかり、放射線を発する物質に変えた。これを誘導放射能とよぶ。つまり、被爆者が浴びた放射線は原爆から直接放たれた直接放射線だけではない。放射性降下物や誘導放射能によって体外から被曝をするとともに、放射性物質を食事や呼吸などで体内に取り込み被曝したのである。(岩波ブックレットNo.684『被爆者はなぜ原爆症認定を求めるのか』参照) その第二の疾病は、①心筋梗塞、②甲状腺機能低下症、③慢性肝炎―肝硬変の疾病であり、(ア)被爆地点が爆心地より約2・0キロメートル以内である者、(イ)原爆投下より翌日までに爆心地から約1・0キロメートル以内に入市した者、という厳しい条件がついている。これでは、内部被曝や残留放射能の影響を全く考慮していないのと同じで、原爆投下から二日目以降に入市した被爆者や爆心地から2・0キロメートルより以遠の所で被爆した直接被爆者が、例え上記の疾病にかかったとしても、原爆の放射線の影響とは認めないのだ。二〇〇六年に下された原爆症認定集団訴訟の広島地裁判決では、十三日目に爆心地近くの本川小学校に入り救援活動や死体処理に一週間あたった入市被爆者の重複ガンや肝機能障害を原子爆弾の放射線の起因性があるとして認めている。しかし、そうした被爆者も、この基準では決して認定されない。多くの入市被爆者が、髪の毛が抜けたり、下痢や嘔吐をしたり、鼻血、身体が疲れやすくなるなどの放射線による急性症状を発症した事実に反する。この新しい審査の方針は、事実上認定基準を狭めている。 第三の疾病は、放射線白内障(加齢性白内障を除く)であり、被爆地点より約1・5キロメートル以内である者と非常に厳しい条件がついている。 以上の疾病は本来、国は条件を付けずに被爆者手帳保持者であれば「原爆症」と認定すべきだ。しかし、国は相変わらず、原爆炸裂から一分以内に到達する放射線(「初期放射線」という)のみを計算するDS86を踏襲しているのだ。しかも、一般の人にも理解される認定基準を作るという理由を付け、作為的に認定条件を狭めている。にもかかわらず、国は「被爆者援護法の精神に則り、より被爆者救済の立場に立ち、原因確立を改め、被曝の実態に一層即したものとするため、定めた方針」と強弁している。このウソを断じて許してはならない。 ●4章 「総合的に判断」は「却下」と同義 前記の積極的に認定する疾病以外の疾病についても、被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に勘案して、個別に放射線起因性を総合的に判断するとしているが、その根拠があきらかにされておらず、今までの認定状況を見ても、「原爆症」と認定されるとは到底考えられない。 しかし、多くの被爆者と長年共に歩んできた人は、「直接被爆者より入市被爆者の方が救護や死体処理や瓦礫処理で長く被爆地に滞在したから、放射線の影響が大きいのではないか」と話されていた。それは、今まで元気だった入市被爆者が歳を取ってガンを発症すると、次から次へガンが出てきて多重ガンになり、あっという間に亡くなっていく現実に遭遇するからだ。 私たちは、被爆の影響の過小評価を絶対に許さない。原爆症認定を要求する全ての被爆者の認定を勝ち取るために共に闘おう! ●5章 フクシマの被曝者に原発被曝者援護法を創設せよ! 原爆症の認定基準をめぐる闘いの中で見えてくるものは、DS86に基づく初期放射線被曝の人体への影響しか認めず、内部被曝や誘導放射線による外部被曝や残留放射能の影響などを認めようとしない国の姿勢だ。 フクシマの原発事故は、今も収束せず続いている。日々放射性物質に汚染された水はたまり続けている。命がけで収束作業をしている原発被曝労働者は劣悪な環境の中で作業をさせられ、下請け、孫請け作業の中で危険手当をピンハネされたりしている。被曝線量の管理は杜撰である。また、一千基にも及ぶ汚染水タンクからも基準値の八倍の制動X線が出ており、労働環境は増々悪化している。そういう状況の中、日帝―安倍政権は避難住民に対して福島への帰還を推し進めようとしている。日帝―安倍政権が低線量被曝を過小評価して原発事故が収束したかのように振る舞う姿勢を許してはならない。 この原発事故と被曝実態に即した原発被曝者援護法を早急に作る必要がある。被曝者健康手帳の発行と被曝者健康診断の実施と医療費の助成は急務の措置だ。そして、この施策は今まで、原発被曝労働に従事してきた労働者やJCO臨界事故などの被害者にも国家補償に基づいて適用させる必要がある。 原爆症認定を実現する民衆の運動をフクシマ原発事故を始めとする原発被曝者の援護法の実現につなげよう。核兵器も原発も無い世界を実現するために、あらゆるヒバクシャの補償を勝ち取ろう! |
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