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■多国籍企業のためのTPP協定を許すな TPPの協議内容を公開せよ! 二〇一三年三月十五日、安倍首相はTPP拡大協議(以後、「TPP協議」と表現)に参加することを記者会見で表明した。 四月十二日には米国とのTPP参加事前協議で日本は自動車や保険分野で米国の主張を受け入れるとともに、非関税障壁についてもTPP協議と併行して二国間で、TPP交渉終了までに完了するという米国の一方的要求を受け入れ、参入についての米国政府(米国議会はまだである)の了解を取り付けたことが明らかになった。そして、四月二十日カナダが(事前にカナダと何を協議し、何を譲ったか政府は明らかにしていない)日本のTPP協議参加に同意し、既参加十一カ国政府から協議への参加了承を取り付け、米国議会で日本の協議参加が承認されればこの七月以降、日本はTPP協議に参加することになる。 私たちは米国の市民団体パブリックシチズンが強調した「TPP拡大協議の結果、結ばれるTPP協定とは多国籍企業の世界支配の道具だ」に端的に示されているように、TPPは新自由主義政策を推し進めるツールとして、米国の多国籍企業を中心とした企業・投資家の強収奪を促進し、協定参加各国の人々から安心・安全・環境を奪い、地域の絆を解体し、地域共同体維持をできなくさせ、そして生活まで奪っていくものである。 私たちはTPP協議に反対し、あらゆる機会をとらえ、TPP協議反対運動を強化し闘いを前進させていく必要がある。 このTPP協議反対運動を前進させるため、情報は限られているがこれまで米国が他国と結んだFTAやEPA、P4協定、リーク情報等を分析し、TPP協定締結の問題性を明らかにする。 ●1章 TPP原協定=P4協定は「例外なしの関税撤廃」 TPP協定は二〇〇六年五月にチリ、ニュージーランド、ブルネイ、シンガポールの四カ国が締結した協定(Trance Pacific Partnership=TPP)であり、この協定をP4協定とよび、現在発効している。 この協定の中の第二十章に協定発効後から二年後までに投資と金融に関する交渉を開始する旨が定められている。 このことに目をつけたブッシュ政権時代の米国が交渉に参加することを表明、その後オーストラリア・ペルー・ベトナムが参加しTPP拡大協議が開始された。第三回交渉からはマレーシア、そして二〇一二年からはカナダ・メキシコもこの協議に加わり現在十一カ国で協議が進められている。P4協定は「例外なしの関税撤廃」を実現しており(少数の品目ではあるが十年程度の関税撤廃猶予期間はある)当然そのことを踏まえ、協議に参加しなければならない。安倍自民党政権の米等のセンシティブ品目は関税撤廃の例外とするという公約や主張は全く実現性のないものである。 ●2章 多国籍企業の権利を保障するISD条項の取り入れ ISDとはInvestor-State Disputeの略語であり、投資家と国家の紛争のことである。 条約で、最恵国待遇、内国民待遇、市場アクセス、透明性、公平衡平待遇、収用と補償等の条項に基づき、企業や投資家が投資を棄損したり、あるべき利益を締約相手国の立法・行政措置等により損失を出したと思われる場合に企業や投資家が国家を訴えることができる制度を規定した条項である。 米国が結んだISD条項が入っているFTA・EPAでは、企業や投資家が訴えることのできる裁判機関は投資先締約国の裁判所だけでなく、世界銀行傘下の投資紛争解決国際センター(ICSID、以下「解決センター」と略す)に訴えることができる。 解決センターの裁判官は多くの場合、訴訟側が一名、被告国が一名、米国に支配された世界銀行の下部機関である解決センターが一名を推薦し、合計三名で判定を行うことがほとんどである。 米国の企業・投資家が訴訟する場合、訴訟側の裁判官は米国の国際弁護士が推薦され、そして解決センターが推薦する裁判官の多くは米国の国際弁護士であるといわれている。 また、条約の原文のほとんどが英語表記であり、英語圏でない国は微妙な解釈で不利益を受けているといわれている。 つまりこのISD条項は徹底して米国多国籍企業や投資家が、投資先国家の人民から労働力を収奪し、資源・土地を略奪し、環境と安全を奪い、そして生活を破壊する条項として取り入れられたものである。 そのことは、北米自由貿易協定(NAFTA)の提訴件数・結果を見れば明らかである。米国企業・投資家のカナダ提訴件数は十五件で勝訴二件・和解三軒、敗訴五件、取り下げ三件、係属中二件。米国企業・投資家のメキシコ提訴十四件で勝訴五件、敗訴六件、取り下げ三件である。これに対し、カナダ企業の米国提訴は十四件で勝訴ゼロ件、敗訴七件、取下げ五件、係属中二件、メキシコ企業の米国提訴は一件であり、係属中である。また、カナダ企業のメキシコ提訴は一件であり敗訴している。(外務・経済産業省の資料、二〇一三年三月より) ●3章 多国籍企業・投資家の権利を国内法よりも優先的に保護 内国民待遇とはこの条約に参加した締約国の企業・個人に自国の企業・個人より不利な扱いはしないというものであり、市場アクセスとは締約国の企業・個人が自国の市場に参入する際に、あらゆる障壁を取り除くことを意味する。 GATTやその後継機構であるWTOの「物の貿易に関する原則」としては、いまでは常識的なものである。しかし、これが「投資を含めた広い意味でのサービス貿易」に関わる「原則」になると、多国籍企業と関係国にとって意味・影響度がことなってくる。 例えば「内国民待遇」を例にとれば、国内法で「明確で合理的な根拠を有する根拠と手続きで国内企業と外国企業に何らかの異なる扱い」を規定していても、「内国民待遇」原則が国内法より上位にあり、国内法が無力化されてしまう。 つまり、投資受け入れ国の主権が形骸化されてしまうという問題が発生する。市場アクセスも同様の問題を孕んでいる。 「透明性」とは締約国が自国の法令・規則等を新たに制定したり変更する場合、関連する他締約国の外資企業の意見を事前に聴収し、調整しなければならないという原則である。 外資企業が「意見の聴収と調整」を求めるのは国民主権に介入し、立法府の法律制定や行政府等の政策決定・政策遂行に影響を与え、外資企業の利益になるように締約国や締約国の自冶体に圧力をかける権利を得るためである。 TPPでは透明性の条項は明らかになっていないが、二〇一二年に発効した米韓FTAの事例を提示しておく。 韓国は国民皆保険制度をとっており、日本と同様の健康保険制度ではないが、医薬品の認可、医薬品の価格決定はこの保険制度に大きな影響を及ぼすため、政府が主導的役割を果たしてきた。 この保険制度に対し、米韓FTAでは医薬品の認可、価格決定の透明性を高めるためという観点で、申請者の要請に基づき、韓国政府から独立した「再審機構」をつくることになり、従来のように韓国政府が薬価格を決定できなくなる制度を米韓FTAで韓国は受入れさせられた。 「収用と補償」の問題は一九六〇年代独立したアフリカや中東産油国等の投資受け入れ国政府が「資源主権」行使のため外資企業の資産を没収=収用したのだが、この対応策として、米国を先頭とする帝国主義政府が多国籍企業の資産を守り、このようなことが蔓延しないようにするため、資産を没収=収用した場合、補償させる義務を投資協定や開発協定に入れたことに端を発している。その後、多国籍企業の対外直接投資による現地生産が広がると、直接投資を受け入れた国の中から、自国の経済発展や環境保護のため、多国籍企業に自国企業からの部品調達や自国労働者を正当な賃金で雇用する義務等を課したり、先進国並みの公害規制を課す受け入れ国がでてきた。 この受け入れ国の対応に対し、多国籍企業は投資受け入れ国政府の動きを封じるために「間接収用」という概念を編み出した。 「間接収用」とは接収ではないが、投資受け入れ国政府の法令などによって多国籍企業の利益が減少し、資産に損失が出た場合にも、補償を求める権利を認めるという原則である。 ●4章 非関税障壁を理由に米国の価値観を参加国に押しつける 外国企業が物品の売込みや投資をする際に関税以外で障害となる法令、商習慣・慣行、行政手続き等がある場合、これらを非関税障壁として、外国、特に米国はクレームをつけてきたし、現在もつけている。 米国が日本に対し非関税障壁として指摘してきたもののいくつかを例をあげれば、製造業における系列取引、土地税制(農地の土地保有税=固定資産税の付加)、大規模小売店法、食品の添加剤規制等であり、米国はこれらを問題にし、日本政府に要求を突きつけ解決を迫ったのである。 そして、現在も軽自動車の車両規格や税制、医薬品のドラッグラグ・薬剤価格の決定方法、食品添加剤の範囲・許可手続き、農産物の残留農薬基準・ポストハーベスト使用禁止、保険と規制がことなる共済制度等を問題にし、日本政府に要求を突き付けている。 TPP拡大協議は米国だけとの協議ではないが、米国は米国での商習慣、法律、規制等の価値観を拡大協議参加各国に押し付けようとしていることは様々なリーク情報や参加各国の記者会見から、明らかであるし、TPP拡大協議参加のための日米二国間協議においても、米国の価値観に基づいた要求を押し付けてきている。 ●5章 多国籍企業の強収奪許す労働規制緩和―労働法制改悪 TPP拡大協議では労働分野の問題も協議されている。 多国間協議なので必ずしも米国の要求が多国間協議の場で貫徹されるわけではないが、米国は多国間協議と併行して二国間協議を行い、米国の要求を各国に提示する方法をとっている。米国は協議に参加する開発途上国に対しては米国内利害団体のTPP拡大協議参加反対を和らげるため、米国や国際労働機関(ILO)の最低賃金、労働時間等を問題にし、規制を求め、協議に参加する先進国に対しては米国の労働法制・基準に沿った労働規制をとるよう協定を推し進めるであろう。 米国が推し進めようとしている日本における労働分野の具体的要求を想定すると、労働者派遣法のさらなる規制緩和、解雇規制=解雇要件の緩和と解雇紛争への金銭的解決策の導入、ホワイトカラーへの残業規制全面緩和(ホワイトカラーへのホワイトカラー・エグゼンプションの全面適用)による残業代廃止等が推測される。現実に、TPP参加を決めた安倍自公政権は産業競争力会議―規制改革会議等でTPP拡大協議に参加するのと並行して労働規制緩和等を検討し始めている。 また、TPP拡大協議を先頭で煽っている日本経団連(=日本の多国籍企業の総本山)の労働法制分野における規制緩和要求はほとんど米国と同じであり、経団連の願望である。 それゆえ、経団連はこれらの労働分野における規制緩和については安倍自公政権の産業競争力会議―規制改革会議等の政府の諮問機関で影響力を発揮するとともに、新聞・テレビ等のマスコミを利用しながら米国および日本政府と組んで労働分野における規制緩和のプロパガンダをTPP拡大協議の推進と絡め行っている。 ●6章 TPP拡大協議の結果しだいで国民皆保険制度崩壊へ 米国は二〇〇九年医療分野における協議の方向性を、TEAM(Trade Enhancing Access to Medicines)として打ち出し、TPP拡大協議に臨んでいる。 二〇一二年八月、マレーシアのリュウ・チュンライ保健相は怒りを込め「アメリカは医薬品の特許を延長しようとしている。TPP協定が締結されれば、ジェネリック医薬品会社は特許を延長された期間ジェネリック医薬品を製造できなくなる」と語り、協議内容の一部を明らかにした。 現在の日本の医療保険制度では適用される病気・医療行為・薬剤の範囲は指定されている。新たな難病は医療保険制度に組み込まれるまで、あるいは公的医療保険制度の範囲外で高度医療行為を行った場合、公的医療保険制度は適用されない。また、公的医療保険で治療する部分と公的医療保険範囲外の治療を混合して行う医療行為は原則として認めていない。米国は混合診療を全面解禁しろと要求している。また、米国は海外で使用している医薬品を日本での治験なしに、そして高額な薬であっても、製薬会社の言うとおりの価格で医療保険制度で使用できるようにせよ、とか保険適用外の株式会社病院を自由化せよという要求もしている。 このような米国の要求が実現していくと日本の公的医療費用は高騰し、財政的に持たないというのが医療関係者多数の懸念であるし、見解である。TPP協議の結果によってはこの医療費高騰をコントロールすることができなくなり日本の国民皆保険制度はやがて崩壊の道をたどるであろう。 ●7章 TPP協定は地域経済・地域社会を崩壊させる 今回のTPP拡大協議の前提であるTPP協定=P4協定は「関税ゼロ」で例外を認めず、少ない品目に関税ゼロへの経過期間を認めているだけである。 農産物の関税をゼロにした場合、農水産省の試算では北海道農業への影響を十九品目で四・一兆円(二〇一〇年十月)と発表した。同じ頃、北海道農政部も試算を試みた。 北海道農政部の試算の前提は米・小麦・ビート・でん粉原料用馬鈴薯・酪農製品・肉用牛・豚の七品目を対象とし、小麦・ビート・でん粉原料用馬鈴薯は100%壊滅、酪農製品七割程度減、肉用牛八割減、豚100%壊滅を想定し試算を行った。 試算の結果は、農業生産額、関連産業への影響、地域経済への影響等で総計二兆一千億円程度、農家戸数の減少三万三千戸、雇用喪失十七万三千人にのぼると公表した。 北海道は道央の水田農業、道東の畑作農業、道東・道北の酪農という基幹産業が危機に瀕し、農村部の地域社会が維持できないほどの打撃を受ける可能性が大きい。 北海道だけでなく「関税ゼロ」になったら、基幹産業が壊滅的打撃をうけ、地域経済が崩壊し、地域社会が維持できなくなる農村部が多数でてくると思われる。 地方都市の駅前のシャッター街化した商店街は大店舗法による規制緩和が大きく影響した。農産物をはじめとする物品に対する関税ゼロを原則としているTPP協定を受け入れれば、地方の農山村をますます限界集落に追い込み、そして農山村の地域経済・地域社会を崩壊させるだけである。 ●8章 共生・共助の制度を否定、米国的価値観の保険制度強要 TPP協議に参加するための米国との二国間協議で、日本政府は㈱簡易保険会社に新たな保険の種類は認可しないことを表明した。 米国の多国籍企業の主流である保険会社の利益を確保するため米国は貿易協定交渉で協議相手国に保険分野の米国型基準を受け入れさせようとしている。米国の民間保険は米国医療保険制度の中で医療制度を支配し、膨大な収益を上げている。 この医療保険分野領域での収益を目的に米国政府は協定相手国に米国の価値基準に基づいた要求をつきつけており、簡易保険の新たな分野への参入阻止もこの一環である。また、今回の二国間協議で保険分野における規制を統一するということもうたわれた。 日本においては日本生命、明治安田生命等、大手生保会社が相互保険会社として営業しているとともに、生命保険会社以外に農協共済、全労済・全国共済等、株式会社と異なる共済・相互扶助を前提に発展した保険取扱い組織が多数ある。 米国は日本において保険会社と共済の規制が異なるのは参入障壁だと主張し、農協共済や全労済等の共済制度を解体し、米国流保険会社が収益を上げられるようすることを目論んでいる。 ●9章 TPP協議内容を公開させ、TPPから離脱させよう TPP協議の内容については協定締結後、協定参加国および協議参加国は協定内容を四年間公開しないという協議条項を定めていると言われている。 なぜ、協議参加国国民の利害にかかわることを公開しないで隠すのであろうか。 私たちは協議内容、協定案文を公開させる要求を掲げる運動を展開しなければならない。協議内容が公開されれば協議参加各国国民から猛反発うけ、パブリックシチズンの指摘の通り「ドラキュラが日にさらされれば、灰になってしまう」と同様、「米国主導の協議内容が明らかになれば協議参加各国国民によってTPP協議は葬られるであろう」。 新自由主義的価値観で参加各国をしばり、多国籍企業の強収奪・強搾取を許し、協議参加国国民の権利を奪うTPP協定を実現させない闘いを創り出そう。 ※参考文献 『郵政崩壊とTPP』 東谷 暁 (文春新書) 『異常な契約TPPの素面を剥ぐ』 ジェーンケルシー編 (農文協) 『恐怖の契約米韓(FTA)』 ソン キホ(農文協) 『TPPの新局面』田代洋一編 (大月書店) 『TPPは国を滅ぼす』 小倉 正行(宝島書店) 『TPP亡国論』 中野 剛 (集英社) 『本当の経済の話をしよう』 若田部昌澄・栗原裕一弐語 (筑摩書房) |
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