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   労働者の国際共同闘争で
        TPPを打ち砕け



 

 この問題を語るには、ある童話から始めるのがふさわしいと思う。
 都会から山奥へ、イギリスかぶれの紳士が二人、狩りをするためにピカピカ輝く銃を持ってやってきた。だが獲物は見つからず、連れてきた大きな犬は死んでしまう。空腹で不機嫌な二人の前に突然、立派な西洋館が表れる。英語と日本語で書かれた看板は料理店であることを示していた。ごちそうにありつけると二人は大喜びで店に入る。厳かな金文字で書かれた表示が続く。「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」。有頂天になった二人は、なんの疑いもなく「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」に従う。髪をきちんと整えろ、靴の泥を落とせ、銃を置け、帽子を取れ、コートを脱げ、と。そして牛乳のクリームを全身に塗れとあった。変だなと思ったが、二人はクリームを塗る。酢の匂いがする「香水」もかける。次の部屋では塩を揉み込めとある。見てみると、部屋の壁の穴にはには、二つの青い目玉が光っていた。山猫だった。「いらっしゃい。あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです」と山猫は声をかけた。二人は先ほど見た「すぐに食べられます」の意味をやっと理解した。自分たちが食べるのではなく、自分たちが食べられるということを。二人は泣いて逃げだそうとしたが、扉は開かなかったさ……。
 この童話は、第一次世界大戦景気で急成長した日帝のブルジョワ階級を皮肉ったことで有名な宮沢賢治の『注文の多い料理店』である。狩る側と狩られる側、食べる側と食べられる側を逆転させた傑作である。
 さて、何回言っても一息では言えない「環太平洋戦略的経済連携協定」(以下TPPと略)と何か、問われたら、それは『注文の多い料理店』である、と言うのがわかりやすいと思う。
 「イギリスかぶれの紳士」、それは現在のアメリカかぶれの日帝のブルジョワ階級と言い換えることができる。このブルジョワたちは、一九九〇年代の土地バブル崩壊以来の長引く不況とデフレで空腹である。なにか儲け話はないかとさまようブルジョワたちの前に現れたのが英語で書かれた看板を掲げる西洋館、すなわちTPPである。ただ、少し違う所がある。紳士たち最後は山猫に食べられそうになる。人間に狩られる山猫が、人間を罠にはめて食べようとする報復の物語が『注文の多い料理店』である。だから乾いた笑いが起こる。だが、現実のTPPは、アメリカのグローバル企業、軍産複合体、ウォール街の金融資本と言った「野獣」が、日本のブルジョワとプロレタリアートを食い尽くす「料理店」なのである。そこには笑いはない。
 さてTPPを、マスゴミと罵られるブルジョワマスコミや、それに使われるエコノミストは、農業分野だけの問題のように言う。「TPPに参加して関税を撤廃すれば、輸入食料の価格は安くなり、消費者は助かる。農産物が輸出しやすくなるので、日本の農業は活性化する」とバラ色の未来を言い立てる。
 これは情報操作である。農業はTPPの一つの分野に過ぎない。TPPは通信・金融・労働・投資・環境・紛争解決など、二十四分野に渡っている。この二十四分野にわたって全ての関税・非関税障壁の撤廃を目指している。例外は一切認められない。
 そもそもTPPは、チリ・ニュージーランド・ブルネイ・シンガポールの四カ国が締結した経済連携協定(EPA)である。いずれも人口が少なく、資源が乏しいといった共通点を持つ小国が、グローバル経済競争に生き残るために結んだのである。
 ちなみに自由貿易協定(FTA)とは、特定の地域との間でかかる関税等の通商上の障壁を取り除いてモノやサービスの流通を自由に行えるようにする条約のことである。EPAはFTAよりも範囲を拡大して、物流のみならず、人の移動、知的財産権の保護、投資、競争政策などの様々な協力や幅広い分野での連携で、両国又は地域間での親密な関係強化を目指す条約である。
 当初話題にもならなかったこのTPPは、二〇一〇年三月にアメリカが参加を正式表明、同年一〇月八日、当時の菅直人首相が「第三の開国」と称して交渉参加検討を表明したことで、にわかに注目を集めるようになった。これを支持したのが日帝資本を束ねる日本経済団体連合会(経団連)の米倉弘昌会長だった。米倉は、遺伝子組み換え作物を開発している大手アグリビジネス企業のモンサント社と提携している住友化学の会長である。住友化学はまた、日本では医薬品として認可されておらず、発ガン物質の疑いがある殺虫剤ペルメトリンを練り込んだ蚊帳を、日本政府の政府開発援助(ODA)を使って、アフリカのマラリア汚染地域に売り込んでいる大企業でもある。
 さて日本のTPP参加が、労働者階級にどのような影響を与えるのか。結論から言えば、悪影響でしかない。
 TPP参加を求める日米両帝国の資本家の多くは、金融資本主義の常として、買収した企業の株価を短期間に上昇させ、転売してキャピタルゲイン(売却益)を稼ぐことを欲している。そのためには労働者をリストラし、企業資産を売却するのが手っ取り早い。それには、労働者の権利や労働組合の力が弱いことがいい。その目的を達成するのに、TPPは「使える」のである。
 現在のTPP協定の規定そのものには、 労働・雇用の問題について踏み込んだ規定は置かれていない。しかし、TPPと同時に効力が生じた 「TPP加盟国間での労働問題についての協力に関する覚書」 という付属文書がある。 その第二条には、 「締約国が保護貿易主義的な目的のために法規制、 政策と労働慣行を定めることは不適当である」 と書いてある。 これに従えば、例えば大量の非正規労働者を作り出した労働者派遣法の抜本的改正が実現したとしても、 それが「海外企業から見れば保護貿易主義的だ(=海外企業に不利だ)」となると、撤回や不適用を要求される危険がある。
 その要求を突き付ける手段となるのが、「国家対投資家の紛争処理条項」(ISDS条項)である。二〇一一年十一月十一日に開かれた参議院予算委員会で、野田佳彦首相(当時)が「余り寡聞にしてそこ(ISDS条項)を詳しく知らなかった」と答弁して注目されたものである。
 ISDS条項とは、ある国家が自国の公共の利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合に、米帝の影響力がきわめて大きい世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター(ICSID)」という第三者機関に訴えることができるという制度である。審理の基準は、「政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか」という点だけにあって、「その政策が公共の利益のために必要なものかどうか」は考慮されない。その上、この審査は非公開で行われるため不透明であり、判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。また、この審査の結果に不服があっても上訴はできない。仮に審査結果に法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関はこれを是正することもできない。さらに、米国人が仲裁人の大多数を占める国際投資紛争解決センターが、米帝企業に有利な裁定を下す可能性が大きいと指摘されている。
このISDS条項が導入されている北米自由貿易協定(NAFTA)で、カナダとメキシコが米帝企業に提訴され、巨額の賠償金を払わされた事例があった。カナダでは、神経に害を与える物質の燃料への使用を禁止していた。ところが、米帝の燃料企業が、この規制で不利益を被ったとして、ISDS条項に基づいてカナダ政府を訴えた。審査の結果、カナダ政府は敗訴し、巨額の賠償金を支払った上、この規制を撤廃した。メキシコでは、ある地方自治体が、米帝企業による有害物質の埋め立て計画の危険性を考慮して、その許可を取り消した。すると、この米帝企業はメキシコ政府を訴え、一六七〇万ドルの賠償金を得た。一企業が提訴して、国家から巨額の賠償金をぶんどった上、法律を変えさせてしまったのである。ISDS条項の導入により、国家の主権よりも企業の利益追求が優先されるという事態が起こった。
 日帝はTPPに、「我が国が確保したい主なルール」としてISDS条項を入れることを求めてる。つまり日本国民の安全、健康、福祉、環境を、日本の基準で決められなくする国家主権放棄を、日帝自らが求めているのである。
 さて、二十四あるTPP作業部会のうち「労働」部会は、「貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和の可否」や「国際的に認められた労働者の権利の保護の妥当範囲」などが実務レベルの交渉議題とされている。しかし、このような議題が出されても、「労働者保護」の観点から条文を明記しようという合意には至っていない。労働分野について独立した章を設けるか否かすらも合意がない状況である。
 ところで米帝はメキシコとカナダの間で締結し、一九九四年一月一日に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)に、初めて労働分野の国際的ルールを盛り込んだ。賃金水準の引き上げ、法定最低賃金の保障、児童労働の禁止と違反した使用者への罰則が内容である。米帝がカナダとメキシコの経済を支配するこのNAFTAに、「左翼的な」労働者保護規定を盛り込んだ目的は、賃金水準が米帝よりも格段に低いメキシコが、低賃金を武器にして安価な工業製品を米国に輸出する「ソーシャルダンピング」をできないようにするためであった。もっとも実際は、ゼネラルモーターズ(GM)などの米国の製造業のメキシコ移転が加速され、多くの米国人労働者が失業したのであったが。
 一方、米帝は日帝に対し、逆に労働者の権利を奪ってリストラをしやすくして、「投資に最適な環境」を構築しようとしている。それがTPPの「労働」分野の戦略である。
 実は米帝による日帝への内政干渉を合法化する一九八九年の「日米構造協議」、日帝企業の買収をやりやすくするために一九九三年から始まった「日米経済包括協議」によって、獲得された労働者の権利が奪われてきたのである。一九九八年十月二十六日にサンフランシスコで開催された日米経済包括協議の中にある「投資・企業間業部会」部会で、米帝は「対日直接投資環境の改善に関する米国政府の提言」を日帝に示した。この文書で米帝は自国の投資家やファンドによる日帝企業の買収をやりやすくするために、四項目を要求した。すなわち、①確定拠出年金の早期導入、②有料職業紹介事業(アウトプレースメント)の規制撤廃、③労働者派遣事業の自由化、④労働基準法の改正による権利の剥奪である。この内、確定拠出年金と労働者派遣事業の自由化は実現した。結果はご覧の通りである。なお、アウトプレースメントとは、労働者をリストラしたい企業の依頼を受けて、クビを切られた労働者に再就職を「支援」する事業である。つまり、「この方が君の再就職を世話をするから、ここから出て行け!」ということである。
 二〇〇六年六月、『日米投資イニシアチブ報告書』で米帝はさらなる要求を突き付けた。事務系サラリーマンの休日出勤や時間外労働に関わる労働基準法の規制の適用を免除するホワイトカラー・エグゼンプション制度と「解雇紛争への金銭的解決の導入」である。
 当時の安倍晋三首相は、ホワイトカラー・エグゼンプション制度について、労働ビッグバンの一環として厚生労働省労働政策審議会に諮問した。しかし、サービス残業を合法化する制度であることが明白であったため、労働者の猛反発を浴び、安倍が退陣したこともあって実現しなかった。だが、政権に復帰した安倍は二〇一三年二月十五日、設置した「規制改革会議」で、解雇紛争の金銭的解決とともにこの制度を打ち出した。なお、なぜ解雇紛争の金銭的解決導入を目論むかというと、日本では解雇が不当か否かは裁判で決着するしかない。判例として「合理的かつ論理的な理由が存在しなければ解雇できない」などの解雇権乱用の法理が存在するため、企業は簡単に解雇できない。不当解雇という判決が出れば復職させなければならない。だが、金銭的解決制度が導入されれば、ポケットにカネをねじ込んで追い出すことができるのである。
 なお、米帝の六百以上の大企業や業界団体はTPPを推進している。その中には、謎の多い巨大建設企業ベクテル、世界最大の金融企業シティグループ、物流大手のDHLとユナイテッド・パーセル・サービス、ベトナム戦争で使用された枯れ葉剤を製造したダウ・ケミカル、経団連を率いる米倉弘昌が会長である住友化学と提携しているモンサント、福島第一原発の原子炉を製造したGE、軍用機も製造しているボーイング、労組つぶしと非正規労働者の酷使で知られるウォルマート(西友の親会社)、「搾取工場」で製造した衣類や帽子を販売しているGAPなどがある。コカコーラもある(週刊金曜日二〇一一年十一月二十五日号)。これらの大企業や業界団体は、TPP交渉の「顧問」になっているため、非公開とされているTPP交渉の公文書の内容を逐一把握している。自分たちに有利になるような内容にするのは明らかだ。実際、米通商代表部(USTR)のTPP交渉に関する意見公募で、TPPを推進している米保険協会は、かんぽ生命の保険事業について「不公正な競争を排除する」として是正を求める意見を提出した(長崎新聞二〇一二年一月十五日)。
 グローバルな資本主義に対しては、グローバルな大衆闘争で戦わなければならない。国家の枠に捕らわれていては敗北する。敵は国境を軽々と越えるからだ。すでにTPPに対する戦いが始まっている。日本はもちろんアメリカでも、カナダでも起こっている。多くの労働組合、市民運動団体が立ち上がっている。TPPと同じ内容の自由貿易協定である韓米自由貿易協定(二〇一二年三月十五日発効)に対して,韓国の労働者や民衆は激しく抵抗した。今も続いている。これらの運動と連帯して、TPPを断固拒否しよう。米帝が世界経済支配の道具として使おうとした世界貿易機関(WTO)を、一九九九年のシアトル総会粉砕を機に大衆闘争で追い詰め、ついに機能停止に追い込んだように。


 

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