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■本の紹介 『敵には動揺を 味方には確信を』 小城修一さんの戦後社会・労働運動史 昨年十一月、自主出版のかたちで一冊の本が発刊された。本の題名は『敵には動揺を 味方には確信を ~小城修一さんの戦後社会・労働運動史~』である。元・全国金属京滋地方本部書記長であり、ことし八十七歳になろうとする現在もアジア共同行動(AWC)日本連や、きょうとユニオンの顧問などをつとめながら、ともに活動しつづけている小城修一さんへのインタビューをまとめたものだ。本の後半部には、小城さんがこれまで書いてきた文章からその一部が収録されている。六つのパートからなるインタビューのなかでは、社会運動家・労働運動家、そして革命家として小城さんが経験してきたこと、そのなかで感じ・考えてきたことが独特の言い回しで生き生きと語られている。 小城さんの運動体験は多彩で豊富である。戦後直後に日本共産党に入党し、大工場での組合運動から日雇労働運動をへて、朝鮮戦争時には非公然活動も経験した。その後、町工場(まちこうば)で労働組合を結成し、ここでの活動を契機にして総評全国金属(全金)の専従オルグとなった。そして一九六〇年代から八〇年代にかけての一時代、総評労働運動の最左派の位置を占めて活動した。全金退職後はアジア諸国・地域を精力的に訪れ、アジア連帯運動を発展させていくという課題にも取り組みながら現在に至っている。 ●再評価されるべき戦後体験 この本は言うならば、小城さんというすぐれた個人活動家の体験を通してつづられたひとつの戦後日本の階級闘争史である。われわれは小城さんへのインタビューや彼が書いたものを読むことで、戦後日本の労働者民衆の闘争の息吹にふれ、また同時に戦後の労働運動や社会運動の興味深い事実の数々を「発見」することができる。 たとえばその一つは、朝鮮戦争下における日本共産党の党活動である。小城さんの口から語られるそれは、一般に抱かれている「五〇年代武装闘争」時代の党活動のイメージとは相当の隔たりがある。一九五一年、所感派と国際派に分裂していた日本共産党は、所感派のヘゲモニー下で軍事方針・武装闘争路線を決定する。一九五一年初め、小城さんはその決定にもとづいて、京都北部の山間地で活動を開始した。それは、彼が体調を崩して舞鶴で終了するまで約一年半つづいた。小城さんが体験した「非合法活動」「非公然活動」の主要な内容は、農村地域での青年への反戦教育、鉱山労働者へのビラ入れ、原爆写真展、水害支援、メーデーの組織化、あるいは党文書の配布や重要人物との接触などといったものである。その活動の幅は予想外に広く、現在ではボランティア活動、NGO活動と呼ばれているような地道な「民生的活動」もそこには含まれている。小城さんの話からは、当時の共産党員たちが厳しい弾圧下で、朝鮮戦争反対と革命の大義のために創意工夫をもってひたむきに活動していた姿が伝わってくる。 日本共産党の五〇年代革命路線は、「農村から都市を包囲する」という中国革命をモデルとしたものであった。日本資本主義は敗戦によって壊滅的打撃を受けたとはいえ、急速な復興過程にあり、当時の情況からみてさえ、それは現実から乖離したものであった。だが、たとえ誤った路線のもとであったとしても、そこには共産党員たちの人民内部での献身的な活動があったという事実は忘れ去られてはならないだろう。 また自由労組と呼ばれた日雇労働組合での小城さんの体験も貴重なものである。一九五〇年に朝鮮戦争がぼっ発する前後の時期のことである。ここで語られている、たとえば税務署に対する実力的闘争といったものは、現在ではそれが何であるかを想像することさえむずかしい。税金の不当な徴収や、税金未納を理由にした差し押さえに対して、座り込みや税務署員の撃退という手段で対抗するという闘争である。貧しいものから税金を取ること自体が不公正な行為だとする革命的な思想を内包するものであった。こういう闘争・思想などは、今日の時代においてこそあらためて想起され、再評価されるべきであると思う。 ●あきらめずにたたかいつづけること 国家権力に立ち向かい、行政や資本の横暴に真正面から挑戦した数多くのさまざまな行動が、かつての日本の社会には当たり前のように存在した。われわれはこの本を通じてそうした事実や、それを支えた思想について知るのだが、しかし、この本の本当の価値はそのような運動史のいわば光の部分に関わる記述のなかにだけあるわけではない。むしろより注目すべきなのは、運動の行きづまりや挫折のなかで、それを乗り越えていくためにどのような模索が行なわれたのかについて触れられている部分である。 この点に関連して、とくに面白く読めるのは「PART4 教訓」の部分である。小城さんはここでは、中小零細企業において経験し指導した多くの労働争議について語っている。「たたかえば取れる」と言われた高度経済成長期の争議である。この時期、労働運動はいまだ健在であり、中小の組合も大手と変わらない成果をかちとっていたと言う。ところが、一九八〇年代に労働戦線の右翼再編が本格化するなかで、情況は大きく変化していく。戦闘性を誇った総評内の多くの左派労働組合も、右翼再編のなかに一気に飲み込まれていった。戦後労働運動の最大ともいえる危機に直面し、また他方では非正規雇用労働者がしだいに増大していくという現実を目の当たりにして、小城さんは総評労働運動の歴史的限界を痛感する。そして、自分が関与してきた中小の労働組合運動すら「本工組合主義」の誤りから自由ではなかったのではないかと思い始める。そうした総括に立ってその後、「連合」結成へと向かう濁流に抗してたたかう全国・地域の左派活動家とともに小城さんは、地域ユニオン運動や、中小労組の全国組織の再建をはじめとする新たな労働運動をつくりだしていくために全力を傾けていく。 左派労働運動勢力の活動は一定の成果をあげる。だが右翼再編がもたらした破壊的影響はあまりに大きかった。全体として労働運動は低迷・停滞状況におちいり、現在もなおそのような状態からいまだ脱することができないでいる。左派労働運動が一進一退の困難を余儀なくされているなかで、小城さんは、たたかう労働者活動家たちに対して呼びかける。あきらめずに、ねばり強くたたかいつづけよう。変化した状況に対応する組織化の「新しい手法」をつくりだしていこう。労働者階級の団結を再建していくために、労働者にとっての思想性の大切さにもう一度目を向けよう、と(PART6 特別インタビューなど)。 ●アジア人民連帯の重要性 国際連帯運動もまた、小城さんの重要な活動領域である。全国金属退職後の一九九〇年から始まった小城さんのアジア諸国・地域への「連帯の旅」は、計十五回にのぼる。小城さんのアジア国際連帯の精力的な活動は、AWC(アジア共同行動)運動のいしずえを築くことに大いに貢献した。われわれは、AWC運動が生まれてきた背景・根拠、この運動の発展の足跡をこの本のなかに見い出す。 AWC運動の意義に関連して小城さんは、この運動のなかで出会った小峰雄蔵さん(元・東京都教組)の次のような言葉を紹介している。「戦後労働運動をやってきて、一番いま反省しているのは、ひとつは天皇制にたいする反対運動を日本労働運動はしてこなかったことです。もうひとつは、日本労働運動はアジア民衆との連帯というのをなおざりしてきた。このふたつのことを、いま悔やんでいます。このAWCがやろうとしているアジア民衆との連帯というのに、私も参加したい」。小城さんは小峰さんのこの本質をついた発言に、「そりゃ、ほんまにまったくその通りですな」と応じている(PART5 アジア)。 総評運動のなかにも「国際連帯」という領域は存在した。だがそれは中身のない空虚なものであった。必要とされているのはかつての「幹部だけの乾杯交流」ではなく、現地で本当にたたかっている労働者・民衆との連帯だ、と小城さんは断言する。アジアではそれは日米帝国主義との共同の闘争を不可欠にするとも小城さんは言う。この本のなかで小城さんは、日本の労働者階級にとって国際連帯運動、とくにアジア人民との連帯のたたかいが死活的な意義をもっていることを簡潔・的確に提示している。 ●変革の精神に学ぶ 埋もれてきた事実を知ることは重要だ。しかし、われわれがこの本から学ぶべきものはそこにだけあるわけではない。本当に学ぶべきは小城さんの生き様(ざま)の根底に脈々と流れている社会変革の強固な志である。労働者・民衆が虐げられているような社会は変えねばならない、とする強い意志である。それがこの本全体につらぬかれているもっとも大切なもののひとつだ。 小城さんの変革の精神を支えているものは、世の中が表面的に少しぐらい変化しようとも、「階級対立の問題」「根本的な問題、搾取・被搾取というような問題は、ひとつも変わ」らないという階級的な社会観である。ふり返れば、戦後革命期の敗北、その後の高度経済成長期、そして八〇年代の労戦右翼再編を通じて、「日本はもはや階級社会ではない」とか、「階級闘争という考えは時代遅れになった」というような主張が日本社会において幅をきかせるようになった。だがいまや資本主義の過酷な現実がふたたび広がり深まるなかで、そうした言説の虚妄性もまた明らかになってきている。 資本主義が強制する貧困と荒廃に対峙する労働者階級の団結を形成・強化していくこと、階級闘争の発展をもって社会主義の実現にいたる一里塚を切り開いていくこと、このことがいまほど求められているときはない。そのような活動に新たな決意をもって取り組もうとするとき、この本のなかの小城さんのさまざまな言葉は心の奥に届いてきて、われわれに大きな励ましをあたえるだろう。(海) 定価千二百円 A5版 二百二十ページ 発行者 同著・編集委員会 |
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