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■労使協調」から「労使協力」への転換めざす 2012年経営労働政策委員会報告 長 明 一月二十四日、経団連より「二〇一二年版経営労働政策委員会報告」(以下「報告」)が昨年より約一週間遅れで発表され、同日「報告」に対する連合見解が出された。 二〇一二年「報告」は、「第一章『重大な岐路に立つ日本経済』、第二章『危機を乗り越えるための人材強化策」、第三章『今次労使交渉・協議に対する経営側の姿勢』」から構成されている。 東日本大震災による大災害。震災・津波による福島第一原発のメルトスルーという大事故と大災害の継続。二〇〇八年のアメリカの住宅バブル崩壊をきっかけとする世界大恐慌、その後のギリシャをはじめとするヨーロッパ諸国におけるソブリン危機と金融不安、次々と起こる世界的な資本主義の崩壊的状況のが続いている。 このような状況の中で日本帝国主義の中心勢力日本経団連は、ますます多国籍化する傘下企業の今後の方向性として、①アジア進出強化による更なる利潤の拡大、②日本国内で働く労働者に関する諸制度や税制等を、多国籍化する企業に有利になるよう構築する、③労働者の処遇は更に個人化し、それと同時に労働組合には個別企業の労使(労資交渉ではない)交渉・協議を通じ、企業別組合として企業目標・理念の組合員への浸透や労使協力のもとで「現場力・チーム力」を強化するパートナーとしての役割を担わせていくという方向を打ち出した。 報告に沿って、具体的に経団連の意図を暴露する。 ●1 人件費削減・社会保障改悪、労働規制の緩和要求 二〇一二年「報告」は昨年三月の東日本大震災からの想定を上回る早期の事業再開の結果を「震災からの復旧における労使協力や、現場力・チーム力の発揮は、世界に誇れる日本企業の強みであり、この長所を今後とも一層強化することが求められる」(一頁)と日本企業の強みとして評価した。 そして「報告」は米帝の新自由主義・グロバリゼーション政策を前提にしながら、世界で外国企業や他国の多国籍企業との競争に勝ち抜くため、日本の労働組合に企業とともに対外進出・対外収奪にこれまで以上協力することを要求している。 「日本の総人口は、今後十年で五百万人、二十年で千三百万人と加速度的に減少することが見込まれており、……国内市場の規模が縮小し続けることは避けられない」「拡大する海外市場を積極的に取込むため、激化するグローバル競争に勝ち抜く企業づくりの重要性が一層高まっている」「為替レートは二〇〇八年年央から急激に上昇し、二〇一一年十二月末時点では対ドルで30%、対ユーロで約40%の円高となり、企業収益を著しく圧迫している」「このままでは、国内事業の継続は極めて困難となる」「米国労働省の統計を用いて、製造業における一人あたりの人件費を比較すると、日本は先進国の中で最高水準にあり、韓国の二倍近くに達している」「日本の法人税実効税率は世界最高水準の約40%に据え置かれてきた。増大し続ける社会保障費に関しても、企業と勤労者に過大な社会保険料負担を求める構造となっている」(五頁―七頁)などとならべたて、経団連の今後の社会制度改悪要求の方向性を指し示している。 また「中小企業は存立基盤さえ脅かされる厳しい状態にある」「取引先企業に生産拠点の海外移転や、海外からの調達拡大などが進むなか、中小企業の経営環境は一層厳しさを増している」(十五頁)と経団連の責任を省みることなく「労使間で見解が異なる論点に関する経営側主張」「中小零細企業の存続をおびやかす最低賃金引き上げ」(十七頁)と、大手企業の優位性をテコとした取引先中小企業への犯罪的で不公正な価格引下げ要求や価格据置きにより、みずから利益の巨大化を図っていることには一言もふれず、労働者が生きていくため必要な最低限の賃金引き上げさえ拒否しているのである。それに加え、「企業活力を阻害しかねない労働政策の動きとあるべき方向性」として「①労働市場を巡る規制強化の動きとその影響 1)有期契約に係る規制強化 2)高齢者雇用に係る規制強化 3)労働者派遣制度に係る規制強化」をあげ、それに対して、 「わが国では、正規労働者について、解雇や労働条件の不利益変更などが許容される余地が限られ、その雇用保護の程度は極めて強い」「正規労働者に限った人材活用で企業競争を維持することは難しくなってきている。熾烈な国際競争にさらされ、急速に進む円高が進行するなか、労働規制の強化が進めば、産業の空洞化に拍車をかけることになりかねない」と批判している。 その上で「②労働政策のあるべき方向性」として「『自分の都合のよい時間に働ける』『家庭の事情や他の活動と両立しやすい』など、働き方に対するニーズが多様化しており、厚生労働省の調査によれば、非正規労働者としての就労を希望する労働者が七割を占めるなど、多くの労働者が自発的に非正規雇用を選択している。非正規雇用に関しては、好ましくない労働契約であるといった見方もあるが、経営者にとって、すべての従業員は企業を支える大切な人材であり、そうした見方は実態に合わない。経済のグローバル化が進むなか、正規労働者で終身雇用が当たり前という考え方はあらためる時期にきている」(十一頁―十四頁)と、自らの主張に都合のよい状況・データーだけを取り出し、労働規制のさらなる緩和、労働者雇用の柔軟化を主張している。 連合は「報告」に対する見解で「日本の解雇権濫用法理は、解雇に客観的合理性や社会的相当性を求めており、解雇に『正当な事由』を求めるEU諸国など、先進諸外国に比べて厳格ではない。問題は正規労働者との相対的な比較においてほとんど規制がない日本の非正規労働者の労働規制の低さにあるのであり、正確な現状認識と分析を行うべきである」と指摘し、反論している。連合の反論からも、どれだけ経団連の主張が犯罪的であるかあきらかである。 小泉構造改革以降、新自由主義の主要な政策である労働規制緩和を推し進めた結果、大幅に非正規労働者が増大した。この大幅に増大した非正規労働者の傾向を探る意味を含めて厚労省調査が行われている。この調査は分析結果として、「派遣社員」「直接雇用フルタイム」という形の非正社員を選んだ理由として、「直接雇用パートタイム」では積極的理由が多いが、「派遣社員」や、「直接雇用フルタイム」では「正社員として働ける会社がなかったから」という消極的な理由が、それぞれ6・5%、37・0%と多くなっていること、正社員への登用希望も「派遣社員」「直用フルタイム」では30数%にのぼり、「直用パートタイム」の約三倍の人が希望しているという分析結果を記述している。それににもかかわらず、経団連は小泉改革・労働規制緩和以前の非正規労働者としては主婦・学生アルバイトが圧倒的多数である「直用パートタイム」の傾向を非正規労働者全体の傾向であるかのように調査結果を引用し、非正規雇用化を推し進め、非正規労働者を増大させたことを正当化している。 まさしく経団連「報告」は犯罪的であり、ご都合主義の引用である。このような経団連が貧困と格差を作りだした元凶であり、何ら反省することなくこれからも労働者の貧困化と格差拡大を推し進めていくといっているのと同じである。 ●2 総額人件費管理、定期昇給廃止など掲げる経営労働政策 第三章で今次労使交渉・協議で考慮すべき要素として、「一)社会保険料の増大 労使交渉の範疇を超え、コントロールできない労務費用の自然増として影響が大きいのは法定福利費の増大である」「一九八〇年度を100としたとき、二〇一〇年度の現金支給総額は169・0となっているのに対し、法定福利費は282・4まで高まっている」「医療・介護関連では全面総報酬制割の導入、短時間労働者に対する社会保険の適用拡大、……、今後、毎年のように新たな負担が増える可能性がある。」「二)高齢者雇用の増大 希望者全員の六十五歳までの雇用確保措置が義務化されると、これまで労使協定の締結により対象外となっていた層が新たに継続雇用者として加わるばかりでなく、厚生年金の報酬比例部分支給開始年齢の引き上げに伴って、従来は定年を選択していた層も継続雇用を希望する可能性が高まると考えられる。……希望者の増加による人件費増の影響は極めて大きくなる」「三)必要投資額の増大……」(五十二頁―五十八頁)と、ずらずらと経費増大項目を並べた。 そして、そのあとに「(2)定期昇給の負担の重さを労使で共有する」とかかげ、「定期昇給に関しては、労務構成が変わらない限り総額人件費は同じであること(定期昇給原資内転論)を根拠として、企業の負担は小さいとする見方がある」。「最近は、技術の進歩・機械化などの影響で仕事のやり方が変わり、高度な仕事に従事する人が増える一方、習熟度合いが付加価値に直結しない状況が生まれている。毎年、誰もが自動的に昇給する定期昇給は、個々人の貢献・能力発揮がみられない場合にも、昇給する分の賃金の積み上げがあるため、仕事・役割・貢献度と適切な賃金水準との間の乖離が生じやすい。個々人が創出する付加価値と、賃金水準との整合性を図ることは、……付加価値を有効に使うという意味でも重要である。……定期昇給の今日的意義や、そのあり方について多角的に議論することが求められる」(五十八頁―五十九頁)と、労働側と定期昇給の見直しについての話し合いに入ることを提起している。 そして、経営側の労使交渉・協議にのぞむ基本的姿勢を「……労働側が昨年に引き続き『1%を目安に賃金を含め、適正な配分』を要求しているのは、企業の危機的環境に対する認識が甘いといわざるを得ない。今次労使交渉・協議では、まず国内雇用の雇用維持や雇用の創出について徹底的な話し合いが必要であり、個別労働組合に対しては各社の実態を基底に置いた『自主的かつ個別的の議論』が期待される」「業績の厳しい企業では従来の妥結経緯にとらわれることなく自社の実績に即した判断が求められる」とし、「さらに、中長期的課題として、実態にそぐわなくなった人事・賃金制度を合理的範囲内で見直す議論を始めることも考えられる」(六十一頁―六十二頁)と主張している。 また、社会的問題になっている非正規労働者については「(3)非正規労働者の処遇は個別実態に応じて考える……非正規労働者の処遇については、すべての従業員の総額人件費の問題として捉える視点が大前提であり、非正規労働者の処遇だけを取り上げて改善を図ることは、雇用の減少を招きかねず不適当と考える」「正規労働者と非正規労働者の処遇を定型的に捉えることは雇用の多様性を無視することになる。非正規労働者の処遇はあくまで個々の実態に即して考える必要がある」(六十五頁―六十六頁)と主張しているのだ。この間、小泉構造改革路線=新自由主義グローバル路線を推し進めた経団連を中心とした資本・経営者は、若者を中心とした非正規労働者を数百万人規模で増加させ、貧困化と格差社会を作り出し、年が越せない大量の労働者が年越しテント村に駆け込まざるを得なくなるような社会状況を作り出した最大の責任者である。その一方、リーマンショック後の二〇〇九年第一四半期を除き、経団連に加入する大手企業は、いまや三百兆円を越さんとするまでため込んだ内部留保金を武器に、M&Aや海外拠点への資本投下によって、海外からの高利潤の獲得(=搾取・収奪)に向かって突き進んでいる。そのための経営労働政策、日本における労働規制のさらなる緩和、雇用の柔軟化、そして企業内組合を前提として労使協調組合から企業へ率先して協力する企業内組合への転換を組合に要求するとともに労働者には労働条件の集団的処遇・制度から個人処遇・制度へ企業内制度を徹底化、することを主張している。 ●3 多国籍企業の利益優先する賃金・雇用・人事任用制度 二〇一二年「報告」は、「第二章 危機を乗り越えるための人材強化策」で、「逆風をはねのけ活路を見出すためには、経済のグローバル化の進展、新興国の工業社会化と中間層の増加、環境対応型技術を活用した市場の広がりなど、世界経済の潮流に迅速に対応していかねばならない。いまこそ、長期的視点に立った経営や、高い品質管理・技術力、きめこまやかなサービスなど、わが国企業が持つ強みに一層磨きをかけながら、企業規模を問わず、グローバル経営を加速させることが急務である。 「グローバル展開に果敢に挑戦する企業にとっては、これまで以上に国内外従業員が一丸となり、個々人の持てる力を最大限に引き出すことが必要となる。わが国の人事諸制度の多くは、右肩上がりの成長時代につくられ、日本人従業員が国内事業を行うことを前提にしているものがすくなくない。人材育成や、人事評価、処遇のあり方を含め、世界で戦っていけるグローバル人事体制を早急に構築・整備していくことが重要である」に、端的に示されるよう、海外からの強収奪をめざす企業の手足となる人材の育成、賃金・雇用・人事任用等の諸制度を早急に、各企業が整備することを提起している。 ●4章 仲間の団結で労働運動の前進を 二〇一二年「報告」は前述したとおり、多国籍企業化した経団連参加企業の更なる利益強化を図るため、多国籍企業に有利な労働法制―労働諸制度の更なる規制緩和、税法―法人税の減額・消費税の増税、年金・健保の事業主負担削減の社会制度に変えていくことを要求すると同時に、企業と労働者の関係を集団的労使関係から、個別労使関係へ転換していくことを各企業に提言している。 まさしく、社会的関係や他人のことに関心や関係を持たず、ただひたすら多国籍企業に奉仕する労働者以外を労働現場から排除していこうとしている。 いまこそ、仲間とともに安心して働ける職場、働く仲間を大事にする団結体、普通に暮らせる賃金、社会に胸をはって生きられる仕事の獲得、そして地域社会ともに生きることを当然のこととして掲げ、要求していく労働運動・組合が必要であり、そのような組合を創り出し、強化する必要がある。そして、貧困と格差を拡大する多国籍企業の強欲や搾取・略奪と闘い、働くものが健康で安心して暮らせる社会・地域にしていくことをめざして闘おう。働く仲間の団結と闘いで前進しよう! |
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