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  ■「安保防衛懇談会報告書」を完全に葬り去れ





 新「防衛計画の大綱」策定へ向けた動きが、衆院解散―総選挙のただ中でも進められている。

 われわれは前号において、〇九年版『防衛白書』や自民党国防部会防衛政策小委員会提言の内容を検討することを通じながら、この動向を日帝の戦争国家化に一段の拍車がかけられたものであることを明らかにしてきた。また、新「防衛計画の大綱」策定へ向けた進行中の二つの会議として、防衛大臣を座長とする「防衛力のあり方検討のための防衛会議」および、首相―麻生の下における「安全保障と防衛力に関する懇談会」(以下「安保・防衛懇」とする)の状況を見てきたところであった。

 その「安保・防衛懇」が八月四日に「報告書」を提出した。もちろん今次衆院選の結果次第では棚上げされ実質的には廃棄されかねないものである。民主党はこの「報告書」に対してただちに「見直し」を明言さえしている。だが「報告書」が棚上げされ「見直し」がなされたとしても、ここに盛られた内容は自民党の今後の安保・防衛方針として残存することもまちがいない。自民党に代弁される日帝支配層の意図はここに一つの凝縮を見せている。これは今後の安保・防衛戦略をめぐる論点とされてゆくものだ。したがって労働者階級人民はこの「報告書」を完膚なきまでに粉砕しなくてはならない。
 以下手短に見てゆこう。


 ●1、安保・外交の基本的方針の転換

 新「防衛計画の大綱」に向けた提言という性格の報告書であってみれば、今後十年間(見直しを考慮に入れれば五年間)にわたる日本帝国主義の安保・外交政策・方針を規定するものとしてそれはある。その点では従来の同種懇談会報告と「防衛計画の大綱」策定との間に相違はない。だが今回はそこに衆院選挙という変動要因が加わることによって、次期政権を構成する政党の如何にかかわりなく日帝支配層の意思をストレートに打ち出したものとなっているという要素が盛り込まれている。それは何よりも、憲法規定との調整・整合性を意識して形成されてきた安保・防衛政策の諸原則(国是)を明確に否定してゆく意思をあからさまにしているという点に示される。

 「報告書」第三章はこの報告の結論部分であるが「安全保障に関する基本方針の見直し」とタイトルがつけられている。その冒頭に「第1節 安全保障政策に関する指針について」として、大要次のように述べている。「『国防の基本方針』は、策定から五十年以上の間、修正されることがなく、日本の現実の安全保障政策を決定する上での十分具体的な指針とはなり得ていない。また、(ア)専守防衛、(イ)他国に脅威を与えるような軍事大国にならない、(ウ)文民統制を確保する、(エ)非核三原則、の四つの方針が『防衛政策の基本』であるとされてきた。これらには『歯止め』としての意義はあったものの、『日本は何をするのか』についての説明としては不十分である。また、『文民統制』や、『軍事大国にならない』との方針は引き続き重要だが、安全保障環境の変化により、世界の現状は、従来、『専守防衛』で想定していたものではなくなっている。安全保障政策の基本方針を定めて内外に示すとともに、専守防衛など、日本の基本姿勢を表す概念についても今日の視点から検証すべきである」と。

 意味するものは鮮明にして重大である。すなわちこれまでの歴代政府がその安保防衛政策を策定するにあたって基本としてきた「原則」そのものの「見直し」「破棄」が公然と要求されているのである。

 従来の政府の安保防衛政策における「原則」とは一体何か。それは憲法の指示する内容に合致せず完全に背反した政策や実態を政府が創出しながらも、なお超えることのできない限界を定めたものであるということができる。自衛隊の存在と存続やその増強、日米安保条約の存在や在日・在沖米軍の存在、その強化や日米一体化、などなどの諸問題が実態としてはありつつもなお、その「歯止め」として歴代政府が設定してきた基準そのものである。これは国会での歴史的な論議の蓄積、これを根底から形成してきた幾多の反戦・反基地・改憲反対の労働者民衆の闘争が歴代政府に強制してきたものでもあるといえる。あるいはまた、アジアの労働者民衆や各国・地域の政権が、日帝のアジア侵略・植民地支配の記憶も生々しく日本政府の安保・軍事政策への注視を行なってきた結果でもあった。

 ところがいま、日帝支配階級の意思を一元的に受けながら戦後政治の過程において安保・防衛・外交政策の策定と実行を担ってきた自民党が政権の座から落ちる可能性を前にして、個々の具体的な政策・方針というよりも「考え方」「原則」そのものの破棄と転換を日帝支配層は要求するに至ったのである。

 後述するそのほかの政策的提言の冒頭に「考え方」「原則」そのものの破棄と転換が主張されていることにこそ十分な注意をはらわなくてはならない。


 ●2、戦争国家化完成への処方箋

 その上で、「報告書」第三章は、第二節「国際平和協力活動に関する方針・制度について」、第三節「弾道ミサイル攻撃への対応に関する方針について」、第四節「武器輸出三原則等について」、第五節「新たな安全保障戦略の基盤について」と続けて、具体的な方針提言をまとめている。

 すでに開始されているが「派兵恒久法」制定、あるいは「PKO参加五原則の見直し」・「国際平和協力法の改訂」なども提言されている。またすでに論議の俎上に上っている「集団的自衛権解釈変更」や「武器輸出三原則の修正」ということが主張されている。「弾道ミサイル攻撃への対応」の項目では集団的自衛権の解釈変更や「報復的抑止力」の整備ということが述べられている。

 これらは上の「考え方」「原則」の破棄と転換と一体に、具体的な戦争国家化完成への現段階と今後の方向を示すものに他ならない。継続するPKO派兵の「実績」や自衛隊イラク派兵、テロ対策法や海賊対処法などのもとでの自衛隊派兵などを強行してきた実績や自衛隊法改悪による国際協力活動本務化などをベースとし、集団的自衛権行使解禁ともあいまって戦争国家化への道をひた走るというわけである。

 「武器輸出三原則修正」については、「報告書」第二章の「防衛力を支える基盤」の項目でも「防衛生産・技術基盤」という形で武器の国産化、国際共同開発参加の重要性を力説しているが、その上に立って「国際的な共同研究開発・生産への参画」「他国との共同研究開発・生産の成果の相手国から第三国への移転」「米国ライセンス生産品の米国への輸出や米国から第三国への移転」「弾道ミサイル以外の米国との二国間共同研究開発・生産、テロ・海賊対策等への支援にかかわる案件」について、「早急に手当てすべき」としている。これは前号においても紹介したが、日本経団連防衛生産委員会をなす重機・電機大手企業や日本防衛装備工業会に集う中小企業群の一致した要望としての軍需生産部門に企業収益の活路を開きたいという声を反映するものである。のみならず政府―国家権力にとってみても、軍需産業基盤の維持と発展、とりわけ軍需生産における技術力と技術者の維持と発展が死活的な問題であることを明らかにするものである。だが列挙された提言を見るならば、そうしたことにとどまらず米国などを経由しつつも歴然たる武器輸出解禁の要求であることがわかる。「安保・防衛懇」第十回会合における「主要な論点に関する議論」での集約においては、「防衛生産・技術基盤」の論議は取りまとめられてはいたが、武器輸出解禁へ向けた論議などはなかった。むしろ「三原則を緩和するべきと言っても、いったい何をどこに売るのかという具体的なイメージがはっきりしないため、この問題が日本の安全にどれだけ影響するものなのか見えてこない。これでは世論の支持を受けるのが難しい」などという形で抑制的な意見が取り上げられていたところでもある。にもかかわらずある意味では正反対の内容が報告書には盛り込まれている。

 そもそも「武器輸出三原則」とは、「『武器』の輸出については、平和国家としての我が国の立場からそれによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない」(一九七六年二月二一日の三木首相による国会答弁)という主張に明らかなように、憲法九条との連関において示された政府の見解であり方針である。これはその後、ミサイル防衛システム共同研究の必要を口実として米国との間での共同技術研究着手という形で突破されてはきたが、米国その他を経由して第三国への日本製武器や軍事技術の移転を防衛政策に盛り込むことなどは、政府としてはありえぬ想定外の話だったのである。

 さらに、「敵基地攻撃能力保有」についての検討や「米国拡大抑止戦略(核の傘)の維持」なども盛りこんだものとなっている。日本の防衛力のあり方として「多機能性」と「柔軟な運用」とをあわせもつ「多機能弾力型防衛力の整備を目指す」としている。


 ●3、多層協力的安全保障戦略とは何か

 以上「報告書」の具体的な政策提言にあたる部分を主要に見てきた。だが、今回の「安保・防衛懇」報告書は、新たな日本帝国主義の安保・外交戦略にかかわる内容をも盛り込んでいる。第一章において「新しい日本の安全保障戦略」としてその内容を展開している。それは、「多層協力的安全保障戦略」という名称をもって語られるものである。その内容は何か。

 従来の「防衛計画の大綱」において提言され策定されてきた日本の安全保障戦略は、@日本の防衛A国際的安全保障環境の改善という二つの目標設定の下でなされてきたのであった。しかし今回は、@日本の安全A脅威の発現の防止B国際システムの維持・構築、ということをかかげている。つまり「脅威の発現の防止」という項目が防衛戦略上の目標の一つとして設定された。さらにこの三つの目標に対するアプローチとして@日本自身の努力A同盟国との協力Bアジア太平洋地域における協力C国際社会との協力ということをかかげている。Bのアジア太平洋地域における協力という項目が新規に提起されている。この四つのアプローチを「多層的」に用い重層的に問題解決にあたるというのが「多層協力的安全保障戦略」というわけである。

 この新たに盛り込まれた、戦略目標における「脅威の発現防止」という点、アプローチにおける「地域における協力」という点の二点を中心にして見る中でたちどころに明らかになることがある。

 第一に、日米安保―日米同盟の位置づけと機能が「日本の安全」「脅威の発現の防止」「国際システムの維持・構築」という日本の安保戦略目標のすべてに拡大しているということである。「世界の中の日米同盟」「世界とアジアのための日米同盟」などと語られてきたフレーズが、いまや日本の安保・外交戦略の具体的内容として織り込まれるに至っているのである。

 第二に、日米安保―その実態をなす在日米軍の存在と役割・位置づけが大きく変化する。その位置と役割は「アジア太平洋地域での脅威の発現防止」のためのものとされるに至っているという点である。米軍再編も「日本の抑止力強化」という脈絡ではなく、アジア太平洋地域での脅威の発現防止のためのものと、ここでは位置づけられている。多額に及ぶ「思いやり予算(在日米軍駐留経費負担)」もいまや「日本の安全」のためのものではなく「アジア太平洋地域での脅威発現防止」のための費用負担とされるに至っている。

 第三に、「日本自身の努力」として提起されている内容自身、「日本の安全」を目的とする「多機能弾力的防衛力」という自衛隊の質・量的強化、「脅威発現防止」における「国際平和協力活動」「国際システムの維持・構築」という目的における「周辺海空域の監視」という形で、まさに自衛隊の海外での軍事活動領域が拡大させられ、そこに重心が移されている。

 第四に、こうした新たな戦略提言をなすに至った情勢認識についてであるが、「米国の絶対的な力の優位に変わりはないものの、中国、インドといった新興国の台頭などによって、パワーバランスには変化が生じている」「米国が単独で問題解決することができる範囲は以前に比べて小さくなっている」とか「軍事的には、米国はこれまで『グローバル・コモンズ』と呼ばれる国際公共空間をコントロールしてきた。……現在でも、米国の力の優越性は変わらない。しかし……米国が『世界の警察官』として行動を続けるにはこれまで以上にコストが伴い、米国は自国の利益に照らして選択的にしか関与しなくなる可能性がある」というような情勢認識を下敷きにしている。要するに、米国の相対的力量低下と世界とりわけアジア太平洋地域におけるパワーバランスの変化・変動がおおいに予測できるがゆえに、日本はその軍事力を日本の防衛のみならずアジア太平洋地域での軍事的予防行動や軍事基軸の国際システムの維持・構築のために活用し、同盟国との協力関係についても日本の外部での軍事力展開に重点を移し、加えてアジア太平洋地域において、日本も主導国となる形で軍事に基づく安全保障枠組の形成を行うというのである。


 ●4、完全に粉砕し葬り去ることこそ急務の課題

 新たに提言された「多層協力的安全保障戦略」とは、つまるところ日本それ自体の軍事力増大、および米国との軍事同盟関係の強化や米国との同盟・友好国(韓国・豪州・フィリピン)を中心とした軍事的安全保障ネットワークの創造、さらには東南アジア地域での軍事的要素を含む協力関係の強化などが必須の要素とされている。すなわちどこまでいっても軍事力の増大、軍事的影響範囲の拡大を前提とした戦略なのである。もはや日米同盟や米軍再編についての従来的な説明とは相違した内容であってもお構いなしである。

 この「報告書」は盛り込まれた具体的提言のみならず、全部の内容にわたって完全に破棄されるべきものである。何よりもそれをただちに要求しなくてはならない。そしてつまるところこのような形で軍事力の強化と範囲の拡大そして軍事的同盟や協力関係の拡張という一個の方向性が端的に示されたからには、これに正面から対峙してゆく内容をこそ前面にかかげてたたかいを進めることが決定的に重要である。もっぱら軍事による「安全保障の確保」「脅威の発現の防止(予防的軍事力強化)」「軍事的国際システムの維持と構築」という思想での安保政策の提言こそ憲法改悪そのものだという点を明らかにし、護憲勢力などの諸部分とも協力しながら日本の戦争国家化阻止・日米同盟破棄・改憲阻止の方向へとたたかいをいっそう強力におしすすめることが重要である。とりわけ、この報告書の提言が示すいまひとつの内容とは、自衛隊の強化ということを軸としたあけすけな軍事大国化であり、したがってそれは軍備の飛躍的増大=軍事費の増大を結果するということを明確にし、軍事費の大削減(撤廃)をこそ対置してゆかなくてはならない。

 そして何よりも決定的に重要なのは、このような形で日帝支配層が「アジア太平洋地域」での日本独自でのあるいは日米一体となった形や韓国・豪州・フィリピンなどとの軍事的ネットワークの形成による軍事的プレゼンスの増大を口にしている以上、日本の戦争国家化阻止のたたかい、アジア太平洋地域労働者民衆と固く連帯した反米軍闘争、日米安保や米韓安保などなどの軍事同盟関係やネットワークとのたたかいが極めて重要となるということである。「報告書」においてはもはや「米軍再編」ということについても、単に日本「本土」や沖縄における米軍再編という位置づけ方をしてはいない。「アジア太平洋地域における米軍再編」という「見出し」のもとに「在日米軍の再編計画には、在沖縄米海兵隊の司令部機能のグアム移転を含んでおり、同計画を進めることは、米軍基地を抱える自治体の負担を軽減するばかりでなく、米軍の(アジア太平洋)地域におけるプレゼンスの維持にもつながるため、その実現は日本の安全保障上大きなメリットがある。日本政府は米軍再編計画の実施を着実に進めるため、引き続き努力すべきである」という文脈においてそれは語られているのである。「米軍が日本の安全保障のためにアジア太平洋地域での存在を維持強化する」という、実にとってつけたようなつじつまあわせがそこでは行なわれている。もちろん在日米軍再編を含め、米軍再編がなによりも米本土防衛を第一義とし、冷戦期に形成された米国外の米軍プレゼンスを「対テロ戦」と米帝の海外権益の確保のために再編・再配置している、また同盟国の軍事力をそこにも動員するという本質は自明である。だがそれを明らかにすることは不可能であるがゆえに、得手勝手な理屈をこね回しつつ「日本の安全保障」を枕詞とした新解釈を行なっているのである。

 「安保・防衛懇」報告書を完全に破棄させるたたかいは、選挙後成立する新たな政権による新「防衛計画大綱」の策定とのたたかいへと直結してゆく。日帝支配層の分解をもはらんでそれは進行するかも知れない。だがこうしたたたかいの決定的な舞台は現にいまたたかわれている在日・在沖米軍再編反対のたたかいの現場にこそある。このたたかいを断固推進し、これをこそ日米安保破棄を含む日本の戦争国家化との決定的な対決軸として押し上げてゆく努力が重要なのである。

 加えてアジア太平洋地域労働者民衆の共通したたたかいとして米軍再編・再配置とのたたかい、米および日帝のアジア太平洋地域での軍事的位置と行動の強化とのたたかいがいまや決定的に重要性を持つことになろうとしている。そのことをも明確に確認しながら反戦・反安保・改憲阻止のたたかいをすすめてゆこうではないか。
                                                                              (八月二十一日)

 

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