共産主義者同盟(統一委員会)
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■戦争国家へ国民動員する裁判員制度を粉砕しよう 昨年のサミット警備はすさまじいものであった。「対テロ」を前面に押し出し、大規模な治安弾圧体制の飛躍的強化が行われた。 その特徴のひとつは事前大弾圧である。自衛隊―警察―自治体―町内会までを動員した「テロ対策」訓練が全国で行われ、生物化学兵器、大量破壊兵器に対抗する「対テロ訓練」、ミサイル配備まで行われた。活動家の入国を拒否し、機動隊を大量配備し、各会場は要塞さながらであった。そして、わが統一委員会に対する6・10デッチあげ弾圧をはじめとしてたたかう組織に対する数々の全くデタラメな逮捕と捜索を行った。組織犯罪処罰法の左翼勢力に対する初適用がおこなわれた。革命党派だけでない。青年労働者のデモを襲い逮捕、学生運動の大量逮捕(法政大キャンパス弾圧三次三十九名)、釜ヶ崎パトロール活動への弾圧、職質=公務執行妨害を乱発して青年層への事前弾圧も大量に行った。 ふたつは反革命思想動員である。サミットで、日本政府も「自国内の若者や移民が、過激思想に感化され『国産テロリスト(ホームグロウンテロリスト)』となる問題」を提起した。そこでの「テロリスト」とは「反グローバリズム活動家・労働組合・ネットカフェ難民・移住労働者・留学生」だという。全てがテロリストだ。テロリストという巨大な幽霊をつくりだし、「全てが敵」という疑心暗鬼を煽り、国家警察への忠誠を誓わせ住民動員を行った。戒厳体制、訓練は、現場の自衛隊・警察、裁判官などの権力機構、町会などを大量に「妄想」の先兵に転向組織してゆく。異常なサミット弾圧は、思想攻撃であり重大な政治的事件であった。 そして、司法改革の仕上げと言うべき、裁判員制度が本年五月より開始されようとしている。戒厳令弾圧とあいまって司法改革―司法の破壊が完成すれば戦争体制である。あとは改憲だけだ。 恐慌の始まる中、政局は労働者人民の反撃によるねじれ国会下での自民党の腐敗解体―選挙―再編に向かっている。再編は民主党を軸におこなわれ、次には民主党自体の右派主導による再びの再編が予想される。「戦争のできる普通の国」(小沢)―改憲攻撃は新しい顔で強まっていく情勢だ。 解雇リストラの大暴風の中で、麻生自民党政権は給付金ばら撒きで延命を図ろうとしている。大企業はこれまでさんざん労働者階級の汗と涙で肥え太ってきて、このたびは「やむをえないリストラ」「役員報酬の削減」「ワークシェアの導入」か。こんなまやかしを許すわけにはいかない。民主党、連合もそうだ。派遣法の成立と度重なる改悪を承認したのは誰だ。十年も前から、労働者階級は不安定な雇用状態に突き落とされていたのだ。 各地で立ち上がる労働者とともに、麻生政権を打倒しよう。この革命的情勢を推し進め、共謀罪の廃案、五月二十一日からの裁判員制度の廃止をたたかいとろう。 ●1章 戦時下の司法へ、司法改革のこれまで 司法改革は小泉政権の下で「この国のかたちにかかわる構造改革の最後の要」と位置づけ推進されてきた。 概括すると、財界の要請に始まり、自民党により改憲の道として戦略化され、弁護士会の屈服を取り付けて進んできた。さまざまな関係法の改悪、制度の改廃を経て、今年五月司法改革の仕上げと言うべき裁判員制度の実施が行われようとしているのである。昨十二月には、最初の裁判員の抽選が行なわれ、約三百五十人に一人と言われる割合で通知票が届いている。粘って反対する弁護士と反対運動、社共の「延期」要求、そして民主党の原則賛成一部反対というのが現在の状況である。春へ、裁判員制度粉砕へ全力を挙げてゆく必要がある。 一九九〇年代、経済同友会が「効率的な司法のための規制緩和」をうちだした。裁判のスピード化と弁護士の増員が直接の要求だった。ひとつは裁判に時間がかかりすぎビジネスに支障をきたす。公害裁判や戦後補償裁判、労働裁判などで企業責任が長い期間世論に晒されることを阻止したい、ということである。そして、刑事裁判のスピード化で、労働者と革命運動、共産主義者を早く重罰にしたいということである。ふたつはビジネスの法務に多様な能力をもつ弁護士が欲しい、競争原理で選別した企業弁護士が欲しい。ビジネスをめぐる民事裁判で、札束で買った有能な弁護士を使い、弱肉強食的な判決を出させたいという要請であった。 これを受けて、自民党は一九九七年に「司法改革の基本的方向」、翌年に「二十一世紀司法の確かな指針」をまとめた。ここで、①司法の人的インフラの整備として、司法人口の拡大を打ち出す。これまでの司法試験合格者約五百人に対して、ロースクール(法科大学院)を設置し三千人を毎年誕生させる。それによって、弁護士活動を競争市場原理の下に置く。②「制度的インフラの整備」として、陪審制を導入する。これが裁判員制度へと変形することになる。③弁護士自治の見直し。という現在に至る三点の大方針を打ち出した。三大方針は、重罰化と刑法刑訴法改悪、少年法改悪、共謀罪新設などの治安法の再編、入管法改悪、国民保護法とセットで戦時治安体制を完成させるものとして位置づけられた。 一九九九年に、政府に司法制度改革委員会が設置され、二〇〇一年六月「最終意見書」が出され、自民党案が具体化される。 弁護士会は、多くの弁護士の反対にもかかわらず「国民に開かれた司法」の美名で政府の司法改革に参加協力する執行部により、改革賛成にまわった。経済界と日弁連会長中坊公平は「小泉首相を支える」として「司法改革国民会議」を立ち上げ、労働裁判の迅速化民事化など財界の要求をエスカレートさせたのである。 小泉政権の下二〇〇四年、法科大学院(ロースクール)開校、裁判員法、刑事訴訟法改悪(公判前整理手続き)、総合法律支援法(法テラスの設置)、刑法改悪(重罰化、下限の引き上げ加重化)、犯罪被害者基本法が成立した。この司法改革を支援するように、関西生コン弾圧、立川反戦ビラ入れ弾圧がおこなわれた。また、「テロ未然防止に関する行動計画」(この時点では外部からのテロリスト対象)も制定された。 二〇〇五年には「公判前整理手続き」が施行され、ライブドア堀江裁判に華々しく適用された。また、刑訴法に裁判への被害者参加制度が加えられた。 二〇〇六年には新しい制度による「新」司法試験が実施され、ロースクール出身の弁護士が生まれた。この年十月、法テラスが業務開始。入管法の改悪(テロ指定導入、指紋採取、IDカード管理)が行われた。 二〇〇七年、ゲートキーパー法(犯罪収益の移転防止=密告通報義務、罰則付き)刑訴法改悪(被害者の訴訟参加)。少年法の改悪(十四歳未満でも警察が捜査、少年院送致を十二歳に引き下げ)。 昨年十二月から、被害者参加制度が始まった(十二月一日以降の起訴事件から)。また少年審判への被害者傍聴も始まり、実際に傍聴が行われている。被害者参加とは、被害者や遺族が検察官の隣に座り、情状面に関する証人尋問、被告人質問をし、独自に求刑意見を述べるというものである。感情に支配された裁判、報復裁判になる。少年審判の傍聴への被害者参加もすでに始まっている。 この一連の司法改革の仕上げとして、五月からの裁判員制度があるのである。 司法改革は広範にわたっている。 大きくまとめると、小泉が正直に提示しているように「国のあり方」を変える、改憲―戦争のできる国の戦時司法への改革なのである。司法改革は、小泉構造改革の「規制緩和」のひとつのようだ。だが、司法は経済ではなく、国家の基本的形とあり方の軸、いわゆる三権分立のひとつの軸である。司法改革は、この国家の在り方を変えようとする重大な改変なのである。司法を資本の金儲けと、戦争の下に屈服させる。労働者階級人民の反戦闘争や青年層の反抗への弾圧に奉仕する司法、国家利害の下で「人権」を一切認めない司法への転換なのである。 ●2章 「統治の側」へ強制動員する裁判員制度 裁判員制度は、「司法への国民の参加」「市民感覚にそった判決」などと宣伝されている。しかしその内実は「参加」などではなく強制的動員である。市民の積極的な参加などでは、全くない。「裁く側」へ強制的なの国民動員にその本質がある。小泉はこのことをはからずも「国民が統治の客体から、統治の主体になる」と言った。 裁判員制度の骨格は、①殺人・放火などの重大刑事裁判に適用。②裁判官三名と裁判員六名が合議し判決を決める(公判前手続きで、争いがない時は裁判官一名、裁判員四名)。③有罪・無罪、及び量刑を多数決で決める。重大犯罪だから、死刑判決もある。④裁判員は抽選で選ばれるが基本的に辞退できず、守秘義務が生涯課せられる。違反すれば処罰・罰金が課せられる。また、報酬はあるが仕事を休むなどのことで出た損害は補償されない。⑤被告人・弁護人は、裁判員裁判を拒否することはできない(欧米の陪審員裁判では、被告人・弁護人は陪審員裁判か裁判官裁判か選べる)。つまり、重大事件は必ず裁判員裁判になる。 問題の第一は、裁判員に選出されたら基本的に拒否できないということである。約三百五十人に一人という抽選で候補に選出されたら、辞退は認められない。そこで調査票の発送と面接が行なわれ思想信条や事情が調査される。ここで、裁判所の側が不適格とした人ははずされる(辞退ではなく、選別だ)。そして、具体的な公判に割り当てる際に、また、事情が調整される。七十歳以上の高齢、妊娠中、重い病気などなどの事情では辞退が認められる。こうして調整はされるが、特別な事情がない人は辞退できないのだ。事件の数、認められる辞退者の割合などを試算したところ、最初の抽選者の二人に一人は実際の裁判員に動員される見通しという。 思想信条で裁判所の呼び出しに応じないと十万以下の罰金、質問状に虚偽を書くと五十万以下の罰金。守秘義務違反は、六カ月以下の懲役か罰金となる。 問題の第二は、「裁判への参加」などでは全くないということだ。 裁判員制度は、映画などでみる欧米の陪審員制度とは全然違う。(図参照) 裁判員制度では、映画のように陪審員だけの協議で「有罪か無罪」が決定されるのではない(陪審員制度では量刑は裁判官が決める)。裁判員制度では「有罪無罪」・量刑ともにプロの裁判官と一緒に行い、多数決で決める。 しかも、公判前整理手続きは裁判員抜きで(裁判官と弁護人で)済んでいるのであり、証拠証人はあらかじめ限定され、争点はすでに決まっている。審理途中で、新たな疑問や証拠が発見されても、公判に出されることはない。前向きに熱心に取り組もうとしても、あらかじめ狭められた内容で、三日間~五日間で素人が自立した判断ができるわけがない。プロの裁判官と多数決で争うような、自分の判断を確立できようか。また、多数決といっても、多数派に裁判官が一名でも入っていないと無効なのである。 さらに、昨年十二月から裁判への被害者参加制度がはじまっており、法廷が被害者感情に支配される場所になる。被害者の怒りや悲しみを前に、裁判員の冷静な判断を期待することができるだろうか。「市民の常識にそった判決」とは、被害感情にひきずられた判決、報復感情にむくいる判決ということではないのか。 裁判員は「飾りもの」、裁判官の補完物に過ぎない。素人を誘導して判決を補完させるために利用されるだけである。「国民の裁判への参加」などではなく、「統治への参加」が強制されるのである。 第三は、通常三日、難事件で五日というスピード裁判で、弁護活動を破壊し重罰を課そうとすることだ。 三日連日法廷は「裁判員に選ばれた国民の負担を減らすため」などと説明されている。ひどい欺瞞だ。裁判の迅速化は財界の要求であり、司法改革の当初からの重要な目的だ。オウム真理教松本裁判や、光母子殺害事件などで、弁護活動と弁護士に「裁判引き延ばし」「弁護方針の転換、引き伸ばし」と異常な非難キャンペーンが張られ、マスコミは被害者を前面に立てて騒ぎ立てた。さらに、前記裁判の両方の弁護人で過去多数の人のやりたがらない「凶悪事件」(新宿西口バス放火事件・和歌山カレー事件等々)の国選弁護を担当してきた安田弁護士を、「強制執行妨害罪」なる罪名ででっち上げ逮捕するという、権力剥き出しのみせしめ弾圧も行った。「弁護士界の良心」と言われる安田弁護士は逮捕され、多数の弁護士会・支援者の抗議にもかかわらず八カ月も収監されたのである。 被告人・弁護人の側に立ってみると、公判前整理手続きとたった三日間の裁判では、弁護活動は事実上できない。悪名高い代用監獄制度と相まって、大量の冤罪の発生、リンチ的な判決が行われることが充分予想できる。そもそも、制度の理念で「被告人のための制度ではない」と言い切っているのである。 近代刑法は、裁判が充分な審理を尽くし、真実とその社会的背景をあきらかにすることをもって、犯罪の発生を政治的社会的に抑制するという考え方に立つ。報復や私怨を断ち切って、刑罰が与えられるのである。近代刑法では、被害に対してその場で報復したらそれも犯罪となる。緊急な正当防衛しか合法ではないのである。これまでの司法の考え方を完全に蹂躙する。とにかく犯人を決め(真実はどうでもいい)、重罰を課すことで国家の支配を固める考え方に国民を動員しようとするものである。そのために、被害者と家族に指弾させるのである。さらに、弁護士の問題もある。裁判員制度の三日連日法廷で被告を弁護する弁護士はいるのか? いない。昨十月段階で、全国の弁護士会の四割が対応できないと調査に答えている。重大刑事事件のほとんどが国選弁護人に依っている。私選弁護人がつけられない経済的状況、社会的状況の中での犯罪だからだ。国選弁護人が対応できないというのは、重大事件や否認事件では、通常三~四人の弁護士が担当するが、なり手がいないのである。 そもそも三日連日法廷で拘束されるのが業務上きびしいのと、充分な弁護ができないという悪条件が重なっているからだ。通常、弁護士は複数の裁判を並行して受け持ち、あい間に証拠調査や検討会、他の業務などしながら弁護活動を進めている。収入にならない人権弁護活動と、収入につながる民事や企業顧問などでバランスを取る弁護士も多い。三日連日法廷は、収入の面でも業務の面でも、これまでの弁護士の活動と相容れない。とてもできない。さらに、検察側の全面証拠開示もないままの公判前手続き、(三日連日法廷中も)夜間・休日の接見禁止などの現状で、どんな弁護ができるというのか? 弁護士会調査で準備ができないというのは、こういうことだ。特にベテラン・中堅弁護士の引き受け手がないという。つまり、まだ仕事のない新人の弁護士ばかりが国選弁護人に登録するということになる。後述するロースクール制度での弁護士の大量化、法テラスによる国選弁護人選出が一層この傾向を促進するだろう。 弁護活動はできない。弁護士もお飾りになる。 この制度は今のところ、「死刑または無期に当たる罪」と「故意の犯罪で被害者を死亡させた罪」の時=重大犯罪に適用されることになっている。しかし、この枠が拡大されないという保証はされていない。 昨十二月、裁判員制度に反対するたたかいの賛同者で、裁判員に選ばれた三人の人が、公表できない規定を承知で実名記者会見し「裁判員制度反対」を訴えた。一人は「死刑や無期懲役などの判決が予想される。私は人を裁きたくない」と述べた。 三~五日という短い時間の中で、不確信のまま、あるいはプロの意見にその場で賛同して死刑判決を出すことになったら、もし、違ったらどうするか。裁判員制度の中身が具体的になるにつれ、無責任な参加はできない、迷惑至極という声も広まりつつある。岩手では「裁判員辞退手続き」詐欺までおこっている。いかに、多くの人が辞退したがっているかのあらわれだ。 こうした「迷惑論」もとらえて、本質を暴露し五月の制度開始粉砕をかちとろう。 ●3章 司法の独立の破壊、弁護士自治のはく奪 裁判員制度をゴールに設定し、刑法・刑事訴訟法の改悪が行われる一方で、弁護士業を大改造する攻撃が重ねられた。一言で言うと、司法独立の破壊、弁護士自治のはく奪である。 その第一は、法テラス=日本司法支援センターである。法テラスは「司法への国民のアクセスをとりやすくする」「地方の弁護士がいない地域など司法過疎をなくす」をうたい文句につくられた。東京に本部を置き、都道府県ごと弁護士会ごとに法テラスが置かれた。独立法人ということになっているが法務省の役人、国が管理する。法テラスの業務は、①情報提供・相談業務②民事法律扶助③国選弁護人派遣④司法過疎業務⑤被害者支援である。①②④は、これまでも弁護士会が行ってきた活動である。弁護士会は、弁護士の社会的責務として人権擁護と法律扶助を行ってきた。相談業務など、いわば司法への入り口を多くは無償で提供してきた。これらを、国の管轄下で行うものにしたのである。弁護士会は、法テラス開始後もひきつづきこうした活動を行っているが、法テラスが徐々に扱い件数を増やしている。これも問題だが重要なのは③・⑤である。 法テラスが国選弁護人を選任することとなったのである。これまでの弁護士会が推薦名簿をつくり裁判所がほぼ順番で決めていた国選弁護人が今度は法テラスから派遣されることとなった。報酬も法テラスから受ける。法テラスには、常勤の勤務弁護士(三年契約で更新二回、司法修習生は一年)と希望して契約を交わした登録弁護士の二種類の弁護士がいる。勤務弁護士は国選弁護以外にも法律相談なども行う。この二種類の弁護士が国選弁護人となるが、具体的な指名は法テラスが行う。国選弁護人は、その後形式的に裁判所が任命するが、決めるのは実際は法テラスである。 刑事事件の約七割が国選弁護人で行われているのが実態だ。金もなく法知識も無い刑事事件の被告の弁護を行う国選弁護制度は、裁判の公平公正の要であり、弁護士の基礎的な任務でもあった。 しかし、今後は法テラスが弁護士を決める。勤務弁護士にしろ、登録弁護士にしろ自由な活動ができるだろうか。出張費用や事務費用なども法テラスに請求するのであって、当然、法テラス側から効率的なスピード裁判が求められるだろう。調査したり、審理を尽くすには費用がかかる。金がかかったり、法テラスの方針に沿わない弁護士は指名されなくなる。弁護活動は完全なひもつきになる。いわゆる人権派弁護士は、国選弁護をしたくても指名されない。 さらに問題なのは、法テラスは⑤「被害者支援」も事業の柱としていることである。すでに「犯罪被害者支援法」によって、経済的支援、警察による援助(!)、民間団体の育成(「全国被害者支援ネットワーク」の官製団体化)が行われており、法テラスがやろうとするのは、裁判に直接被害者の意思を持ち込むことだ。それが、被害者参加制度だ。裁判員裁判と相まって、被害者関係者が参加することによって、判決が感情に支配される危険性は先に述べた。これに付随して、昨十二月一日より施行された「被害者参加人のための国選弁護制度」により、法廷での被害者の証人尋問や被告人質問、検察や裁判官への意見などの援助を国選弁護人が行うことになったのである。被告の弁護ではなく、被告の断罪を行うのも弁護士の業務とされるのである。 総じて、法テラスは、国の経営する大きな法律事務所といえる。この事務所は、国=法務省が費用を出して、裁判に必要な人材を用意する。勤務弁護士・登録弁護士は法務省の配下として、同じ法務省の配下の検察官と法廷でたたかう。これで「たたかう」ということになるだろうか。さらには被害者の弁護人とも法廷で対峙することになるわけだ。いわば、元締めが同じ者どうしが、茶番で争うようなことになる。 「司法の独立」「裁判の公正」は、弁護士が国(法務省)の管轄下にある裁判所と検察から独立して自由に活動することによって保証される。法テラスが弁護活動を簒奪することによって、検察と対等な立場の被告・弁護人という裁判の基本が崩れ去ったのだ。そのことによって、司法の独立も完全に破壊されようとしている。 第二に法科大学院=ロースクール新設による法曹人口の飛躍的増加が図られた事である。これは司法改革当初からの財界からの要請であった。これまでの司法試験に替えて、法科大学院(アメリカ型のロースクール)卒業―新司法試験―研修という制度になった(しばらくは、これまでの司法試験も行われる)。この新司法試験の合格者は七~八割と予定され、当面、毎年三千人、これまでの六倍の弁護士が生まれることになる。この数は控えめであって、政府の規制改革民間推進会議では二〇一〇年以降は九千人、千二百人などと喧伝している。 二〇〇六年には、最初のロースクール弁護士が誕生した。昨年二〇〇八年にはすでに四百人の失業弁護士が出ていると言われている。弁護士にも競争原理が貫かれるというわけだ。生活できない弁護士、サラ金に借りる弁護士も出てきた。新人の弁護士は法テラスの契約弁護士になって薄給でもサラリーマン化する事がましという現実もリアルになっている。 隣接法律専門職種の権限拡大も行われ、司法書士などが簡裁訴訟代理などを行えるようになった。ここでも、弁護士との競合がおきている。また、これまで公務員と兼業できなかった規制もなくなり、国家や行政の公務員として法務を行うことができるようになった。弁護士が、権力側に立ち、企業弁護士と同じように、住民利害と敵対することも今後おきるのだ。 法と人権ではなく、金儲けの論理でしのぎを削る弁護士になる。弁護士広告規制の緩和も行われた。競争原理にのっとって優秀な企業弁護士は優遇される。企業に奉仕する弁護士に対して、弁護士の本来の活動=法廷で国家権力から人権を守る弁護士活動は、生業として成り立たないのだ。 第三に弁護士自治の破壊が一体のものとして進められてきたことである。 「懲戒手続きの透明化、迅速化」の名で、弁護士法が改悪され、「綱紀委員会」(弁護士以外の外部委員が参加)を設置することとなった。弁護士会で「懲戒不適当」とされた案件をここで再審議することができるのである。その結果、これまでにない懲戒が行われ始めている。 また、弁護士の活動に対して、これまで無かった「真実義務」が課せられることとなった。民事裁判などで勝訴するために、戦術的に隠しておいた事や物が後にわかったとすると、懲戒申し立ての対象になる。依頼人の利益を損ねること以上に、弁護士への弾圧として使われることが問題となる。弁護士の活動の自由が、事実上奪われるのである。 弁護士と弁護士会の自治は司法独立の基礎である。懲戒などの処分は、その核心である。そこを外部にゆだねたら、自治は内側から否定される。 裁判員制度と司法独立の破壊だけではない。司法改革の掛け声の下で治安法の改悪―共謀罪の新設攻撃、少年法改悪、保安処分の強化、労働基準法改悪、入管法改悪も同時に行われてきた。 また、裁判官への統制の強化も進んできている。現場のデタラメな弾圧を追認する、警察―検察の言うままに礼状を出すことが要求される。立川ビラ入れ事件や組織犯罪処罰法初適用などで、裁判官はこれまでにない「犯罪のデッチあげ」を認め、自ら法判断の役割を放棄した。検察の求刑の重罰化、そして判決の重罰化が進んでいる。被害者・マスコミを押し出して報復刑をあおり、これまでの死刑判決の基準を数段下げた死刑判決が乱発されている。鳩山前法相が大量の死刑執行を行い、「死刑制度」の堅持と重罰化をアピールした。刑務所は増設が追い付かず、百二十パーセントの定員オーバー状態にあり、拘置所(本来は未決の被告の拘置)に留め置かれている受刑者も多い。刑務所の民間委託もはじまり、効率的な拘禁が図られている。 裁判員制度を仕上げとする小泉―司法改革は、司法の独立を破壊し、司法を権力の恣意の下に再編するものである。裁判は茶番となり、弁護士をはじめとした司法関係者―法律家は、権力の文字通り雇われ人となる。法は露骨に資本と権力に奉仕するものとして、労働者階級人民に敵対するものとなるのだ。司法は民主主義「三権分立」の幻想を最終的にかなぐり捨てようとしている。「公正公平」ではない、ひたすら弾圧のための司法としての性格がむき出しになった。まさに、戦時下の司法である。裁判員制度は、この司法の下で労働者階級に厳罰を負わせる場への強制動員なのである。 司法改革の本質と一連の治安弾圧を暴露し、裁判員制度の五月施行を阻止しよう。 我々は今、世界恐慌と新たな戦争の入り口に立っている。革命的情勢が到来しようとしている。労働者階級のたたかいの前進のみが、司法改革=弾圧を打ち破ることができる。情勢をしっかりととらえ、たたかおう。 |
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