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  ■米軍再編計画との闘いを強力に推し進めよう




 五月をもって米軍再編『日米ロードマップ』の合意から二カ年を迎える。沖縄、神奈川と並んで米軍基地強化・日米軍事一体化の基軸をなす岩国においては、この二月、前市長井原氏の辞任にともなう市長選が行われた。

 全国的に注目された選挙であったし、心ある全国の民衆のみならずアジア民衆からの支援が基地強化計画非容認をつらぬく井原氏陣営に寄せられた。われわれもまた井原陣営への支援を行った。アジア共同行動の仲間たちは井原氏の当選を目指した活動を地元住民とともに行うとともに各地からの支援・激励の組織の一端をになった。韓国やフィリピンから米軍基地とのたたかいを共通課題としてともにたたかう趣旨の激励が寄せられたのはアジア共同行動の国際ネットワークの故であった。

 選挙結果は残念なものであったが、日米同盟強化路線・日米の軍事一体化と強化計画との対決という本質的な労働者階級人民vs日米帝国主義という構造の上ではむしろたたかいの発展局面・前進地平が確認すらできる。以下この点を中心に見ておきたい。



  ●1 岩国市長選の構図と結果


 二月十日投開票の岩国市長選において、前市長井原氏は残念ながら再選を果たすことはできなかった。衆院議員の職を辞し、政府および山口県当局そして地元財界や市議会内容認勢力が推した福田良彦氏がかろうじて当選した。その得票差はわずか千七百。投票総数の1・7%程度の僅差であった。

 福田陣営はこの選挙をまさに「井原市政打倒」のための選挙として行った。基地強化を容認する市長の出現がなんとしても必要であったからだ。地元の容認勢力は基地強化が生み出す利権を目当てとして、そして政府にとっては日米同盟強化路線の実体的基軸事業にして、「戦争のできる国家」へむけた軍事体制作りの最後の段階がこの米軍再編の進行と完成であるからだ。岩国基地強化はその中心である。

 しかし実際の選挙戦においては、米軍再編―岩国基地大強化の是非があらためて問われた選挙であったにもかかわらず徹底した争点はずし・争点隠しを彼ら政府と福田陣営は行った。市の財政破たんの「危機」を捏造し、その責任が井原氏にあると「争点」を偽装した。それは「ささやき隊」と呼ばれるおぞましい集団を病院ロビーなど人の集まる場所に出没させることなどを手段として、井原氏への個人的中傷やとんでもないデマ宣伝の流布とともに行われた。「バスもなくなる、病院も保育所もなくなる、公衆トイレもなくなる」などなどと。その上で「いくら市民が反対しても来るものは来る」と市民に無力感を植え付け、どうせ来るならカネをとるほうがましな選択と吹聴して回った。財政破たん危機デマの「根拠」とされたのが、市庁舎補助金三十五億円のカットであったことは言うまでもない。

 その市庁舎補助金カットの主因・主犯は約束どおりの補助金交付を突如としてカットした政府の側にあることは明白だ。しかし昨年度一年をかけて政府・県当局そして地元の容認勢力が、その主因を井原氏の基地強化反対姿勢にあるとするキャンペーンを行ったという経緯がある。五度にわたる市議会での予算案否決などがその典型だ。市庁舎補助金カット自体が政府によるあからさまな井原陣営に対する攻撃そのものである。しかも問題はそれにとどまらない。これを選挙戦において福田氏が徹底利用し「政府―与党との太いパイプ」などを強調することとあいまって、事実上の政府―与党による有権者全体を対象にした利益誘導・集票行為がなされたとも言えるのである。そうした意味ではまさに米軍再編のための国策推進を政府の全体重をかけて行った選挙であったのだ。

 また選挙公示前から山口県知事・二井は「(基地強化について「現実的対応」を行う点で)自分の考えに近い候補が市長になってもらいたい」と事実上の福田支援を明確にするなどの事態もあった。



 ●2 基地反対の民意は強化・拡大された


 こうして福田陣営は辛勝したのであったが、米軍再編計画に対する「地元の容認」ということを政府は「住民の直接的意思」ではなく「首長の態度・言動」をもって判断するという点におく以上、基地強化容認をかかげる市長の出現はきわめて重大な画期点であることはまちがいない。

 国と地方自治体との関係を、政府と自治体首長との関係ととらえる観点に立つならば、である。だがしかし、地元の全容認勢力の密集、県当局そして政府の総力をあげた福田氏の市長への押し上げであっても、基地強化反対の市民住民意思は不変である。各メディアの選挙報道から見ても、基地強化反対の民意そのものが変化したわけではない。たとえば中国新聞社の出口調査分析結果によれば厚木艦載機部隊移駐への賛否においては、賛成8・4%、どちらかといえば賛成15・6%、逆に反対は46%、どちらかといえば反対19・7%となっている。同じく朝日新聞社のそれによれば、賛成18%、反対47%、どちらともいえない33%、読売新聞社のそれによれば賛成13%、反対41%、そして「条件付賛成」41%としている。毎日新聞社のそれによれば、無条件で賛成2%、反対だが仕方がない20%、「条件付き賛成」33%、反対41%となっている。この「条件付き賛成」というのは奇妙な概念であるが、「再編交付金などのカネが出るならば」という意味での「条件」ということと、圧倒的な基地強化反対の民意に押されて「国の言いなりにはならない」と選挙戦後半に福田氏が言わざるをえなかったその言辞を「条件」とみるという点で両義的である。

 いずれにしても、やはり強固な反対は市民の半数に及ぼうとし、それに「反対ではあるが仕方がない」と考えている部分を加えれば七割を前後する市民がいまなお反対意思を堅持しているといえる。今回の市長選においては、米軍再編を争点から外し、ひたすら市財政の破たんデマキャンペーンを煽り立てると同時に、「国の言いなりにはならない」と井原氏の主張に完全にかぶせる手法を駆使した福田市長の出現を結果はしたが、岩国市民の基地強化反対意思は不変であるということは確言できるのである。

 基地強化反対の民意は不変というだけでは正確ではない。それは今回の選挙を通じていっそう強固なものとなったのである。政府の安保・基地政策に従順であるといわれた岩国市民が、「悲願」としてきた滑走路沖合移設を「受け皿」にして厚木艦載機部隊移駐を含め、既存の海兵隊航空部隊機などとあわせ百三十機を越える米軍航空兵力の一大基地へと化してゆく計画に対して公然と反旗を翻した〇六年三月住民投票以来、市民が経験してきたのはカネと権力をもってがむしゃらにそれを押しつぶそうとする政府の実像であった。とりわけ市庁舎補助金の突然かつ理不尽なカットというやり口を経験する中で、市民の意思と意見が正当に政治に反映するという点での民主主義、地方自治体は国のためにあるのでなく住民自身の将来にわたる安心と安全のためにあるという点での地方自治、そうしたものの価値をとらえ返しながら今回の市長選を経験したのである。「安保・外交は国の専管事項」などというペテンを信じたらとんでもない災厄が降りかかるハメになるということを身をもって学んだのである。すなわち政治思想的な強化が果たされたということだが、そのような層が少なめに見積もっても市民の四割を占めるに至ったのである。



 ●3 岩国市民の新たな闘いの開始


 そのこと自体驚くべきことであるが、その上に福田市政のスタート時点からただちに「住民投票の成果を活かす岩国市民の会」が福田市長に直接面会し公開質問状を手交するなどを行っている。それ以降も相次いで基地強化反対勢力は福田市長に公開質問状を提出などしている。当然ながら「井原陣営を支持した市民の意見も市政に取り入れる」という言質を実行せよというわけである。僅差での井原氏の落選は残念のきわみではあるが「敗北感」は皆無なのだ。

 そしてさらに特筆しておくべきは、この市長選のただなかにおいてさえも岩国市民はたたかいの次の課題・ステップを進めているという点である。市長選時期にあわせたかのように政府―防衛省は滑走路沖合移設―基地の沖合拡張工事の根拠をなす「公有水面埋立許可」の変更申請を行政処分権者の山口県に対して行った。「騒音被害や事故被害の軽減のため」とした「埋立申請」に対しては十二年前の一九九六年十一月に県当局は許可処分を行いそれにもとづいて現在の工事が進められているところだ。その埋立事業の根本的な理由・原因が変わったのである。厚木艦載機部隊や普天間空中給油機部隊の移駐によって、県許可時点での埋立図面では、既存の滑走路が誘導路となるところ、そこに移駐部隊の兵舎や駐機場が計画されるがゆえに誘導路を移設滑走路のさらに海側にあらたに作らざるをえない。また、騒音は軽減するとした騒音予測についても「一部地域では騒音は増加する」とせざるをえない。そこで変更を申請せざるをえないのである。政府および山口県当局は「図書の差し替え」として解釈し結果的にはすでに県は変更申請の受理を行ったところであるが、根本的な問題すなわち基地被害軽減のための埋立という理由・原因そのものが、厚木部隊などの大量の航空機の受入れのための埋立と変化していることこそが問題なのだ。それは明らかに県も認めることはできないとしてきた「基地強化」そのものなのである。それゆえに、そもそもの埋立許可処分を取り消さなくてはならないのは道理である。そのことを直截に求める訴訟が提訴されたのである。これへの司法判断が注目される。さらに、この訴訟をステップとして岩国での爆音被害に対する訴訟も準備されつつある。横田、厚木、嘉手納、普天間などの爆音訴訟の経験と重なる勝利判決に続いて、ついに岩国においても恒常的に周辺住民の生活・生存を脅かす基地の存在と基地活動を糾弾する構造が生まれようとしているのである。あらゆる妨害をはねのけて岩国爆音訴訟への道を岩国市民は切り開くであろう。



 ●4 愛宕山への米軍用住宅計画打ち砕こう


 また、基地を容認する市長が出現したことで国(政府)と首長との関係の変化はあるにしても、根本的な日米政府対地元住民という関係が変化するわけでもない。現有四千六百人の米兵やその家族にプラスして四千名規模の米兵・家族が基地強化とともにやってくることになる。この収容をどうするのかは大問題の一つである。基地沖合拡張のための土砂をさらった愛宕山地域がその有力候補として浮上している。基地被害の軽減と病院・学校などを完備したあらたな住宅地として愛宕山地域を開発するという「美名」のもとに、愛宕山用地の買収と開発は進められたのであったがすでにそれは昨夏中止決定となった。その跡地を政府は米軍住宅用地の有力候補とする意図を隠そうともしていない。地元の人々にとっては絶対に認めることのできない最悪の跡地処理方策である。当然猛反発は生起し継続している。住宅地といえば聞こえは少しは良いのかも知れないが、軍施設そのものである。あけすけな新基地を開発跡地を取り囲む住宅地のど真ん中に作ろうという計画なのだ。許されるものではない。したがって、圧倒的な地域住民の反対の声の前に立ちすくむのは政府であることは間違いのないことだ。山口県当局にしても福田市長にしてもそれは同様。家族も含めて凶悪犯罪の温床と化している在日・在沖米軍の構成員一人ひとりが「完全隔離すべき迷惑対象」となっている中、基地強化計画の廃止をも含めて愛宕山への米兵住宅建設プランの撤回をかちとらなくてはならない。



 ●5 沖縄―岩国―神奈川結び米軍再編と闘おう


 以上見てきたように、岩国市長選の結果にかかわらず岩国基地大強化反対のたたかいは前進と発展の道を歩んでいる。基地強化反対民意の総体において変化はないし、反対意思が強固になった層も顕著である。その後の経過であるが、福田氏は市長就任を前後して政府―防衛省と会談し市庁舎補助金の満額(三十五億円弱)の交付、および米軍再編交付金交付指定も受けるに至った。その間福田氏は一言も「容認」の二文字は発音していない。「米軍再編計画に対しては協力すべきものと考えている」と語っただけでこのような手のひらを返したような政府の対応が引き出されたのだ。この構造は辺野古崎新基地計画の対象となる名護市、宜野座村においても同様である。すなわち、従来X字型滑走路の沖合移動を求めているがゆえに再編交付金は支給できないとしてきた政府―防衛省が、「環境アセスに理解を示した」という点をもって転換したのである。これらの動向を地元懐柔策の進展局面ととらえることも可能だが「米軍再編特措法」に象徴される米軍再編計画そのものの手法のでたらめさ(地元への頭越しの政府間合意とその上での押し付けなど)や本質的問題点(基地負担の強化と継続や米軍基地存在の永続化)が完全に露呈したがゆえに、もっぱら再編計画の実務面をになう日本政府の手詰まりや所管省庁間の不一致や実行策のほころびの兆候ととらえることもできよう。いずれにしてもカネの力、露骨な権力の行使という手段しか持ちえない日本政府は、日米同盟をめぐって、アジア太平洋地域を対象とした戦争体制作りをめぐって、日本の戦争国家化をめぐって、すでに生起している労働者階級と支配層との本質的対立・矛盾を先延ばしにすることは可能ではあっても解消させることはできない。日米同盟強化路線を打ち砕き、アジアからの米軍総撤収を目指して米軍再編計画に直撃される各地住民・市民とともにたたかいをいっそう発展させることが重要である。

 沖縄や神奈川など各地の状況を示すことはここではできないが、米軍再編『日米ロードマップ』合意から二カ年をむかえる各地の状況は岩国での市民・住民のたたかいが示すものと本質的には同様である。基地があり、その強化や新設計画が進められる限り地元住民のたたかいは継続し、発展する。その正義性は住民市民の側にあり、労働者階級人民の側にある。そしてたたかい続ける限り自己矛盾をきたして破たんしてゆくのは帝国主義支配層の側である。それは残すところ六年となったこの米軍再編計画のタイムテーブルにおいて、計画の進行とともにますます支配層を縛りあげるものとなってゆくだろう。本年度予算案が成立したが、グァムでの米軍新基地建設費用の日本側負担の問題が、使途先の問題も含めてさっそく取りざたされようとしている状況でもある。そしてまさに激発し、止まる事のない米兵による凶悪犯罪とりわけ女性に対する性犯罪の問題は、基地強化への反対のみならず基地存在そのものの消滅要求へと人民を向かわせざるをえない。読谷村議会は沖縄での自治体議会でははじめて「基地撤去」の文言を含めた抗議決議を可決した。

 五月沖縄行動、八月横須賀への原子力空母「ジョージ・ワシントン」配備阻止闘争、十一月岩国行動をはじめ、各地の米軍再編反対のたたかいをおしすすめることが、日帝支配層の危機を促進し、その打倒の条件を拡大する水路の一軸である。さらにたたかいを進めよう。
                           (四月三日)

 

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