共産主義者同盟(統一委員会)
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■最低賃金の大幅引き上げをかちとろう ●@重大な局面を迎えた最低賃金闘争 最低賃金が低賃金労働者の賃金闘争の重大な武器として勝ち取られるのか、それとも従来通り低賃金の重しとなるのかをめぐる重大な攻防の局面を迎えている。 春の通常国会ではいわゆる労働三法案として労働契約法制、労基法改正案とならんで最賃法改正法案が提出された。安倍政権は格差対策の重要な柱として、「最賃制度がセフティーネットとして十分に機能するように必要な見直しをおこなう」という国会答弁を繰り返した。最賃法改正案には様々な問題点はあるが「生活保護との整合性を考慮」という文言を挿入することにより、現行の最低賃金引き上げ基準である小規模企業の賃金引き上げ率に変わる新たな引き上げ基準を提示し、最低賃金引き上げにむけた方向性がしめされた。例年ならば五月に開始される中央最低賃金審議会と地方最低賃金審議会は、六月末の通常国会終了後に延期され、政府は、最賃法改正法案を根拠にした審議によってこれまでの五円前後の引き上げ幅を超える一定の引き上げをめざそうとした。 同時に首相官邸のもとに、「働く人全体の所得・生活水準を引き上げつつ、格差の固定化を防ぐ」ことを目的に、「成長力底上げ戦略推進円卓会議」を発足させ、中長期的な最低賃金引き上げ幅にかんする政労使の合意形成をはかろうとした。しかし周知のように、今国会で年金問題が攻防の焦点となり、他の労働三法案とともに最低賃金法案もまた継続審議となった。 その後、七月九日の第三回中央円卓会議では、「従来の考え方の単なる延長線上ではなく、中小零細企業の状況にも留意しながらパートや派遣も含めた働く人の『賃金の底上げ』を図る趣旨に沿った引き上げが図られるよう要望する」(要旨)という政労使の合意がおこなわれた。七月十三日の中央最低賃金審議会では厚生労働省から、「最賃改定の目安審議に際して留意すべき考え方」がしめされた。そこでは平均賃金に対する一定比率、高卒初任給、小規模企業労働者の平均賃金、労働生産性上昇率などが基準としてしめされた。その基準に従えば全国加重平均で現行六百七十三円の最低賃金が十三円から三十四円の引き上げとなる。当初、厚生労働省の事務局は、従来の基準にもとずく五円の引き上げ案を提示する予定であったが、最賃アップは各党の参議院選における格差是正策の公約の大きな柱でもあり、政府、与党の圧力のもとに柳沢大臣の指示により変更されたと報道されている。 ●A日帝ブルジョアジーの「最低賃金引き上げ」にこめた狙い 政府・与党のみならずブルジョアジーの一部も含めた最低賃金引き上げの背景は以下の点にある。 第一に、現在の格差の拡大、労働者階級の貧困化、窮乏化の進行は、放置すれば若年層を中心に貧困層が形成され、社会保障、社会福祉などの社会的コストの増大、貧困がもたらす社会的リスクの増大が放置できない問題になってきているからである。 すでに一九九〇年以降の就職氷河期を経由した三十代後半までの若年者を中心とする貧困層の多くはワーキングプアーと呼ばれ、仮に法定時間どおり働いても生活できる収入が得られない労働者となっている。仕事上のキャリアも積めずそれが就労の困難に結果し、更なる生活の困難と貧困へと追いやられるという構造が作りだされている。当然のことながら税金も社会保険料なども支払う余裕もなく、ブルジョアジーからすれば仕事もせず、税金もはらわず、様々な社会的コストだけがかかる無用な存在になりかねない。しかも放置すればそれが次世代に拡大していくことが確実となっている。日帝ブルジョアジーにとってこのような事態は少子高齢化社会の到来による労働力不足が指摘される中で、労働力不足とその質的低下を促進し、日本の国際競争力の低下と社会保障・福祉制度を危機においやるものである。若年層を中心にした貧困の拡大は、「自己責任」論で簡単に切り捨てることができない深刻な問題となっているのだ。 ワーキングプアーの顕在化は支配者にとって自らの統治の正統性が問われる深刻な問題である。法律どおり働いても生活できない労働者が多数存在していることが社会的に広く認識されていくならば、それは必然的に政府の政策の不健全性を暴露し、支配者と政府にたいする批判は構造的に蓄積されていかざるを得ないからである。これに対する支配者の歴史的な対応は、自己責任を強調しながらの社会保障や生活保護をはじめとする公的扶助の後退と連動した政府の貧困にたいする責任の放棄と、暴力支配の強化である。しかしこれは労働者を一直線に革命へとおいやりかねないリスクの高い選択肢でもある。 安倍が再チャレンジ政策と並ぶ格差是正策として打ち出した「成長力底上げ戦略」では、人材能力開発戦略、就労支援戦略、中小企業底上げ戦略などが打ち出されているが、多様な働き方と称する「不安定雇用・細切れ就労」でも継続的に就労させつづけ、そのような働き方でも納税と最低限の医療、教育福祉などの公共サービスが購入できる程度の賃金の確保にむけ、中小企業の生産力の底上げと連動した最低賃金引き上げが位置づけられている。その意味で失業させず低賃金でも就労させ、自己責任で公共サービスを購入させようというものである。 このように政府、与党の最低賃金引上げの目的は、単なる参議院にむけた人気取りのための懐柔策にとどまるのではなく、労働者に対する強搾取、強収奪を貫徹しながら低賃金労働者をつくりだし、政府自らは貧困にたいする社会的責任は大幅に後退させ、低賃金労働者にたいし自己責任のもとに医療、育児、教育、老後の生活、介護などをおしつけ自らの支配の安定を実現しようとする徹底して階級的利害に貫かれたものである。 第二の背景は労働者階級の貧困化、窮乏化のなかでの最低賃金引き上げを要求するたたかいの前進である。 労働者の最低賃金確立のたたかいは、総評が「賃金綱領」(一九五二年)の中に、八千円の全国全産業一律最低賃金を掲げたように、戦後一貫してたたかわれてきた。このたたかいの結果、「一ドルブラウス」に象徴される外国からのソーシャルダンピングという批判もあり、五九年に最低賃金法が成立した。しかしこの最低賃金は、「ニセ最賃」と言われるように業者間協定方式によるもので、労働者や労働組合が関与できるものではなかった。六〇年代中期から六〇年代後半にかけての最低賃金闘争の高揚の中で、最賃法が改正され現在の審議会方式が実現された。石油ショック後の七五年には、当時の社会党、公明党、民社党、共産党が全国一律最賃制を要求する共同法案を提出するなど最低賃金制度をめぐる全国的なたたかいが取り組まれた。 それ以降は一部の産別における企業内最賃、産別最賃の取り組みは行われたが、最低賃金引き上げのたたかいは積極的には取り組まれてこなかった。その理由としては、日本経済の国際競争力の強化のなかでの賃金上昇が、「職能給と年功序列制度」を固定化することによって企業内における若年層の低賃金が年功によって解決する仕組みが確立していったこと、八一年以降、春闘賃上げ率や三百人未満企業の賃上げ率より最賃引上げ率が下回ることにより最低賃金が極端に低水準化し、正社員はもとよりパートやアルバイトなどの低賃金労働者にとっても、最低賃金引き上げによる賃金引き上げの実効性が希薄になっていったことなどがある。また、企業内おける低賃金労働者がパートなどであったことから、「本工の賃金があがればパートの賃金も上がる」という一面的な見地から、パート労働者の低賃金を社会構造上の問題として取り組めない企業別組合主義、本工主義の限界という主体的問題もあった。この問題は、バブル崩壊後の労働者の賃金切り下げの中で、パートやアルバイトの賃金や労働条件切り下げにまったく対応できない主体的根拠ともなった。この過程で、生存権をかけて生活保護基準の向上を掲げたたかった人々のたたかいのなかで生活保護基準が引き上げられ、いわゆる生活保護と最低賃金の逆転現象も生み出された。 九〇年代のバブル崩壊以降、ワーキングプアーや貧困の拡大などに示されるように労働者の賃金切り下げが歯止めなく進行する中で、少なくない労働者、労働組合が最賃闘争の重要性を自覚し取り組みを開始しだした。二〇〇〇年以降のリストラによる失業率の増大、不安定雇用労働者の増大と連動した賃金水準の低下は、一部の不況地域では、「低賃金の重し」といわれた最低賃金ですら、それがなければ更なる賃金切り下げが進行するのではないかという危機感すらいだかせた。全労協などの左派労働運動の内部で最賃闘争の重要性が改めて認識されるとともに、様々なたたかいの取り組みが開始された。 連合は産業別最低賃金は取り組んでも地方最低賃金については、ほとんど取り組んでこなかったがここ数年は取り組みを本格化している。本工主義、企業別組合の連合ですら貧困の拡大の中で、最低賃金に関して社会的規制をかけなければ企業内最賃、産業別最賃の水準を守れないこと、低賃金労働者にたいして最賃闘争を取り組むことをアピールしなければ労働組合としての社会的存在意義を問われる事態となっていることをしめしている。 全労連もまた二〇〇〇年以降、本格的な最低賃金闘争を開始し、全国一律最低賃金千円以上を要求し組織をあげた取り組みを進めている。ここ数年、最低賃金引き上げの要求は、少なくともナショナルセンターを超えた統一の要求となっている。 日帝ブルジョアジーは、「パート、フリーターなどの不安定雇用労働者の労働条件の切り下げの要因は、正規社員の既得権擁護の労働組合だ」というキャンペーンを執拗におこなっている。日帝ブルジョアジーがもっとも恐れているのは、最賃闘争を媒介にした労働運動とワーキングプアーをはじめとする低賃金労働者、貧困層の生存をかけたたたかいとの結合が開始されることである。中小零細企業を代表する日本商工会議所などの猛烈な反対を無視してでも、一定レベルの「最低賃金引き上げ」を行なおうとしているのは、低賃金労働者、貧困層の労働組合運動、労働運動への決起を阻止しようとするためである。 ●B最低賃金を低賃金労働者の賃金闘争の武器に 最賃闘争におけるわれわれの任務は次のものである。 第一に、最低賃金の大幅引き上げを実現し低賃金労働者の賃金闘争の武器にしなければならない。 現行の全国平均六百七十三円という最低賃金は、最低生活すら保障しないことによって最低賃金とは言い難い水準である。パート労働者においても「最低賃金の未満率」は〇三年度で3%にすぎなかった。従って数円から五円引き上げられても影響を受ける労働者は少数であった。日本の最低賃金は引き上げで影響を受ける層がほとんど存在しないという空洞化した制度であった。しかし105%に引き上げられ七百六円になれば約9%、110%引き上げられ七百四十円になれば約17%、115%引き上げられ七百七十三円となれば約28%が最低賃金未満となる。仮に110%、七百四十円への引き上げでも実際の影響は更に高いレベルにおよび、30%近くの労働者が毎年改定される最低賃金の影響をうけることになる。 中小企業や零細企業で働く不安定雇用労働者を組織するユニオンや合同労組は、組織した労働者を労働組合に定着させるうえで重要となる経済闘争をほとんど組織化できなかった。ここ数年のたたかいの中で、最低賃金の水準の引き上げを実現することができれば、低賃金労働者の経済闘争をすすめるうえで大きな武器を勝ち取ることができる。 しかも最低賃金闘争は個別の雇い主に対するたたかいではなく、政府に対するたたかいでもある。最低賃金闘争は国家に対して自らの賃金だけでなく全国的な労働者の生活できる賃金を要求する政治闘争でもある。 第二に、全国一律の最低賃金を要求し、労働者の全国課題、全国闘争としてたたかいぬかなければならない。 現行の最低賃金は最高額の東京の七百十九円と最低額の沖縄の六百十円との間には、百九円、月額にすれば約一万九千二百円もの差がある。物価水準や経済状況などを口実にして設けられているこのような最低賃金が前提とする最低レベルの生活にすら格差をつけようとするものであり、到底、認められない。あえて言うならば情報、交通、医療などの社会インフラにおいて地方と都市の格差はあり、賃金が生活を維持するものである以上、それらの点も当然考慮されるべきである。 とりわけ低賃金労働者の賃金闘争として最低賃金闘争を推進しようとするわれわれにとって、全国一律の最低賃金を要求することは、単一の全国闘争としてたたかいを推進していくうえで絶対に必要な立場である。 第三には、最低賃金をナショナルミニマムの中心的たたかいと位置づけ生活保護など公的扶助の給付水準、社会保障の給付水準、医療、教育などの社会的サービスの向上と結合してたたかう必要がある。 最低賃金の中心的内容は、「健康的で文化的な最低限の生活」を送れる賃金ということであるが、医療、教育、社会保障などは必ずしも賃金だけでまかなうものではない。医療などの負担率や社会保障制度などとの関係でも最低賃金額は影響をうける。同時に生活保護や失業給付額などとも密接な関連があり、最低賃金の水準が低ければ、それらの水準も低下するという関係にある。 最低賃金が生活保護基準より低いという逆転現象のなかで、「生活保護切り下げ」の動きが様々な形で存在する。厚生労働省も生活保護の大幅切り下げと最低賃金の僅かばかりの引き上げでこの問題を解決しようとしている。しかし現状の生活保護基準は、厚生労働省の調査によっても、充分な社会生活を送れず、人間関係や社会活動への参加に困難をきたすという問題があり、決して十分なレベルにはない。生活保護費が高いのではなく、日本の最低賃金が常識はずれに低いのが問題なのである。それにもかかわらず、老齢加算を廃止し母子加算も廃止されようとしている。このような動きの中で、最低賃金引き上げのたたかいと生活保護基準切り下げ阻止のたたかいを結合して実現していかなければならない。 ナショナルミニマムといわれる「最低生活保障」の中で、働く労働者の最低生活を実現する賃金である最低賃金は、そのたたかいの担い手が広汎に存在する働く労働者という意味でもその中心的な位置を有している。 本年を突破口にここ数年で最低賃金の大幅引き上げを実現し低賃金労働者の賃金闘争の武器とし、最低賃金闘争をつうじて彼らの組織化を推進できるのか、最低賃金を再び、日帝ブルジョアジーの「低賃金の重し」とするのかという重大な局面を迎えている。 八月初旬には地方最低賃金審議会で最低賃金額の労働局長にたいする答申がおこなわれ、関係労使による異議申し出などもおこなわれる。審議会への傍聴、異義申出書の提出などあらゆる創意工夫をこらし最低賃金の大幅引き上げのたたかいを構築しよう。 |
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